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この物語は本編とはかかわり合いが薄いです。

harem!〜カオス煮、いっちょ上がり!〜
作:nyao



ACT XX. スィリィ-2


「――本日の講義はここまでにしよう」


ぱたん、とハインケル先生が手に持っていた本を閉じる。その鋭い双瞳で睨まれた気が一瞬して、身体が無意識に震えた。


「各自、きちんと忘れずに復習をするように」


間違いなく気のせいなんだろうけど、いつもの事ながらこの先生の視線には慣れない。何か、暗くて粘っこい感じがして気味が悪い。


あの冷たくってクールな感じがいいんだ、って子もいるけど、正直なところ私にはそれだけはどうやっても理解不能だと思う。


ハインケル先生が教室から出て行って、ふっ、と緊張がようやく途切れた。


「…うぅー、疲れた」


「よっす、お疲れ様っ、スィリィ!」


「…アイネェ」


短い、赤い巻き毛の元気そうな女の子。名前はアイネ・シュタンバイン。私のルームメートで一番仲のいい同級生。


いつもの事ながらその元気を分けてほしい。


「しかし、本当にスィリィってばハインケル先生のこと苦手だねぇ」


「ハインケル先生の事はもういいよ。それよりも次の授業って何だったかな?」


あの先生の事はあまり進んで話す気がしない。まあ、専攻が魔法論理学って言う私の苦手な教科であるって理由も否定できないのだけど。


「次は…あぁ、実地だねっ!」


「実地か…」


少しだけ、気が重い。




ここアルゼルイ教育機関――通称、学園は世界で一番と誉れ高い教育養成機関で、モットーは『来るもの拒まず去る者追わず』の実に幅広い求人をしているのが特徴の場所である。だから学費も他の機関に比べれば驚くほどに安い。


教える、って一口に言っても色々とある。魔法科、武術科、商業科、魔具科に、他にも色々と。


まあ、一言で言うなら凄いところだって言えばいいと思う。


そんな私が専攻しているのは当然、魔法科。子供のころの“ある影響”で魔法使いってものに憧れていたし、幸いにも才能があったらしくて、自分で言うのもなんだけど魔法使いとしては結構に優秀な部類に入るほうだと思う…まあ、あくまで生徒としては、であるけど。




そんなわけで、次の実地って言うのはいわば実践訓練の授業である。しかも武術科も織り交ぜての実践的な戦闘訓練。なんでも学園の教育理念の一つとして『人の子よ、強くあるべし』というのがあるらしいのだ。…正直、はた迷惑な話。


苦手、って程じゃないんだけど、どうしても人に向けて魔法を放つのに抵抗感を覚えてしまう。教官に言わせればそれは単なる甘え、なのだそうだ。


私ってば魔法研究者の方が向いてるんじゃないかしら、と最近じゃ取る専攻を間違えたかな、と思わなくもない。でも魔法理論とかすごく苦手だし、そっちも無理かもしれない。


「それじゃ、行こうか、アイネ」


「うん」


ちなみに他の子達はもう皆、魔法室――実地の授業がある場所で魔法衝撃を吸収してくれる効果がある部屋――に向かっている。


こうやって自由に魔法を放てたり、堂々と他学科と渡り合える実地の授業はほとんどの生徒にとっては自分の腕を試すいい機会だから、人気があるのだ。


…私はやっぱり気が重いけど。


「そう言えばさ、スィリィ知ってる?」


「何を?」


「ギルドから新しい人が派遣されてきたらしいよ」


「へぇー」


「それでね、その人、女の人なんだけどすっごい美人なんだって。クールビューティーっていうの?先に別の講義でみたっていう武術科じゃ話題だってさ」


「へー。ていうよりさ、アイネ。それに対して私にどう反応してほしいわけ?」


「うーん…喜ぶ?」


「喜ぶかっ!!」


「…だよね」


「と言いつつ微妙に私から距離とろうとするの止めなさいよ」


「…信じて、いいよね?」


「むしろ私にかけられた不当な容疑を撤回してほしいわ」


自分から言い出したくせして、全くもうっ。



とかしている間に、魔法室に着いた。


何故か一か所に人が集中していた。


「人、多いわね」


「うん、多いね」


「何があるのかしら?」


「噂の美人の人だよ、きっと!!」


「…そうね」


興奮ぎみのアイネに対して私は若干冷め気味だ。別にどんな人が来ようとも私たちがするのは学ぶって事だけ。……そもそも女の人だしね。とは言っても仮に男の人だったからと言って騒ぎたいとも思わないんだけど。




「それでは皆様揃われたようですので講義を始めたいと思います」




『――』


その一声に、騒がしかった空気が一斉に黙った。


私も、多分みんなと同じくその声の主に視線を惹き付けられる。


先にいたのは――ちょっとくすんだ感じの銀髪の、初めて見る、だけどとても奇麗な女の人。服装は……何故かメイド服着てるけど。


色々な意味で思考が停止した。


「皆様、お初にお目にかかります。此度は短期ではありますが、戦闘特殊を担当させていただきます…ファアフ、と申します。以降、何卒よろしくお願い申し上げます」


頭を下げる。


結果的に彼女の顔が隠れたおかげで我に返る事ができた。周りのみんなも同様のようだ。


しかし…はぁ、なるほど。確かにこれは騒ぎになる。女の私でも一瞬見惚れてたくらいだから、男の人なんて瞬殺だろうよ。


「まずはじめに…これは先の武術科の講義でも軽く行ったのですが、私は皆様の実力の程を知りませんので、取り敢えずは一通りお相手願いたいと思っております。皆さまはそれでよろしいでしょうか?」


その彼女――ファアフさんからの提案に異議を申し立てる人は誰もいなかった。


「それではそちらの方から順にお相手願います」


指名されたのは…はて、……、…、私ですか?


確認の為に自分を指さしてみると頷かれた。


「分かりました」


ついてないなぁ。


よりにもよって一番最初だなんて、これじゃ公開処刑みたいなものじゃないの。まあぶつくさ文句言ってもはじまらないけどね。


「よろしくお願いします」


「はい、よろしくお願いいたします。…お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」


「魔法科専攻、スィリィ・エルファンです」


「分かりました、スィリィ様ですね。それではスィリィ様、魔法の使用は初級まで、どちらか一方が相手に一撃入れればそれで終了、と言う事でよろしいですか?」


「…はい。判りました」


どちらか一方、か。


本当ならすぐに終わらせちゃいたいけど、私にだってプライドってものがある。まあ、はっきりいって……勝ってやる。


結構負けず嫌いなのだ、私は。


「それでは開始の合図と先行はそちらに任せます。いつでもどうぞ、お越し下さいます様」


そう言って、ファアフさんはゆっくりと、けど実に優雅に礼をする――



――当然、その致命的な隙を見逃す私じゃない。


…卑怯と呼ぶなら呼ぶがいいさ。勝った方が正義だよっ。



「ハァッ!!」


一気に相手に近づく、ある意味でこれも奇策だ。たいてい魔法使いって言ったら魔法合戦の遠距離戦を想定しているからうまくいけばこれだけで決める事が出来る。


ただ、近づくと同時に指に魔力を込めて宙に奔らせもしておく。


方陣完成と同時に、相手の懐へ飛び込んで――そこでようやくファアフさんが礼から顔を上げ終わる。当然、そこには驚いた表情が…


…れ?


「っ!!!!!!!!!」


圧倒的な恐怖感に意識せずとも全力で回避を取っていた。続けて手にしていた方陣を地面に押し付けて目くらましを作って、更に後ろへ逃げる。


追撃はない。助かった。


………、――いや、冷静に考えよう。ファアフさんはまだ何もしていない。だってまだその場から動かずに、佇んでいただけじゃないか。…私は一体何をあんなに恐れてたって言うのか。


「…では、始めましょうか。スィリィ様?」


視線の先にはゆっくりと空中に指を走らせているファアフさんの姿があって――


「では手始めに火の初級魔術を」


書き終えて、魔力を流し込まれた方陣から火の玉が飛んでくる。本当に宣言通り初級も初級、ファイアーボールだ。火の玉を作り出すだけの魔法。


「っ」


こっちも同じく、ただ水の方陣を奔らせる。


「行け、アクアボール」


ファイアーボールの到着よりも先に完成した方陣に魔力を流し込んで、撃徹を叩き込む。


次いで二撃目を準備――


「おや?」


――しようと思ったのだけど。……あれ?


私の出したアクアボールがファイアーボールをいとも簡単に呑み込んで、そのままファアフさんに向かっていった。予想外だったのはファアフさんも同じようで、はじめて驚いたような表情を浮かべている。


慌てたように指を奔らせて新しい方陣を書こうとするけど、遅い。


当然、アクアボールは避けられたけどっ…これなら本当に勝てるかもっ!


ファアフさんの気が魔法の方にそれている間に横から回り込む。


「…チェック・メイト」


真横からの二撃目。今度は風の初級魔法『ソニックアロー』。


避けた瞬間の動作を狙ったんだから、これなら避けられないだろう――!


とっさに避けようとしたようだけど、それでも少しだけ腕にかすったみたいで、ファアフさんの服がちょっとだけ破ける。


「……負けてしまいましたね。一撃を受けてしまったのでこれで終了のようです」


「…、あ、はい」


…何か、思っていたより呆気ない?


魔法の威力だってすっごく弱かったし。確かに最後の回避行動は早かったけど、手加減…されていた気はしなかった。本当にぎりぎりで避けられた、って感じだった。


…どういう事だろう?


周りを見ると他の生徒たちもどこか釈然としない様子なのが伺えた。そりゃ、そうだろう。手加減ってのなら分かるけど、仮に自分より弱かったら教わるのは嫌だよね。


「ふむ。他の皆さま方も似たような実力であられるのでしたら再考の余地がありますね。そもそもとして私は戦闘の教鞭を振るう為に来たのではありませんし。…そうですね、では趣向を変えましょう。そちらの方、よろしいですか?あ、あとスィリィ様、御手数をおかけして、ありがとうございました」


「あ、はい」


…不完全燃焼だなぁ〜?


「私がこちらに教えに来たのは特殊武器、たとえば暗器のような武器の扱い、もしくは対処法をお教えするためにございます。では、少しだけよろしいですか?今からすれ違いざまに貴方様に対しまして攻撃を仕掛けようと思います。それを避けてみてください」


「はい」


私の代わりに選ばれた男子生徒…えと、アレフって名前だったかな?、はどこか気がなさそうに――そりゃそうだ、さっきのを見てたら、ねぇ?――でもどこか緊張した様子で頷いていた。


二人が対面から歩いてきて…そのまま互いにすれ違う。……、あれ?


何も起きないまま過ぎちゃったよ。まさか隙がなくって攻められなかった…なんてバカなこと、仮にもギルドからの派遣要員ならあるわけないし。


私と同じことをアレフも思ったようで立ち止まって、不思議そうに振り返っていた。


「流石で御座いますね。仕掛ける隙もないとはこのような事を言うのでしょう、おめでとうございます」


「あ、いや…あぁ」


不可解なのだろう。私も不可か――ぁ


と、判ったときには全てが終わっていた。


「…と、暗器の基本的な使用方法とはこのようになります。如何に相手の気を削ぎ、生じた隙に割り込むか。お分かりいただけましたでしょうか?」


まだ戸惑っているアレフの胸元にはナイフが突き付けられていた。


全く見えなかった…ううん、目では追えていた。見えてたけど、全く反応が出来なかったんだ。


成程、確かに呼ばれるほどの腕前はある講師みたいだ。…ただ正面からの戦闘はそれほどでもないようだけど。


「ただ皆様方は魔法使いを志す者、そして剣士や騎士を目指しておられる方々。これらの方法を取ることはほとんどと言ってない事でしょう。ですので、私の講義では皆様方にこれらの特殊武器を用いた手段に対しての対抗法を主として学んでいただきたいと考えております。ここまではよろしいでしょうか?」


反対意見はない。それは当然だ。一度私に負けた後であれだけ鮮やかに決めて見せたんだから。説得力だってあるに決まっている。


でも私はあまり興味が持てそうにないな、この講義。だって私のしたい事とはかけ離れちゃってる。


「では、まずはこちらの武器についてなのですが――」


どこか遠くの風景でも見るような感じでファアフさんの言葉を聞いているけど身が入らないなぁ。



結局、ぼんやりとしたままで全部を聞き終えた。


この講義、いらないかな?


次からサボる算段でも付けてみる。








「アレフ様……最後に、スィリィ様。これで終いですね」


「ん、お前何やってんだ…て、なんだこの名簿?」


「旦那様ですか。いえ、本日一通り見まわった結果、少々見込みのある学生のリストアップを行っていたところでございます。ご覧になられますか?」


「ああ、じゃあちょっとみせてもらうとするか。……へぇ、なかなか多いな。判断基準はどのくらいなんだ?」


「ギルドで言うところのCランク、と言ったところでしょうか?もっとも実戦経験などがございませんので実質的には一ランク落ちるでしょうが」


「へぇ、なるほど。これは確かに今年は優秀らしいな」


「はい、学長が本年は豊作である、と仰られていた通りかと」


「じゃ、お前も教え甲斐があるだろ」


「はい、確かに」


「そう言えばお前に掛けてた“枷”、いつもどおりに戻しておくか?」


「そうですね。…はい、ではよろしくお願いします」


「了解、っと。しかしお前も物好きだよな。ギルドで言うところの初心者…大体Eランクくらいか?わざわざそこまで身体能力と魔力を落として様子見する必要もないだろうに」


「いえ、これも結構楽しい事でございますよ、旦那様?」


「そうか?俺にはよく分からない感覚だな」


「旦那様であれば恐らくご理解いただけるはずですが…。それで旦那様の方はいかがですか?」


「俺?まあ、俺の方は雑学の講義みたいなものだしなぁ。いたって順調だよ」


「それは大変ようございました。私の方も順調でございます。お揃いですね、旦那様」


「…それに意味があるのか?」


「いえ?」


「だよなぁ」


遠い、遠い空の上での会話。それを私が知る余地は――当然ない。




そして舞台はアルゼルイに移る!!



…と、少し格好よさ気に言ってみる。












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