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【スィリィ・エレファン編】
ACT XX. スィリィ-4
「で、だ。新しく一緒に学ぶ事になった魔法科専攻のスィリィ・エレファン嬢だ。みんなも仲良くするように」


『はーい』


「……」


な、なんなのよ、これはいったい。


レム・スタンピートと名乗った男の人に連れてきてもらった『烙印解析学』を行っている部屋の中。

講壇の前に立たされた私を迎え入れたのはレム・スタンピートの遊戯のような私の紹介と、必要以上に息の揃った隷属科の人たちの返事だった。

呆れて声が出せない、とはまさにこの事。


隷属科ってこんなノリのところだったのね…。


「よかったな、スィリィ。人気者だぞ?」


「ちょ、馴れ馴れしく名前で……と、言うよりもこれって何か違わないですか?」


「ん、何がだ?」


「…分からないならいい、です。――スィリィ・エレファンよ。よろしくお願いするわ」


『はーい』


「……」


もういいや。


「よし、紹介も終わったところで講義を始めるぞ。…スィリィは適当な場所に座ってくれ」


「はい」


そうよ、私は講義を聞きに来たんだから。

周りの雰囲気とか、スタンピート先生の性格とかは関係ないじゃない。


手頃な席に座ると隣にいた子が話しかけてきて、


「よ、よろしくお願いします、スィリィ様」


「ええ、よろしく頼むわ。……でも、」


「はい?」


スィリィ、様、ね。


「ぁ、あの、私何か気に障る事でも…」


「いいえ、なんでもないから気にしないで」


「は、はい、分かりました」


そして講義が始まった。




「よし、じゃあ今日から新しく人が増えたって事で昨日のおさらいを軽くいってみようか。そうだな、では“隷属の烙印”とは何であるか。…ファイ、答えてみろ」


「は、はい!!!!」


がた、と音を鳴らして立ち上がったのは私の隣に座っていた女の子だった。

目に見えて緊張しすぎてるけど、大丈夫なのかしら、この子?


「れ、“隷属の刻印”とはソレを刻まれたものを奴隷にして、生殺与奪権も剥奪される印の事を言います!」


っ!?


「そうだ。“隷属の烙印”とは主に絶対服従の、俗に言われる奴隷に堕ちるものだと言われている。そして隷属科の生徒たちは基本的に“隷属の烙印”を身体に刻まれている」


この子…ファイ、って言ったわよね。

“隷属の刻印”…この子が言った言葉、隷属の“印”の事を“刻印”と呼んだのはこの子が二人目――顔も覚えていないあのおかしな魔法使い以外じゃ初めての事になる。


私に”印”を刻みこんだ張本人、そしてこのファイと言う子は“隷属の烙印”を刻まれた、奴隷。

これは、偶然なの?それとも――


「だが“隷属の烙印”には明らかに奴隷化には必要のない機能が付いている。ここが…まあ、この講義みたいな『烙印解析学』が出来た由来のようなものだ。じゃあその“隷属の烙印”についている余計な機能ってのはなんだ、……セトア、答えてみろ」


「はい。それは奴隷の階級――“リミッタ”機能の事です」


「そうだ。“リミッタ”、戦闘用奴隷なんてものが存在する由来でもある。他にも色々とあったりするんだが、まあこれが一番大きなものだな。それじゃ、“リミッタ”ってのは何か、スィリィ、答えてみろ」


「ぇ?」


「え、じゃない。この程度は一般常識だろ?ほら、答えてみろ」


っと、私が当たったのね。


「ぇっと…“リミッタ”って言うのは奴隷の身体機能および魔力を制限、またはオーバードライブさせる為のものです」


「そうだ。でもオーバードライブは例外として、主人に対して既に絶対服従なはずの奴隷の身体能力を下げる意味は何か、それは分かるか?」


「ぁ、と。…もしもの時の為の予備対策?」


「ハズレ。奴隷たちの絶対服従に『もしも』なんて事は基本的に存在しない。だから主人の許可なく主人を害する事は奴隷にはまず無理だ。保険なんて初めから必要ない。…と、まあこの理由は世間一般には知られてないな。こんな、一見無駄に見える機能の意味を解き明かしていくって言ういのが『烙印解析学』って訳だ。昨日はここまでを話したはずだな?」


『はーい』


「よしよし。じゃあ今日は次の段階に行くぞ。“隷属の烙印”について現在分かっている事は何か、それを話していこう」


曰く、“隷属の烙印”は人族――正確には小人族らしい――のみに効果があり、他のエルフやシルフ、ウィンディーなどがよく知られている妖精族には効かないと言う事。…だが最近は“隷属の烙印”の亜種が出回り妖精族に『被害』が出てきているらしい。


曰く、“隷属の烙印”は誰が作ったのか不明である。一説ではこのシステムを組み立てたのは本物の神か悪魔だとも言われている。


曰く、“隷属の烙印”とは世間では差別の象徴であるが、魔法の観点から見れば一種の芸術的な作りとなっていること。


曰く、これだけの知名度と普及率であるにも関わらず、“隷属の烙印”がどんな効力を持った“印”であるのかは九割以上が解っていないと言う事。


「つまり、だ」


以上を一通り話したスタンピート先生が手にした教材を閉じて、溜息を一つついた。


「“隷属の烙印”について明確に分かっているのはたった一つ――“隷属の烙印”を刻まれた者は生殺与奪権すら奪われて主に従順せざるを得なくなる、これだけって事だ」


実に分かりやすい一言だった。


と、言うよりも最後の一言が理解できれば途中の説明は必要なかったんじゃない?


「まあもっとも、これだけ分かっていれば十分って輩が大半だけどな」


そしてその通り。それだけ分かっていれば今の奴隷制度は十分すぎるほどに機能するのだから。


「で、それだけじゃ足りない。まだ何か有効な機能はないかって事で解明が進められはじめて、烙印解析学なんてものが出来た。ただ、さっき言ったように解析学なんて立派なん名前が付いてる割には何も判ってないわけだ。それこそこんな講義なんてしても意味ないくらいにな」


「スタンピート先生、ならこの講義の意味は何ですか?それにどんな事を教えてくれるつもりなんですか?」


「ああ、いい質問だな、スィリィ。確かに正確に解明できている事柄はないと言っていい。だからこの場合は大抵が話半分、俺が知っている――“烙印”システムがどういうものかって言う推測みたいなものを話していこうと思う」


「…随分とあやふやなんですね」


「それを言われると返答のしようがないけどな。まあせっかくの隷属科以外の生徒なんだ。“隷属の烙印”に興味があるなら話半分でもいいから聞いていってくれ。きっと面白いぞ?」


「……」


まあ、確かにスタンピート先生みたいな講師――講師?の話は聞くに値するものだと思う、いや思いたい。

…取り敢えずは今日の講義内容を聞いてみてからって事か。


「と、言うわけでズバリ“隷属の烙印”とは何かを考えてみる事にしよう。…ちなみにこれが今日の課題のつもりだが、誰か言ってみるやつはいないか?」


『………』


「まあ、名乗り出るような殊勝な奴はいないだろうから俺から当てる事にしよう。アーシャ、取り敢えずなんでもいいから言ってみろ」


「ふぇ!?は、はいっ、わたしですか?」


「そう。と、言うわけでアンサー、ズバリ“隷属の烙印”とは何だと思う?」


「えと、えと、その……クサリ、ですか」


「クサリ?…鎖、ねぇ。なるほど、それもある意味正解だな。よし、もういいぞ、アーシャ」


「は、はい」


「じゃあファイ、言ってみろ」


「はいっ!!その、御主人様との絆です!!」


「……あー、悪かった。つかお前に聞いた俺が悪かった。座っていいぞ」


「は、はい…」


「…ん〜、それじゃスィリィ、この中で唯一隷属科の生徒じゃないおまえはどういう見解だ?」


「あ、はい」


“隷属の烙印”――それが私にとってどんな意味があるのかを改めて考えてみると、よく分からないと言うのが正直なところだった。

他の人の言葉を聞いていても何かしっくりこない。と、言うよりも“隷属の烙印”って言うのは。


――私、個人の見解ならば


ぎゅ、っと手袋に包まれた両手を握りしめる。

その下に隠した、印。


「……いのち」


その言葉は自然と出ていた。


「ヒトが生きてるって、証」


「……ほぅ、中々面白い見解だな、それは」


スタンピート先生の声が耳に入って、瞬間、私は我に返った。

って言うより、私いまなんて言ったの!?


「〜〜〜っ」


すっごく、恥ずかしい事を言った気がするっ。


「それじゃ、俺の見解を一つ。“隷属の烙印”って言うのはある種の檻であり、鎖であり、枷であり、……そして希望でもある。そもそも“隷属の烙印”の『隷属システム』ってのは“印”の一割にも満たない部分から成ってるんだ。そんなものが本質であるはずがない。それに絶対服従も“リミッタ”と組み合わせて考えると別の取り方が出来る。つまり――」


まるで勿体ぶるようにスタンピート先生は一旦言葉を切って、


私を見た…気がした。思いきり恥ずかしがってたから気の所為かもしれないけど。


「――?」


その目、何かを訴えかけてくるような、瞳。私は、このヒトを、見た事が、ある…?


「“隷属の刻印”とは、即ち“殻”だ」




◇◆◇




「旦那様も人が悪い」


「何の事だ?」


「分かっていらっしゃって尚、私にそれを訊ねますか?」


「ああ、聞くね。言ってくれなきゃ分からない、もしかしたら俺の勘違いかもしれないしな」


「御冗談を。スィリィ・エレファン様の事です。旦那様の講義がヒトコマ目、私の講義がフタコマ目でした。昨日とはうって変わったスィリィ様のあの呆け様、それに彼女が着けている手袋の下の“モノ”を考えれば簡単に想像がつきます」


「おぉ、そりゃついてない。まさかお前が俺の次の講義だったとはな」


「十分に理解していたでしょうに。それで、旦那様はスィリィ様に何を仰ったのですか?…まさか、茂みに連れ込んで力づくで」


「ないない。つかお前の中の俺はどこまで非道なんだ」


「逞しいです」


「…俺も色々な意味でお前の想像力は逞しいと思うぞ」


「女性は逞しいと言われても嬉しくないものなのです」


「あ、そ。…それとな、俺は別に大した事は言っちゃいないぞ。ちょっとばかし、『ヒント』をくれてやっただけだ」


「ヒント、ですか?」


「そ。本人、結構“刻印”の事について知りたがってたみたいだったし、ついでにあんな辺鄙なところで会ったのも何かの縁つー事で、ちょこっとな」


「それで、旦那様はどのような事を御教えになられたのですか?」


「なに、大した事じゃない。“隷属の刻印”とはすなわち――」


「「自身すら扱いきれぬ力を御する外殻である」」


「――本当に、旦那様は人がお悪い」


「何だ、そりゃ?」


それが遥か天上での――、私には未だ手の届かない、会話。


メイドさんはおあずけっ

…と、言う事でスィリィ嬢のお話です。
何やら隷属科の人たちの名前が出てきてますが覚えなくて結構です。今回限りの人達ですから(汗)
あ、でもファイさんは出ますよ?……と、言うかこんな場所にいました。

続く…?


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