偽札
お題は『偽札』です。
あれほど反対していたのに、勇者召喚術が用いられた。
理由はと言えば、イタズラに戦費がかさむのを王が嫌ったため。
一命を賭して、直々に意見を奏上するも、王は笑うばかり。
「何、勇者は確かに強い。だが、わしらに暴力をふるうことも嘘を吐くこともできん。また便利なコマとして使い潰せば良いのじゃ」
王の言い分ももっともだが、それはあまりにも心がなさ過ぎる。
実際、召喚された勇者は召喚主と召喚主が属するものに対して無力だ。
一日中こき使われても食事すら満足に与えられなくても、何もしてこない。
しかし、彼らはその扱いを忘れてはいない。
文句のひとつも言えずとも、ぎらぎらと光る目は雄弁に語っていた。
そんなあるとき、
「魔王軍の戦力を削る策を思い付きました」
勇者のひとりがこんなことを言い出した。
聞いてみると、魔王軍側の偽札を作って流通させ、魔王軍の経済を破壊するのだという。
こんな発想は誰も持っていなかったので、大臣も学者も皆驚いた。
「効果はあるのかね?」
王が訊ねると、
「我々の世界では、経済は偽金との戦いでした。紙幣はもちろん、金貨や銀貨、銅貨ですら多数の偽造が世界中で確認されています」
と堂々と答えた。
「ふむ……まあ、大したカネもかかるまい。大臣! すぐにやってみせよ!」
王は命じ、勇者に下がるよう告げた。
「待ってくれ! 報酬を……日にパン二個でいいから、せめてまともなものを食わせてくれ」
がりがりにやせた勇者の命は、そのまま潰えた。
許可もなく王に話しかけた罪だそうだ。
「ふはは! 面白いように魔王軍の経済が壊れていくそうではないか! 愉快愉快! これも、ワシに下賎のものの意見を取り入れる度量があればこそよ」
私は、財産を整理し、この国を去ることにした。
多額の報酬も提示されたが、そんなものは無価値だときっぱり断った。
理由は二つある。
ひとつは、死にゆく勇者が、壮絶な笑みを遺したこと。
もうひとつは、この国には偽金対策という概念がまだ存在していないことだ。