ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。

前回は少し、鬱でした。

スィリィ・・・氷系の魔法が得意なちょっぴり普通の女の子。
ファイ・・・ギャグ要員…では決してない。レム君の奴隷。
【スィリィ・エレファン編】
ACT XX. スィリィ-11

「ん〜」


「旦那様、何をなさっておられるのですか?」


「まあ、面白い事?」


「つまりは酷い事であるという訳ですね?」


「なんでそうなるっ、何で!? ……いや、まあもしかしたらちょっとは可哀想かなぁ、と思わなくもない事なんだけどな。このままじゃ確実に身体の方が耐えられなさそうなんで、やむなくって感じか?」


「それは……今アルゼルイで生じている“灼眼の因果”に関わる事でございますか?」


「ああ、そう」


「……と、なるとアルゼルイ滞在の方々から考えますに旦那様がちょっかいを出そうとなさっておられるのはファイ様か、スィリィ様ですね?」


「おう。ちなみにファイの方な。何か灼眼の“因果の意図”にやられてるっぽいんだよな、あいつ。……しかし見くびっていたというか、下手すると“刻印”を自力で破りかねないほどだぞ?」


「……ファイ様のお力はそこまで強かったのですか?」


「ああ、あくまで潜在魔力だけだけどな。俺も吃驚してるよ」


「それで、旦那様は何をなさろうとしているのでしょうか?」


「ん〜、まぁ、こういう事っ、と。準備完了。ではいきますか――対象、ファイ“リミッタ”完全解除認証、『児よ、燃ゆるは母なる包容』」


「……完全解除、でございますか」


「ん、何か問題でもあったか?」


「問題と言いましょうか、ファイ様ではその力は完全に制御できないのではないかと思われますが?」


「ああ、だからいいんだよ。暴走を超える暴走――フォールダウンの状態だからこそ完全に“因果の意図”の影響も排除できる。それにファイはああいう性格だからな、周りの被害とかも心配ないだろ。あるとすれば自爆くらいか?」


「確かに。そしてそれで“因果の意図”は排除できるでしょうが……」


「何だ、何か言いたい事があるのか?」


「いえ、何も。……――しかしそこまで心配されておられるのでしたら、ご自身で御助力なさればよろしいですのに」


「うっせ」



天上の会話は遥か彼方、知る余地もない。





◇◇◇





「し、死ぬかと思いました」


生きて、ぴんぴんしてる事が既に吃驚よ。


「ほぅ、これは珍しい。三柱の加護を受けた訳でもなく、かといって【厄災】に堕ちているわけでもない。それがこれほどの力を持っているとは、お前、何者だ?」


……おや? なにか、 “私”の雰囲気がさっきまでとまるで違っていた。毒々しいもの、憎しみが抜け落ちたというか、目の前の彼女に毒されたというか。

いえ、よく考えればあんなもの見せられたら誰だって気が削がれるわよね。

私もミリアレム先生やハインケル先生、あの赤い糸に止めは自分の身体を私じゃない“私”が動かしているなんて異常事態だったはずなのに、どこか気が抜けてしまった。

何と言うか、別にそれほど深刻な事態でもないんじゃない?みたいな感じ。

一度そう思うと不思議なもので、”私”が動かす身体もさほど違和感なく思えている。“私”を乗っ取られる、だなんて怯えも同時に失せてしまった。


対するファイはようやく私の事に気がついたみたいで、不思議そうに首をかしげた。


「……はい? って、確かスィリィ様? ……あれ、でも何か少し違う気もしますし……あれれ??」


「スィリィ……スィリィ・エレファンか。この器の名だったな」


「もしかしてスィリィ様の御親戚か何かでしょうか?」


「いや、違う。しかし中々、能力だけでなく本質を見分ける眼も持つか。ヒトの子としては上出来な部類だな、お前」


「あ、はい。お褒めいただきありがとうございます? ……で、いいのでしょうか、この場合」


「うむ、態度も悪くない。気に入ったぞ」


「はぁ、それは、ありがとう……ございます?」


「どれ、ちこう寄って来い、お前なら許す」


「え、て、ちょ、あわわっ、駄目です今私に近づかないでくださ、ぅひゃぁっ?!」


唐突に、ファイの身体から炎が迸る。

“私”は何ら慌てる事なく、片手をかざしただけでそれを軽く防いでいた。


「ふむ、己の力の制御はまだまだ、と言うわけか」


改めて落ち着いた今なら解かる。私じゃない“私”はこの程度の攻撃じゃびくともしない。ファイの攻撃? に対して焦る必要も、ましてや怒る必要もない。

それくらいの実力が“私”にはあった。……正直、今だに現状が理解できないところではあるけど、私には“私”が私を傷つける事は決してないと何故だか信じられた。


「あわわっ」


だから、全然怖くない。


凍えるような青い世界にただ一人いたとしても。


燃えるような赤い世界にどうしようもない憎しみを抱いたとしても。


私は大丈夫。不思議と力が湧いていた。


「あわわわわわっ」


……少なくとも目の前で面白いほど慌てるファイの姿に微笑むくらいの余裕はあった。


「ふぇ、ふぇ……ひょっ――、……!!!!」


奇妙な声を挙げてファイが動きを止める。いつの間にか片足立ち、左右の手を頭の上と下に翳して奇妙なポーズで、だったけど。


――閃光。

ファイの目、口、耳、それこそ全身からあふれ出した光に辺り一面が赤い世界に包まれる。


でも私は識っている。この光は私を傷つけるものなんかじゃない。つい少し前までは憎いとしか思っていなかったはずの赤一面の世界。でも目の前のこんな、本物の『神様のお使い人』ですらも一発で和ませてしまうような子が他人を傷つけるなんてこと、できるはずがない――!

あまりの眩しさに、目は閉じたけど。



「ふ、ふはぁ?」



光が晴れて、そこに居たのは頭から紫色の煙をもくもくと噴出させながら呆けているファイの姿だった。


「ぷっ、あはははははっ」


「……ふぇ? スィリ、様? あれ、先ほどのお方は……、あれれ??」


「うん、いい。すごくいい。これって一種の才能? きっと貴女ってヒトを和ませる天才よ?」


ちなみにこの時、ファイが実は無自覚にヒトを毒殺できる天災であるという事は当然、知らなかった。私がそれを知るのは実際に体験した時だったりもする。


「スィ、スィリィ様、ご無事で良かった……て、あれ、身体、ちか……ら???」


「ああ、あまり無理はしない方がいいわ。あれほどバカみたいな魔力を放出したんだから。むしろこうして意識を保っていられる事自体が驚きよ」


「は、はぁ……?」


「でも貴女、凄いわね。見なさいよ、この辺り一面、実にきれいに片付いちゃってるじゃない?」


「ふぇ? ……あ、あああああ、わた、わた、私は取り返しのつかない事を、これはどうして償えば……あああああ」


辺り一面は、磨き上げられた鏡みたいになっていた。建物は唯一つとして立っていない。…これの半分くらいの責任は私にもありそうな気がするけど、気にしない事にしよう。人生前向きが一番だから。


「まあ、慌てる事はないんじゃない? ここまでになれば自白しなければばれたりなんてしないわよ」


「で、ですがですねスィリィ様、こういうものは誠意と言ったヒトの心が大切なのですよっ!?」


「云いたい事は分からないでもないけどね。でもね、これ、弁償とかできると思う?」


「うわああああああああん」


……やばい。なんだか面白いわ。

まず反応が面白い。必要以上にオーバーリアクションとかじゃないけど、時折涙目で耐えてみたりころっと一転して真剣に悩んじゃったりしてるのがかなりツボに入った気がする。

それになんだかスれたところがないって言うか、こんな純粋そうな子、いったいどうやったら育つのかしら?

何だか“刻印”の事以外にも彼女に興味が湧いてきた気がする。


「……とっ、ところでスィリィ様、スィリィ様はスィリィ様で合ってますよ、ね?」


「何バカな事を言ってるの? そんなの決まってるじゃ――……」


そこで、ようやく気がついた。

今、私が喋ってる? 動いてる? 自分で身体を動かしてる?


片手を握ったり閉じたりしてみる。……うん、ちゃんと私が動かしてる。

今度はちょっとジャンプを繰り返してみたり……大丈夫みたいだ。


「あーあーあー」


声もちゃんと、私の言葉が出てる。


「すぃ、スィリィ様……?」


「うん、そうだ。私はスィリィ・エレファン。カトゥメ聖国出身で、只今アルゼルイ教育機関に留学中、魔法科専攻の女の子……うん、確かに私だわ」


若干ファイが引いた様子なのを見て、ようやく我に返った。

……って、今のじゃ私、凄く危ない人みたいだったじゃない!?


うわぁぁ


恥ずかしくて頭を抱えたくなった。……でも我慢する。



ふと、あたりを見渡すと赤い糸がまるで様子を窺うようにして周りに漂っているのが見えた。でも私の覚えているみたいに、私たちに絡みついてこようとはしない。あくまで周りを漂っているだけ。

……そう言えば、私の身体にも数本絡みついていた気がしたけど……少なくとも今は何も身体には絡みついたりはしていない。


――いったい何なのだろう、この赤い糸は?


不思議な事はまだある。

私じゃない“私”、でもあれも確かに私なんだって、確かに言える。

結局どうして“私”が出てきたのか、私に戻ったのか、全く分からない事だらけだけど、悪い事……ではなかった気がする。


「っ――そう言えば!」


ミリアレム先生とハインケル先生は!?

あの時ハインケル先生に吹き飛ばされたミリアレム先生と、“私”が殺しかけたハインケル先生。周りを見回して……でも二人の姿はどこにもなかった。

冗談で済む話じゃない。威力の程は磨きに磨かれたこの足元を見れば分かるのだし。まさか、さっきの閃光で吹き飛ん……


「スィリィ様?」


「……そんな」


私は後ろからの声にこたえる事もできず、呆然と立ち尽くすしかなかった。









「……面白い。絡みついた意図が二つも破壊された。一つは『冰頂』、もう一つは……誰かな? ただのヒトの子?」


赤い長髪を揺らして、彼女は真っ赤に染まった世界を悠然と歩くいていく。


「もう用事は済んだからいいけれど。『冰頂』も……顕現はしたけど一時的だったようだな。それとも器に追い出された、か? どちらでも構わないか」


意図に絡まり包まれた赤い世界を、目的の場所へとただ真っ直ぐに目指していく。


「っ、駄目だな。私は『冰頂』みたいに追い出されたりはしない。そして『燎原』の願いを叶える。私のただ一つの願い――彼女には笑っていてほしいから」


悠然と進む。その歩みを邪魔する者は誰もいない。


「『冰頂』に強い力のヒトの子が大勢、それに直接捕まえられはしなかったけどコレは……あぁ、確かルーロンのトモダチの、確かスィーカットと言った悪魔、だったか。今回は豊作だ。あぁ、力はある、溢れるほどに。これほどならきっと……――神様の奇跡だって起こす事ができる」


何だか最近置いてけぼりっぽいので改めて宣誓をしておきます。

主役はレム君です!

…と、言うわけで前回は気分が鬱だったので短かったです。済みません。……いや、一日ちょこっと読むと考えるともう少し短くまとめるべきなのか??
ま、いいや。

スィリィ嬢、復活です!…少しだけ復活の仕方が変わってる気がしないでもないですが。
まだまだ、エース級の出番はこの先なのですよ……とか言いつつ果たしてどうなる事やら。意外とぽつんと終わりそうな気配も無きにしも非ず?


スィリィ嬢、呆然中
ファイさん、分かってない人
ミリアレム先生、憤慨中
ラライさん、黄昏中
レム君、お昼寝中
メイドさん、こそっとイタズラ中?


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。