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非異世界ファンタジア 作者:なんこつ
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第二十九話 実験指導

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 暦も八月になり一週間が過ぎた。気分が上向くような晴天の今日は、絶好の運動日和と言えるだろう。ただ、

「俺の仕事、研究補助員のはずなんだがなあ」

 何故か河原で大人数相手に魔法の指導をすることになった俺のテンションは急降下。天井知らずではなく底知らず、といったところだ。

「諦めるんだな、坊主」

 そんな俺の独り言に反応したのは田中源。通称ゲンさん。研究員の一人で、グループ最年長の老人だ。どうやら新山さんの援護射撃をしたことで気に入られたらしい。

「そりゃないですよ、ゲンさん。大体、何でおれが教えることになってるんですか……」

 理論の仮説がある程度固まり、習得実験をしないといけないのは理解できる。問題はなぜその担当が俺なのかということだ。

「なんでも、ギルド長の意向らしいぞ。既に技術を習得してる人の方が説得力があるとか」
「おのれギルド長」

 まあ、指導と言っても組み立てた理論通りにやらせるだけなので悪目立ちはしないのだが。しかし空調の聞いた部屋で頭脳労働するより大変なことには違いない。

「ちなみにお前さんが夏休みの間にあと二回はやるそうだ」
「ナンテコッタイ」

 そう俺のテンションにトドメを刺したゲンさんは軽く笑いながら資料片手に点呼に行ってしまった。

「いっそのこと戦闘モードでやってやろうか……」

 あれなら全員機敏に動いて早く終わるだろうし、と物騒なことを考える。もっとも、その場合は被験者は怖い思いをすることになるのだが。
 そんなことを考えているうちに時は過ぎ、参加者確認が終わる。初の実験、もといギルド公式魔法講座が始まった。



「以上です。何か質問はありますか?」

 無詠唱・独自詠唱・複数属性の使用・発動点の変更・複数同時使用・強化率の変更・魔力の計測など、多岐にわたる実験内容についての説明が終わる。質問が無ければこのまま指導に入るのだが、どうにも懐疑的なこの空気では順調にはいかなそうだ。

「では、そちらの方」
「実験内容は分かりました。しかしそれらは本当に結果に結びつくのですか?」

 まあ、こういう意見が出てくるのは予想していた。というのも、『最新魔法技術を手に入れられる!!……かも』という謳い文句で被験者を集めていたからだ。当然、『……かも』はとても小さな文字で。もちろん彼らは被験者である以上報酬を貰うわけだが、彼らの目当ては金ではなく技術である。ゆえにこの反応も当然なのだ。おそらく、当初はギルド主催の魔法講座と聞いて期待していたものの、説明者が十代半ばの子供だったから疑い出したのだろう。

「最初に説明したとおり、成果についての保証はできません。むしろそれを調べるための実験講義ですから」

 雰囲気が悪くなり、被験者がざわつき始める。

「ですが――アイスランス」

 手を川に向け、詠唱を行う。通常手から出るべき氷の槍が川の上空に展開され、投下される光景に送られるは熱視線。

「見ての通り私は発動点の変更が扱えます。他にも独自詠唱が使えますね。これらは実用レベルにするには多少時間がかかりますが、実験内容を継続的に行えば誰でも使用可能になると予想されます」

 続ける説明に目に見えて被験者たちのテンションが上がる。

「他に質問はありますか?」

 新たな質問者は現れなかった。



「大成功だったみたいですね」

 実験の指導が終わり、研究に使われてる部屋で涼んでいると新山さんが声をかけてきた。

「まあ、そこそこでしたね」

 発動点の変更は半数がとっかかりを掴んでたし、複数の魔法を同時に使用するのも数人が成功していた。無詠唱に至っては全員が時間はかかるものの成功したのだから悪くない成果のはずだ。

「次回は参加者を増やすのもいいかもしれません」
「担当は別の人で」

 反射的にそう口にする。経過を追わないといけないから無制限に増えることはないだろうが、今日の分だけでも大変だったのだ。これ以上増えるのならやりたくないというのが本音である。

「坊主以外に出来るわけねえだろ」
「ゲンさん」

 そう断る俺に、後ろから近付いてきた研究グループ最長老が却下する。

「今日見ただろ? 素直にやらせるには説得力がいるんだ。次回以降も坊主のパフォーマンス込の指導じゃないと離脱するやつが出かねん」

 ゲンさんのもっともな、しかし嫌な話に思わず顔を顰めざるを得ない。確かに俺以外だと新山さんくらいしか習得率的にできそうにないが、彼女は研究の責任者だ。処理すべき仕事が多いのに流石に押し付けるわけにはいかないだろう。

「ギルドとしても、次回も春日井くんにやっていただきたいですね」
「ギルド長!?」

 何時の間にやら部屋に入って来ていたギルド長もそう口にする。なお、大声を上げたのは顔を赤らめている新山さんだ。

「次回は他の支部の人たちも募集しようと思っています。実は上から研究結果がまとまったら公表させろとの通達を受けましてね。その前評判作りみたいなものです」

 まあ、どうせ広まる技術だから実験の指導くらいでは悪目立ちはしない。しないのだがあんまり嬉しくないご指名だ。

「どうでしょう、やっていただけませんか?」
「……分かりました」

 確固たる理由もないのに、ここまで言われて断るわけにもいかないだろう。一応、研究補助員依頼の中に含まれるのだし。それに、丁度先日ギルド長の歓心を買おうと決めたばかりだ。

「ありがとうございます。代わりに指導の時は少しですが手当も出しますので」
「お、よかったな坊主!」

 どこか申し訳なさそうにしているギルド長と小突いてくるゲンさんに苦笑い。まあ、これも澪や璃良のためだと思えば大した苦労ではない。



「遊びに、ですか?」
「そう」

 今回の分の手当てが入った俺は、それを口実に澪と璃良の二人を遊びに誘うことにした。夏休みに入ってからほぼずっと修行漬けだし、ここらで息抜きをしておいた方が良いと思ったのだ。……まあ、本当は俺が二人と遊びに行きたいだけだが。

「デート?」
「まあ、うん」

 その通りなのだが、そうもはっきり口にされるとなかなか恥ずかしいものがある。だが女の子組はそうでもないらしい。ハイタッチしながら喜びをあらわにしている。

「それで、どこか行きたいところとかあるかな?」

 この手の話は男がリードするものなのだろう。ただ、情けないことにそういうのには疎い俺としては何かしらヒントが欲しいところである。

「あ、それならこの間始まった映画を見たいです」
「最近話題のカフェでご飯が食べたい」

 幸いなことに二人とも要望があったようだ。これなら予定を立てるのは随分楽になる。まず映画は午前中のチケットを取って、件のカフェまでの道を調べておく必要が――。

「あとは買い物も行きたいです」
「今年はまだ泳いでないのも残念」

 ん、んん?

「他にも久しぶりに勉強会とかも良いかもしれません」
「いっそお泊り会でもいい」
「夏祭りもあったはずです」
「花火もしたい」
「えーっと……」

 次から次へと要望が出てくる。修行ばかりで遊べてなかったからストレスが溜まっていたのか、それとも実質二人の受け入れ宣言をしたからやりたいことが出てきたのか。あるいはその両方かも知れない。

「夢人くんはどう思いますか?」
「夢人はどう思う?」
「……とりあえず、明日は映画とカフェと買い物で。他の案は時間との兼ね合いを検討しつつ可能な限り善処する所存です、はい」

 一応明日の予定は決まった。それ以外は政治家的発言で煙に巻くことにする。

「約束ですよ?」
「楽しみにしてる」

 作戦:煙に巻くは失敗に終わったようだ。彼女たちの中ではもうやることが決まっているらしい。もちろん俺もいやではない。むしろ嬉しい。ただ、修行予定の見直しをはじめとしたスケジュール調整を行う必要がありそうだ。
 もっとも、その手間も目の前で笑っている二人の様子を見れば些細なことだと思える俺は、今間違いなく幸せに違いない。


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