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乱世を往く!  作者: 新月 乙夜
第二話 モントルム遠征
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第二話 モントルム遠征②

 アルジャークがモントルムに宣戦布告したのは大陸暦一五六三年六月二日のことであった。ケーヒンスブルグに駐在しているモントルム大使を宮廷に呼び出し国交断絶を通達した。モントルム大使は蒼白な顔をしたが何も言わずこれを受け大使館に帰り、魔道具「共鳴の水鏡」を用いてこの報を自国にもたらした。同日、モントルム大使館が閉鎖され、軟禁状態となる。これはモントルムのアルジャーク大使館も同様である。


 余談だが、ここで用いられた魔道具「共鳴の水鏡」は通信用の魔道具である。情報を正確に素早くやり取りすることは、国家戦略上大変重要である。そのため、通信用の魔道具も数多く製作されたが、皆一様に同じ問題を抱えることとなる。つまり通信距離が長くなると魔道具自体が巨大化していくのだ。実用化できる段階になるととても持ち運びのできない大きさになってしまう。なかには家一件分の大きさのものまであったらしい。


 共鳴の水鏡も一部屋分くらいの大きさがあるのだが、使用する魔力の量が比較的少なく、通信の性能が安定しているため、現在大陸中の国家で広く使用されている。(ただし設置コストがなかなかお高いため、一般にはあまり普及していない)


 その共鳴の水鏡でアルジャークとの国交断絶(事実上の宣戦布告)を伝えられたモントルムの廷臣は激震し、口々にかの国を罵った。


「北の餓狼め、それほどまでに南の大地が欲しいのか!」

「野蛮人どもは北の辺境に篭っていればよいのだ」

「六万程度の軍で我々を屈服させられると思ったか。さすがに蛮族は思考が浅はかだな」


 数々の暴言を感情の赴くままに放ちともかく頭を冷却した彼らは、目の前に突きつけられているアルジャーク侵攻という事態に取り組み始めた。まずは同盟国であるオムージュにこのたびのことを伝え、協力して事態にあたることを確認した。戦時召集をかけ、アルジャークに対抗するための兵力を集め始めた。


 一方、レヴィナスは宣戦布告がなされるその三日前に、既に十四万の兵を率いてオムージュとの国境付近にある砦、リガ砦に向けて出立している。リガ砦はもともとオムージュが一二〇年ほど前に立てた砦なのだが、およそ五〇年前にアルジャークがこの砦を攻略して、それ以来アルジャークが使用している。ちなみにリガ砦を落とされたことでオムージュはモントルムとの同盟に踏み切ったのだ。


 これに対しオムージュは既に十二万の軍を組織し、さらにモントルムに援軍を要請している。アルジャークの兵は精強をもって知られている。たとえ同数の戦力をそろえたとしても勝つどころか負けないことも難しい。まして数で劣っているとなれば事態は深刻である。それはモントルムとしても理解している。オムージュが負けてしまえばモントルムなど風前の灯である。是が非でも援軍を送り、勝てなくとも負けないようにしなければならない。が、同時にモントルムとしては、自身に降りかかる火の粉をも払わねばならない。オムージュに送る援軍を集めると同時にダーヴェス砦に兵を集めた。


 ダーヴェス砦に集める兵の内訳はクロノワたちが予想したのとほぼ同じである。王都オルスクから援軍として一万、そして周辺から二万の兵を集める。合計で四万となる。これだけの兵力を集めれば、いかにアルジャークの兵が精強を誇ろうとも六万程度であればダーヴェス砦を死守することは十分可能である。


 もちろんすぐにこれだけの兵を集めることができるわけではない。それなりに時間がかかる。砦には常に一万の兵が駐留しているわけではないが、一両日中には召集が可能だろう。王都からの援軍は歩兵が中心になるため、ダーヴェス砦に着くまでにおそらく八~十日程度かかるであろう。周辺から集まってくる兵が二万人に届くまでにはさらに時間がかかると思われる。とはいえアルジャーク軍も歩兵に足を合わせる以上、ダーヴェス砦まで十五日程度はかかるはずで、それまでには十分に間にあう。間に合うはずであった。




 白金色の甲冑に身を包み、クロノワは出陣を控えていた。目を閉じ深く瞑想している。これからの戦いに思いをはせている、と普通ならば判断するべきだろう。しかし、彼が考えているのはまったく別のことであった。


「これが最後の機会、だな・・・・・」


 友人と、世界を旅するための。全てを放り出し、ただ未知を求めてこの広い世界を歩く。それを想像するだけでどうしようもなく心が躍る。


 評価が上がったとはいえ、陰湿で悪質ないじめがなくなったわけではない。その全てから解放は彼が願ってやまないものだ。


 現状からの解放と元来の欲求。イストと共に旅に出ればその二つを満たすことができる。しかし・・・・・・。


「殿下、そろそろお時間です」


 グレイスの声で目を開ける。


「今、行きます」


 剣を手にして立ちかがる。その足取りはしっかりとしていた。




 モントルムの廷臣たちは実際に刃を交えることになるのは六月十七か十八日であろうと予測していた。しかし最初に戦火の火蓋が切って落とされたのは、彼らの予想よりも早い六月八日、モントルムの王都からダーヴェス砦に至る街道でのことであった。


短めです。短いのでもう一話投稿します。


誤字・脱字、教えていただけると嬉しいです。

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