未遂。
あまり眠れなかった。
「ふぁ……。」
こんな日も学校があるなんて正直辛い。とは言っても、先輩の方が辛いと思う。
ちゃんともう一回謝らなきゃな……。
「おっす。」
「あ……はよ。」
朝から斎間に会った。
「今日も暗いなーお前。」
「……ちょっと、な。」
「また訳ありか?」
「ああ。」
そんな話をしながら学校についた。
「あー、あれ阿澄先生じゃねぇ?」
「……。」
斎間の言う通り、校門に寄りかかっている阿澄先生の姿があった。
生徒指導かと思ったが、腕を組んで不機嫌そうにこちらを見ているので違うとすぐにわかる。そう、俺を見ているのだ。
「……。」
先生は無言で、何も言うことはなかった。俺が横を通り過ぎるまでは。
「……中野がリストカットした。」
「――!!」
唐突で予想外の言葉に息を飲む。
「今総合病院にいるから、行ってこい。」
「……。」
行けって言われても……無理だ。会わす顔がない。
「行かねぇのか?」
俺は答えられずうつむいた。
「どうせ自信なくなったからお前逃げたんだろ?」
完全に見透かされていた。
「自分のせいだと思うなら、お前が責任とれ。」
「……。」
弱くて情けない自分に腹がたち、下唇を噛み締める。
「行けよ。」
ずっと横で黙っていた斎間が小さな声で言った。
「斎間……」
「授業なら俺がちゃんと誤魔化しとくから、早く会いに行け。」
「……。」
「もう話せないかもしれないだろ!?ほら早く!!」
背中を斎間の手と声とで押され、弾けたように俺は走り出した。
「……斎間君。」
「はい?」
「お前遅刻な。」
腕時計はすでにホームルームの始まる時間になっていた。
「げっ!!大目に見てよ先生〜!!」
「無理だろ。っていうか無理だ。」
「マジかよ……。」
そんなやりとりがあったのを俺は知るわけもなく、ただただ走っていた。
「はっ……はぁっ……。」
自分の足がこんなに遅いと思わなかった。
早く行きたいと焦れば焦るほど、足が遅くなる気がした。
「すいませ……中野歌穂さんの病室って、何処にありますか……!?」
息を整えながらナースステーションで尋ねる。
周りにいる患者は、汗だくの男子高生を珍しそうに見ていた。
「中野さんは集中治療室で手術しています。」
集中治療室。その言葉に背筋が凍った。
「……危ないんですか?」
「……治療室はあちらです。」
「……。」
進めば進むほど足が重くなる。
気が付けば薄明かりのつく廊下にいた。
「どうしたの?」
話しかけられて伏せていた顔をあげた。
どこか先輩に似た顔。もう少し大人になった先輩を見ているようだった。
「中野先輩の、お母さんですか……?」
先輩の母親は黙って頷いた。手にはシワくちゃのハンカチ、相当強く握り締めていたのだろう。
「歌穂は、昔から不思議な子でした。でもまさか自殺なんて……。」
震える涙声で母親が呟く。
「……俺のせいなんです。俺が先輩のこと傷つけた。」
「貴方、山崎君?」
「そうですけど……どうして俺の名前……」
「これ、貴方に。」
差し出されたのは空色の綺麗な封筒。
「……?」
「歌穂が書きました。」
先輩が書いた手紙を前にして声が出ない。
「どうか、読んであげてください。」
病室の屋上で先輩からの手紙を広げた。
「……。」
先輩が手首を切る直前、何を思っていたのか。
汗ばむ手を気にすることなく、俺は手紙に目を通し始めた。
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