平和が一番
「あー今日も人来ねぇな~」
と俺が言うと
「それは仕方ないですよ。こんなに世界中の企業が一気に発展したら」
と礼が返してきた。
こいつ2年前はあまり喋らなかったのに、去年の末くらいからよく喋るようになったな。
「そりゃそうだけどよー、皆あっちに流されすぎじゃねぇか?」
「まぁ、あっちの店の方が早いし安いし安全ですしね。それに比べてこっちは遅い高い微妙ですし...」
礼は少し言葉が悪いときがある。自分の働いてる店悪く言ってどうするんだか。
「価格はそんなに変わらねぇよ!!それに安心して飲める位には安全だ!!」
「はいはい、そうでしたそうでした、私が間違ってました。」
「お前謝るとき全く悪びれた態度じゃねぇよな」
「何ですか店長?少し聞こえませんでした。もう一度ハッキリと言ってもらえます?」
「あ、はい、ナンデモアリマセン」
やっべ、怒らせそうだったな。冷や汗が出そうになったぜ...。
前に客に怒ってるのを見たけど、あれは...うん、思い出しただけで怖い。
あの時のことは俺の心の内に封印しておこう。
「そうですか...で、店長、今後どうするんです?この店」
「とりあえず様子見だな。他には...宣伝するくらいでいいだろ」
「宣伝ってどのような?」
「ん~『たまには飲みたくなる昔の味』みたいな?」
もちろんこんなの今テキトーに考えたものだ。
「絶対テキトーですよね、それ...」
すぐにばれたよ。礼って人の心でも読めるんじゃねぇか?
「あ、時間なので私あがりますけど店長一人で大丈夫ですか?」
「あぁ全然余裕だよ。この店内見てみろよ、客いねぇぞ?これから来るとも思えねぇし」
そうなのだ。終戦後徐々に客足が途絶えていき、ここ二、三日は合計しても客の数は一桁なのだ。
「あ、いえ、そっちではなく一人で寂しくないかなーと」
「なわけねぇだろ、バーカ!!俺だぞ?」
礼のこの俺に対する子ども扱いは何なんだろう。一応これでも大人なんだぜ?
「店長だから心配なんです。背低いですし」
「背低いのバカにするな!!そして背が低いのは関係ない!!」
さらに、俺が背が低いの気にしてるの知っててこのセリフ言ってくる礼はひどいと思う。
「とりあえず暗くならないうちに、もうお前は帰れ!!」
「はいはい、わかりました。何かあったらすぐ連絡くださいね」
礼が髪を撫でてきた。また子供扱い...でも不思議と撫でられるのは嫌ではないな
「って、わしゃわしゃするな!!」
「ふふっ、顔真っ赤ですよ、店長」
「はぁ...ったく、りょーかい、じゃあまた明日な」
「はい、また明日」
礼が帰ると店内は静かになり、外の音に埋められたように物音ひとつしなくなる。
確かにこの状態で夜を越したりするのは少し寂しい。でも俺はもう馴れた。
それこそガキの頃からそうだったから。
小さいとき事故で両親が死んだ。
残った俺を引き取ったじいちゃんは歳が歳だったからか俺が小学生卒業間近で死んだ。
その頃には家に一人になってた。思い返すと本当に早い段階だな。逆に笑えてくる。
中学を卒業した後、国からの援助資金で店をすぐに出した。
店の名前は「remain」意味は「残る」だ。
俺がここに残り、客が来る。そういう普通でいいんだ。
俺はこの店で稼ぐことより客に安心してゆっくりくつろげる場所を提供したかった。
開店当時の世界はケンカだ戦争だと落ち着けるのは自分の家だけ。
それこそ人によっては自分の家でも眠れないやつもいたらしい。
だから、そういう人たちの寝床として貸し出した。
戦争が終わってやっと平和になったころには、みんな自分の家に帰って行った。
その時、そのなんでもない普通が、当たり前なことが、とてもいいことなんだなと思えた。
その後も泊りに来ていた人は店に顔出してくれたりした。
「あの時がピークだったかぁ...」
そう、本当にあの時がピークだったのかもしれない。
平和になった途端科学技術が大幅に上がったのだ。
例えば「遠くにあるものを自分が一歩も動かずに取る道具」というのがある。
それは空間を歪ませて一度違う次元に飛ばしその後自分の近くに落とす。
初めて見る人は何とも信じられないモノを見たと必ず驚く。
それからというもの「○○ができるのがほしい」といわれればそれがあれば売る。
「○○ができるのがほしい」といわれて、それがなければ作って売る。
そういう技術力をもった企業が多くある。そんな時代だ。
「まぁこの店にも一個あるけど...これはなぁ...」
一応この店にも科学技術が上がった後の『機械人形』が一個ある。
これを知ってるのは、俺と泊りに来ていて平和になった後来た人、数名だけだ。
使い始めは評判よかったが、ある日急に評判が下がった。
客が言うにはこうだ。
「『機械人形』の手で入れたものは不味い」
「前の安心できる味じゃなくなった」
確かに俺でも味の変化には気づいてはいた。だが、客に言われるまでは特に気にもしていなかった。
言われた後に『機械人形』を動かすのをやめたが、もう遅かった。
一人減っていったらそれが続いて最後には今の状態だ。
「この『機械人形』動かしたら数人は増えるだろうけどきっともう動かないだろうな。」
長い間使ってなかったし...そう思い起動ボタンを冗談半分で押してみると、
「システム起動、記憶装置データ復元、ヘッドカメラ感度良好、視界不良、整備を求めます。」
「え、動いた?」
待て待て待て!冗談半分が本当に動いたぞ!?
「てんちょー?整備してもらってもよろしいですか?」
「お、おう」
ってなんで素直に拭いてやってんだ俺!
不味いことになったな。このままじゃ明日礼にコイツ見られちまう。
いや、でも『機械人形』の記憶がそのままならこいつにも働いてもらおうかな?人件費はタダだし。
そうすれば、礼には新しく入ってきたスタッフって説明で何とかなるだろ。いや、なってくれ。
「とりあえず、お前には明日から入ってくるスタッフということで働いてもらう。いいな?」
「うん、わかったよ、てんちょー。」
コイツ以前起動させた時より幼くないか?一種の記憶障害か何かだろうか。
とりあえず第一関門クリアだな。
「ってもう21時じゃねぇか...寝るか」
後は明日礼にばれなければクリアだな...
━次の日━
「隠しててすみませんでした」
俺はパジャマのまま床に正座している。なぜかというと早くも礼にばれたのだ。
予定時間より早く着いたとかなんだで、礼が開店準備してる時に『機械人形』が自己紹介したらしい。
「私は『機械人形』です。」と...
「私は怒ってるんじゃないんですよ?店長。なんであるのを先に言わないんですか」
「だって...」
「この人...『機械人形』を使えばお客さん増えますって!」
「そういうのじゃなく」
「早く機械人形がこっちの店にもあるって宣伝しましょうよ!」
「あ~もう!ごちゃごちゃうるさい!」
「え?」
「機械人形をウリにしたら他の店と変わらないじゃんかよ!」
科学技術が発展した後の他の店は『機械人形』を使って、人件費削減をし浮いた分のお金を安全な材料を買う費用などに回してドンドン稼いでる状態だ。
だから、早い提供スピード、安い価格、材料の安全を維持できてるわけだ。
ただ、問題点も勿論ある。それは、
「それにもし、リミッター解除したらどうなるか、わかってるのか!?」
「リミッター解除」だ。
『機械人形』にはセーフティがしっかりかかっていて、表向きは安全安心の機械なのだ。
だが、極稀に制御機能に障害が起こった状態「リミッター解除」になるときがある。
そうなったらもう、国に金を払って頼んで強制終了してもらうか、どうにか壊すしかない。
因みに「リミッター解除」の時は『機械人形』に感情が芽生えるらしい。
今現在そうなった『機械人形』は『機械人形』を恐れている人たちにすべて壊されている。
その人たち曰く人間が超えてはいけないこと、命を作ることに反するからだそうだ。
もっとも、『機械人形』を作った時点で、命を作ったのと同じ気もするが...。
「そ、それは...すみません。ということは、店長はこの子使うのやっぱり反対ですか?」
「あ、あぁ、そうだ。俺は反対だ。」
「てんちょー、私悪い?」
「いや、お前は悪くないぞ。ただ『機械人形』に対してよく思ってない人もいるからな」
「そういう人たちに目をつけられたらこんなボロボロの店潰されちゃいますもんね...」
「いや、ボロボロじゃねぇし!確かに最近、床が軋んだ音する時あるけども!」
「てんちょー、お店ボロボロー」
「ボロボロじゃねぇし...これから、こいつどうする?」
「どうしましょうね...」
「どうしましょー」
「どうするか...ってお前はオウムか!」
そうこうしているうちに開店時間だ。
「はぁ、とりあえず店開けてくるわ」
「あ、はい、了解です。」
「りょーかーい」
もうオウムさんにはかまってやんないもんね。
外へ出て、プレートを[close]から[OPEN]に裏返す。
店内に戻ろうとしたその時
「うわー、助けてー!!」
遠くから子供の叫び声が聞こえた。
店は...きっと大丈夫だろう。行ってみるか。
声のした方へ進む大きな音、何かが爆発したような音が聞こえてくる。
声の聞こえた方からは逃げていく人たちが叫びながらできるだけ遠くへ行こうと走っていく。
ある者は子供を連れて、ある者は夫婦で一緒に、ある者はこけている人を助けながらだったり。
逃げ方でも人の性格ってこんなに出るもんなんだなと思った。
そんなことを考えながら走っていると現場に着いた。
それもおそらく「リミッター解除」した『機械人形』いるところに。
なぜ「リミッター解除」していると判断したかというと、笑っていたのだ。
モノを壊すことに快感を覚えたような笑いだ。薄気味悪い。
「ひでぇ有り様だな、こりゃ...」
ここにあったであろう家や店は壊されている。さっきの爆発したような音はこれだったか。
音というと叫び声を出した子供は...いた。
すぐにでも助けて俺も逃げたいが、子供のいる場所が問題だった。
『機械人形』のすぐ後ろ、『機械人形』か子供のどちらかが何歩か歩いたらすぐ触れ合える距離だ。
「クッソ、どうにか方法はねぇのか...あれは!」
きっとこの周辺は貴族でも住んでいたのだろう。騎士の置物が倒れていた。
しかも剣が折れずに残っている!
「あれを使って戦うしかないか」
子供も俺も『機械人形』にばれてないな。
よし、行こう。
ゆっくりゆっくり...そーっとそーっと...
ふぅ、意外とばれないようにって疲れるもんなんだな。
あと少し、もうちょっとで手が届くってところまで来て、
「こっち来ないでー!ママー助けてー!」
「キミ、ワタシ、アソブ?」
子供がばれた。こんだけ時間があったからか『機械人形』もさすがに気付いたようだ。
だが、それは俺にとってもチャンスだ。子供に注目してるなら俺は気兼ねなく動ける。
ここまでやったら、突っ込むしかねぇよな!
「壊れろ!!」
俺は剣を取って『機械人形』に突進する形で斬り込んだ。
ガン!
人の形でもやっぱり機械だな。硬さがやべぇ...
斬ろうとしたこっちの腕の方が痛い。
「テキ?」
「物が当たればそりゃ気づきますよね!」
「フフフ、キミモアソブ?」
「遊ばねぇよっと!おい、ガキ!さっさと逃げろ!」
「うん、ありがと、オジサン!」
「まだオジサンって言われる年じゃねぇよ!」
子供が逃げるまで斬り続けてはいたが、『機械人形』には効いていないようだ。
こいつ全く動じてねぇ...こっちの体力が削られるだけか。
この剣が重いせいか俺の腕も、もう限界だ。そろそろ逃げねぇと...
「イタイヨ、キミ」
「そりゃ斬ってるからな!ぐっ...」
「...?ヤメテ」
「クッソ...離せよ!」
剣をつかまれた。というか、人差し指と中指の間で挟まれた。
機械の力と人間の力の差は大きかった。
俺がいくら力を入れてもビクともしない。
「ハァ、頑張ってるネェ」
「そりゃ、俺も生きたいからな!」
こいつ最初の時と比べて、喋り方が人間そのものになってきていないか?
記憶能力がきっといいんだな。
言葉を喋るのに適してるから、こいつを使ってた人はきっと老人なんだろう。
「...ふん」
『機械人形』の力が剣に加わると、パキンと軽い音を立てて剣が折れた。
やばいな、対抗手段がなくなった。いや、待て。逆の発想だ。
武器が無くなって動きやすくなったとすれば、逃げることも可能じゃないか?
俺は運動神経そこまで悪くないはず。全力で走れば逃げ切れるかもな。
だったら...
「お?フフフ、次は何して遊ぶの?」
「だから遊ばねぇよっと!」
俺は近くにあった砂の山を握れるだけ握って『機械人形』の顔めがけて投げかけた。
「うわ、前が見えないよ...」
「作戦成功!」
『機械人形』は頭に人間の眼と同じ位置にカメラを2つ内蔵している。
その2つのカメラで、周りを見て命令があればそれを、なければAIの自己判断機能で、行動する。
要はカメラを汚せば、相手は視界不良になると考えたわけだ。
だが、これは賭けでもあった。
なぜなら、カメラがダメになった時用に、聴覚の感度が人間の数倍に上げられている。
だから耳が聞こえていれば、何か動く音があればそれの大体の位置がわかる。
そう、「聞こえていれば」だ。
あいつは剣を折る直前の会話で俺の言葉が聞き取れていなかった。
それを耳に何らかの異常が発生している状態と仮定して、この作戦を思いついたのだ。
「ハァ、ハァ、俺の体力、逃げ切るまで持ってくれよ!」
「あーもう、追いかけっこかぁ...どうやって追いかけようかなー」
追いかけてこんでいいわ!
そう心で叫びながら、全力疾走していると見慣れた道が見えてきていた。
確かここなら次を右に曲がれば...
よし、ここの裏道はまだ残ってたか。
ということはあと二分走れば店へ戻れるな。
「逃げ切れたかな...ふぅ、疲れた。歩いてたらあの耳じゃきっと気づかれないだろ...」
まぁ、ここまで来て走る必要はないか、と思い歩くことにした。
息を整えないと正直しんどいからな。たまには運動しねぇと体力やばいかもな...
息が落ち着いた頃店が見えてきた。
店の前には礼がいた。
「あ、店長!どこ行ってたんですか!」
「あぁ、ちょっとヒーローごっこをな...」
「ヒーローごっこ?よくわかりませんがその汚い服早く着替えてください!」
「そんなに急がなくても大丈」
「大丈夫じゃないんです!なぜか数十人のお客さんが流れ込んできたんです!」
「あ~そっか。そりゃそうだ」
「何か知ってるんですか?とりあえず早く着替えてきてくださいね!」
「はいはい、了解」
その客たちはきっとあの騒ぎで逃げてきた人だろう。
そして、なぜそんなに人が来たかというとこの店が砲弾数発じゃ、壊れないことを知っているからだろう。
この店、戦争の時代に建てたからかなり頑丈に作ったんだよなぁ。
こんなところで、頑丈さが役に立つとは...何はともあれ逃げきれてる人が多くてよかったよかった。
「あ、そうだ。礼!あいつはどこだ?」
「あいつ?...あぁ、とりあえず接客させてます。接客スキルがありましたので。」
「何?お客さんに危害を与えてたりしないだろうな?」
「えぇ、まったくそんなことはありません」
「そうか。変わったところとかあるか?」
「いえ、特には。」
「そうか。じゃあ着替えてくる」
「できるだけ早めでお願いしますねー!」
ウチの『機械人形』はまだ大丈夫そうだな。
今度の休日にでもちゃんとした整備士に見てもらうことにしよう。
長い間使ってなくて、関節部が動かしにくそうだったし。
「とりあえず着替えるか。遅れたら怒られちまう。」
礼に怒られるのは怖いからなぁ...着替えよし、髪型よし、笑顔よしっと。
朝からいろいろあったけど、今日も一日頑張るか!
「お待たせ」
「店長!!急いでブラックコーヒー13とカフェオレ8とホットミルク5つとトーストセット15とホットドッグ4お願いします!!」
「え、そんなに!?」
「早く!!急いで!!」
「多すぎだろ...えーとお前、ちょっと手伝え!」
「え?てんちょー何ー?」
「お客さんに料理と飲み物運ぶことを頼みたい。できるか?」
「もちろんだよ、てんちょー!私に任せて!」
「じゃあ、俺が今から作るから、それを礼に言われた場所までもっていってくれ」
「りょーかーい!」
とりあえずコーヒー10を渡してみる。
お、ちゃんと礼に聞いた場所までもっていってる。
しかも誰に言われたわけでもないのに、お客さんに笑顔だぞ。
以前の記憶から自然にそうなってるんだろうか。
まぁ、悪いことじゃない、むしろ良いことだからどっちでもいいがな。
その後も俺が作る・こいつが持っていく
この繰り返しをしていると、20分とかからずに全てのお客さんに物がいきわたった。
「すごいですね、店長!こんなに早くこの量の仕事をこなすなんて!」
「こいつが渡しにいってくれたおかげだよ」
俺は『機械人形』の頭を撫でてやる。
「エヘヘー、嬉しいな!嬉しいな!」
「ぷぅー、私も店長いない間頑張ってたんですからね!」
「はいはい、じゃあお前も。お疲れさん」
私も撫でてみたいな顔をされたので礼も撫でてやる。
「あぅ...意外と恥ずかしいですね、これ」
珍しく礼の顔が真っ赤になっている。
あまり撫でられたこととかなかったのだろうか。きっとそうだな。
だから照れてるんだな、うん。
でも、照れてる礼を見たことがなかったからか、かなりその、可愛い...
真っ赤な顔で俺に撫でられてる礼...うん、こっちの方が怒った時より断然可愛いな。
本人に言ったら怒鳴られそうだから、言わないけど。
「お、帰る客が出てきたな。ありがとうございましたー!」
「え、あ、ありがとうございました!」
「ありがとーございましたー!」
逃げてた時の焦りと恐怖心も無くなり、お腹もいっぱいになったお客さん達がどんどん帰っていく。
やっぱり普通の状態が一番いいな。改めてそう思った。
最後のお客さんの親子が帰りそうになったので、また挨拶しようとすると子供が駆け寄ってきた。
「オジサン!さっきはありがとう!」
「あ、あの時の子供か!ちゃんとお母さんのところに行けたんだな」
「あら、ユウ?...もしかしてこの方が助けてくれたオジサン?」
「うん、そうだよママ!」
「やっぱり...この子が大変お世話になりました。この子を助けていただきありがとうございます」
「あ、いえ、どうも」
ユウ君のお母さんに何度もお礼を言われた。
「何か助けてくれたお礼を」とも言われたが、料理を食べて行ってくれただけで十分だ。
これ以上何かされると罰が当たっちまう。
「オジサンまたねー!」
「オジサンちゃうわ!」
「本当にありがとうございました」
「あ、いえ、こちらこそありがとうございました」
「また来てね!」
「また遊ぼうねー!」
「うん、おねーちゃん達もありがとう!」
「お前達この子といつの間に友達に...」
ユウ君達が帰ると、お客さんは全員帰って、店内には俺含め3人だけになった。
「で、何があったんです?ヒーローごっこってどういうことですか?」
「あぁ、開店時間に外に出ただろ?その時子供の...ユウ君の叫び声が聞こえたんだ」
「え、どういうことですか?私何も聞こえませんでしたけど...」
あー、それはきっと、この建物の壁が分厚すぎて聞こえなかったんだな。
「あー、うん。まぁとりあえず、声が聞こえた方へ行ったら『機械人形』が「リミッター解除」してて、そこからはユウ君を逃がして俺も逃げてきたってわけ」
「だからこんなに人が来たんですか...って店長戦ってきたんですか!?怪我とかしてないですよね!?」
「あぁそれは大丈夫大丈夫。で、今日のお客さん達は多分そこから逃げてきた人たちだと思う」
「てんちょー、その『機械人形』ってこれー?」
ウチの『機械人形』が指差したのはTV。画面を見てみると...
【町でリミッター解除した機械人形が先ほど強制終了されたようです!この機械人形は破壊された建物に住んでいた方が使用していたメイド型だそうです!あ、確かに服装をよく見てみると、ところどころ破れていますがそれらしき部分が見えます!先ほどまで、この周辺は立ち入り禁止になっていたものと...】
と、ヘリからの中継がされていた。
ここから外を見てみるがヘリが見えないことを考えると、きっと「透明にするスプレー」をかけているのだろう。
「うん、これだな」
「すごいところで戦ってたんですね...」
「てんちょーすごーい!」
「おう、ありがとうな...今日の接客中に思ったんだが、こいつの名前を決めようぜ」
「私の名前?」
「あ~確かに呼ぶ時、『お前』とか『君』ってなっちゃって不便ですよね」
「そうそう。お前は何がいいとかあるか?」
「私はてんちょーが決めたのがいい!」
「だそうですよ、店長?これは責任重大ですねー」
「うっ...そう言われると緊張するな。ん~じゃあ、作ってる時に思い付いたやつで」
まずい、確かに作ってる時に思い付いたのはある。
だが、無駄に間を作ったせいで、二人のワクワクしている眼がつらい...
「えーゴホン!...『日向』ってどうだろうか」
「『日向?」
「『日向ですか...」
「え、何その反応!?怖いよ!?」
二人とも何かを考え込むようにして、黙ったまま3分ほど時間がたった。
「店長、因みに他に案はありますか?」
「え、いや、無いです...」
「そうですか...」
また黙っちゃったよ。こいつはこいつで寝てるし...
もう夕方だしご飯でも作って待つか。
今日は動いたから俺的には肉がいいけどここには男1:女2だから...
うん、ご飯・味噌汁・魚・サラダでいいだろう。
決まったからにはさっさと作るか。
━3分後━
「よし、あとは時間待つだけだな。おーいそろそろご飯出すけどいいかー?」
「え、はい。お願いします。というかさりげなく作ってくれてる...ってそうじゃなくて!店長!!」
「んにゃ...おはよー...?」
「あ、起きた。で、何?」
「私は賛成です『日向』ちゃんって名前!良い名前じゃないですか!」
「お、おう?で、お前はどうだ?」
「私はてんちょーの決めたのでいいよー?」
「じゃあ決まりな!これからお前は『日向』だ!」
「そうだ、店長。さっき思ったんですが店長は日向ちゃんをスタッフとして入れるんですか?」
「お、おう。反対だったが、こんなにいい仕事されたら入れちまうよ」
「そうですか!私もお友達が増えてうれしいです!」
そんなことを話しているうちに時間がいい具合だ。
「名前も決まって日向がウチに入ることも決まったことだしご飯食べるか!」
「そうですね。私も温かいうちに食べたいですし」
「ご飯ご飯ー」
「礼、業務連絡だ」
「え、いきなりなんですか店長?」
「日向がまともに喋れるくらい話相手をしてやってくれ。まだ若干違和感があるからな」
「なんだ、そんなことですか。全然いいですよ?日向ちゃん、私といっぱいお話ししようねー」
「うん!私も礼といっぱいお話ししたい!」
「なら、よかった。さぁ、ご飯にしよう!今日はお魚とサラダだぞー」
「ずいぶんとヘルシーですね?」
「...気にするな」
「お魚お魚ー」
その時、みんなで食べたご飯はとてもおいしかった。
やっぱり、平和が一番。
そんな当たり前のことを忘れてしまわないようにしたい。
これからもここで俺と礼と日向で頑張っていこうと思う。
「礼」
「はい?」
「日向」
「何ー?」
「これからも末永くよろしくお願いします」
「もう、いきなり改まってどうしたんですか?」
「どうしたーてんちょー?」
「いや、よくわからないが言いたくなった。ただそんだけだよ!」
「...ふふっ、こちらこそよろしくお願いします!」
「私もよろしくー!」
「おう!さぁ、冷める前に食べちまおうぜ!」
「「はい!」」
これからもこの二人を笑顔にしてやりたいと思った。
そんな笑顔を見れる俺は幸せ者だな...
絶対にこいつらを幸せだと思えるようにしてやる!!