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コトハさんのターン
【Wildfire編】
Deedα. コトハ-6
待ってて、と言われても。

こんなところでわたし、何をすればいいんだろうか――と、思ってたんだけど、待ってる時間は予想よりも随分と早かった。



「悪い、遅れた」

「……レム?」

「ああ。そうだが、俺が俺以外に見えるか?」

「いえ、見えません……けど」

「けど? どうかしたのか、コトハ?」

「……いえ」



今わたしの目の前にいるのは間違いなくレム。自意識過剰で厚顔無恥でしつこくって気がつくといないくせにまた気がつくそすぐ傍にいる、そのレム……のはず。

でも何処か今までのレムと雰囲気が違う気がするけど、それってわたしの気のせい?



「コトハ、身体の方は大丈夫か? どこか痛いところとかはないか?」

「ぇ、あ、はい。大丈夫……だけど」

「そうか、それは良かった」

「えっと、レム……?」

「ああ、なんだ? って、ああそうか、あの二人の事が気になってるのか」

「――あぁ! そっ、そうですよ、師匠は!? それにスヘミアさんはどうなったんですか!?」

「二人とも元気でぴんぴんしてるぞ。今は独房に放り込んであるから後で会いに行くと良い」

「独房!?」

「ん? ああ、ちょっとお仕置きの意味を込めてな」

「お、お仕置き?」

「あ。別に酷い事とかは一切してない……ぞ。今のところは」

「……今のところってなんですか、レム」

「それはコトハ、君の今後の行動次第って事だ」

「――……え?」



今後の行動次第って、それってつまりなんて言うのか、二人は人質ってやつで、わたしはあんなことやこんなことを命令されて従わされちゃったりするわけですかっ!?



「酷いっ! レムがそんなヒトだなんて思って……ちょっとしか思ってなかったのに!!」

「いや待てコトハ。何か壮絶な勘違いをしている気がするんだが。それと俺の事をどう見てたのか、ちょっと詳しく話し合おうか?」

「レムと話す事なんてありません! それよりも二人を解放してあげてくださいっ!」

「それはちょっと難しいお願いだな」

「やっぱり! 会ったときから思ってましたけど、レムの鬼畜! 横暴! 自意識過剰! 厚顔無恥! ナルシスト! 変人変態! 唐変木! 嘘吐き詐欺師ストーカー! 女誑し! 他にはえっと……」

「いや待て、待って。頼むからそれ以上言わないで。何か立ち直れなくなりそうだ」

「なら二人を解放してあげてください!」

「ゃ、だからそれはちょっと難しいお願いだと言って、」

「レムのド変態! ロリコン幼女好――」

「分かった! 分かったから、だからそれ以上言うのは止めてくれ」

「……本当ですか?」

「本当だ。本当に分かったから、頼むからそれ以上は言わないで。……あと、俺は断じて幼女好きじゃないからな? これだけは絶対に譲れない」

「……まあ、今のは流石にわたしも言い過ぎましたし、レムが分かってくれたのならそれでいいです」

「そうか。分かってくれたか」

「なら、早く二人の事を解放してあげてください」

「だからそれは、」

「――レムの」

「いや、うん、ちょっと冷静になろう、コトハ。頼むから、つーかこっちも訳をちゃんと話す。だから問答無用で俺の悪口を言うのは止めてくれ、お願いします」

「……ちゃんと話して下さいよ?」

「分かってるって。誓って嘘を言う気はないから安心して聞いてくれ」

「……分かりました」

「ほっ、助かった。……流石にほとんど初対面の女の子にあれこれと言われるのは堪えるからなぁ」



でも、なんだか不思議な感じだなぁ。レムにはあんなに付き纏われてたはずなのに――今わたしの目の前にいるレムが何故か初めて見る、全く別のヒトに見える気がする。

いつもより腰が凄く低い気がするし、話もちゃんと通じそうだし、それに……



――大丈夫か、コトハ?



「――」

「コトハ? 何か顔が赤いけど大丈夫か?」

「〜〜っ?!?!」

「もしかして調子が悪くなったなら――」

「何でもないです!」

「そうか? でもコトハ、“冥了”の事もあるから本当に具合が悪くなったら隠さず俺に言えよ。良いな?」

「な、何でもないったら何でもないんですっ。だからレムははぐらかさないでっ! 早く師匠とスヘミアさんに酷い事をしている言い訳をして下さいっ!!」

「俺は別にはぐらかしてはないんだけど。それと独房には放りこんでるけど、別に酷い事はまだしてないし、女の子に対しては酷いことする気も初めからないぞ」

「やっぱりレムです!!」

「……は? どういう意味だ?」

「おっ、女のヒトと見れば誰だっていいんですねっ!? 誰にだって優しくするし、かっ、可愛い……とか、平気で言っちゃうし」

「正直良く分からないんだが、俺は別に誰かれ構わず可愛いとかは言わないぞ。俺がコトハの事を可愛いって言った事があるなら本当に可愛いって思ったからだし、心配しなくてもコトハは可愛いと思うぞ?」

「かわ、かわっ……ぃぃ、って。わたしは、別に」

「まあそんな事より、だ。キスケとスヘミアの事についてだったよな?」

「そそそうです。レムははぐらかさずにちゃんと話して下さい!」

「だからはぐらかしてるつもりはないんだけど……まあいいか。まずはキスケについてだけどな、あいつは――正直今回はやり過ぎた」

「――、?」



なに、今の……一瞬、ぞっとするような寒気を目の前のレムから感じた気がする。



「だから反省と自分を見つめ直すって意味を込めて、しばらく頭を冷やさせるつもりだ」



でも今のレムを見てても何も感じないし、わたしの気のせい?

何か、違う。触れちゃいけないモノが其処に在った――そんな気もするのだけど。



「……反省って、師匠が何をしたって言うんですか?」

「それはお前も見たはずだろう?」

「見たって、何を……」

「漆黒に染まった髪と瞳、ソレ即ち世界の天敵【厄災】の証成り。鬼族に対してこれ以上言う必要があるか?」

「……」

「あいつは無為にヒトを斬り過ぎた。そして終いにはあのクズの策略に乗った。理解できないほどのバカでもあるまいに――いや、だからこそ乗ったんだろうけどな。いい機会だから自分を見直させる機会を与えるつもりで、そのための独房だ。キスケにはしばらく何もさせない、ただ考えさせてだけやる」



策略とかそのあたりの事情はよく分からないんだけど、師匠がいけないところまで足を踏み入れてしまったて言うのは、確かに一目見た瞬間に分かっていた。

世界の禁忌とされる黒の髪と瞳――それがわたしたち鬼族にとってどんな意味を持つのか、まさか師匠が知らないはずもない。バカなわたしでさえ知ってる事なんだから。

でも、それをレムはどうする気なのか――



「……ねえレム」

「なんだ?」

「レムは、師匠に酷いはしないよね?」

「しない――と、言いたいところだけどな。それはあいつ次第だ」

「師匠次第?」

「……あー、いや。知り合いに【厄災】に対するスペシャリストがいてな、そいつ次第」



……何でだろう?

レムの顔を見てて何となくピンときた。そのスペシャリストっていうレムの知り合い、絶対女のヒトだ。



「ま、あいつの事だから口と態度は悪いけどそつなくこなすだろうさ。ほぼ間違いなくコトハが心配するようなことにはならないさ」



それに何だろう。今のレムの、すっごくその女のヒト(断定)の事を信頼してる、みたいな表情は……。



「それにあいつは馬鹿に成りきれるような奴でもないしな。“俺たち”が動いた以上、あいつのことは心配するな。元の……コトハの知ってるキスケに戻してやるさ、絶対にな」

「……ふーん」

「だからな、ってコトハ何か機嫌悪くなってないか?」

「いいえ、そんなことありませんよ? 師匠が大丈夫そうって聞けて、安心してるだけですからっ」

「そ、そうなのか?」

「そうですよ! それ以外に一体どんな理由があるって言うんですか、レムは!」

「いや、俺も今の話でコトハが怒る様な理由は思いつかないし、」

「だからわたしは怒ってません!」

「そうだったな、悪い」

「分かればいいんです、分かればっ」

「……それで、次にスヘミアの事なんだが」

「そうですか、スヘミアさんは口説いている最中ですか、それはご苦労様ですねっ!」

「いや、誰もそんな事は言ってないだが?」



レムに冷静に言われて、我に返った。



「……すっ、済みません。そうですよね」



な、何でだろう。なんだか急にむかむかとして、わたしどうしちゃったんだろう?

丁度レムが【厄災】のスペシャリストっていう女のヒトのコトを話し……て、ってそれじゃあまるでわたしが嫉妬、


有り得ません!

そんな事、あの厚顔無恥で自分勝手な塊でしかないレムなんかに、どうしてわたしが嫉妬だなんて、まるで好意を抱いているような事を――



――大丈夫か、コトハ?



「――」

「コトハ? やっぱりさっきから体調が悪いんじゃないのか。さっきからころころと機嫌が変わって、具合も悪そうだし」

「誰の所為ですか、誰のっ――、ぁ、……す、済みません。でも体調は本当に大丈夫ですから。だから気にしないで……お願いだから」

「……まあ、コトハがそう言うなら信じるけど。さっきも言ったけど本当に体調が悪くなったら隠そうとせずにちゃんと俺に言えよ? いいな?」

「はい、分かりました。って、だからそうやって覗きこんでくるのは止めてください!!」

「……そうか、分かった」

「ぁ」



レムの、少し傷ついたみたいな顔――



「……で、スヘミアの話に戻るけどな。あいつも今回ちょっとやり過ぎたからな。今回の事に対する反省と、“匿う意味も込めて”しばらく独房に居て貰うつもりだ。誓って、別に酷い事とかはしてないからな」

「そ、そうなんだ」

「ああ。それでやっとコトハの事に戻るけどな、コトハも経過を見るって意味でちょっと此処に留まってもらう必要があるんだよ、悪いとは思うけどな」

「留まるって、此処――レムの家に?」

「ああ、って良くここが俺の家って分かったな」

「あ、うん。わたしが起きた時にいた、緑の子に聞いたから。ここがレムがうようよ出るレムの巣窟だって」

「ほー。……ユグドラシルめ、後で覚悟しやがれ」



でも、そっか。わたし、しばらく此処に“いなくっちゃ”いけないんだ。

うん、わたしの意志じゃなくって、そうしないと駄目なんだよね、うん。



「それで、ここに居る間、キスケとスヘミアの二人の事をお願いしたんだが、良いか? ちょっと事情があって元の住人が此処に戻るのにそれなりに時間がかかりそうでな」

「うん、分かった」

「分かったって、……随分とあっさりしてるな」

「だって、傍若無人なレムの事ですし、わたしに選択肢もなさそうだし」

「それは、確かにその通りではあるけどな。コトハに不満はないのか? 俺に出来る事であれば可能な限りやるつもりでいるんだが?」

「レムに出来る事、なんでも……?」

「ああ」



れ、レムになんでもしてもらうって、それってつまり……いやいや、待って。少し落ち着こう、わたし。

でも、うん。一体何をしてもらおうかな……?



「じゃ、そう言う事だから」

「ぇ?」

「何か、俺がいるとコトハが気を遣ってそうだからな。起きたばっかりだし、俺はいない方がいいよな――って事で、用事があれば呼んでくれ。あいつか≪ユグドラシル≫の耳には届くだろうから、直ぐに駆けつける」

「レム、……行っちゃうの?」

「ああ――って、そんな言い方をされると行って欲しくないみたいって勘違いしそうになるな」

「わた、わたしは別にそんなつもりは少しもっ!!」

「分かってるって。今は少しだけ気持ちが高ぶってるだけだよ。少し時間を置けばちゃんと落ち着く」

「ぁ、うん」

「殊勝なコトハっていうのも、何か新鮮な気がするな」

「……ぇ?」

「いや、何でもない。それじゃ、用事があれば呼んでくれ。欲しいモノとかがある場合も……大概のものは用意できる自信があるから好きに頼んでくれていいぞ。それじゃ、コトハ」



レムが背中を向けて、ドアの向こうに――



「――ぁ、レム!」

「ん? どうかしたか、コトハ?」

「……あ、ううん。ごめんなさい、何でもない」

「……ま、今は少し落ち着く事をお勧めするぞ。色々と考える事もあるだろうけど、先ずはゆっくりと気を休めてくれ」

「うん、分かった」

「んじゃ、今度こそ。用事があればすぐに呼んでくれていいかなら?」

「うん」



そうしてレムが部屋を出ていくのが名残惜しくて最後まで見送って――。











「………………」


多分、レムの言うとおり気が高ぶっていたせいだと思います、全部。うん、全部一時の気の迷いってヤツなんだ。

だから――あのレムが凄く頼り甲斐があったり格好良く見えたりなんてそんな事、間違いなく気のせいの…………はず。


きっとコトハさんが見た格好良いレム君とやらは夢か幻か何かでしょう。


キスケとコトハの一問一答

「甘いモノは別腹だ!」

「はい師匠、甘いモノは別腹ですっ……て、すっっっっごく似合わないセリフですね、師匠」


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