ギルドに行ってみた
「よし。いっちょ頑張りますかね」
せっかくいただいた新しい人生のチャンスだ。後悔のないよう一生懸命生きていこうと、ジンは気合を入れる。
まずは現状把握からはじめることにする。
ジンはメニューを呼び出すと、未確認だった項目をチェックし始めた。
まずは一番気になる『スキル』だ。項目を開く。
====================================
〔メニュー〕……メニューを呼び出し、各種機能を利用できる。(専用スキル) 【表示ON】
〔武の才能〕……武術や運動全般に関係する才能。成長率・成功率・習得率等にプラス補正(R:MAX)
〔HP補正〕……HPの初期値と成長率にプラス補正。LVが高いほど効果が大きい(R:3)
〔STR補正〕……STRの初期値と成長率にプラス補正。LVが高いほど効果が大きい(R:3)
〔VIT補正〕……VITの初期値と成長率にプラス補正。LVが高いほど効果が大きい(R:2)
〔DEX補正〕……DEXの初期値と成長率にプラス補正。LVが高いほど効果が大きい(R:2)
〔AGI補正〕……AGIの初期値と成長率にプラス補正。LVが高いほど効果が大きい(R:2)
〔身体操作補正〕……スムーズで効率的な身体運用。具体的なイメージが強いほど効果的な運用が可能になる(R:MAX)
〔魔力操作補正〕……スムーズで効率的な魔力操作。具体的なイメージが強いほど効果的な運用が可能になる(R:MAX)
〔健康〕……病気にかかりにくく怪我も治りやすい。状態異常になっても一定時間で全回復する(R:MAX)
〔鑑定〕……対象の情報を知る事が出来る。効果はRに依存する(R:1)
〔無属性魔法〕……属性を持たない魔法を操る(R:MAX)
・マナバレット……無属性の魔力の塊を飛ばして攻撃する無属性の魔法(消費MP8 威力5)
====================================
全てのスキルにR表示が追加されているなど、表現が若干変わっているようだとジンは読み取った。
追加された「R:MAX」という表示もこれ以上あがりませんという意味だろうし、内容にも特に変化はない。
ユニークスキルの『メニュー』だけ最後が【表示ON】となっているが、ようするにこれは基本情報に表示するかどうかの設定なのだろう。ジンが項目に触れてOFFとイメージすると、【表示OFF】と変わった。別窓で基本情報を呼び出して確認すると、ユニークスキルに【非表示】という表示が追加されていた。
基本情報メニューで【非表示】というのが何に影響するのかはわからなかったが、とりあえず見られると問題になる可能性のある『称号』と『所持金』は追加で非表示にする。もしかしたら他人の情報を読み取るスキルがあるのかもしれないので、一応用心の為だ。
わからない事だらけではあったが、どうやらスキルは問題なくこの世界でも使えそうな事にジンはほっとした。
ただ現在使用できるスキルの数は《鑑定》と《無属性魔法》の2つだけだ。ゲームのスキル獲得システムが、此方の世界でも有効であるかはわからない。そもそもスキルシステムが存在しているかさえ不明だ。
「まあいいか」
こうしてゲームのスキルを此方の世界に持ち込めているだけでもありがたいのだ、駄目なら駄目でやりようはあるだろう。
ジンは気持ちを切り替えて次のメニューを確認する事にした。
メニューにある項目の『道具』と『装備』に変化は無かった。
『道具』はゲートを利用して出し入れできたし、ゲート出現場所も自由に変更可能だった。
一方『装備』も問題ないようだ。木剣をゲートに収納している現在の状態から、『チェンジ』とイメージすると瞬時に木剣装備状態になった。クリスが事前登録装備の種類は4つまで増やせると言っていたのを思い出し、とりあえず1つ増やしてパンツ一枚の状態を登録した。そして何度か装備変更を繰り返し、チュートリアルの時と変わらない仕様である事を確認した。その使い勝手の良さにあらためて感心したジンは、早めに服や装備を買って登録を増やそうと思う。ちょっと特撮ヒーローの変身みたいで楽しかったのだ。
後は『設定』の確認だけとなったが、ジンは宿に入ってから結構な時間が経過している事に気付いた。 体感ではあるが1時間以上は経っていると感じた。あまり遅くなるとギルドが混みそうだったので、とりあえず先にギルドで登録だけでもしておこうと、一旦『設定』の確認は後回しにした。
出しっぱなしだった硬貨をゲートに収納し、宿を出るジン。荷物はもともと少ない上に全部ゲートの中だから、防犯は気にしなくても良い。
途中通りにある店をのぞきたい誘惑にかられるが、何とか我慢してギルドに到着した。
ギルドの中は綺麗に整頓されていて、雑然とした感じはない。依頼が貼られていると思しき大きな掲示板といくつかの部署に分かれた受付カウンター。 2階へと続く階段と、ちょっとした休憩スペースまである。所々置かれた観葉植物や花が雰囲気をまた和らげている。冒険者というのは荒くれ者というイメージが大なり小なり存在するものだが、とてもそういった人達が集う場所というイメージではない。どちらかというと市役所の1階ロビーがイメージに近い。
ジンは良い意味で驚いたが目的を思い出し、早速受付へと向かった。
やはり忙しいのは朝と夕方なのか、人も少なかったので待つ必要はなかった。
「こんにちは。冒険者登録をしたいのですが、此方でよろしいでしょうか?」
「はい結構です。どうぞお座りください」
ジンが声をかけた受付担当者は、長い髪をアップでまとめた理知的な印象の眼鏡美人だった。
「新規の冒険者登録は銀貨5枚が必要となりますがよろしいですね?」
「はい」
「それでは此方の上に手を置いてください」
受付さんはそう言ってテーブルの上におかれた水晶らしきものを示した。
それはソフトボールを半分に切ったくらいの大きさで、淡く水色に光っている。そしてその土台からは、細い線が受付さんの手元にある黒い板へと伸びていた。
ジンは興味津々で右手をのせるが、特に変化は起きなかった。手持ち無沙汰なのでふと受付さんを見ると、彼女は手元の黒い板を見つめていた。
ジンは女性の年齢を当てるのは苦手だ。良くわからないが、20歳くらいだろうか。眼鏡が若干野暮ったいが、それが良いという人もいるだろう。目鼻立ちが整っている分、笑顔の無い今はちょっときつそうなイメージもある。でも笑ったら可愛いだろうなと、ジンは思わず見とれてしまった。
どれくらいたったのか不意に受付さんが顔を上げ、目が合ってしまった。ジンはじっと見てしまっていた事に気付き、失礼な真似をしてしまったと申し訳なく思ったが、受付さんは気にした様子も無く無表情のまま手元にあった黒い板をこちらに見せてきた。
「これらの情報に間違いがないか確認してください」
====================================
名前:ジン
年齢:18
職業:自由人
レベル:3
HP:49/49
MP:20/20
STR:23
VIT:20
INT:14
DEX:20
AGI:20
賞罰:なし
====================================
メニューの基本情報の項目と同じものが表示されているようだ。どういうシステムかはわからないが、これはやはり魔法だろう。内容に間違いはない。ユニークスキルも消えているし、称号もない。賞罰という項目が増えているが、なしになっているのは当たり前だ。この世界に来てはもちろん、前世でも犯罪歴はない。といいつつ犯罪ではないが子供の頃にやらかした事はあったなと、当時を思い出して関係ない事でちょっと反省するジン。
「はい。間違いありません」
そうジンが答えると、受付さんは表情を変えずにジンに告げた。
「申し訳ありませんが、ジンさんの冒険者登録は不可能です」
「え?」
ジンの時が止まった。
冒険者登録が不可能という事態に固まってしまったジンを、受付さんはじっと見ている。そして一拍おいてジンに話しかけた。
「あくまでも現在の状況では出来ないという意味です」
「え?」
ようやく再起動して頭を働かせようとするジン。
「冒険者になる為の条件はいくつかありますが、ジンさんに欠けているのはスキルです」
「スキルなら…」
持っていると言おうとして、はっと気付いてやめる。実際スキルは所持しているが、それはあくまでゲーム時に習得したスキルだ。こっちの世界と同じものとは限らないし、ましてやユニークスキルについては話せるわけもない。結果として口をつぐむしかなかった。
「はい。もちろんジンさんが新しくスキルを習得する事が出来たなら、冒険者登録が可能になります」
受付さんはジンが口をつぐんだ理由を違うようにとってくれたようだ。自然な会話になった事に安心するジン。
「もしその気がおありでしたら、当ギルド所属の教官にスキルを習う事が可能です」
願ってもないことだ。ジンはすぐその申し出に飛びつく。
「ありがとうございます。今からでも指導をお願いできますか?」
たぶん今は3時か4時くらいだろう。あまり時間はないが、出来ればお願いしたいところだ。
「はい。習得したいスキルは『剣術』でよろしいですか?」
急な話にもかかわらず、受付さんはすぐに対応してくれる。おそらく此方のデータを見てスキルがないとなった時に、今後の展開を予測して準備していたのだろう。こちらの腰にある木剣から覚えたいスキルも予測して、教官の選別と空き時間を確認をする。なかなか出来る事ではない。しかも無駄になる可能性もあるのだ。受付さんの素早い対応にジンは感謝した。
「はい。ありがとうございます」
このタイミングのお礼に受付さんは少し眉を動かして反応したが、すぐに無表情に戻ると続けて案内した。
「担当教官の名前はグレッグです。奥から運動場に行けるようになっておりますので、そちらへ向かってください」
「はい、助かりました。ありがとうございます。では行って来ます」
そう言うとジンは運動場に向かった。
ジンのあいさつに答える声はなかった。