いらっしゃいませ。
どうぞこちらへ。
本日はいかがなさいますか?
甘い香りのバイオレットフィズ?
それとも、危険な香りのテキーラサンライズ?
はたまた、大人の香りのマティーニ?
わかりました。本日のスペシャルですね。
少々お待ちください。
本日のカクテルの名前はマヨうでございます。
ごゆっくりどうぞ。
私達はいつも仲良し三人組。
今ハマっているのは、あの大人気女の子アイドル三人組の、ラヴアイドール。
だって、彼女達ったら何もかもが最っ高だ。
歌も上手いし、ファッションもセンスがいい。
テレビなんかでしゃべる事なんかも、この頃の間抜けタレントや、フヌケアイドルと違って、賢くて品があり、はっきりした事をズバズバと私達の代わりかのように言い飛ばしてくれる。それらは私達をスカッとさせてくれた。
それと、何と言っても彼女達にはもう一つの魅力があり、それがいわゆるこだわりというものだった。
数々のインタビューを読んだ中に、彼女達の食に対するこだわりを伝える記事が多く書かれているのを私達は読んだ。
それによると、ラヴは何にでもマヨネーズを掛けて食べる、いわゆるマヨラーなのだという。
アイは何にでもソースを掛けて食べるソーラー。
ドールはどんな物にもケチャップを掛けまくるケチャッパーだと語っていた。
彼女達はそれだけはどんなことがあっても譲れないという。
私達はそんな彼女達の生き方に感激し、そして三人はチョーハマっていってしまったのだった。
私達も丁度同じ三人組。
そんな彼女達に憧れているなら影響されないはずがなかった。
まずはファッション。
私達はまるでコピーでもしたようなカッコでその可愛さを堪能し、着飾った。
それから歌。
カラオケに通っては私達三人は各パートに分かれて、微妙なハモりまでを完璧に近いくらいまでに練習を重ねて極め、成りきった。
その完成されたハモりには自分達で酔いしれる程の出来栄えで、一日何回も同じ歌を歌ってしまう始末だった。
そしてこだわり。
私達はその堅い意思をそのまま受け継ぐ覚悟で挑んだ、がしかし、それはかなり難を強いられる事となった。
なぜなら、私達のうちの二人がマヨラーを希望し、その二人が大のケチャップ嫌いだったからであった。
私達は言い合った。
私はマヨネーズでないと無理よ。ケチャップなんて生まれてこの方、一回しか口にしたことないし、その時のあの味のおかげで、私はケチャップが駄目になった。あんなスッパイ物、絶対好きになるなんて無理無理。
私だって、トマトから嫌いなのに、ケチャップなんてとんでもない。しかも私ったら無類のマヨネーズ好きだし、マヨラーは私に決まりよ。
私達二人は年甲斐もなく言い合いを続け、それを見ていたソース好きを取ったソーラーが、それならどっちがマヨラーになるか勝負するしかないんじゃない?と提案してきたので、二人はその意見に賛同し、目に火花を散らしすこととなったのだった。
ソーラーの意見で、どちらが一日にどれだけ大量のマヨネーズを食べられるかを競う、非情のレースが始まることとなった。
三人はとりあえず、昼食で試合をしようと、この頃ハマっていたハンバーガーハウスに行くことにした。
私達三人は同じメニューをオーダーし、各自それをテーブルに運ぶと、まずはソーラーがハンバーガーの一番上のパンを外して、その上からソースを掛けて食べ始めた。
そんなに美味しいとは言えないけど何とか食べれるわと、大きな口であっという間にたいらげた。
それを見た私達二人は、お互い目を合わせると、同じように一番上のパンをパカッと開けて、そこに大量のマヨネーズを捻り出し、それをボトボトと溢しながら、凄まじい勢いで競い合ったのだった。
結果、私達は当然のことながら完食。溢れた料を含めて計算しても、勝負はほぼ互角。冷静になって考えても目に見えていた勝負だったと、ソーラーも、私達も反省した。
ソーラーはまた提案した。
これではいつまで経っても良知が空かない。本当のマヨラーであれば、本来マヨネーズが絶対合わない料理にでもマヨネーズを掛けて食べれるハズ。そんな料理で勝負したらどうかと。
それを聞いた二人は、手に持つマヨネーズをきつく握りしめ、これから行われる地獄のレースを想像し、背筋にくる寒気を抑えて頷いた。そして三人は夕食まで、その料理を何にするかで盛り上がった。
まるで人事のように。
日が暮れて、町中がだんだん騒がしくなってきた頃、三人はそれぞれのマイボトルを手にして、試合会場に選んだ、とある店に出向いた。
三人は皆同じものを注文した。
その異様なまでの気迫は、その店中を襲い、ただならぬ空気が店内を被った。
店主はその殺気を調理場でひしひしと感じ、なぜか手が緊張し、持つ箸が震えるのだった。
三人の前にはざるそばが差し出された。
見た目も見事で、蕎麦はその茶色とも灰色とも呼べない艶やかな色で三人の食欲を駆り立てた。そしてまず、ソーラーが、蕎麦の上にしこたまソースをかけ始め、二人もマヨネーズでそれに続いた。店の中にいる全て視線を奪いながら。
ソーラーは少しためらいを見せたものの、深呼吸をしたのち、一気にそれをすすり出した。そしてそれを口にした表情は、不思議と笑い顔だった。
マヨネーズ隊はそれを見て、我先にとばかりに、ズルズルと鈍い音をあげた。そしてそれに次いで出た言葉は意外にも美味しいであった。
店の中は一瞬の沈黙の後ざわめきが起き、そしてマヨネーズを求める声が挙がるくらいの話題となった。
私達二人は普通に完食を果たし、おかわりまでしたが、結局勝負がつかなかった。そして三人は次の料理は何にするかをそれぞれ課題として、その日は解散することとなったのだった。
三人がまた顔を合わせたのは翌日の昼食前の時間だった。
三人はそれぞれの案を出し合い、その日の一回戦は確かにあまりそれらが使われることがない料理となった。
昼時の混雑にも関わらずに店に入った三人はまた同じものを注文し、少しいつもと違う緊張感を持って、その時を待った。
料理が出てくるまでには少し時間がかかったが、三人は一言も口をきかずに料理を待ち、気を集中させた。
その様子はまるで、嵐の前の静けさに近かった。
そして三人のテーブルには、それは見事な、うな丼が出されたのだった。
三人はぴんと伸ばしていた背筋を保ったまま箸とると、覚悟を決めた表情を固め、それぞれのボトルを傾けた。
食事は終始沈黙の中で行われたが、そこの空間はまるで執念という魔物がうごめく異世界とも感じられ、しかし勝敗はまたしても見送られることになる勝負で幕を閉じ、三人の感想は共に、せっかく高いお金を使ったのに何を食べたのかよくわからなかったと言うものだった。
残念。
三人はため息をついた。
公園のブランコに三人は腰掛け、虚しく揺れる心の中の様にそれの鎖を切なく鳴らし、次の勝負の相談をした。
それには、次こそ二人のパートをはっきりとさせなければという必死さが、まるで夕陽に乗り移ったかのように太陽を燃えゆく赤に染め、そしてそんな太陽は、その熱さを急いで冷まさないとと、凄い勢いで沈んでいくように、あっという間に日が暮れて夜になっていったのだった。
勝負。
そろそろ本気で勝敗の結局を出さなければ。
夕食の宴は低予算で行われることとなった。そして三人はノレンをくぐりその店で一番ベーシックというか、安いやつをまたまた同じように注文した。
店のオヤジさんは威勢のよい返事をすると慣れた手付きでそれらを作り始めた。三人は唾を飲んでそれを見守った。
お待ちっ!の低い声で出されたそれは、トンコツラーメンだった。
三人はまたため息を洩らしながらもそれぞれの担当課題を惜しみなく注ぎ、それを見た店の主人は、おいおいと慌ててそれを制したが、既に間に合う状況にはなかった。
主人は、味もみないで何しやがると怒りを露にしたが、三人の一斉に向けられた異様な視線に、まるでヘビに睨まれたカエルか、鍋を前に出された豚さんのようにたじろぐしかなかった。
またもや鈍いすする音とが店内に響く。
その想像を絶する光景に店内の人々の視線は一気に三人に向けられ、店主もラーメンを作る手を止めたほどだった。
スープまで飲み切った三人はほぼ同時にどんぶりを置くと、額にうっすら浮かび上がった輝く汗をゆっくりと拭うと、何やらそのセクシーさが漂うほどの姿に店の中の男共は歓声と同時にため息を洩らしながら、店主にマヨネーズとソースを注文しだした。しかし三人はそんな様子を無視して、勘定を颯爽と済まし出て行った。
三人の落とした落胆の背中からはまたしても決着が着かなかったことを物語っていたが、そんな店の中ではそれが凄いライヴをやり遂げた後のヒーローの様な姿にさえ捉えられ、勘違いの拍手さえもが沸いていた。
店主は唾を飲み、今起きていた残存が伝説を引く予感に駆り立てられ、それは噂として広まり始めた。
その後も三人は無数の勝負をあちこちで繰り広げ、虚しい戦いに明け暮れ、結果を出せずにいたが、そんな影で三人が知らない結果が出てはいた。
それが、勇気を持って制覇するゲテモノメニューの登場と、それにまつわるエピソード。
それは伝説から流行りへと変わり、メディアまでがそれを取り上げて、そして噂は、あの有名なアイドルグループのラヴアイドールにまで届いたのだった。
彼女達はそんな話題に、なんて無茶苦茶なとは言いながらも、やってみたら意外に美味しいものばかりと、盛り上がったコメントをあちこちの雑誌で話し、それはますます話題となったが、そんな中でもその当人達はと言えば、いくらメディアが探してみても見つけた出すことはできなかった。
三人には当然噂が届いてはいた。
しかし迷っていた。
メディアでテレビなんかに出れるのならば確かに出たい。もしかするとあの三人に会えるかも知れないし。
でも数々の戦いを行なった代償は大きかった。
何しろその立派なお腹ときたらかなり見事な張り具合で、
おしまい。
いかがでしたか?
今日のオススメのカクテルの味は。
またのご来店、心よりお待ち申し上げております。では。 |