かくしてその旅路、始まり
ヴァレリアとラザフォードは、随分と昔から『知り合い』で『知人』で『片割れ』だった。
互いが互いの対の存在であると言うことだ。
ラザフォードはとある魔女に育てられ、ヴァレリアはセレステーゼ侯爵家に養われた。そして二人が二人相手をずっと憶えていた。
物心ついたときには既にそんな状態で。
そしてラザフォードはヴァレリアが呼べばすぐに姿を現したし、二人はこの世の子供達がするように、魔法を習ってもいたから時にヴァレリアがラザフォードを追いかける事もあった。
『片割れ』と言う認識もまた、気付けば肯定していたし、何の違和感も感じなかった。
ただ、ラザフォードは人外の存在と言うことは確かだ。
彼を見ると、人は決まって化け物と言うが、ヴァレリアにはその意味がわからない。
白銀の髪も綺麗だし、金と赤の双色の瞳も、決して気持ちの悪いものじゃない。背に生えている大きな翼以外、見た目は普通の人間だ。
ああ、でも、その額に飾る宝玉を見れば、人は化け物と怯えるかもしれない。
複雑な文様を宝玉の中に埋め込んだそれは、そう。
人の命の刻限を告げ、その魂を刈り取ってゆく。死神の証なのだから。
◇◆◇
「これは、酷い・・・・・・・」
近隣の領主から、セレステーゼ侯爵家に連絡が届いたのは、およそ二日ほど前の真夜中だった。
いわく、『黒い森』の館の方角から、一瞬にして白い焔が上がり、全てを焼ききったと。
何があったのかと『黒い森』へ入っていった近隣の民衆がそこで見たのは、もはや形さえ残っていない、炎に溶けた館の残骸だけだったと。
事態を重く見た侯爵家は、彼を筆頭とする調査団をすぐさまこの地に派遣した。
『黒い森』の館には、ヴァレリア・イヴ・リーディエが暮らしていたのだ。一刻も早く、彼女の安否だけは確かめなければならないのだから、侯爵家直系流れを汲む彼が派遣されるのも当然の事と思える。
そうして、彼―――セヴラン・シザリアが、数人の部下を引き連れて『黒い森』の館のあった場所で瞳にしたのは、そう。
「まさか、本当に何も残っていないなんて・・・・・・」
全焼し、崩れ落ちた館の残骸に、異様なほどに多く残る、熱に溶けた刃物と思しき残骸。
黒く焦げた大地に足を踏み出して、呆然とする部下達に、彼は言った。
「まず、ヴァレリア・イヴ・リーディエの遺体が無いか、確認しろ。・・・・・・判別できる、限りでいい・・・・・」
必死に平静を保とうとするも、目にする焦土に、その声は確かに震えてもいて。
◇◆◇
「ラザ。とりあえず羽見えないように術かけようか。それで瞳と髪の色も違う色の幻影かけて、装飾品も全部仕舞おう」
「うん。その意見には賛成だけどね?ヴァレリアも着替えた方がいいと思うのは僕だけかな」
明けたばかりの空を飛び、馬で約一日の距離に位置する小さな町の近くに降り立った二人は、おりしも『黒い森』の近隣住民が館の跡で絶句しているのとちょうど同じ時刻、そんな会話を繰り広げたりしていた。
ヴァレリアの喪服は血に塗れているし、所々、時には大きく裂けてもいる。館で襲撃者を迎え撃った結果だったが、何も知らない人間から見ればそのなりは怪しい通り越してその血の量に真っ青になる事は間違いない。
また、ラザフォードの容姿はその色からして異常に目立ち、何より翼と額の宝玉は何が何でも隠しておかないと騒動を招く事は簡単に予想がつく。
二人はこれから旅をするのだ。そう、長い旅を。それは遥か昔の約束でもあるし、今思い描く的確な未来でもあるはずだ。
決して騒動の多発は望ましくない。
まだ、旅は始まってもいないのだから。
しばしの沈黙の後、ラザフォードはじゃぁ、と提示する。
「僕が羽かくして瞳の色変える幻影かけて、装飾品も全部はずしてヴァレリアに預けるから、僕が帰るまでここで待ってて。僕とヴァレリアの新しい服買ってくるから」
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