こんにちはセカイ(6/8)縦書き表示RDF


こんにちはセカイ
作:青銅



第二話 『イントロダクト・オービス』Aパート後


「これは……」ミレッタは、側に置いてある黒い携帯のディスプレイを確認するやいなや、叫んだ。「『組織』からよ! やった!」
 宗は、喜び勇んで携帯を耳に当てるミレッタをぼんやりと見ながら、言葉が自分の中で反響するのを感じていた。
 自分が人を殺した。では誰を? 三日前の夕方。あの時裏通りにいたのは自分と、この娘と、そしてあと一人――、
 違う! 宗は心の中で叫んだ。自分に彼を殺せるはずがない。こっちは二人とも、あれだけ追い詰められていた。自分は心臓を杭でつらぬかれ、ミレッタは腹部をそれが貫通し――、
 待て。宗は、悪寒を覚えた。
『何故自分は生きている?』
 心臓を刺され、それからどうなった?
 いけない。宗は直感的に耳を塞いだ。耳の中にあの少年――ニルの断末魔が木霊してくる。吹き飛ぶ彼の腕。炭酸飲料のように激しく飛び散る彼の血。恐怖にゆがむ彼の顔。全てがリアルに脳裏に浮かんだ。まるで自分で、彼を殺した記憶を反芻しているかのように。
 ――いや嘘だ! 有り得ない! 自分には何の力もない。ミレッタや彼のようなクラッカーとかいう超能力もない。人を、殺せるわけがない。そうだ。
 もう忘れよう。宗は必死で、揺らぐ炎だけを見つめた。思考を白紙に戻すんだ。考えるだけで気が狂いそうになる……!
 そこでミレッタが話しかけてきてくれたのは、宗にとって幸運だった。少しでも自分の思考を外に向けてくれるものが欲しかったからだ。
「決まったわよ……」たった今携帯で、電話の向こうの相手――おそらく組織のメンバーか何かだろう、その人と話し終わったミレッタが呟いた。
 なぜか電話を受け取ったときはあれほど喜んでいた顔が、失墜に呑まれ絶望に打ちひしがれた表情と変わっている。
「どうしたの」宗は意識を会話に向けようと試みた。
「どうもこうも無いわ……。任務変更よ。アークの奴、司令になったからって調子に乗りやがって……!」ミレッタはうなだれて言う。「今からすぐ、あんたの家に行くわよ」
「は?」宗はまさしく鳩が豆鉄砲をくらった、と形容すべき表情を浮かべた。
「VC移動を使うわ。あんたも服着なさい。もう乾いてるでしょ」ミレッタは炎を消し、自分の服を着ながら言う。
 何を言っても無駄だろうな。そう思った宗は、おとなしく服を着た。VCうんぬんが何か、は知らないがどうせまた巻き込まれるんだ。やれやれ。
「準備良いわね? じゃ、行くわよ」そう言うと、ミレッタはいきなり宗の手を握る。
 女子から自発的に、『手を握る』などという行為をされたことが宗には無かった。手のひらに広がる暖かい感触。もう少しこの感覚を楽しみたい。宗は自然に思った。
 ――だが、現実は厳しい。ミレッタが凄い早口で、何かを呟いているのに宗は気付かなかった。ミレッタは全て言い終えると、一言だけ呟く。
「C.L.G.W.M.、Ready」
 その言葉に宗が気づいた時には、すでに遅かった。
 歪む視界。
 突如、体が引き延ばされるような感覚を覚えた。痛い。平衡感覚を感じられない。まるで、巨大な箱の中に入れられ外から揺さぶられているかのようだ。しかも風が乱暴に吹き付けてくる。宗は目を閉じずにはいられなかった。一体何がどうなって――、
 と、次の瞬間体が地面に叩きつけられた。一瞬呼吸が出来なくなるくらいの衝撃だ。と同時に、全てが歪むような変な感覚も消えた。
「久しぶりに成功。上出来ね」ミレッタが満足げに言うのが聞こえる。
 宗はゆっくりと目を開けた。

 ああ、なるほど。宗はそれだけ思った。正直ここまで度肝を抜かれ続けているため、もう度肝を抜く余地がないのだ。人間の環境適応能力は相当なものだと何かで聞いたことがある。
「やれやれ」
 VC移動。それは瞬間移動だったらしい。
 二人は平然と山奥の雑木林から、宗の住むアパートの前へと瞬間移動したわけだ。実に非現実的。
 得意げに胸を張るミレッタを横目に、宗はまた呟いた。
「やれやれ……」












ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう