表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
循環世界は彼方に夢を見るか?  作者: 翡翠しおん
第一章 Lost Garden
6/48

第三話 渉外監査官

「へー、よかったなぁ」

「良くないですよ! レベルに見合わないものをやらされるなんて、不安ですよ教官っ」

 反論するソエルに、ジノはそれでも嬉しそうだった。参考書を閉じて、ジノが頬杖を突く。ソエル以上に不貞腐れていたエージュに視線を合わせて、ジノは微笑んだ。

「渉外任務って行ったことないだろ。良い経験だよ」

「俺は興味ないです」

 むっとしながら言い返したエージュに、ジノが苦笑する。

「頑なだなぁ」

「信念があると言ってください」

 自分でもただの頑固と言う事は理解しつつも、エージュは毅然と言い返した。ジノはジノで、それは一理あるな、と同意も示す。

「ま、上級のレベルを間近で見れるいい機会だと思うといい」

「……それは、分かってます」

「ならいいんだ」

 満足そうにジノは笑った。

ジノは、教え子が育つのが素直に嬉しいのだろう。そんなジノを見ていると、エージュは何かと強情な自分が、情けなくなる。やっぱり、ジノには勝てない。強くなっても、きっとエージュにとって、ジノは一生教官だ。

 そんな人に出会えたことは、絶望の中に居たとしても、幸せだと思う。

「ソエル、そろそろ時間だ。行くぞ」

「うー……やだなぁ」

 ごねるソエルの気持ちも分かるが、どこか楽しみに感じているエージュがいた。

 待ち合わせ場所は、本部の転送フロア。いずれにせよ、気楽な気持ちではいられない任務が始まる。


◇◇◇


「遅い」

 ぶすっとした表情で待ち構えていたのは、あの幼い外見の少女。慌ててソエルが頭を下げる。

「すみません、エウィンさん!」

 エウィンは、腕を組んでふんっと鼻を鳴らした。外見こそ子供そのものだが、監査官としての歴はエージュたちより長い。加えて言えば、年齢自体も上だ。

 長命で魔法に長けた一族、エルフの少女。それがエウィンと言う態度の大きな少女だった。

「指令書確認した?」

 くりっとした大きな紫の瞳を向けて、エウィンは確認を取る。

「えっと、初回渉外任務ですっ」

「新米、なめてんの?」

 苛立ちを見せるエウィンに、ソエルがぶんぶん首を振った。といっても、メールで届いた任務内容はそれしか書いていなかったとエージュは記憶していた。

 口を開きかけたエージュより早く、ソエルは言う。

「ゲート接続の完了したばかりの世界の状態を実地で確認する、ですよね?」

 ソエルの回答に、エウィンはようやく納得した様子で、息を吐いた。

「そう言う事。……改めて自己紹介。上級渉外監査官エウィンだよ」

「中級前期、ソエル・トリスタンです」

「中級後期……エージュ・ソルマルです」

 背筋を伸ばして自己紹介をした二人をエウィンはじろじろ眺める。

「期待してないけど。まぁよろしく」

 そっけなく言い放って、エウィンは背を向けた。ソエルは戸惑い、エージュは軽く苛立ちながら、その背中を追いかける。

 新しく観測された世界は、ほとんどゲートの機能が制限されている。特別許可を得て、転送が初めて可能になるのだ。エウィンはすでにその手続きを全員分終えていたらしく、手際よくゲートの設定を進めていく。ソエルとエージュはそれを見守るしかできなかった。

「……はい、完了っと。行くよひよっこ」

「あの……どんな設定を?」

 必要な情報を引き出そうとしたソエルに、エウィンはくすっと笑った。酷く、意地悪く。

「そんなの必要ないから、初回渉外っていうの」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ