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現界浸蝕

作者:毒林檎杯
その男は、働くことに疲れ、所帯を持つでもなく、だらだらと暮らしながら、さてそろそろ生きている意義を見失おうという状況まで達していた。

冬の夜、仕事を終えた男はいつものように安酒を求めてロンドン市街へと繰り出す。
またいつもの時間にいつもの酒場に入り、いつもの酒を一杯あおって帰路に就き、そしてまた明日の朝にはいつもの仕事が待っている。永遠にこの毎日が続くのだ。
そう考えると冬の寒さが一層強くなったように思えた。
男は自分の境遇が嫌で嫌で仕方がなかった。かといって自ら変えてやろうという意志も気力も持つことができなかった。
酒は不味かった。いや、最早彼にはおいしいと感じられる物などないのだ。

帰り道をトボトボと歩く中、人々が騒いでいることに気が付いた。
怒号と悲鳴。地震。逃げ惑う人々。
男には何が起きているのかわからなかったが、どうせ俺には関係のないことなんだ、と避けるようにして歩く。
だが、「それ」は男の目の前にいた。
目を上げると、最初は巨大な樹かと思った。ビッグベンほどの高さもある巨大な樹。
樹が動いた。そしてそれが足だとわかる。樹ではない。
巨人。灰色の巨人。ビッグベンの明かりに照らされて一瞬巨人の顔が中空に映し出された。
表情までは判別できない。知性があるのかもわからない。
だが明らかにわかったのは、視線は彼に向けられていたことだった。
ゆっくりと、細い足が動く。彼のほうに向かって。

瞬く間にして日常は非日常へと変貌を遂げた。
この状況に対して、何を考え、何を感じ、何を思い、どのような行動を取るべきなのかさっぱりわからなかった。
だが、ただ一つだけ心に浮かんだ言葉が口から漏れた。

「こいつが俺の人生を終わらせてくれるなら丁度いい。」
プロローグ -夜-
2017/05/20 03:32
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