新しいスキルとガンツのたくらみ
「あ~よく寝た」
翌朝ジンはいつも以上に気持ちの良い目覚めの朝を迎えた。 一晩寝て少しだけ残っていた落ち込んだ気持ちも払拭され、なにやら気力体力が充実している気分だ。 ただ無性に腹が減ってしまっていたので、すぐさまジンは食堂に向かう。 そして従業員のお姉さんに朝ごはんの準備をお願いし、出来上がりを待つ間に洗顔等をすませた。
昨日帰った時に宿にはお願いしていたので、今日は朝から肉やシチューにたっぷりのサラダやパン等の豪勢な食事が用意されていた。 ジンはがっつき過ぎないように気をつけながらも、優に二人前以上はありそうなそのメニューをあっという間に平らげた。 そしてさらに通常の朝食を二人前ほど追加で平らげたところでようやく腹八分になり、そこで終了する事にした。
従業員のお姉さんが「にしてもよく食べたねえ」と半分あきれたように言ってきたが、ジンもここまでの量を食べたのは初めてだ。 ジンは苦笑いで誤魔化しつつ美味しい食事のお礼を言うと、今回は世間話もそこそこに自分の部屋に戻った。
そしてジンは部屋に戻ると、早速自分のステータスを確認してみる事にした。
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名前:ジン
年齢:18
称号:神々に祝福されしもの(非表示)
職業:冒険者
レベル:11(8UP)
HP:153(104UP)
MP:60(40UP)
STR:63(40UP)
VIT:52(32UP)
INT:30(16UP)
DEX:52(32UP)
AGI:52(32UP)
ユニークスキル:メニュー(非表示)
スキル:剣術▽
所持品:
HP回復ポーション(小)…空×5
MP回復ポーション(小)…空×3
一角ウサギの角
▽
所持金:786.1463G
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昨日40匹以上の魔獣を倒したせいか、レベルが8も上がっていた。 レベル1の頃と比べると、一番高いSTRで5倍近く、一番低いINTでも3倍になっている。
「お~、やっぱ嬉しいな」
レベルが10を超えてステータスも格段に上がり、目に見えて強くなった事がわかってジンの顔が緩む。
ただレベルは段々上がりにくくなるはずなのに、チュートリアル時の約3倍の数を倒して上がったレベルは3倍どころか4倍だ。 こっちの世界の方が経験値が高いのかなと、ジンは漠然と思う。
というかレベルが8も上がった理由は世界がどうこうと言うより、推奨討伐レベル10以上の敵をレベル3の新米が40匹以上倒しているからなのだが、ジンは蟻モドキ(マッドアント)がそこまで強いとは思っていなかったので気付かない。 実際前回の戦いはジンのステータスが一般的なレベル10の冒険者以上あった上に、〔健康〕LV:MAXのおかげで麻痺毒を喰らわなかったから切り抜けられたようなものだ。 そしてもう一つの要因がなければ、ジンは今ここに存在していなかっただろう。
「ん? 何だこれ?」
新しいスキルは身につかなかったのかと残念に思っていたジンだったが、スキル欄の〔剣術〕表示の後に見慣れない三角マークを見つけた。 何気なくそれをタップすると、〔剣術〕の後にたくさんの表示が追加された。
スキル:剣術 片手剣術 両手剣術 木剣術 気配察知 気合 威圧 詠唱短縮 回避 受け流し 足捌き 急加速 麻痺耐性 毒耐性 虫殺し 採取 基本魔法
「おおう」
いきなり追加されたそのスキルの数の多さに驚き、思わず声を漏らすジン。
実戦に勝る訓練はないという事だろうか、片手剣術のような武術系スキルに加えて、気配察知や詠唱短縮などの少し前から習得を狙って訓練していたスキル、さらには耐性スキルや虫殺し等の思いもよらないスキルまで習得していた。 スキルが増えた事はまず単純に嬉しい。 基本魔法は神殿で確認済みなので、それ以外をジンは一つ一つ確認する。
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剣術:剣を使用した行動全般にプラス補正。 【アーツ スラッシュ】 (LV:5/10)
片手剣術:片手剣使用時の行動にプラス補正。 (LV:1/10)
両手剣術:両手剣使用時の行動にプラス補正。 (LV:2/10)
木剣術:木剣使用時の行動にプラス補正。 【アーツ 手加減】 (LV:3/10)
気配察知:周囲の生物の気配や状態を察知できる。 (LV:1/10)
気合:精神的マイナスの状態を解消する。 平常時に使用すると一時的な精神状態の高揚効果。 (LV:1/10)
威圧:周囲に精神的圧力を加え、相手にマイナス効果を与える。 (LV:1/10)
詠唱短縮:呪文を省略する事が出来るが、威力は若干減少する。 但しLVに応じて減少率は低下する…現在-20%(LV10で±0%) (LV:2/10)
回避:攻撃を回避する行動全般にプラス補正。 (LV:3/10)
受け流し:攻撃の力をそらし、受け流す。 武具の損耗率を抑え、回避行動等の戦闘行為にプラス補正。 (LV:1/10)
足捌き:無駄のない体重移動で下半身が安定する。 足回りに類する行動全般にプラス補正。 (LV:1/10)
急加速:短い距離で最高速度に至る。 脚力の増加。 (LV:1/10)
麻痺耐性:麻痺に対する耐性UP (LV:MAX)
毒耐性:毒全般に対する耐性UP (LV:MAX)
虫殺し:虫型魔獣に対する行動全般にプラス補正。 一定サイズ以下の虫が寄り付かない。 (LV:1/10)
採取:採取行動全般に勘が働くようになり、採取品の品質が向上する。 (LV:1/10)
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「むむむ」
思わず唸ってしまうスキルの数と内容だ。 武術系や運動系のスキルを多数覚える事が出来たのは、まず間違いなく〔武の才能〕のおかげだろう。
今回〔剣術〕がLV5まで伸びていたのも驚きだったが、〔剣術〕LV10で派生スキルとして習得すると思っていた〔片手剣術〕や〔両手剣術〕をこの段階で覚えたのも意外だった。 もしかしたらこの世界の仕様なのかも知れないが、とりあえず損にはならないのでジンは良しとする。
また、まさか冗談で言っていた〔木剣術〕が本当に存在した事にも驚いた。 おまけに『手加減』というアーツも使えるとはありがたかった。 それに〔剣術〕のアーツである『スラッシュ』と共に、ジンが覚えた初めてのアーツでもある。 魔法と並ぶファンタジー世界の浪漫にジンのテンションも上がる。
〔アーツ:スラッシュ…攻撃に魔力を乗せ、威力を上昇させた一撃。 消費MP5 威力1.25倍〕
〔アーツ:手加減…自分の攻撃で対象のHPが0になっても死亡せず、気絶状態にする。 任意でON・OFFの切り替え可能 消費MP10 威力0.8倍 最大効果時間30分〕
どちらも使い勝手が良さそうで、『スラッシュ』は魔獣との戦闘に、『手加減』は人との戦闘に役立ちそうだ。 だた『手加減』の方は攻撃力が下がるというデメリットがある為、状況によっては使えない場合もあるだろう。 消費MPとの兼ね合いもあるし、使いどころには注意が必要だとジンは思った。
そして前日から訓練していたスキルのうち、〔気配察知〕〔詠唱短縮〕〔足捌き〕〔急加速〕の4つが習得できたのも大きかった。 〔詠唱短縮〕は、蟻モドキ(マッドアント)との戦いでは決定打となっただけでなく、牽制にも役立った。 またその他の3つも〔受け流し〕や〔回避〕と共に、これらのスキルなしにはあれ程多くの敵の攻撃を捌くことは出来なかっただろう。
それに〔麻痺耐性〕や〔毒耐性〕は、習得時で既にLVMAXの状態だ。 これはもともとの初期選択スキルである〔健康〕LVMAXの影響と見て間違いないだろう。 〔健康〕は状態異常無効化か、それに近い性能を持つのだろう。 グレッグ教官の言うとおり、もしこのスキルがなければすぐに麻痺して一巻の終わりだったはずだ。 しかし本当に今回はギリギリの戦いだったようだ。
もし剣術系スキルの向上がなければ攻撃力が不足して敵の数を減らすのに時間がかかり、戦線を維持できず数の暴力に呑まれたかもしれない。
もし回避系スキルを習得できなかったら数多くの攻撃に対処する事が出来ず、早々に沈んでいた事だろう。
もし〔詠唱短縮〕スキルに目覚めなければ中遠距離での牽制が全くできず、さらには止めもさせずに死んでしまっていたはずだ。
そしてもし〔健康〕スキルを所持していなかったら、あっという間に麻痺してしまってお陀仏だった。
ジンは自分が薄氷の上を歩いていたようなものだったと言う事を改めて自覚し、最後にもう一度反省すると共にこれらのスキルのおかげで生き延びる事が出来た事を感謝した。
「しかし虫殺しとはまた」
説明文の前半はともかく後半は蚊取り線香要らずという事かなと、苦笑しながらジンは思う。 〔気合〕や〔威圧〕と共に想定外で習得したスキルだが、どれも役立ちそうだとジンはありがたく思った。
そしてジンは全ての新規スキルを確認した後、地味に習得が嬉しかった〔採取〕だけを新しく表示スキルに追加して終了する事にした。
「さあて今日はどうしたものかな」
昨日の今日なので噂は広まっていないかもしれないが、かと言って冒険者が大勢居るであろう朝のうちからギルドに行くのはやめておいた方がいいだろうとジンは思う。
武器屋のガンツさんの所に行くのは確定だし、神殿にもいかなきゃな。 後は破れた衣服の補充もしなきゃいけないし、2着ほど買うかなとジンは考えを巡らす。
「変装とか出来たらいいんだけどな」
この段階で顔ばれを警戒してもしょうがないのだが、気付かずジンは何かそういう機能なかったかなと〔メニュー〕を見てみる。
すると〔装備〕で自分の3Dモデルを投影して実際にどういう見た目になるかをチェックする機能を見つけた。 もっと他にないかと探してみたが、装備メニューで外す事が出来ないパンツをトランクスやスパッツ等に変更したり、逆に半袖のTシャツやタンクトップ等のアンダーウェアを追加変更して見た目を変える機能を見つける事が出来た。
所謂下着と呼ばれる部分しか変更できないが、全身タイツまで変更可能という素晴らしいお遊び機能で、自由に色も変えられるので面白かった。 しかしさすがに顔まで隠すのは全身タイツくらいしかなかった為、変装という点では役に立たなかった。
けれどこれはこれで暇なときに遊べるなと、ジンは気に入ったようだ。
「とりあえずこのまま行きますかね」
そう言うとジンは1階の中庭に向かい、軽く準備運動を済ませると宿を出て行った。
ジンがまず向かったのは公衆浴場だったが、残念ながら朝はまだ開いていなかった。 予定変更して前回お世話になった大通りの露天商の姉弟の所へ向かう。 そして今回もお薦めの2着を購入すると、今度はガンツの武器屋へと向かった。
「おはようございます」
ジンはそう声をかけて店内に入ると、丁度ガンツが店の整理をしていた。
「おう。 どうしたジン。 今日は一体何の用だ…ってどうしたその格好は?」
つい3日前に一式新調したばかりのはずが、もうあちこち痛みが来ている鎧を見てガンツが驚く。
「すみません。 昨日マッドアントの群と戦闘になりまして、この通り鎧も剣もボロボロになってしまいました」
そう申し訳なさそうに頭を下げたジンは、折れた鋼鉄の片手半剣をガンツに渡す。
「そりゃあマッドアントみたいな硬いやつとやり合えばこうなるだろうが、一体お前は何をやってるんだ」
ガンツは手元の折れた剣と、ジンの着ている鎧を見て首を振って言った。
「いえ、本来は採取の予定だったんですが偶然遭遇しまして。 今は反省しているのですが、その時はつい何とかしなきゃと向かっていってしまいまして」
頭をかきつつジンは言う。 そんなジンの様子をじっと見た後にガンツは言った。
「くくくっ。 随分絞られたみてぇだな。 なら俺から言う事はねえな。 だから褒めてやるよ。 たった3日前に冒険者になったばかりのひよっこが良くやったじゃねえか。 何匹倒したかは知らねえが、生きて帰ってきただけ大したもんだ」
「はい。 ありがとうございます。 本当に運が良かったです。 それで剣は直らないと思いますが、鎧の方はメンテナンスをお願いできますでしょうか?」
「おう。 任せとけ。 一旦預かるがいいな?」
「はい。 宜しくお願いします」
ジンはそう言って鎧一式も外すと、全てガンツに渡した。
「それとこの素材を使って鎧とか作っていただく場合はおいくら位かかるものなんでしょうか?」
さらにそう言ってジンは、マッドアントクイーンの素材が入った大袋もガンツに渡した。
「おお、マッドアントの素材を回収できたんだな。 分かった見積もっといてやる。 ってちょっと待て、これはまさか」
「はい。 マッドアントクイーンの素材です」
「…倒したのか?」
「はい」
色々無茶してすいませんとでも言っているかのように、ばつが悪そうな顔をするジン。
「くっくっく。 わーっはっはっは。 おめえ本当にやりやがったな、大したもんだ! しかしアリアの嬢ちゃんやグレッグの野郎も、さぞかしやきもきしただろうな。 くっくっく」
マッドアントクイーンの素材を見て呆然としていたガンツだったが、ジンのその様子を見て大きな声で笑い出した。
「本当に心配かけて申し訳ないと思ってます」
「いやいや、特にグレッグはそういう奴らを指導するのが仕事だからな。 何を言ったかは大体想像がつくが、やむを得ずきつい事を言うしかないもんだ。 自分も若い頃には結構無茶しているんだがな」
わははと豪快に笑いながらガンツがそう言った。
「だがまあ、アリアの嬢ちゃんは本気で心配しただろうから、今度何かフォローしてやんな。 ふふん、俺のお薦めは花だぞ」
笑いを収め、少し気遣うような表情でガンツはそう言ったが、最後のほうは少し悪戯っぽい雰囲気だった。
「参考にさせていただきます。 アリアさんが好きな花があれば教えて欲しいのですが」
「ローゼンの花だな。 色は赤が良いな」
ジンはアリアと仲の良いガンツなら外さないだろうからと、その意見を全面的に採用する事にした。
「ありがとうございます。 今日ギルドに報酬を取りに行くつもりなので、その時に渡すようにします」
「おう、そうかそうか。 アリアも喜ぶだろう。 鎧のほうは任せておけ、見積もりも含めてやっとくから夕方くらいに一度こっちに顔を出せるか?」
ジンにはガンツが妙に楽しそうなのが少し気になったが、話が鎧についての事に移ったのですぐに忘れた。
「はい。 大丈夫です」
そうしてその後ジンとガンツはアリアの好きな食べ物やグレッグの好きな酒の銘柄の話などのたわいの無い会話を楽しんだ。 そしてガンツの仕事の邪魔にならないように程好い所で話を切り上げたジンは、店を出て街中へと向かった。
次回更新は23日か24日ぐらいだと思います。
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