「おや、旦那様。爪が少々伸びておいでですね。私が切りましょうか?」
「ん?あぁ、ホントだ。ちょっと長いな。そうだな、頼もうか」
「はい、では失礼させていただきます…」
「用意いいなぁ」
「いえ、そのような事は。旦那様、右手を…」
「おう」
「……」
「……」
「…しっかし毎度の事だけど心なし楽しそうだよな。たかが爪を切る事の何が楽しいんだ?」
「何が、と申されましても。言葉に表すのは少々難しいのですが…」
「ああ、まあ、俺としてもお前が楽しんでるならそれでいいんだけどな」
「はい。……旦那様、次は左手をお願いします」
「ん」
「では失礼して…」
「……」
「……」
「おぉ、切れてる切れてる。しかしアレだね、こうしてるとどっちが偉いのかって言うのがはっきりするよな」
「…旦那様、そうご自分を卑下なされずとも宜しいのでは?」
「ぇ、それどういう意味ですか!?」
「言葉通りの意味でございます。…終わりました」
「ん、ありがとな。で、だ。俺としてはさっきの言葉で一切自分を卑下したつもりはなかったわけだが?」
「ですが旦那様はどちらが偉いのかがはっきりと分かると仰られました」
「一目瞭然ですよね!?ご主人さまと傅くメイドさんって感じでさっ」
「そうとも取れますね?」
「まるで事実とは違うような物言い!!」
「いえ、そうは申しはしませんが」
「いや!俺旦那様でっ、お前メイドさん!!」
「忘れがちな驚愕新事実でございますね?」
「…いや、まぁ、確かにその通りではあるのだが。何か釈然としないのは何故だろう?」
「それは旦那様のどこまで行っても所詮は旦那様以上でも以下でも未満でもないという動かし切れない事実から来ているものですね。そろそろお認めになられては?」
「な、なにを…?」
「旦那様は旦那様以外の何物でも、何の価値もないと」
「俺はそんなに無価値ですか?」
「いえ、そのような事を申しているつもりは毛頭御座いませんが。旦那様は私の旦那様である事がご不満で?……それならば、再考の余地がございますが」
「ゃ、そんな今にも泣き出しそうな顔はしなくていいからさ」
「泣いてなどおりません」
「確かに、泣いてないけどな。…まぁこのあたりの追及は止めておいてやるよ」
「泣いてなどおりません」
「だからそれは分かったってば。蒸し返すなよ」
「…旦那様が調子に乗られております。如何したものでございましょう」
「……どうもしなくていいから」
「そうなのですか?」
「ここで俺に聞き返すお前の心理は……ああ、もういいや。それよりちょっとこっち来い」
「旦那様?」
「いいから。こっちに来い」
「はい、来いと言われれば向かいますが。旦那様、いったい何を…?」
「手、出せよ。俺も爪切ってやるよ」
「――」
「…?おーい、聞こえてるか?」
「…………えぇ、聞こえております。では……よろしくお願い致しします」
「ん。っと、相変わらず指先とか、肌奇麗だよな、お前」
「そんな、ぃぇ、…」
「何かいつもと違うな。……ははぁ、お前、照れてるな?」
「はい。旦那様に間近で、手を取られでもすれば照れるのは当然でございましょう?…私はそこまでスレてはおりません」
「むくれるなって。はーい、それじゃ、切りますよー?」
「…どうぞ、旦那様」
「応」
本日の一口メモ〜
何の変哲もない日常の一コマです。平和です。
決して一部で罵られてるとか酷い事言われてるとか、既にさらりとそれを流している旦那様は悟りの境地にあるとか、そんな事を思ってはいけません。…いけないのです?
3
旦那様の今日の格言
「戦士にも休息が必要…てな」
メイドさんの今日の戯言
「…旦那様、お上手でした」
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