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非異世界ファンタジア 作者:なんこつ
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第二十七話 後始末

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 現場からギルドに戻ると、すぐに奥の部屋に通された。

「ようこそ」

 そこに居たのは眼鏡をかけたどこか神経質そうな痩せ型の男。イメージとは大分違うが、恐らく彼がこの支部のギルド長なのだろう。

「初めまして、日本魔法使いギルド第三十八支部の支部長を任されている岡部良一です」
「春日井夢人です」
「どうぞ、掛けてください」

 互いに挨拶を交わした後、向かい合ってソファーに腰かける。

「早速ですがオーガとの戦闘について聞かせていただけますか?」
「はい。まず――」

 オーガが出現した時から話を始め、戦闘中に行ったことについて語っていく。ここまで案内してくれたギルド職員曰く、災害レベルのオーガが出現したとの報は既に政府の上層部にまで回っているらしい。一部マスコミにも情報が漏れていて、明確な報告書を上げないとそれらが興味をもって調査に乗り出す可能性があるのだとか。そうなれば俺の個人情報までさらされることは間違いないと。流石にそんなのは御免なので、俺は聴取に協力することとなった。

「――と、いうわけです」
「なるほど……」

 一通り説明を終えると、ギルド長は頷いき、少し考え込んだ後で再度口を開いた。

「そうなると今回の映像については政府が全て資料として回収するでしょうからマスコミには発表の仕方を工夫するだけで大丈夫そうですね」

 ギルド員が奮戦して被害は広がらなかったとか言うのかもしれない。まあ責任追及されない限りは対応の過程なんぞ発表しないのだから大丈夫だろう。

「ただ、問題となるのは政府関係者です。そこに上げる資料については少なくとも戦闘過程を詳細に記す必要がありますし映像も見られるでしょう」

 つまり興味を持たれる可能性があると言いたいのだろう。もっとも、政府からはアンタッチャブル扱いのはずなので妙な勧誘はないと思うのだが。

「ですから、先んじて魔法の技術について説明しておきませんか?」

 なるほど、そっちか。

「説明、ですか……」

 とはいえ説明、と言われ言い淀む。すると向こうには俺が渋っているように見えたのか、慌てて言葉を続けてきた。

「もちろん、大事な情報であることは重々承知しています。それを話す義務もありません。ですが春日井さんの技術が他の人でも使えると分かれば――」
「ああ、いえ。話したくない、というわけではないんです」
「――?」

 恐らく余計な詮索をされたり興味を持たれ辛くなる旨を続けようとしたのだろう。だが俺の被せた発言に疑問符を浮かべる。

「ただ、信じてもらえるかと思いましてね」
「こちらでも可能な限り検証を行います」

 苦笑いの俺にギルド長は真剣な表情で頷く。ならば、と言うことで俺も話を続ける。

「実は、ネットが情報源なんです」
「……え?」

 その時のギルド長は漫画ならば眼鏡がずり落ちていたに違いないと思える呆け顔だった。



「ネット、ですか」
「ええ。大型のネット掲示板の一部で情報提供や検証作業が行われているんです。さらにそこ発のまとめサイトもあるんですよ」

 俺の言葉に愕然とした表情を見せるギルド長。とりあえず言うより見せた方が早いかと携帯端末を取り出しwikiを開いて見せる。

「これは、こんなことが……」

 そこには魔法の応用についての考察や詠唱言語の改変、身体強化の工夫についてなど様々な情報が記載されている。先の現場を見る限り知っている人も多そうだったが、見る人が限定されるという意味では知らない人の方が多いのかもしれない。

「今回の戦闘で使った二つの技術もそこに記載されています。探せば他にも使える人は簡単に見つかるかと」

 もちろんそういう技術に絞って使用したから当然なのだが。そもそも大型掲示板で検証が始まったりまともな情報が集積されるようになったのも俺の仕掛けだ。以前澪から弟子入り志願を受けた時に少し考えた“気づき”の流布である。主に俺や澪、璃良の魔法技術が目立たないようにするためであり、いざ追及された時に隠れ蓑にするために世間に根拠となる情報をある程度流しておこうということだ。そしてその目論見は今の状況を見ればまあ上手くいったと言っていいだろう。

「……なるほど、よく分かりました」

 暫くサイトを見ていたギルド長だが、一つため息をつくと力ない笑みを浮かべながらこちらに端末を返してきた。

「報告書の作成を考えると頭痛がする思いですが、まあ、それは私たちの仕事ですしね」

 実際厄介な問題なのだろう。近くにいる秘書と思しき人物も苦々しい表情を浮かべている。

「この度は、ご協力ありがとうございました」
「いえ、こちらこそ」

 人材確保や情報獲得の意味もあったのだろうが、俺の方への配慮も多分に含まれていたはずだ。これで面倒事を避けられるのなら感謝しないわけにはいかない。

「なにより、街の危機に対処してくれたことを一住民として感謝します」
「あー、それは、巻き込まれただけですので」

 言外に俺は何時でも使える便利な英雄ではないのだということを主張しておく。それを把握したのかギルド長は苦笑いで、

「それでも、ですよ」

 しかしそう口にした。



「ところで一つお願いしたいことがあるのですが」

 ついでとばかりにオークの討伐時の説明や今回の報酬についての話をした後、ギルド長はそう切り出してきた。

「なんでしょう?」

 お願い、と言う単語に一体どんな面倒事だろうかと身構える。ここまでの対話で敵対関係になるような人物ではないことは分かっているが、絶対的な味方と言うわけでもない。用心するに越したことはないだろう。

「魔法の研究に協力してもらえませんか?」

 しかしギルド長から発せられた内容は微妙に判断に困るものだった。

「魔法の研究、ですか」
「はい。先ほどのサイトは確かに情報がまとめてあるようでしたが玉石混淆といった感じでした」

 確かにその見解は間違っていない。あそこは情報の一時保管庫であるから整理もされてないし、検証中のものやあまり意味のない情報も混じっている。

「ゆえに、今回の追加資料作成のためにも検証・研究をする必要があるのですが、既に二つの有用な技術を習得している春日井さんにもご協力願えないかと思いまして」

 なるほど、確かに作業は捗るだろう。もっとも、それは俺が引き受ける理由にはならないのだが。そんな俺の思考を察したのかギルド長は慌てて言葉を続ける。

「もちろん、引き受けていただけるならギルドから正式な依頼を行います。重要案件ですので報酬も多めに設定できるかと」

 暫し目を瞑り、思案する。報酬は別にどうでもいい。ただ……。

「一つ、条件があります」
「なんでしょう?」
「あくまで私の立場は外部協力員とか実験協力者という扱いにしてください」

 俺の提案に秘書のような人物は怪訝な表情をしているが、ギルド長の方はすぐに理解が及んだようだ。

「分かりました。依頼時の立場は研究補助員と言うことで。他の研究員が決まりしだい打ち合わせの機会を設けるので出席をお願いします」
「はい。ありがとうございます」

 そしてこれをもって聴取はお開きとなり、俺はギルド長の部屋をあとにした。

 俺が依頼を受けることを決めたのは魔法使い全体のレベルアップを図るためだ。現状、思っていたよりも“気づき”の件は習得者が多くない。おそらくギルド長の言うように情報が玉石混淆のせいだろう。ゆえに玉の選別に協力し、早期に全体の強化を図ろうというわけだ。そうすれば、俺や弟子二人が公に使える手札が増えるのだから。
また、立場を補助としたのは言うまでもなく悪目立ちを避けるためだ。今回の情報がまとまれば、なかなか有益なものになるだろう。その時メインで考察したともなれば注目を浴びないとも限らない。もちろん必ずしもそうなるわけでは無いが、隙を減らしておくに越したことはないだろう。

「それじゃあ、暫くしたらスケジュールに穴が開きそうですね」
「……」

 聴取の内容を一通り話すと、修行時間が減ることに不満があるのか璃良は残念そうに、澪は不満そうにしている。だがもっと根本的な問題を二人は忘れてないだろうか?

「まあ、二人の修行を見ることは基本的にもうないから大丈夫でしょ」

 直後、硬直し目を見開く二人。

「それって――」
「どういう――」
「今日で二人とも弟子はクビだから」

 そんな二人に俺はにっこり笑って破門を告げる。

「肝心なところで師匠の言うことを聞けない弟子は必要ない。というか、責任が持てない」

 今日の屁理屈のような独断行動をまだ許した覚えはないのだ。もっとも、今回は十分に反省すれば許すつもりではあるが。

「まあ、もう俺から離れる覚悟をもって勝手を突き通したんだろうし、今更言うまでもないだろうけどね」

 見れば二人とも涙を流しながら頭を振っている。だがここで手を緩めるような真似はしない。むしろとどめを刺しに行く。

「今までありがとう。お疲れ様」

 何の未練もない。そういったすっきりした表情を作り最後の言葉を告げると、次の瞬間には二人に押し倒されていた。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「いや……いや……いや……」

 取り乱す、といった言葉で片付けられないほど尋常ではない反応である。涙を流し、うわ言のように謝罪や拒絶の言葉を口にし、俺が身体強化を使わないといけないほど強く体にしがみつく。確かに二人の俺への好意を使うことで反省を促すつもりではあったが、この反応は想定外である。これは、不味い。

「あー、これからはきちんと言うこと聞いてくれるなら――」
「聞きます!!」
「何でも聞く!!」

 即答。それも必死の形相だ。

「ん。それじゃあ、今日は食事をしながら反省会をしようか」

 無言で頷く二人を起こし、ゆっくりとした歩調でギルドを出る。討伐の打ち上げで殆どギルドに人が残っていなくてよかったと思いながら、同時に今の二人の反応について思考をめぐらす。
 いくら好いていると言ってもおよそ常識的には考えられないもので、二人同時。演技と言うわけでもなさそうだった。つまりは――。


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