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スタートだけどダッシュはどうなの

 初期装備の命名まで進めて一応満足した菖蒲は一旦ログアウトして食事や入浴、後片付けを済ませておくことにした。

 「なんか忘れてる気がしてならないけど、なんだったかしら?」

 髪を乾かしながらしばし考え込むが、どうも思い出さない。結局思い出さないままVRマシンに乗り、毛布を羽織って再ログインした。


 さて、「フロンティアプラネット」の本サービスの設定を語っておこう。時代設定は人が宇宙に版図を広げて久しくなった頃。人類だけでなく、遺伝子改造で生まれた改変種や異星人も行きかう、そんな時代。中央星系から遠く離れた辺境に見つかった地球型の惑星と、その周辺星系の開発のためある者は希望に燃え、ある者は過去を振り払って集まる。軌道上のステーションに本拠を置く開発公団が一応の統治を行うが、人手も不足、人材も不足で目の届かないところも多い。プレイヤーは開拓者として、開発者として、傭兵として、あるいは、犯罪者として未開の地を、そして宇宙を駆け巡る。


「うぇ?」

 想定外の状況に変な声が出る。まず、場所がおかしい。開発公団ステーションの市街区がスタート地点のはずで、そこから開発公団の庁舎で開拓者登録をして最初のクエストを受ける流れ、と説明書にあったはずなのに、今アイリスがいるのは、そう、知っている場所に例えれば、ドラマで見た会社の社長室、とか大統領執務室、とか、もっとリアルに見たことがあるところなら学校の学長室にもどこか似た、そんな雰囲気の部屋。窓を背に置かれた重厚なデスクの席についている、というのはいったいどんな状況なのかさっぱり理解が追い付かない。

 「ナニコレ…」

 混乱しつつも何かの手がかりを求めて辺りを見回す。デスクの脇には鉢植えの観葉植物。正面にこれも重厚な両開きのドア。足元はふかふかのカーペット。と、デスクの右端にLEDでも埋め込まれているような青白い光が点滅しているのに気付く。

 「これに触ったら何かある?」

 そろりと手を伸ばし触れてみる。


 沈黙


 間違ったか、と思ったタイミングで正面のドアが開く。そこにいたのは、14~5歳くらいのメイドコスの少女、いや、顔は眼だけ出した仮面のようだし肩やひじ、スカートからのぞく膝は機械的なディティール丸出しで、そちこちから「メカですよー、ロボですよー」と主張しているのがうかがえる。

 「着任歓迎いたします。姫様。」

 優雅なお辞儀と、かけられるあいさつ。

 「ひめさま!?わたし!?」

 「はい。ゾアンロードであられるとうかがっていますので」

 「や、いやいや!そんなのはいいし!」

 「では、お嬢様?」

 「小首傾げられても!」

 「ではどのようにお呼びしましょう?」

 「アイリスでいいから!」

 「ではアイリス様で」

 「…妥協するわ。てか、あなた、だれ?」

 「わたくし、当コロニー【セサミシード】の総督用情報端末、兼お世話係を務めさせていただいております」

 「…はい?」

 「わたくし、当コロニー【セサミシード】の総督用情報端末、兼お世話係を務めさせていただいております」

 「はい!?」

 「わたくし、当コロニー【セサミシード】の総督用情報端末、兼お世話係を務めさせていただいております」

 「はいぃ!?」

 「ところで、アイリス様は服はお召しにならないのですか?」

 「!!!…おぅふ…」

 そう、資産確認の折のあの衝撃で、「装備する」のをさっぱり忘れていたアイリスは、図らずも全裸待機状態であったようだ。

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