第四話 トモダチ
光と遥が視聴覚室に入ったのを確認し、ドアを閉めると、悠音はその前に立った。まるで警備員だ。なんでこんな事をしてるのかなんて、自分でも分からない。
少し話し声が聞こえる。ただ、会話の内容までは聞き取れなかった。
5分とかからずに、二人が出てくる。光は『ご苦労』なんて言って悠音の頭を軽く叩いた。遥は相変わらずニコニコとしている。
「もう用事は済んだの?」
「ああ」
ぶっきらぼうに答えて、二人は先に行ってしまった。邪険な扱いにムッとしながらも、悠音は後を追い掛ける。
仕方ないか。脅されて協力してるだけだし。
男子と女子はここで分かれるようだ。光は二人に別れを告げると、手前の教室に入って行く。遥と悠音は顔を合わせて、隣の教室へと進んだ。
「間に合ったみたいね」
「うん……ちょっと恥ずかしいなぁ」
遥がそう漏らす。体重なら私だって計りたくない。内科の先生に服の下を探られるのだって嫌だ。なんだっけ、あの心臓の音を聞く道具。小さい時はモシモシって言ってたけど。
少し経って、遥が呼ばれる。悠音は一人になり、長い溜息を吐く。昨日から、色々と急な事がありすぎた。そのせいで悠音の生活が少なからず狂った。さっきだって、いつも一緒にいる友達の誘いを断ったのだから。
まぁ、だからって別に、二人が嫌いな訳ではないのだが……あ、光はムカつくな。
光の表情が浮かぶ。誰も信用していない瞳を。
あんなに、秘密を隠そうとしなくたっていいのに。誰かの助けが必要なら、事情を話して協力してもらえばいい。
それとも、私を口の軽い人間だと思ってる?
「前野さん」
先生に名前を呼ばれ我に返った悠音は、心なしか顔をしかめて、体重計の方へと向かったのだった。
「遥」
隣の教室から出てくると、光は真っ先に遥を呼んだ。遥は顔を上げ、悠音の手を引いて駆けて行く。
「体重何キロだった?」
なんてデリカシーの無い奴だ。こんな可愛い女の子に体重を聞くなんて!
しかし躊躇う事なく、遥は答える。
「38」
「やっぱりビンゴ。俺も」
その身長で38キロ? 悠音は思わず叫びそうになる。しかも二人共だって?
ふいに光がこっちを向く。馬鹿にしたような笑みを浮かべて、悠音に言葉をかけた。
「お前は?」
誰が答えるかッ!
しかし遥の携帯を奪いあの画像を表示させた光を見て、悠音は渋々と教えるハメになったのだった。
嗚呼、誰か私を助けて。
「もーヤダっ……あいつ絶対バラす気よね」
再び光と視聴覚室にこもり、そして出てきた遥に向かって悠音は溜息のような声で呟いた。遥はクスッと笑って、
「そんな事ないよ。……光は、お友達ができて楽しいだけなんだよ。だから誰にも言わないよ」
……いい子だ。
でも、お友達という言葉には賛成しかねる。あいつは私を下僕、パシリ、召し使いとしか思ってないだろう。
頬を軽く膨らませる悠音を見て、遥はそれを可愛いと言った。そして悠音の手を掴む。一緒に帰ろうと言いながら。
うーん、可愛いのは貴女です。
こんな妹が欲しかったな。
「……ね、前野さんの事、悠音ちゃんって呼んでもいい?」
そう顔を赤らめて問い掛ける。
「えぇ? 全然構わないよ? 呼び捨てでもいいし」
「よ、呼び捨てなんて……できないよ」
すぐに真っ赤になる。
悠音はつかの間の幸せに浸っていた。
同じ顔なのに、なんでこんなにも違うんだろう?
でも、と、悠音は思った。
こんなにも同じ顔の二人だから、見分けをつけさせるためにも、性格が正反対じゃなきゃいけなかったのだろうか。光は光、遥は遥。その区別は、髪を除いてはこの性格と表情の差だけと言っても過言ではないのだ。
だからってあんなにひねくれた光の性格を許した訳じゃない。なんでもかんでも人の弱みに付け込んで……自分の顔を道具としか思ってないんじゃないの?
進路の第一希望は『ホスト』が最も相応しいわね。
「ところでね」
少し言いにくそうに、遥が呟いた。
物思いに耽っていた悠音は、ふと顔を上げる。
「明後日は……その。プールがあるでしょ? その時も、また……ゆ、悠音ちゃんにお願いしていいかなぁ?」
顔の前でちょんと手を合わせる遥。遥のお願いなら、と、悠音は笑って頷く。
身体検査にプール。どうやら保体に関係ありそうだが、明日の体育で二人が視聴覚室に行く必要はないらしいところを見ると、そうではなさそうだ。
まぁ、あまり関与すると光と私ができてるなんて噂が飛び回ってしまう。考えるのは止めよう。
|