「まちだまちだまちだまちだまちだまちだまちだまちだ」
「……むぅ」
「まちだまちだまちだまちだまちだまちだまちだまちだ」
「……ところで旦那様、先ほどから何を呟いておられるのでしょうか?」
「意味は無い。ただの独り言だ」
「左様で御座いますか」
「ああ。……まちだまちだまちだまちだまちだまちだまちだまちだ」
「ところで『まちだ』とはどのような意味なのですか?」
「だから意味は無い。……まちだまちだまちだまちだまちだ」
「左様で御座いますか。ところで旦那様は何故そのような独り言を呟いておられるのですか?」
「意味は無い。あと気分だ」
「左様で御座いますか。まあ旦那様のいつもの行動と思えばさしたる不思議は御座いませんが」
「まちだまちだまちだまちだっ!! ……ふぅ、今日もいい汗かいたぜっ」
「人生お疲れ様で御座いました、いえ言い間違えました。本日もお勤めご苦労様で御座いました、旦那様」
「おうっ」
「なあ、ところで『まちだ』って何だ?」
「存じ上げません。旦那様がご存知なのではないのですか?」
「ふっ、俺が思うに『まちだ』ってのはアレだ」
「アレですか」
「ああ。きっとアレだ、どこかで俺のことを待ってる女の子の名前」
「マチダ様ですか?」
「そう。まだ見ぬ美少女マチダちゃん」
「まだ見知らぬうちに旦那様から呪いの怨念を贈られて、そのマチダ様とやらもお可哀想に」
「呪いとか贈ってないから。せめて情熱と言え、情愛と」
「先ほどあのように『まちだ』を繰り返し呟いているお姿は何歩譲っても怪しさ満点で御座いました」
「ふっ、照れるな」
「存分に照れてくださいませ、旦那様」
「……お願いだからそこはツッコミを下さい」
「なんでーねん?」
「……もういい。お前には何も期待しない」
「そうですね。それが宜しいかと」
「ああ。そうする」
「ところで旦那様、今一度お尋ねするのですが」
「うん?」
「先ほどの独り言つまりただの不気味な馬鹿丸出しの所業はいつもの発作と言うことで宜しいのですね?」
「ああ、うん。ただの思いつき。意味は全く無いです」
「はい、旦那様。ではご報告いたします」
「報告……?」
「今の旦那様のお姿を見て引かれた方が十三名、いつものことだと素通りした方が五十五名、旦那様の微笑ましいお姿に笑みを浮かべた方が三百五十二名で御座います」
「何それ!? と言うか、ちょっと多すぎないか、その人数は」
「旦那様が何かの儀式のように呟いている間に総勢420名が通り過ぎました」
「多っ!?」
「そうですか? 旦那様がお気づきにならないだけでいつもこの程度だと存じ上げておりますが」
「……そうなのか?」
「はい」
「そうなのか。……あいつらって結構暇もてあましてるのな。もう少し仕事を振ってやった方が良いのか?」
「いえ、皆様方、旦那様ほどに暇を持て余しているというわけでは御座いません」
「いや、持て余してるだろ、暇。そうじゃなかったら何で俺が呟いてる間に420人もこの廊下を通過してんだよ?」
「強いてあげるならばこの私の姿を見るためで御座います」
「自慢かっ!? 自分の自慢をしたいだけなのかっ!?」
「いえ、そういうわけでは御座いませんが。あと“ついで”に旦那様のお姿を拝見するためで御座いましょう」
「ついでだなっ、本当に随分と、あくまで俺はついであつかいなのな!?」
「まあ“ついで”と申し上げましても様々な意味合いを含んでいることも御座いますが」
「いいよ、いいよ、どうせ俺なんかよりお前の方が奴隷たちから人気がありますよぅ、だ」
「奴隷ではなく“隷属の刻印”を刻まれた方々、と。それにそんなことは御座いませんよ。旦那様は十分に人気者で御座います」
「気遣い無用ッ!」
「私が旦那様に対して気づかない度無用なことをするはずが御座いません」
「それもそうか」
「はい」
「……む? と言うことは俺の人気はそれなりにあると?」
「そう申し上げておりますが?」
「――クハッ、実は俺、モテモテ?」
「脳にうじがわいておりますよ、旦那様」
「……いいよいいよ、別にどうせ、俺なんて……」
「……――けれどしかし、“否定”はいたしませんが」
「ん? 今お前、何言った?」
「いいえ。旦那様のお耳に入れるほどの事では御座いません。どうかお気になさらぬよう」
「あ、ああ。そうか?」
「はい」
「……ふぅ。しかしアレだけ呟いてたら何だか喉渇いたな」
「では旦那様、お飲み物を持ってまいります」
「ああ、頼むわ」
「はい。では旦那様、少々失礼させていただきます」
「頼んだぞ」
「はい」
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