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非異世界ファンタジア 作者:なんこつ
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第三十九話 宗教モドキ

以前感想で要望のあった宗教への影響について!
を、書こうとしたんですが……。
良かったなと思えたら評価ポイントをお願いします。
 宗教、というものは昔から社会と密接な関係にあった。宗教が社会に影響を与え、社会も宗教に影響を与える。そんな相互作用の関係。それは今の世の中においても変わりはない。当然、魔法という要素により変化した社会は宗教的にも刺激を与えた。

「あなた達、奇跡の上達に興味はないかしら?」
「……」

 というのも、多くの国で魔物が出現してから時間が経つにつれて『魔物と同じ力を使う魔法使いは悪魔の使いなのではないか?』という声が出始めたのだ。その背景には魔法使いによる犯罪や傲慢な態度に対する不満があったわけだが、とりあえずそこは置いておこう。
 問題となったのは“悪魔の使い”という単語だ。これはつまり宗教的な敵対認定であり、コミュニティからの排斥を意味する。しかし魔法使いの強さに加え魔物が存在する関係上、各宗教は粛清という手段はとれない。かといって“悪魔の使い”発言も見方によっては信者からのSOSなのだから無視することも出来ない。

「ここだけの話、うちには素晴らしい奇跡の使い手がたくさんいるのよ」
「……」

 そこで各宗教は魔法使いのコントロールを計った。つまり『魔法使いもまた人間である』と。これには“良くも悪くも特別ではない”という双方に自粛を求める意図が存在する。結果、宗教の影響が大きい国においては魔法使いたちの素行がかなり改善され、非魔法使いからの不満は抑えられることになった。

「でも、初めから凄かったわけじゃないの」
「……」

 ところで気になるのは、一言も“奇跡”だの“恩寵”だのという単語を使っていないという点だろう。もちろん魔法使いを諌める方向性だったのだから当然ではあるのだが、特別であることを理由に制御することも出来たはず。だが、やらなかった。それは、そのことを原因とした抗争や分裂という結果が目に見えていたからだ。それに、専門家曰く“奇跡”も“恩寵”も厳しい条件があり、世界的にランダムに使えるようになった魔法に当てはめるほど安いものではないらしい。使っても“ご加護”と“お導き”が精々なのだとか。

「みんな導師様の洗礼を受けてから急激に上達したのよ」
「……」

 つまり、魔法を“奇跡”などと呼ぶ者は相当にマイノリティーであり、胡散臭い存在ということになる。特に日本においては詐欺紛いのインチキ宗教集団が好んで用いているらしい。先ほどから近くで一人熱弁を振るっている痩せたけばけばしいオバサンもおそらくその類だろう。だが、流石に相手が悪い。俺はもちろん、十分な指導をしている澪や璃良がこの手合いに引っかかることはまずないだろう。

「あなたは凄く素質が高そうだから幹部クラスは間違いなしね」
「夢人以上なんていない」

 随分な上から目線に思わず苦笑が漏れる俺。だが弟子二人にとっては不愉快だったようで、澪が噛みついた。

「あなたは本物を知らないのよ。導師様は本当に凄いお方なのよ?」
「本物を知らないのはあなたです!」

 璃良も冷ややかな視線を向けている。そんな状況に少しうれしく感じるも、このオバサンの発言が少し気にかかった。というのも、内容からして俺の魔力を感じ取ったうえで導師様とやらが上と感じているようだ。今の段階でも纏う魔力を100程度、つまり保有魔力を1万くらいに見せているのだが。

「まあ、みんな初めはそう言うのよ。それにしても、あなた達も悪くない素質ね。もしかしたら導師様の寵愛を受けられるかもしれないわよ?」

 澪と璃良をもターゲットにした発言に、自身の機嫌が急速に悪化していくことを感じる。寵愛とやらが何を指すのかは知らないが、どう考えても碌なことではないからだ。面倒なことになる前に、早々に消えてもらうと――。

「あ、導師様がいらっしゃったわ!」

 一歩遅かったらしい。こちらに声をかける前に連絡していたのだろう。導師様と呼ばれる男が姿を現した。

「おお、これは素晴らしい逸材だ。前村女史、よくやった!」
「勿体ないお言葉です」

 恐縮しつつも喜んでいるオバサンはさておき、目の前の男の魔力量に少し感心する。纏う魔力量は200ほど、つまり保有魔力量は2万相当のようだ。中年のようなのでもう伸び代は無いだろうが、上級魔法使いクラスは十分にある。大魔法使いのような例外を除けばかなり魔力がある部類だろう。

「さて、話は聞いたな? キミたちをボクの旗下に加えてあげよう。そこの二人はこのままボクの家に来るように!」

 あまりにも頭の悪い発言に何と返したものかと思っていると、澪と璃良がすぐに反応した。

「絶対に嫌です!」
「気持ち悪い……」

 同じ男として少し同情する。確かにデブでバーコードハゲで厭らしい笑みを浮かべていてと擁護する余地なしではあるが、可愛い女の子たちにここまで明確に拒絶されると精神的にかなりダメージが入るのではないだろうか。実際、男はどこか傷ついた表情をしているように見える。

「ボ、ボク達はいずれ日本を代表する組織になる。今のうちに下についておくのが賢い選択だぞ!」

 だが、男もめげない。よほど澪と璃良のことが気に入ったのか、メインのはずの俺をそっちのけでアピールしている。

「必要ありません!」
「夢人がいる限り、それはあり得ない」

 だが全く相手にされず袖にされ、男は切れた。おそらく今まではこの魔力量の前に屈さなかった者は居なかったのだろう。3000万の魔力量を知っている澪と璃良には通用するはずもないのだが。

「ぐっ、ならば無理やりにでも言うことを聞く気にさせてあげよう。キミたちの大切な者をすべて奪ってボクしか見れないようにしてやる。まずはそこのお前からだ!」

 そう口にした男は俺を痛めつけるつもりなのか、衆人環視の状況にもかかわらず身体強化を行い殴りかかってくる。だが。

「残念だったな」

 その拳は俺に届くことはない。非戦闘時に危険を察知して自動展開する仕組みの結界が俺の周囲三十センチ以内を守っているからだ。ちなみに非戦闘時のみなのは、戦闘の邪魔にならないようにするためである。

「無詠唱の結界!?」

 驚きの声を上げる男。だが、難易度の高い結界に無詠唱を組み合わせているように見えるのだからそれも当然だろう。もちろん実際は魔法陣魔法によるオートガードなわけだが。なお、最近は全体のレベルが上がっているため、異常ではなく才能と認識してもらえるから実にやりやすい。

「自慢の魔法もこの程度か? 実に哀れなだな」
「こ、のっ、雑魚がぁ! 紅蓮の炎、集う力、巨大な槍! 我が前に――」

 そんな実力差を感じたはずの男は、しかし俺の嘲笑に激昂した。澪と璃良を手に入れられない原因のうえ、格下に見える俺が馬鹿にしたのがよほど許せなかったのだろう。バックステップで距離を取ったかと思うと、長々と詠唱を始めた。もっとも、その完成を待ってやるほどお人好しではない俺は電撃を放ち仲間のオバサンもろとも意識を奪う。

「さて、清算の時間だ」

 澪と璃良を脅し、俺に敵対した。後顧の憂いをなくすためにも、その報いは受けてもらう。そして俺はいくつかの魔法をかけた後、澪と璃良を連れてその場を後にした。



 後日、学校帰りに三人揃って警察に連れて行かれ聴取を受けた。曰く、あの時の男がある犯罪グループの主犯として他県で逮捕されたのだとが。主な罪状は恐喝・詐欺・強盗の三つ。構成員の多くが近隣の都道府県出身の魔法使いで、主犯に脅されて仕方なくやったと供述しているらしい。だが、肝心の主犯はここ一年の記憶が無く、魔法も教えても使えない状態である、と。

「えっと、まさか私の仕業だと?」
「現状、一番可能性があるのではないかと思っています」
「そう言われましても……。そもそもどういう経緯でそんな疑いを?」
「実は逮捕に至ったのは件の犯人から通報があったからなんですよ。自分が犯罪者の可能性がある、と」
「んん?」

 なんでも主犯は自宅で目が覚めたら一年時間が進んでいた挙句、部屋に犯罪絡みと思われる資料が大量に出てきたため警察に連絡したのだとか。もちろん最初は相手にしていなかったが、最近捜索願が出ていた人の名前が複数出てきたので調査をしたら見事に当たりだったというわけだ。

「当然、警察としてはいろいろ調べたわけです。そしたら犯人が目を覚ます前日にあなた方とトラブルを起こしているのが見つかりましてね」

 そして監視カメラ等を駆使した結果、そこに行きついたらしい。とはいえ、

「私は身にかかる火の粉を払っただけですよ」

 認めるはずもないのだが。もちろんあの男の記憶が無いのも、魔法が使えないのも、自分で通報したのすら俺の魔法によるものだ。今回は比較的大きな魔力を持っていたり背景に集団があったことから、単に恐怖を植え付けるだけではなく魔法そのものを奪い、長期間の記憶を奪う必要があると判断した。さらに組織そのものも壊滅させることが安全につながると考え、帰宅に加えて次に起きた時に通報するように無意識下に影響を与えて誘導したのだ。

「ですが、それ以外に原因となりそうなものが見当たらないんですよ」
「分からないものは分かりませんね」

 流れとしてはこうだ。倒れたあの男に、まず魔力封印の術式を施す。これは魔力を体から放出させて空の状態を維持する魔法で、掛ける時は相手の最大保有魔力以上の魔力を、解除にはかけた時以上の魔力をそれぞれ必要とする。なお、今回は2000万の魔力で封印を掛けたので解除はまず無理だろう。
 次に無意識下に行動を誘導する魔法をかける。これは本来魔力があると大きな抵抗にあって難しいのだが、魔力封印を掛けた後なので楽に施すことができた。それでも50万程の魔力を消費したが。
 最後に眠ったあとに直近一年の記憶を消去する魔法をかける。これは件の組織をいつ作ったか分からないので、魔法が出現するより前の期間を設定したわけだ。ちなみにこれも50万くらいの魔力が必要だった。そして、これらの工程を経て今の状況に至る。

「お二人は何か思い当たることはありませんか?」
「いいえ、ありません」
「私もありません」

 俺を相手にしていてもらちが明かないと思ったのか、刑事は澪と璃良にも質問をする。だが当然二人から情報など得られはしない。

「そうですか……。まあ、仮に春日井さんの行いでも何の罪にも問えませんけどね。ただ、それなら筋が通るのではないかと期待したわけです」

 そういう刑事の眼は未だにこちらの様子を窺っている。

「おそらく魔法自体は研究すれば可能性は零ではないと思いますよ。ただ、仮に使えても、他の魔法と併用しながら素早く発動させるにはかなり使い慣れる必要があるでしょう。そういう意味であの日の私にはできませんでしたよ」
「ふむ、そうですか」

 もちろん魔法陣魔法を使わなければの話だが。もっとも、この刑事はとりあえずそれで良しとしたようだ。協力へのお礼、つまり聴取終了の合図が告げられる。おそらくこれから研究者に意見を聞いたり俺の周辺で頻繁に記憶喪失が起こっていないかを調べるのだろう。もしかしたら習得研究も依頼するかもしれない。だが、そこまでだ。どの調査でも実現の見込みなしと判断され、直に捜査自体が終了するだろう。
 というのも、警察としてもそこまで本気で調べるわけがないのだ。何せ犯人は捕まっており、証拠も十分。もし記憶が消されていたとしてもそこに違法性は無く、犯人の演技の可能性も捨てきれない。それなら無理に事を荒立てる必要はないというわけだ。事実、今日の聴取も地元の警察が適当な小部屋を借りて行っている。本気なら犯人の県の警察が同席したり取調室を使うだろう。

「そもそも犯人が魔法を使えない、記憶もない演技をしている可能性の方が高いのでは?」
「私も個人的にはそう思うんですがね」

 加えて、退席ついでに投げかけた質問に、とりあえずの成果を得て満足そうだった刑事は苦笑いでそんなことを口にする。やはり、形式的な捜査の可能性が高そうだ。
 それに、仮に捜査を逸脱した興味を持ったならすぐに権田平蔵案件に行きつくはずだし、それすら無視するならまた思い知ってもらえばいい。そんなことを考えながら警察署を後にした。


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