枝豆にビール。これがあれば完璧だ。
欲を言えばビールはキンキンに冷え、窓辺には風鈴がちりんと涼しげな音をたてる、そんなシチュエーションであれば、夏はなおさら良い季節になる。
喉を鳴らし、冷たい液体を流しこみ、テレビのスイッチを入れればナイター中継。
台所からは妻の鼻唄が聞こえ、目の前には可愛い息子が座っている。
極楽浄土、至福の時とはこのことだ。…
ナイター中継、今日の試合は父さんが贔屓にしている球団だ。これに勝てば連敗脱出。負ければ七連敗。
「どう?」
キンキンに冷えたオレンジジュースを飲みながら、僕はうなだれた父さんの禿げかけた登頂部を見る。
「……もう少し夢のある…」
言いかけて、目頭を押さえる父さん。
父さんが手にしているのは僕の学校の宿題。“将来の夢”というタイトルの作文だ。
「小学四年生なんだから、もっとこう…消防士とか、サッカー選手とかカッコイイ夢があるだろう?」
悲しげな顔で父さんは言う。
「父さんが小学生の頃はなぁ、野球選手になろうと思ってたぞ。目指せ長嶋以上の名選手ってな。それから中学生の頃はなぁ…」
僕はちょっとはにかみながら、首を横に振った。
「ううん。それでいいんだよ。」
かわいい息子や奥さんのためにいっしょうけんめい働いてる大好きな父さんみたいに、ビールを飲んで、ナイター観るのがぼくの夢なんだ。
涙ぐんで感動する父さんを横目に見ながら、僕は心の中でため息をつく。
やれやれ。毎年恒例『父の日の可愛い息子』も楽じゃない。
額にかかる前髪をかきあげ、来年の父の日はどうしようかと考えながら、僕はジュースを飲み干す。
テレビの中で、父さんの贔屓の球団が、逆転サヨナラ満塁ホームランを打たれて見事七連敗していた。 |