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この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

Horrific killer's bad dream〜殺人鬼の悪い夢〜

夏のホラー2009〜怖い話は好きですか?〜に参加しています。
 近頃、僕の周りでは奇妙な事件が複数起こっている。
 一つ目は二十五歳の男性が、路地裏で殺されたと言う事件。殺され方はあまりにも残酷な殺し方。まず最初に頭を鉈か斧の類でまっ二つに割る。その後、眼球を抉り出して、首を切られる。胴体は壁に貼り付けにされて、首はぐちゃぐちゃにさればら撒かれる。
 そう、残酷な殺し方だろう。でも僕はこの話を聞いて思ってしまった。
 残酷な殺し方のはずなのに――斬新で――鮮やかで――綺麗な殺し方だと感じてしまった。
 これでまで、この野熊(のくま)町で起こった連続殺人事件の被害者は四人。無差別に殺されていく人々。無差別に選ばれてしまった人々。無差別に死んで行った人々。僕は彼等に謝ったほうがいいのかもしれない。
 だって、殺された人間を綺麗だなんて言ってしまったのだから。僕は謝まなければならない。「ごめんなさい」と、頭を下げて謝まらなくてはならない。
 殺された四人は先ほど言ったように無差別だった。無差別と言うからには、年齢も性別も関係ない。まず一人目は先ほどいった二十五歳の男性。二人目は六十七歳の女性。三人目は七歳の女の子。四人目は十五歳の男の子。年齢も性別もばらばらの四人。彼等は殺人鬼の勝手なルーレット――つまり、ランダムで選ばれた人々。不幸だった四人。例えるならギャンブルに使われたチップだろう。生きるか死ぬかというギャンブルに掛けられて、死んだチップ。
 殺人鬼が何を思って人を殺すのか、何を感じて人を殺すのか、理解できる人は少ない。でも、僕は少なくても理解は出来る。殺人衝動が襲ってくる人、殺人に生き甲斐を感じている人、殺人をする理由がある人。種類はいくつかある。だけど、これらの人間には共通点がある。
 それは人を殺す事によって何かを得ることが出来るということだ。
 その『何か』を手に入れて人はそれを求めようとする。例えば、お酒を飲んで気持ちよくなる。すると『気持ちいい』と言うものが手に入れられた。とすると人はまたその気持ちよさを求めてお酒を飲む。忘れたい。楽になりたい。そう思うからお酒を飲む。
 これは人の心理だ。人間は善と悪の心があったとする。すると強いのは必ず悪の心が強い。楽な方向へ進もうと人は考える。全の心のほうが弱いのは当たり前だ。人はお酒を飲みすぎて病気になったとしてもその『快感』を求めて、飲みつづける。それが死に繋がっても。
 話は戻るけど、殺人鬼も人を殺して『何か』を得る事が出来たから、それを続ける。その『何か』は『快感』なのか『恐怖』なのか『悲しみ』なのか『怒り』なのかは分からない。でも何かを求めて人を殺す。
 人の心理なんてそんなものだ。
 人の心なんてそんなものだ。
 人の考えている事なんてそんな事だ。
 人の考えている事なんてくだらないんだ。
 僕はそんな殺人鬼がいるこの町に住んでいる。何時もの日常。何も変わらない日常。人が死のうが生きようが僕には関係のない事だ。関係がないから、関わろうとしない。関わったら死ぬと分かっているから。でも、僕は関わりを持ってしまった。持たなければ良かったのかもしれない。それを望んでいたから。
 人の望みなんて大抵叶わない。僕が望んだ時点で殺人鬼との関わりを持っていたのかもしれない。だけど僕は殺人鬼にあってもどうも思わない。思っても仕方がない。会ってしまったのなら死ぬだけ。僕の人生はそこで終わりだと神様が設定したゲームなのだから仕方がない。だから僕は殺人鬼に出会ったらこういうだろう。

「僕も残酷に――斬新に――鮮やかに――綺麗に殺してください」

 これが僕の最後に発する言葉だと心に決めていた。

                                        ≒

 お前はいつも冷めてるな。
 これが僕の友人が朝一番に僕にする挨拶である。
 学校の春休みが終わり久々の学校と言う大抵の学生は絶望する一日の始めの挨拶がこれだ。
 朝一番の挨拶は「おはようございます」と、幼稚園もしくは保育園の先生に習わなかったのか? という僕の発言も「やっぱり冷めてる」の一言で沈没してしまう。僕の言葉は全て冷めているらしい。
 久々に出会った友人の顔を殴ってしまったのは事故としておこう。僕のガラスの心が砕け散ってしまったからには死刑に値する罰を下してやらないと。
「なあ、宮代。朝早々に殴る事はないんじゃないか?」
「朝早々に友人に対して冷めていると言うバカが口に出す言葉じゃないね」
 殴られた部分、鼻の辺りを抑えながらゆっくりと立ち上がる僕の友人。金岡邦雄(かねおかくにお)は僕に向って謝罪しろと言ってきた。こっちは謝罪じゃなくて射殺してやりたい気分だ。
「たく、クールと言うか、冷静と言うか、冷めていると言うか、お前は何でいつもそんなオーラを放っているんだ?」
「僕はどこかの覇王か? オーラなんて出した記憶もなければ、実感もない。そもそもなんだよ。どんなオーラだよ?」
「一人称が『僕』に対して、乱暴と言うか、妙にかっこいい口調が冷たいって言っているんだよ」
「僕の口調でそんな判断してたの!? 大体、口調がかっこいいってどんな口調だよ。普通にしゃべっているつもりなんだけど」
「その口調だ。普通、そう言う口調の奴の一人称は『俺』だ。だが、お前のように『僕』って言う奴は珍しいんだよ。だからかっこいい」
「意味わかんねぇよ」
 自分の机にひれ伏すように頭を下げる。机からは冷たい温度と木製ならではの硬さが肌で実感できる。金岡はそんな僕をじっとみて、すぐ隣の席に座った。その席は金岡の席じゃない。だけど、少しの間と思って座らせてもらったのだろう。そんな事は僕には関係ないし、どうでもいい。何か言われても金岡のせいだ。
「でよ、話し変わるけど宮代は知ってるだろ。春休みの間にあった連続殺人事件」
「……ああ、知ってるよ」
一瞬、返答に遅れてしまったのはその事件に関して僕は失礼な事を感じていたからだ。殺された人たちがとても綺麗だと思ってしまった。失礼極まりない。それに、殺された画像をインターネットの裏サイトでたまたま見つけてしまった時、何かを感じてしまった。何かを。
「その事件だけど今、四人殺されたじゃん」
「ああ、僕もこんな小さな町で殺人事件が起こるなんて思わなかった」
僕等が住んでいる野熊町は人口約三万人の小さな町である。そんな町での連続殺人事件は大事件である。もちろん、社会の中でも四人殺されればこの町に限らず大事件である。
「俺は思うに、殺人鬼は何らかしらの条件がある人物を殺している」
「お前の推理が当たった事があったか? いつも的外れな推理ばっかりで、僕は困るんだけど」
 この金岡邦雄の趣味と言っていいほどの行動は、事件を推理する事である。昔、この学校でイタズラが発生した。個人に対するイタズラではなく、窓ガラスを割ったり、家庭科室を火事にしたり、職員室のコンピューターに性質の悪いウィルスをばら撒いたりと、やりたいほうだいしてくれた。そこで、この事件を止めさせる為に名乗りをあげたのはこの金岡と言う事である。
 僕までひっぱだされて事件の推理に参加。だけどそれすら虚しく、金岡の推理は全てはずれ、犯人の思惑どおり第四の犯行、部室棟の一階が全て赤いペンキで塗られてしまった。部室は裁縫部とコンピューター部、書道部の三つの文芸部が被害にあった。道具や部室はスプリンクラーでペンキをぶっかけたように、全て赤色になった。
 そこで、金岡の助手である僕が推理をする事になった。何で僕なのかと言うのも不思議だが。
 まず、事件の共通点だが、すべて学校がある時間帯に犯行が行われている。最初のイタズラ、窓ガラスを割られたのも五時間目の授業の時、突然窓ガラスが勝手に割れ始めたのだ。だが、後で調べると窓ガラスには小さなプラスチック爆弾が貼り付けられていた。リモコン操作で爆発したのだろう。
 二つ目のイタズラ、家庭科室の火事だがそれは火事と言っても規模は小さかった。家庭科室の一つのコンロンを中心に半径三メートルほどの炎が舞い上がったのである。先生達の発見が早かったため、大惨事にはならなかった。
 三つ目のコンピューターウィルスだけど、これも偶然僕が先生に頼まれた資料を授業中にとりに行くというイベントが発生し、職員室に入った瞬間にパソコンのデータが全て消え、フリーズしてしまったようだ。
 そして第四のイタズラ。部室棟のペンキだがこれは目撃情報があった。この学校の男子生徒の制服を着てペンキをバケツいっぱいに持って行き、ばら撒き始めたのだと。
 これらの情報から推理しても犯人はこの学校の中に居る生徒――と金岡は考えたが俺はそうは思わない。だって、この学校の生徒以外にもこの学校の制服を持っている人はいるし、すんなり学校には入れる人物もいる。それは誰か。
 この学校の今年の卒業生に決まっているだろ。
 だから、目撃した生徒に片っ端から今年卒業した先輩達のアルバム写真を見せて、顔を思い出させる。そして一人の男子生徒に搾ることが出来た。
 大体犯行は五の倍数の日におきやすいのも分かっていた。だから、その一日前と一日後を暇な教頭に家を見張りをさせて、見事にその元生徒の犯行現場を抑える事が出来たのだ。
 これを気に、俺は何故か探偵扱いである。
 宮代零護(みやしろれいご)。零護という珍しい名前の所為で一目散に僕は有名人。うーん、憂鬱だ。
「あ、あのー。そこ……私の……席」
 うん? と金岡が振り返ると、そこには見たことのある女子生徒がそこには立っていた。
 永山美香(ながやまみか)。このクラスではあまり目立たない生徒であるが、何度か会話をした事はある。と言うか、隣の席なので何度がシャーペンや消しゴムを忘れた時に借りた事があった。その時の会話は「ごめん、貸してくれる?」から始まって、「……どうぞ」で繋いで、「ありがとう」で終わる会話である。これを会話と言っていいものか、いささか僕は気になるが、まあ別に良いとしておこう。
「ああ、わり。今すぐ退くから」
「あ、そんなに急がなくても……」
 どうでもいいが僕的に永山は綺麗だと思う。背も、僕と同じぐらいで(と言っても僕の身長は160cmという微妙な小ささ)、女子の中では背は高いほうだと思う。それに透き通るようなセミロングの黒髪と、全てを見たような黒い瞳は僕は――綺麗としか表現できない。そんな女子生徒。あまり関係を作ろうとしない女子生徒。自ら壁を作っている女子生徒。そんな永山美香。
「にしても、その事件のネーミングセンスの無さと言うか何と言うか」
「うん? 金岡、お前事件の名前なんて知ってるのか?」
 永山の席から立ち上がり、今度は僕の目の前の席に座る金岡は妙な事を言い出した。いや、確かに事件に名前をつけることもある。だが、それを金岡が知っている事が不思議だ。こいつの親戚や友人、知人には警察関係の人はいなかったはずなんだけど……?
「ああ、知らないのか? 結構インターネットとかでも有名な話だぜ?」
「マジで?」
「マジですよ」
 殺された人物の動画データを持っていながら、誰もが知っているような事を知らない僕。いや、サイトの中で目にしたことはあるかもしれない。だけど僕はそんなものにも目も暮れず、グロテスクに殺された人間の画像を集めていたのかもしれない。
 とすると僕は異常なのか?
 たぶん……人間全員異常なのかもしれない。
 たぶん……だけど。
「事件の名前、なんていうんだよ?」
「ああ、確か『Horrific killer's bad dream』または『殺人鬼の悪い夢』とか、『野熊の悪夢』とか、色々あるよ」
「……それって名前なのか?」
「ああ、立派な名前だ」
 胸をはって堂々と言う金岡に僕は少しだけ頭を悩ませた。確かにネーミングセンスの欠片も無い。僕が期待したのは「野熊連続殺人事件!」とか「連続怪異殺人事件!」とかそう言う類のものだ。なのにどこかのライトノベルのような名前で堂々と言われてもただ単に「それで」と聞き返してしまいそうなものである。それだけ、幻滅してしまったと言う事だ。それなら僕がサイトで見落とした理由も分かる。そんなものだ。
「しっかしよぉ、春休みだってんのにほとんど家にしかいられねーし。殺人鬼は夜にしか犯行を行わないんだから昼間に家を出てもいーじゃねーかよ」
「僕は知らないよ。そんな中途半端な殺人鬼の法則を信じるのは」
「いや、だってよ――」
 ここでHRが始まるチャイムが鳴った。金岡は時計を見て時刻を確認する。僕も時計に目を向け。
 その後、お互いに顔を見合わせて、「また後でな」とだけ言って颯爽と自分の席に戻って行った。僕はグラウンドが見える窓側の一番後ろ。ベストポジションな所だ。そんな場所とかわって、金岡の席は教卓の目の前の席――つまり、一番座りたくない席ワーストワンに座っている人物である。
 その後すぐに担任の男性教師が教室に入ってくる。
 この時から僕は確信している事が一つだけ会った。

 隣にいる永山があの事件の名前を言ってからずっと、こちら側をちらちらと見ているのだ。

                                         ≒

 物語が進むのは大抵急だ。そう、例えるのなら、何の前ぶりもなく、何の予告も無く、何の予報も無く、何の信号も無く事件はおきる。この場合もそれに値するだろう。そう、急に、唐突に、はたまた侵食するように物語は進んでしまった。
「ええ、今日(こんにち)九等高校(くとうこうこう)の男子生徒、鳥端昇(とりばたのぼる)さんが何者かに殺害されました」
 それは朝、朝ご飯を食べながらニュースを見ていたときに男性ニュースキャスターが口にした言葉だった。思わず箸で掴んでいた卵焼きが箸からぽろりと床に落ちる。
 九等高校は言わば僕等の学校。僕たちの通っている高校だ。そして殺された鳥端昇という生徒は僕の同級生である。僕が思い浮かべた顔と、テレビに映った顔が一致する。急いで、立ち上がり、手に持っていた箸を投げ捨てる。携帯電話を机の上から取り出してすぐさま金岡に電話をした。
「おお、宮代か。どうした? 朝からそんなに慌てて」
 どうやらまだこいつは寝ていたらしい。安心感とちょっとした不安が僕を襲った。
「金岡、テレビ見ろ。今すぐ見ろ」
「慌ててどうしたんだよ。はいはい、今から見ますからすからちょっとまってろ」
 そういって電話越しにテレビのスイッチが入った音がする。そして聞こえてるくるのはしばしの沈黙と、そしてニュースキャスターの事件を説明する声。僕はその間になんど貧乏ゆすりゆすりをしただろう。それだけ、僕はイライラしていた。速く、何か言ってくれ。だって、鳥端は――
「なあ、宮代」
「……なんだ」
「これは、悪い夢か? 夢なのか?」
「…………」
 僕は答える事が出来ない。僕の口はこんな時だけ引っ込みじやんだ。開こうともしない。
「お前……――」
「何も言うな宮代。今、母さんと親父が俺の目の前で泣いている」
「……そうか」
「俺も多分、……――泣いている」
「……ああ」
「よりにもよって、俺の親戚(・・)が殺されるなんて……――夢にも思わねーよな」
「…………、ああ、これは悪夢だ」

 鳥端昇――僕と金岡の同級生で友人、そして――宮代の従兄弟に当たる人物だ。

                                        ≒

 それから三日後、鳥端昇の葬式は行われた。そしてやはり殺され方は、頭をぐちゃぐちゃにされ、目玉をえぐられ、胴体は貼り付けにされていたようだ。
 もう、人前には出せる体ではない。首が無い死体での葬式はあまりにも理にかなっていない。と言うよりも、はたから見たら何かの儀式である。
 学校はしばらくの間、休校。第二の春休みとも呼べる休日が始めまった。もちろん外出は禁止。とはいっても僕の両親は二人とも他界している。注意される事はない。両親が殺されたときも、そのときも、僕は同じように――冷めていた。
 中学一年生の時だ。今から約、五年前の話になる。両親は僕が金岡の家に夏休みを利用して泊まりに行っているその日に、両親は殺された。強盗殺人だったという。犯人は捕まり、無期懲役という判決が下った。僕は――何もいえなかった。死刑じゃなかった事に苛立っているわけではない。何も言いたくなかった。今言葉を発したら泣いてしまうから――なんて嘘だ。悲しかったが、他の感情は無かった。だって、僕は冷めているから。涙も流さないし、何も思わない。人間が二人死んだ。それだけの話だ。僕は自分の弱さを何かで無理やり覆って、隠した。
 宮代の家に泊まった時には、鳥端もいた。鳥端と金岡は嘔吐するほど泣いて、僕はとうとう一粒も涙をこぼさなかった。僕は――本当に冷めていた。


 翌日、僕の家に珍しく客人が来た。それも結構大人数。まず一人目は、金岡邦雄だった。
 玄関のドアを開けて「宮代……」が、最初の言葉だった。まだ心の整理もついていないかもしれないのに僕の所までやって来た金岡には少しだけ感心した。いや、同情した。心の弱いのに無理してやってきた友人に僕は、同情した。
「ちょっと話があるんだけど」
「ああ、僕も少しだけ話がある。と言うよりも金岡の話が聞きたいだけなんだけどね」
 そう言って「ここで話すのもなんだから、中に入ってよ」と続けた。僕は金岡をリビングに案内する。「適当に座って」というと、一番近い椅子に座った。僕も向かい合うように座り、目をお互いにじっと見詰めた。
「鳥端のことなんだけど――」
 話を切り出した金岡の声が玄関のチャイム音で邪魔される。僕は溜息を吐いて立ち上がり、「ちょっと見てくる」とだけ行って、その場を後にした。
 玄関のドアを開けると、一応認識のある人物が目の前にいた。名前を鳥端修一(しゅういち)。鳥端昇の兄で僕達の高校の先輩である。身長は僕より遥かに高い。今度身長を聞いてみようか。
「よお、零護。久しぶり」
「お久しぶりです、修一先輩」
「で、ちょっと話があるんだが――」
「ここで話すのもなんですし、中で話しません? 先約がいますし」
「?」
 首をかしげる修一先輩。同じような事でこの日の、この時間帯に態々僕の家に来る人なんて自分くらいだろうと思っているはずだ。修一先輩も、金岡も。だけど、皆考えている事はたいてい同じこと。ハンバーガーが食べたいと思うから、ハンバーガー屋に集まり、水で遊びたいと思うからプールや海に遊びに行くんだ。今回の場合は「殺された鳥端昇が殺されてどう思うか話し相手がほいい」と言ったところか。僕は人生相談所ではない。
 案の定、リビングに入るとすぐさま修一先輩と金岡はお互いの目を丸くした。驚く事は無理は無い。無論、僕は驚かない。人間の心理をある程度把握できたので、一人が来たら数人くるだろう、特にこの二人は来ると確信していたから。
 修一先輩を金岡の隣に座らせて、僕は先ほどと同じように金岡の真正面の椅子に腰をおろす。二人の顔を交互に見て、二人が思っていることを予想する。まあ、結局は鳥端のことと分かっている。犯人がどうのこうのの話だろう。
「なあ、零護――」
 今度は最初に修一先輩が口を開いたが再び狙ったかのようにチャイムが鳴る。これだけ立て続けに来る事は流石に予想はしていなかったが、三人ほど来るとは思っていた。僕はまた立ち上がって「待っていてください」と二人に言った。リビングを出るときまで金岡と修一先輩は僕を見て、口を開かなかった。
 玄関を三度開けると、珍しい顔があった。
 一人目はクラスメイトの永山と、その後ろに隠れるようにして僕を見るもうひとりの 女子生徒。
「えっと、宮代君、ちょっといいかな?」
「いいけど、後ろの子は?」
「あ、その、亡くなった鳥端君の彼女の――」
「白川です。白川泉(しらかわいずみ)。鳥端先輩の……彼女です」
「ふーん」
 見るからに小動物を思わせるような潤んだ大きな目と肩まで伸びているツインテールが特徴的である。確かに鳥端から彼女が出来たのどうのこうのって聞いた覚えがあるな。確かに白川、この名前を一度くらいは耳にした覚えはある。
「鳥端のことだろ」
「あ、うん。そうなんだけど……」
「ここで話すのもなんですし、中に入ってください。ちゃんと先約はいますから」
「?」
 これも本日何度目かの言葉。一日に三度「ここで話すのもなんですし、中に入ってください」を言わないだろう。僕はそれほど今日は珍しい体験をしたということだ。いや、友人が殺されただけでも珍しい体験だろう。悲しみ、憎しみ、怒りは感じただろうか。いや、僕は友人が殺されて悲しいとは感じた。だけど、涙は流さないし、怒りも、憎しみも感じない。冷めた人間だから。
「――っと、椅子が足りないか」
 僕の家のリビングには椅子が四つしか設置されていない。持ってくるとしたら隣の部屋の僕の勉強机のいすをもってくる必要がある。僕、金岡、修一先輩、永山、白川。五人いる。椅子は足りないのは当たり前だ。
「ちょっと椅子持ってくるから、真っ直ぐ行ってドアを開けて。先約が二人いるから、適当に座ってて」
 僕の言葉に二人は同時に二文字の返事をした。それを確認して僕は肯き、自分の部屋に行く。これから話し合うことは、僕にとって悪夢の一ページ目になるかもしれない。


「犯人を探してほしい」
 四人の話をまとめると、こういうことになる。
 この四人が感じている事、それは犯人への復讐に近い怒り、悲しみ、憎しみだ。僕は何度も言うが冷めている。だから復讐しようなんて考えなかった。
「ちがう、俺達は鳥端の敵討ちを打つんじゃない」
「いや、僕が聞いた限りじゃ復習をしようとしているのと同じだよ? 金岡、お前は敵討ちじゃないと今言ったけど、その殺人鬼を探してどうする? 僕に倒せと? 殺人鬼を殺せと?」
「それこそ違う。俺はそう言う意味で言ったんじゃない」
 すると、修一先輩もこれに続いて。
「零護、お前は昇がしんで悲しいと思わなかったのか?」
「思いました。思いましたよ」
「なら、犯人を見つけようとか考えるんじゃないのか?」
「よし、ならそう言うことにしておいて、永山は何でここにいる? 俺が知っている限りじゃ鳥端との関係は全くと言っていいほどと皆無だが?」
 兄弟、友人、彼女、そうきて――永山のここにいる存在がわからない。そう、存在の意味がわからない。このメンバーの中で、部屋の中で、場所の中で、空間の中での存在意義が――見つからない。永山だけが確実に浮いていた。この繋がりを持つ人物達の中で。
「私は……私は、鳥端君じゃないんです」
「鳥端じゃないとなると……――なるほど」
 大体は理解できた。鳥端じゃない。鳥端が殺されたから僕の所まで来たんじゃない。そうなると――
「最初に殺された四人のうち、あの中にお前と繋がりがある奴がいるんだな?」
 僕の言葉に静かに肯く彼女はどこか申し分けなさそうだった。鳥端が理由でここにいる彼女は場違いなのかもしれない。だが、殺された人間と繋がりを持つ、もしくは殺した犯人が憎いという共通点がある。それならなおさら、――場違いだ。
「悪いけど、なんで四人は僕の所に来たの?」
 僕の投げ出すような言い振りに、四人の表情が険しくなる。
「僕は警察じゃない。僕の所にきた所で意味はない」
「でも、警察は犯人を捜せないじゃないですか!」
 僕のお言い方が気に食わなかったようで白川が机を叩いて立ち上がった。やはりその瞳には大粒の雫が蓄えられていた。ちょっとでも揺さぶってしまったら今にもこぼれてきそうなほどに彼女は限界まで来ていた。だからと言って――
「だからと言って僕が殺人鬼を探せると言う核心はどこにあるんだ?」
「宮代先輩は、あのイタズラ事件の犯人を当てる事が出来たじゃないですか……!」
「あの事件? あれとこの殺人事件を一緒にしてもらうと、僕はとてもじゃないけど――頭にくるよ。あれは結局あの先輩のお遊び。人を殺そうとは思っていない。そこには殺意が無い。……だけど殺人鬼は殺意の塊だ。人を殺して、人をバラして、人で遊んで満足する。そんな奴と僕は関わりを繋ぎたくない」
 それが人の心理だから。
「……分かりました」
 ゆっくりと、静かに、永山は口を開いた。注目は彼女に注がれる。僕だって彼女を見た。今までか弱そうだった、孤立していた、関係を作らなかった、壁を作っていた、永山美香の世界の全てを見たような瞳には――『強さ』が写っていた。今まで瞳に移らなかった、強さが。
「私たち四人だけで殺人鬼を見つけます」
 ――彼女の言った言葉があまりにも力強かったからか、それとも内容に驚いたのか、はたまた、僕は彼女の目に惹かれていたのか、兎に角僕たちは彼女の言葉に度肝を抜かれた。
「そうだな、零護に任せた所で本当に、どうなるって話だよな」
「ああ、確かに。俺ももうちょっと考えればよかった」
「宮代先輩じゃなくても四人でなら何とかなりますよね」
 ちょっとまてお前等。さっきと言っている事が三百六十度違うんだけど。
「宮代じゃ、やっぱり無理だもんな」
「零護じゃ無理だ」
「宮代先輩じゃ無理ですね」
「宮代君じゃ無理だね」
「…………」
 ようは、僕が使えないただの友達Aと言いたいのか? ああ、分かった。僕は冷めている。そう、絶対零度のように冷めている。だけど、人間全て冷めているんだな。
「ああ、分かった、分かったよ。降参するよ、僕の負けだ」
 両手を上げてお手上げのポーズをする。僕は精神的に削られるような攻撃にはめっぽう弱い。その割にはグロテスクな画像や、残酷な考えをする。僕は僕であって、自分の弱点を知っている。僕自身だからこそ知っていることがある。僕は僕なりに自分自身の事を観察しているんだな。
「宮代、わりいな」
「絶対そう思ってないね。まあ、いいけど。どの道僕もあの日から色々調べて分かった事があるから」
 僕の言葉を聞いて目を光らせている人物――永山は「知りたいです!」と大きな声で言った。先ほどの目とは別の迫力。僕は少々困りながらも「じゃ、じゃぁ隣の部屋に来て」と案内をする事にした。四人とも立ち上がって何かを期待した目で僕を見ていた。じっと、獲物を狙うかのように。


 僕の部屋ははっきり言って素朴な感じ。必要なものだけおいて、それ以外のもは倉庫にしまう。実質、僕の部屋においてあるのは本棚と勉強机、ベットにパソコンぐらいだ。窓は歩けどカーテンはつけていないし、クーラーや扇風機、暖房器具などは全く無い。本当に素朴な部屋だ。
 友人を僕の部屋に入れたのはこれで三回目だ。一回目は、中学のころに鳥端と金岡を入れたのが最初だった。それまで、友達を家に呼んだ事は一度も無かったから。そして二回目は金岡一人のときだ。期末テストがどうのこうので僕の部屋で勉強会。と言っても僕が一方的に教える側だったけど。
「こっちだ。僕のパソコンの周りに集まって」
 パソコンの電源は常に電源が入れっぱなしである。金岡のように推理が趣味って言うほどじゃないけど、僕は気になる事は徹底して調べると言う癖がある。だからこの連続殺人事件の事も色々と調べてみた。僕が調べられる全力を出して。
 椅子に座ってマウスを手にとる。画面に移るいくつかのフォルダの一つ――「殺人鬼の悪い夢」とかいてあるフォルダをクリックする。四人も画面に食い入るように見詰める。僕的にはあまりこの資料は見せたくなかったけど……仕方がない。
「まずは、僕が最初に調べたのは殺され方。ニュースでも説明はするけど、実際と異なる情報かもしれない。なら、実物を見たほうがいいと」
 フォルダの中にまたいくつかのフォルダに分かれている。その中の一つ『画像』とかかれているデータに矢印を持って行き――
「あ、言っておくけど結構、きついよ。僕も一人目の画像を見て、正直吐きそうになったよ。それでも見るって言うんならこの画像は見るけど……?」
 最後の警告とも言える僕の言葉に四人とも妙な汗をかく。僕もあまりオススメできない。特に後輩の白川には刺激が強すぎるかもしれない。なら、次の資料に進んだほうがいいかもしれない。何で僕はこの画像を四人に見せようと思ったのか。今から僕たちはこれぐらい見る覚悟がないと、出来ない事をしようとしている、その自覚を持ってもらいたかったである。
 もちろん四人は神妙に考えた結果、
「見る」
 英語ならSeeだ。
 答えたなら後戻りは出来ない。それぐらいは分かっているはずだ。
 僕は「かちっ」っとマウスの音を立ててフォルダをクリックした。
「っひ……!」
 悲鳴をあげそうになったのはやはり白川だった。それもそうだ。首が無い胴体が壁に釘で貼り付けにされ、その足元には潰されたような頭だったもの(・・・・・・)が散りばめられている。そして飾り付けをするかのように二つの目玉がこちらを向いた状態でちょこんと地面を転がっていた。残酷で――斬新で――鮮やかで――綺麗だ――。
「これが最初に殺された二十五歳の男性の死体。どう? これが殺人鬼の遊具」
 僕の言葉にぞっとするかのように四人は震えた。白川と永山は口元を抑えてきつそうだ。
「お、おい宮代。お前、この画像どこで手に入れたんだよ……!」
「ん? ああ、警察のメインコンーピューターにハッキングしただけ。だからほとんどの情報はもってるよ」
「お、お前なぁ……」
 呆れている金岡をほっといて、僕は違うフォルダを開いていく。まずは画像の右側にあるフォルダを開く。開かれたデータは時計のようなグラフが出てくる。グラフは全部で五つ。そしてある時間帯だけ赤色で塗られている。
「これは……なんですか?」
 白川が身を乗り出してグラフの一つを指差す。グラフに興味を持つのは当たり前だ。この五つという数。これは殺された人数と同じ数だから。
「犯行時間をまとめたグラフ。大体、犯人は夜中の一時ごろに殺しをする。三人目の小学生と四人目の中学生、そして五人目の鳥端。彼等は全員誘拐されてから殺された。必ず一時じゃないと殺さない。殺しの定理。殺人鬼の起きてだな」
 二十五歳の男性と六十七歳の女性は誘拐されずに、その場で殺された。子供――流石に高校生までは一時に殺す事はできない。だから誘拐して殺す。だから、無差別に。年齢をばらつかせる為に、誘拐して、恐怖を与えて、殺す。殺人鬼。殺人の鬼。殺しをする人の鬼。これで殺人鬼。『何か』を手に入れる為に恐怖を与える。これが殺人鬼。
「次に僕の予想だけど、次の殺人が行われる現場はある程度わかっているんだ」
「はぁ?」
 修一先輩、その反応は酷いですよ?
 僕だって今まで異常の知能を振り絞って、昨日の夜中の四時に分かったんですから。
「お、おい零護! 分かったって……」
「言葉のままですよ。殺された場所、それには共通点、と言うよりもある順番があるんです」
「……順番」
「ええ、例えば最初に一人殺したとします。そしたら今度は二人目を殺そうと思いました。ならどこで殺すか。金岡、おまえならどこで殺す?」
「ぶ、物騒な事を言うなよ……! お、俺だったらそうだな。と言うかそれは通り魔じゃないのか? 目的がある殺しじゃないんだろ」
「ああ、金岡が言っているのは正しいよ。そう、今回の場合は通り魔に近い。だけど、通り魔ならそれこそ誘拐なんてしなければ良い。ならどうするか。僕なら――自分の家で殺しますね。ほら、いつかテレビでやってただろ? 殺人犯の心理。まず、殺そうと思うなら自分の安全が確保できている場所で殺したい。なら殺してすぐ穴の中に隠れれば良い。だから誘拐までして殺す。無差別に」
 自然と沈黙が訪れた。僕はそんなことをお構い無しに口をまた開く。
「最初に殺した場所と次に殺した場所。大体一キロぐらい離れている。大体の大人なら走って七分もかからないだろうよ、自分の家まで一キロなんて」
「じゃ、じゃぁ三人目以降は?」
「三人目は少し余裕が出来たのか、最初の殺人現場から二キロ先。だけど警察の動きが怖くなってまた四人目は一キロ以内。五人目は少し様子見一・五キロと言った所かな」
「なら六人目は――」
 ゆっくりと永山の口が開かれる。
「ああ、僕の考えが正しければ、様子見で安全と確認した。なら今度は冒険して二キロから三キロ内でで犯行が行われると思うよ。それに日にちも何故か分からないけど三日ずつ行われている。一人目を殺してから二日後に二人目、それから四日後に三人目、次に三日目に四人目、さらにその三日目に五人目。だから、次に殺人が起きるのは――」

 僕の言葉は多分――冷めていた

「今日から三日以内だ」

                                        ≒

 その日から僕たちは五人で固まって殺人鬼の探索を始めた。さすがに別々で行動すると勝ち目は無い。だが、五人でいれば助かる確率が高いと思う。この場合、僕達の中で死者は絶対に出してはいけない。今回の目的は殺人鬼の発見だ。戦うことはない。バラバラで行動し殺人鬼を見つけたとする。だが、ちょっとしたミスで……物音をたてたり、気配を気づかれたり、見つかったりすると――バットエンド。
 だから五人で固まって探索をする。絶対に一人で行動をしない。これが鉄則だ。
 そして殺人鬼を探し始めて、今日で三日目の夜だった。


「殺人鬼は見つかるじまいか」
 金岡は懐中電灯を片手に、僕の隣で呟いた。
 三日目の夜、今までびくびくと寄り添うように五人で探索をしていたが、三日目にもなると気が抜けてしまっていた。僕からすると一番鬼を抜いてはいけない夜だと思う。今までの二日間で殺人鬼が出てこない。だとすると、この三日目で出てくる可能性が一番高い。
「宮代君、もし、もしだけどこの三日目に殺人鬼が出てこなかったら、見つからなかったら、私たちはどうすればいいの?」
 永山の声は僕の真後ろから聞こえた。僕は振り向く事もなく、足を止める事もなく、「止めだ」と言った。
「この最後の日に見つからなかったら、殺人鬼探しは止めだ」
「そんな……! だって、また被害者が出るかもしれないんですよ!」
「ああ、分かってる」
「分かってるならなおさら!」
「良いか、永山。これ以上探索を続けてなんになる!? 僕達の目的は達成できていない。だけどこれ以上して見つからなかったどうするんだ! 今、この時間に殺人鬼が人を殺していたら、人で遊んでいたら、僕達は戦えるか!? 僕は安全を大事にしている。君たちを危険にあわすわけにはいかない。だから、僕は危険なマネはしない」
 僕はそれでも振り向かずに――言った。足を止めて永山に言った。
 隣にいる金岡、その隣にいる白川、そして白川の後ろにいる修一先輩、そしてその隣にいる永山。彼等、彼女等は僕を見詰めた。僕を拒絶してたのか、同情したのか分からないけど、見ていた。僕をじっと見ていた。
「永山――」
「金岡君は黙って」
 永山は金岡の言葉をさえぎって、強い言葉で僕に投げかけた。
「宮代君、それにみんなにも言っていなかったけど、私は殺された四人のうちの誰と関係を持っているか話はしていないよね」
「…………」
「私は最初に殺された男性の妹なの」
 永山は静かに呟いた。
 言葉は――儚げだった。
「私と兄は何年も前に両親の離婚で分かれました。私が父に引き取られ、母さんの方に兄が。私は兄が大好きでした。優しくて、強くて――でも、分かれてからは兄の記憶と言うものが私の中で薄れていくんです。燃やされるように。だけど、春休みに入る前にばったり兄と会いました。お互い顔も忘れていましたし、存在自体忘れてましたから。でも、目が合ったとき兄と分かったんです。嬉しくて嬉しく――悲しくなりました」
 永山の表情は遠くを向いて、どこを向いているか分からなかった。
 つらそうで、苦しそうだったけど、それでも言葉を続けた。
「そんな兄が殺された時私は――冷めていました。涙は流れるのに悲しくない。なぜか、心が無い。出合った時は悲しかったのに、永遠の別れになると悲しくない。私は――冷めていた」
 冷めていた――僕。
 冷めてしまった――永山。
 人を殺され感じた事は同じだろうか。
 それとも別だろうか。
 僕は――初めて永山のほうへ顔を向けた。
「だから、私は、私は殺人鬼を絶対に見つけて、心を取り戻すんです!」
 叫ぶように言った彼女は街頭に照らされ、涙が光っていた。彼女の心は殺人鬼に殺された。そう永山は思っている。僕は――僕は自分で心を殺した。殺して、殺して、殺害した。だけども僕は心を殺せきれなかった。自分では殺せなかった。彼女は殺人鬼に心を殺され――第三者に心を殺された。僕はそんな彼女をうらやましいと思った。僕は、嫉妬した。心が殺せて嫉妬した。だから僕は――

「永山、僕はこれ以上は殺人鬼を――君を救えない」

――冷めていた。

                                        ≒

 あの日から約二日。僕は何時ものように朝を迎えた。今日も学校は休み。適当に着替えて、適当に顔を洗って、適当に朝食を取って、適当に外に出た。永山や金岡、修一先輩、白川と別れてから僕は一人で殺人鬼を探した。そう、一人で。別れたと言うよりも永山は泣きながら走り出し、白川がそれを追いかけて、金岡と修一先輩に同情されたような目を向けられ僕は逃げ出した。僕は結局冷めた人間だ。自分の考えだけを貫き通して、相手のことを考えない。最低な人間だ。
 適当に外へ出てから交差点に差し掛かった。信号は赤で、僕は何も考えずに足を止める。
 僕は――何がしたいんだ?
 どうもあの日から僕はおかしい。一日空いたこの日は何故か気分が悪く、ボーットしている。頭に残っているのは永山の泣き顔と二人のあの目。一番見てほしくない目。綺麗でも、美しくも無いにごった視線。
 そんな目で――僕を見るな……
 ふと、そんなことを思っていると目の前で五台のパトカーが目の前を通り過ぎた。いつもなら特に気にしない。だけど、あのパトカーがまたあの事件に関係しているのなら。
 僕は何も考えずに、走り出した。


「今度は四人らしいわよ」
「ええ、今度は全員高校生」
「嫌よねぇー」
 おばさん達の世間話。僕はその言葉を耳にして、嫌な予感が頭を過ぎる。
 いや、そんなはずが無い。そんなことがあってたまるか。
 僕は走って、走って、走って、事件の現場に着いた。多くの野次馬と大量の警察官がいた。
 僕は人ごみを掻き分けて、テープが張ってある場所まで来る。警察官が現場を囲むように何十人も立っている。僕はまた、何も考えずにテープの先へ駆け出した。
「君! 止まりなさい!」
 一人の警察官の叫びが聞こえた、ような気がした。今の僕には誰の声も聞こえない。頼むから、僕の予感が外れていてくれと願うばかり。しばらく駆けて、ある路地裏に着いた。あっちにいた警察官より人数は少ないが、それでも結構な人数だ。
 そしてその先には――
「――うぶっ!?」
 襲ってくる吐き気に耐え切れずに膝を折る。右手で口元を抑えてうずくまる。胃の中をかき回されたような感覚。胃液の味が口の中いっぱいに広がる。頭の中が真っ白――いや、真っ赤になって何も考えれない。先ほどとは違う。もう、なにも考えたくないのだ(・・・・・・・・)
「おえっ――ご、ごえ!?、おえ、お、おぇ――!?」 
 目の前に広がる光景は刺激が強すぎた。
 首の無い胴体が綺麗に壁に貼り付けられ、キリストが四人いるかのようだ。そして、地面に転がっているまっ二つの頭が全部で八つ。元は四つ。今は八つ。目をえぐられ、血の涙を流す。内臓が地面にばら撒かれ、脳みそ――舌――もう、訳の分からない肉片。そこにはもう、友人と呼べる人物は誰一人いなかった。
 胃の中を全て吐き出してもなお、僕の胃はは口から全てを吐き出したいようだ。まだ、嘔吐は続く。
 数人の警察官が心配おするように僕の周りに集まっていた。
 涙と鼻水、唾液と胃液が地面に染み込んでいく。
「く、くそ――!?」
 僕は立ち上がり、駆け出した。
 誰の声も聞かずに走り出した。
 お家に帰って、もう、死にたかった――


 家に飛び込むように入り、すぐさま自分の部屋に行く。
 ベットに飛び込んで、毛布の中に体をくるめる。
 ガタガタ震える自分が醜い。哀れだ。何故、あの四人が殺されたのか。何故、自分だけ生き残ったのか。そして、すぐ近くにある死という名の恐怖。僕は――、僕は――。
 するとあることに気づいた。パソコンの一つのフォルダが開けっ放しになっていた。
 そのフォルダがあの殺人鬼の資料を集めたフォルダだったのは――僕に恐怖を与えた。
 恐る恐る立ち上がる。毛布を離す事はなく、身体をくるめる。パソコンの前まで来て震える手でマウスに手を置く。そして、フォルダには『動画』と新しくフォルダが作られている。
 ………………………………………………………………………………………嘘だろ、おい。
 なんで、なんで僕の知らないフォルダがあるんだよ。
 なんで、この資料に作られているんだよ。
 なんで、僕はこの動画を見ようとしてるんだよ。
 なんで、なんで。
 矢印は僕の意識に反して動画のフォルダをダブルクリックする。
 画面に映し出された動画。そこに移っていたのは、首の繋がった、恐怖に顔を覆い尽くされた、貼り付けされた四人の友人達。
「な、なんだよこれ」
 どうやらビデオカメラで写したらしい。その動画が僕のパソコンに。
『お、おい、頼む。お、俺達を……』
 震える声で修一先輩が誰かにそう言った。しかし返事はない。その代わりに画面にある人物が移った。覆面をつけて、レインコートを着た人物。その人物の手には斧が握られている。ゆっくりと、確実に四人に迫ってくる。
『お、おねがい……逃がして――!』
 白川の叫び。もう、白川の精神状態は限界まできていた。もう、しゃべるのもやっとである。
『た、頼む! 見逃してく――』
 修一先輩が再び叫んだ。だが、声が途中で出せなくなった。
 画面に付着する血。血。赤。血。赤い。赤い色の血。
 覆面の人物が投げた斧が修一先輩の頭と胴体を切断させた。
『キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアぁぁぁぁあああああああああ!!』
 白川の叫び。叫び。絶望の叫び。転がる首。転がる顔。恐怖の顔。
『い、いや! わたしは、わたしは! え! あ! あああああああ!!』
 画面には再び血がついた。男は懐から違うのを取り出すと、力強く投げて、白川の首を切り落とす。これで、死体が二人――二体――二つ。
『白川ぁぁぁぁぁぁぁあああああ! おい! やめろ! もうやめろ! 俺は殺していい! 良いけど永山は見逃せ! おい! 聞いてるのか!」
 金岡が人物に向ってそう言った。永山は涙を流しているが表情が分からない。つまり、感情がないということだ。もう精神が崩壊されている。もう、あそこにいるのは永山じゃない。ただの人形だ。
『おい! 聞いているのかって言ってるだろ!』
 人物はゆっくりと地面に落ちた斧を拾って金岡に近づいた。そして、首を切った。
 血のしぶきが舞い上がる。隣にいる永山の顔にもべっとりと血がつく。
 その人物は今度は永山のほうへ近づく。ゆっくりと、ゆっくりと。
「も、もう――やめてくれ! もうやめてくれよ!」
 僕の口から言葉がこの画像を診て始めて漏れた。いや、叫んだ。
 もう、やめてくれと、僕の友人達を殺さないでくれと――叫んだ。
「やめてくれよ、もう……」
 僕の叫びも画面の向こうにとどくはずがなく、その人物は斧をゆっくりと振上げた。
『宮代君――助けて』
「え?」
 最後に、最後に永山は僕に助けを求めた。見捨てた僕に、突き放した僕に助けを求めた。最後の最後に、本当に最後に、彼女は僕に助けを求めた。
 ぐしゃっと音がなり、ぼとっと首が落ちる音。もう、助ける事は出来なかった。
『きゃ、キャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!』
 斧を空たかく持ち上げると気持ち悪いぐらい、奇妙な笑い声を出した。それが僕にとっては悔しかった。
「くそ――! くそ、クソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!!」
 もう、机に自分の両手を叩きつけて泣く事しか出来なかった。もう、なにも出来なかった。僕は冷めている。冷めているはずなのにこんなに悲しい。こんなに虚しい。かなしい。(むな)しい。ループする気持ちは、ずっと続いた。
『キャハハハッハハハハッハハッハハッハハハッハッハッハッハハハハッハッハッハハハハッハッハッハハハ』
 馬鹿にするように、欺くように、貶すように、彼は笑いつづけた。笑いつづけた。わらいつづけた。笑い続けた。わらいつづけた。ワライツヅケタ。わらいつづけた。ワライツヅケタ。ワライツヅケタ。ワライツヅケタ。ワライツヅケタ。ワラッタ。ワライツヅケ。ワライ。ワライ。わら。ワラ――。
「黙れ! 黙れ、黙れ、黙れ!!」
 僕は叫んだ。また叫んだ。もう、叫べないのに。
 するとどうだろうか。伝わったように笑うのをぴたりと止めた。僕は冷静な気持ちで画面を睨んだ。画面の人物を睨んだ。殺すような目で睨んだ。
「誰だ――? 誰だよ、お前は!」
 また、叫んだ。 
 彼はゆっくりと斧を握っていた右手の力を抜いて、手から獲物を落とした。そして、その右手でまたゆっくりと頭のほうに手をやった。ゆっくりと、じらすように、ゆっくりと――。そして手は覆面を掴んで、勢い良く覆面を取った。
「あ、れ?」
『やぁ、宮代零護。初めまして。()の名前は――宮代零護だ』

 世界が狂った。

 僕が狂った。

 僕の目に映る彼は。

 僕の一番知っている。

 僕自身。

 僕は僕。

 俺はあいつ。

 僕は俺。

 俺は僕。

『ヒャぁ! 今、混乱してるみてぇだな、宮代零護。お前に俺は殺せない。何故なら俺はお前で、お前は俺なんだからよぉ!』
 俺は続ける。
『お前は不思議に思わなかったか? 何で自分の推理が当たらないのか? なんでこの三日間の間に現れないのか? 理由は簡単だ。お前が俺にならない限り、殺人は行われない。お前が「僕」を手放さない限り事件は起こらない!』
 俺は続ける。
『俺とお前は運命共同体。同じ体に二つの心がある。お前は親が殺された時、「僕」のほうじゃなくて「俺」の方の心を壊した。だから俺は狂った! だからお前を殺そうとした! お前から体を奪おうとした! お前は結局――』
 俺は続けた。
『殺人鬼なんだよ。なぁ「僕」』
「は、ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!」
 思い出した、思い出した!
 僕と俺は同じ。全く同じ生き物!
 そして、僕はもう死んだ! 俺がこの体を支配していた! なのに僕は僕でありつづけようとした! 愚かだと知っておきながら、僕は俺に抵抗した! 逆らった! だけどもう――もう僕は()じゃない!
「ははははははははは、は、は、はぁ……ふ、あばよ『僕』。お前の夢はまだ続く。今、殺人鬼の夢は終わりを告げた! 俺が現実(リアル)の住人だ。悪夢の終わりだ。……なぁ『僕』。お前は今から悪夢を見るのかぁ? ま、俺には関係ないけど。ヒャ、ヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!」

                                        ≒

 殺人鬼の悪夢は終わった。
 だけど――僕の悪夢は始まったばかりだ。
今回は前に書いた『登場人物は僕一人』というホラー
作品に似せて作ってみました。感想や、投票など、色々意見などありましたら気軽にして下さい。
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