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生き物がかり
作:並盛りライス


暗闇の中に一筋の光が差した。それは、形を変え、濃淡をかえて頭上に降り注ぐ。
少し汚れた体操マットは、カビ臭く。いろいろな球技に使うボールが乱雑に収納されている。

コンクリートでできたその密室は、完全に中の声を消す。

光がまるで生きているようだ。

そう感じているのは、おそらく僕だけではないはずだ。

放課後の校舎はもの悲しく、どこか哀愁を漂わしている。

一方、グランドでは遊び足りない子ども達が影を追い掛けている。

僕は、給食の白いご飯とほうれん草のオヒタシを混ぜて作ったおにぎりを二つ皿に置いた。

そいつは、一度僕の顔を見ると、息もできないくらい早くおにぎりを平らげた。食うというよりも喰らうと云った方が適切かもしれない。

そして、同じように給食の牛乳も一滴残らず飲み干した。



満足していないのか、ソイツは僕を見た。

ソイツというのは僕がつけた名前で、
「ソイツ」
と呼ぶと僕の事を見る。

僕はポケットから、シワシワになったビスケットの箱を取り出すと、その中の一枚をソイツに投げた。

投げたといっても、捕りやすいように軽くだ。
最初に、ソイツに出会ったのは夕暮れの公園だった。
すごく嫌な臭いがしたし、近付きたくなかったけど勇気を出してビスケットを差し出した。

不思議と怖いという感覚はなくて、だだ嫌だった。


僕は鍵っ子だったので、家に帰っても八時かそれよりも遅くしか父さんと母さんは帰ってこなかった。

だから、僕は何度か公園でソイツにビスケットをやった。そのうち、嫌だという気持ちも薄れた。


何をやっても喜ぶが、やはりビスケットが好きみたいだ。

そのうち、ソイツの存在が近所の人間に知られるようになった。

最初に僕が思ったように、みんなソイツの事を嫌だと思った。
ある日先生が言った。

今日、近所の人と役場の人がソイツを公園から追い出すらしい。

毎日会っているから、ソイツが危なくないって知ってるのに、大人達は危険だと言った。
僕は三時間目にお腹が痛いといって授業を抜け出し、公園に行った。

するとそこにはもう、人だかりが出来ていた。


僕はソイツを探した。役場の人はまだ来ていないらしく、居るのは野次馬だけだ。

公園にはもう、いないと判断した僕はソイツが居そうな所をいろいろと探した。
以前、ソイツは僕以外の人が近付くと体を縮めて嫌がった。自分から人間がたくさんいる所に近付くとは思えなかった。

ソイツは神社に居た。
公園に居るのが辛かったから同じようにに静かな神社に隠れていたのだ。

此処も、よくソイツが居る場所なので見付かるのは時間の問題だと思った。

僕は、できるだけ人の居ない道を通って、まず自分の家の庭にソイツを隠した。
ソイツも、状況があまりよくないと分かっていたから素直に着いてきた。

その時には、僕はソイツのことが嫌でなくなっていた。むしろ、僕はソイツが好きだった。

いつも、独りの僕の側に居てくれるいい奴なのだと。
話しても誰も分かってくれないだろう。だから、僕は生き物かがりになることにした。

体育館の誰も使わない倉庫で、ソイツを飼うことに決めたのだ。

夜になると、さすがにソイツを捜そうとする人間はいなかった。

僕とソイツは、学校に忍び込んでその倉庫に行くことにした。

夜の学校は静かで薄気味悪く、一人なら怖くて近付けない。でも、そんな事は考えなかった。


その日から、一日も世話をかかさなかった。僕は、ソイツを飼うことで放課後の時間を過ごした。


グランドからはやがて子供の声が無くなった。

差し込んでいた光はもう見えなくなる。完全な闇の中で、僕は一言も喋らなかった。

完全に闇に溶け込んでしまったみたいな感覚に陥る。
カチャ。

外からはしっかりと鍵がかけられた。

完全な闇の中で、僕は一人になった。

けれど、寂しさも悲しさも恐れもなかった。

僕の服も、僕の机も、僕の持っていたランドセルも、僕の家の鍵もソイツが持っていってしまった。

僕は生き物がかりだ。

きっと明日の朝、僕に餌さを運んでくれる新しい生き物がかりは現れないだろう。














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