受付さんはアリアさん
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予想通りギルドはがらがらだった。一直線に受付さんの下へ向かう。
「こんにちは。冒険者登録をよろしいですか?」
挨拶をしながらジンは受付さんの名前を知らない事に今更ながら気付いた。お世話になっているのにこれじゃ返って失礼だ。機会を見つけて確認せねばとジンは思う。
「はい。お待ちしておりました。今日に延期させてしまい申し訳ありませんでした」
「いえいえ、お気になさらず。何せこの街に来たばかりですので、やる事ありすぎでしたから問題ないです」
本当にそうだから問題はない。何せまだ用事は終わってないのだ。
「そうですか。ありがとうございます。それでは登録手続きを再開しますね」
「はい。お願いします」
受付さんはいつも冷静だ。ジンが承諾すると、受付さんはまずギルドの制度について話し始めた。
「まず冒険者ギルドについてですが、これは簡単に言えば冒険者の互助会です。国や特定の権力の下に存在するのではなく、独自の組織として各地に存在します。国とは支配関係ではなく、協力関係といった感じですね。この街で言えば『冒険者ギルド リエンツ支部』になります。冒険者への依頼は全てギルドを通して審査され、ランク付けされた後に掲示されます。当然掲示されたときの報酬は、ギルド運営費等を差し引いたものになりますので目減りしますが、これも冒険者の皆さんの安全を守る必要経費ということでご了承ください。もしギルドを通さずに直接依頼を受けられる時は全額報酬を得る事が出来ますが、その依頼の正当性や安全性は保障されませんし、依頼者との金銭トラブルの可能性も出てきます。お勧めはしませんが、もしされるのであればあくまで自己責任となります。ここまでよろしいですか?」
ジンに問題はない。返事をすると、受付さんは続いてギルドランクについての説明を始めた。
「ギルドランクは低いほうからF・E・D・C・B・A・AA・AAAとなっています。ランクは冒険者のレベルとギルド貢献度によって上昇します。例えばランクEへの昇格条件は『レベル5以上かつ依頼達成件数10件以上』です。その他のランクの昇格条件は、後でお渡しするギルド規約をご覧ください。基本的に自分と同ランク以下の依頼を受けてください。ご自分のランクより上の依頼となりますと、こちらで可不可を判断させていただきます。またランクC以上は昇格にレベルと達成件数以外にもクリアしていただかなければならない条件がございますが、これも後ほどご確認ください」
ここまでもジンは問題なかった。ゲームならともかく現実で最強を目指すつもりは毛頭ないが、自分の大切な人たちを守れるくらいの強さは身に付けたいと思う。
まずはひとつの壁となるらしいCランク突破が短期目標だなとジンは考えた。
「それでは、此方がジンさんの冒険者カードになります」
昨日のうちにカードの作成だけは済ませていたのだろう。
そう言うと、受付さんは銀色に鈍く光るカードをジンに渡した。
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名前:ジン
年齢:18
職業:冒険者(所属:リエンツ支部)
レベル:3
スキル:剣術
HP:49/49
MP:20/20
STR:23
VIT:20
INT:14
DEX:20
AGI:20
賞罰:なし
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「おおー」
カードを受け取ったジンは、ゲームではなく現実の冒険者になった事実に感動して思わず声を漏らす。
受付さんはその様子をどこか少しだけ優しく見つめながら、ジンが落ち着くのを待った。そして元の冷静な雰囲気に戻ると、カードについての説明を始めた。
「冒険者カードはギルドでの依頼受注や報告時に使うだけでなく、ジンさんの身分証明書としても使用できます。またお金をギルドに預ける際には、これにお金の情報が追記される事になります。預けたお金はどの街のギルドでも引き出しが可能です。ただ、その性質上重要性が高い品ですので、万一紛失された場合は再発行に小金貨5枚をいただきますのでお気をつけください。それではジンさんとカードを同調させますので、またこちらに手を、そしてカードをこの上に置いてください」
そう言って受付さんはいつもの半球と、手元にあった黒い板を指さした。ジンが言われたように手とカードを置くと、いつもと違って淡い青色をした半球がブンという作動音と共に濃い青色に変わった。
「はい結構です。これでこのカードはジンさんしか扱えなくなりました。確認の為、どの項目でもいいですので表示させたくないと思いながら指先でなぞってください」
言われたとおり念じながら年齢の部分を指でなぞると、「18」の文字が消えた。逆に表示させたいと思ってなぞると、今度は元に戻った。
「そのように見せたくない情報は任意で隠す事ができます。例えばどんなスキルを持っているかを知られると対策されやすくなってしまいますので、基本的にスキルは1つか2つしか表示しない方がほとんどです。ステータスも隠す方が多いですね。極端な話、名前と職業と戦闘スキルを1つ表示してあれば問題ありません。また新しくスキルを習得したかとか、レベルアップの有無やどれだけステータスが上がったか等は、神殿かこのギルドで確認しないとわかりません。ご自分の実力を客観的に判断する為にも、こまめなチェックをお勧めします。いずれにせよご自分の情報を軽々しく口外しない、見せないという事は徹底してください。冒険者には必要不可欠の心得ですので」
なるほど確かに情報は大事だ。しかし受付さんが丁寧に教えてくれたおかげで色々と失敗しないで済みそうだと、ジンは受付さんに感謝した。
一方受付であるアリアは、昨日グレッグと話していた通りにジンに便宜を図る為、あくまで自分の役目として話しているつもりだった。しかし段々とこの素直で何処かふわふわした雰囲気の青年が危なっかしく思えて、つい熱がはいってしまう。
そんな自分に驚きつつも、ここ数年ずっと冷えていた心にともったその熱は、アリアにとって決して不快なものではなかった。
「あと、ジンさんはご存知かもしれませんが一応確認のつもりで言いますね。スキルは基本的に自分で閃いて習得するものですが、『生活魔法』だけは神殿で習得する事ができます。このスキルは神様から与えられるスキルで、効果は極単純なものではありますが、日常生活で欠かせないものになります。普通は13歳を過ぎると神殿に行って習得するものなのですが、ジンさんは未だのようですので、さっそく行かれることをお勧めします」
当然知らなかったジンは驚く。普通13歳で習得するものなら、18の今になった理由を一応考えておいた方が良いかなと思う。
「またスキルや植物や魔物等の依頼達成に役立つ情報は、当ギルド2階の書庫で閲覧する事ができますので、依頼を受けた際には一度行かれる事をおすすめします。貸し出しは出来ませんので、もし個人的に所有したいのであれば街の書店を利用してください。値段は決して安くはありませんが、役立つものもたくさんあります。それと……」
アリアが半分確認のつもりで行っている事に対しても、毎回「へ~知らなかった~」と言わんばかりに素直に感情を出して頷くジン。それを見て「もしかしてこれも知らないんじゃあ」とアリアは次々と不安に思い、あれもこれもと冒険者登録に直接関係のないことも次々と話してしまう。
その姿はまるで素直だが世間知らずな弟と、そんな弟を心配して細々とした注意をしてしまう姉のようだった。
「以上ですが、よろしいですか?」
「はい。大変良く分かりました。ありがとうございます」
そうして通常の冒険者登録では考えられないほどの時間をかけて、ジンの冒険者登録は無事終了した。
終わる頃にはアリアはそんな自分の行動を恥ずかしく思っていたが、一方のジンは自分に足りない一般常識をたくさん教えてくれた事に、とても感謝していた。
恥かしさを隠すためにあえて無表情を保つアリアと、親身な対応が嬉しくてニコニコしているジンが対照的だった。
「最後に1つだけよろしいですか?」
少しだけ緊張した様子でジンが言う。
「はい」
「お名前を教えていただけませんか?」
「はい?」
「いや、変な意味じゃなくてですね、その、色々とお世話になっているのにお名前も知らないのは却って失礼な気がしまして」
「……」
相手は綺麗な女性なのだから色々と気を遣ってしまい、ちょっとだけしどろもどろになりながらもジンは受付さんの名前を尋ねた。
一方のアリアは何か感情が動くのを感じていたが、それが何なのかは分からなかった。
「此方こそ失礼しました。アリアと申します」
少しの間を置いて、アリアはジンに自分の名前を告げた。
「ありがとうございます。アリアさん、今後とも宜しくお願いします」
ジンは満面の笑顔と共に、アリアへ感謝の気持ちを伝えた。
「はい」
アリアは無表情にジンの言葉に返した。
自分の心に生じている感情の整理は、まだ付いていなかった。
ジンはアリアに挨拶をしてから席を立つと、依頼が貼られている掲示板へと向かった。
アリアから教えてもらった常に募集がかかっているという常時依頼が目的だ。比較的簡単な内容で期限も長く、近場で経験をつみながらついでに達成するのがお勧めらしい。本格的な依頼前の肩慣らしと言ったところだろう。
もちろんそれでもジンにとっての初依頼だ。テンションは最高潮だった。
「これにするかな」
そう言ってジンが選んだのは……
・チリル草×5の採集
必要部位:根ごと全て
報酬:銀貨2枚
期限:受注開始より1ヶ月
・メル草×10の採集
必要部位:先端の房の部分
報酬:銀貨1枚
期限:受注開始より1ヶ月
それぞれ回復系のポーションで使われる薬草で、その状態によっては報酬の増減が発生するとの事だ。
初依頼はやっぱり地道なところからだよねと、ジンはご満悦である。
その後ジンは2階の書庫に行ってそれぞれの薬草の形や特徴をメモしてから、再びアリアの元へと向かった。
「アリアさん。常時依頼のチリ草とメル草の採集依頼を受けたいので、手続きをお願いします」
どちらもランクFなので問題ない。
ジンが冒険者カードをアリアに渡すと、アリアは手早く受付処理を終えた。
「はい、受付完了です。初依頼ですね、頑張ってください」
「はい! では行ってきます」
そうしてアリアの激励を受け、ジンは笑顔でギルドを出て行った。まず向かうは武器屋や道具屋、そこで装備をそろえて冒険開始の心積もりだ。
いよいよスタートした冒険者生活に、上機嫌で歩いて行くジンだった。
ジンがギルドを出てしばらくした頃、アリアは書類整理の手を止めて一点を見つめていた。
「珍しいじゃないの、アリアがボーっとするなんて」
そうアリアの先輩であるサマンサが声をかけてきた。栗毛色の長い髪が印象的な女性だ。
「それに何か熱心だったじゃないの。好みの子だったの?」
アリアにとって頼れる先輩ではあったが、昔の自分を知っているだけにやりにくい相手でもあった。
「いえ、いつもどおりだと思います」
「ふ~ん」
「……」
「まあ良いわ。そろそろ休憩の時間だから、一緒にご飯でも食べましょう」
どう考えても無理のある答えだったが、サマンサはあえて突っ込まずに泳がせた。休憩時間にもっと詳しく聞きだすつもりなのだ。
なんと言ってもアリアがあそこまで気を配る相手は初めてだ。別に要注意人物には見えなかったから、原因があるとしたらアリアの心境だろう。色々聞き出して、もしそういう事なら後押しでもしてあげなきゃね。そうサマンサは思う。
「もちろん相手がろくなもんじゃなかったら、全力で潰すけどね」
サマンサは笑顔のままボソッとつぶやいたが、本人以外にその声を耳にした者は居なかった。
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