第10話
・・ガサ・・ゴソ・・ガサガサ
「・・・・ふぅ、まっこんなもんか」
望がやってきてから数日たち、新しい環境にもなれ始めだいぶ落ち着いた生活になってきていた
そんな日の夜、耕太は自室で明日のために荷物の整理をしていた。
「明日はそんなに必要なものもないだろうし、これでいいだろ」
息を吐き椅子に腰を下ろした。
耕太の部屋は質素なものだった、黒と白のコントラストをベースにした落ち着いた印象を与える部屋で、ベッドにソファ、現代的な真っ白い机と椅子、壁際には棚が2つ並び、漫画や教科書、CDなどがきちんと整理されておかれ、反対の壁には備え付けの大きなクローゼット、後は簡単なオーディオがあるだけのよく言えば質素な、悪く言えば特徴のない部屋だった。
その部屋で耕太がボーっと椅子に座っていると、部屋のドアがノックされた
耕太が視線を向けると、ドアが開き咲妃が顔を覗かせた。
「耕太〜何してるの?、見たがってたテレビ始まっちゃうよ?」
咲妃の言葉に耕太は椅子から立ち上がりながら答えた
「明日の準備をちょっと・・」
「明日?何かあったっけ??」
首を傾げこちらを見る咲妃に耕太は
「お前・・・覚えてないの?」
と、けっこう本気で驚きの表情
「だからなにを?」
本気で覚えていない様子の咲妃に耕太は溜息をついた
(こっちにきてから色々会ったとはいえ、最初の目的ぐらい覚えてろよ・・・)
と、そんなことを思うが声には出さず、それとは別の言葉を一咲妃に言った
「・・・・・明日は吉野浦大学付属吉野浦学院高校の入学式だ」
自分が通うはずの高校の長ったらしい正式名称や最後の言葉を処理できずしばらく目をパチクリさせていた咲妃だったが、処理すると同時に叫んだ。
「ああぁぁぁーーーーー忘れてたーーーーー」
どだだーー、とわりかしすごい勢いで耕太の斜め向かいの自分の部屋に飛び込んでいく
部屋の中からはドタバタという物音と
「えと、あの、とりあえず・・・制服!制服はどこだっけ?!」
焦りまくった咲妃の声が聞こえる。
「……」
あきれた表情で咲妃のでていった扉を見ていると、こんどは咲妃と一緒にリビングにいた望が先ほどの咲妃と同じように顔をのぞかせた。
「パパ〜、ママどうしたの?」
とかわいく首をかしげる。
「あぁ、明日のこと、すっかり忘れてたらしい」
と、望の言葉に少し戸惑いながら答える耕太。
戸惑ったのは咲妃のボケでも望の可愛さでもなく、その呼び方にだ、あれから何日か経ったがまだ馴れない。
しかし慣れきらないものの最初に比べれば抵抗もなくなり、少しずつ愛着がわいてきたのも確かだ。
「望はもう明日の準備終わったのか?」
「うん、それはもう終わったけど…」
と、望はそこで言いよどんだ。
「どうした?」
望はゆっくりと続ける。
「ええと…その…学校が…」
そこまで聞いて、耕太は望が言おうとしていることを察した。
「大丈夫だよ」
耕太はそう言って望の頭をなでた
聞かなくてもわかる、この子は不安なんだと
「不安がることないさ、いつも通りのそのままの望でいればいいんだよ」
これから、初めての、知り合いの一人もいないところに行くのが…
「望は良い子だから、いつも通りにしてれば友達なんかすぐできるさ」
だったら、安心させるのが親父のつとめだろ?
耕太の言葉にしばらく聞き入っていた望だったが、やがて
「…うん!」
と満面の笑顔でうなずいた
その純粋な笑顔に耕太も笑顔を返しもう一度望の頭をなでた
その姿は、本当に仲のよい親子にしか見えなかった。
「さて、テレビ見ようか?」
「うん」
二人が並んでテレビを見ている時咲妃の部屋からは
「うぇ〜ん、カバンどこにしまったっけ〜、靴下はどこぉ〜」
とか言う、声が聞こえたが親子の団らんムードでほのぼのする二人の耳には入らなかった |