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非異世界ファンタジア 作者:なんこつ
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第二十四話 初陣

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「三人分の利用登録をお願いします」

 番号札を機械から受け取り待つこと数十分。俺たちの順番が回ってきたので、早速登録を申し込む。身分証と顔写真、魔法使い登録証と保護者の同意書を各自提出して待つこと暫く。

「お待たせいたしました。こちらがギルドカードになります」

 渡されたのは免許証サイズの磁気カード。表には自身の顔写真と大きなEの金文字が記載されている。

「このカードは依頼の受領や精算、提携店でのサービス利用時などに利用いたします。その関係上、紛失した場合は機能の停止処理を行う必要がありますので速やかに連絡をお願いします。また、再発行を行う場合は十万円の手数料がかかりますのでご注意ください。なお、有効期限は一年となります。更新は有効期限の前後一カ月の間だけですので忘れないようお願いします」

 立て板に水のごとくとはこのことか。流れるように、しかし確実に情報が脳に届くような喋り方は非常に聞きやすく、思わず感心してしまった。

「ランクと依頼についての説明も致しますか?」
「はい、お願いします」

 実際はホームページから同意書を印刷する際に一通り目を通しているのだが、確認も兼ねてもう一度聞いておくことにする。

「ランクはその人物のギルドへの貢献度合いを表すものになります。カードの表に大きく印字されているアルファベットがそれで、等級は最高のAから最低のEまでの五つ。これを上げることで天引きされている税金の一部還付や提携店のサービス向上などの特典を受けることが可能です。なお、ランクにより依頼の制限や強制はありませんのでご安心ください」

 このランク制度、聞くだけだと大したことが無いように思えるが、実際は世間では非常に羨ましがられる仕組みらしい。というのも、提携店のサービスと言うのが非常に豪華なのだ。Aランクともなればスポーツクラブやホテルの利用が無料になったり、エステやゴルフ施設などが九割引になる。最低のEランクですら前者は二割引、後者は一割引の恩恵を受けられるのだから相当だ。
 加えて、税金の一部還付も地味に凄い。基本的に依頼の報酬は最高所得税の45%が天引きされている。しかしランクが上がると10%ずつそれが還付されるのだ。つまり、Aランクならいくら稼ごうが税金は5%しか掛からないのである。これで課される義務はないのだから驚きと言うほかない。

「ランク昇格は依頼達成により得られる貢献度を一定以上まで貯めることで可能になります。逆に依頼失敗や依頼を長期間受けない、不法行為を始めとした規約違反により一定以下になると降格もありますのでご注意ください。なお、各依頼の貢献度設定や昇格降格の基準は非公開となっていますのでご了承ください」

 ちなみにこの貢献度、依頼の重要度に応じて個別設定されているという説が有力だったりする。なぜなら同じゴブリン討伐の依頼だけをこなしていたのに、昇格に必要な件数が大きく違ったという話があるからだ。おそらく、ゴブリンの脅威が大きい地域では貢献度が高めに設定されていたのだろう。

「次に依頼についてです。依頼は討伐・納品・その他の三種類に、常時・臨時の二パターンを掛けた六ケースに分類されています」

 つまり、『常時討伐』とか『臨時納品』といった具合の依頼の整理をしているということだろう。

「討伐や納品は言葉のとおりで、指定のものを討伐・納品することです。その他は討伐・納品以外の依頼全般を指し、護衛・輸送・指導・調査などがそれに当たります。いずれもギルドに報告をして初めて達成扱いになりますのでご注意ください」

 このギルドへの報告だが、納品は現物を、その他は依頼主に渡された完了証明書を提示すればいい。問題は討伐依頼で、これの報告にはドロップ品の納品が必要となる。それ以外に証明の方法が無いから仕方がないのだろうが、俺のように素材の価値を知っている人間からするとどうしても討伐依頼は旨みが少ないものに映る。おそらく希少素材が手に入る討伐依頼は、受諾せずに討伐することになるだろう。

「そして常時に分類されている依頼は受注する必要がありません。報告だけしていただければ結構です。逆に臨時に分類されているものは重複消化を避けるために必ず受注を行ってください」

 要するに、臨時依頼は明確な依頼人がいる普通の依頼だ。場所や期限なんかの指定がある。それに対して道中のような依頼にならない敵を倒した時でも報酬が出るようなシステムが常時依頼と言うわけだ。これが無いと“はぐれ”ゴブリンのような『依頼にはできない。でも倒してもらわないと困る』といった類の処理が困ることになる。

「これら依頼の確認・受注は壁際にある専用の端末で行えます。達成報告はこちらのカウンターで処理をいたしますので報告をお願いいたします。説明は以上になりますが、何か質問はございますか?」
ようやく説明が終わり、一息つく。見れば澪や璃良も質問はないようだ。
「いえ、特には」
「それでは、皆様のご活躍を期待しております」

 礼を言い、カウンターから離れる。ところで、一応ここに来た目的はこれで達成されたわけだが、この後どうしたものだろうか。

「依頼を見てみたい」

 そんなことを口にすると、すぐさま澪から返事が返ってきた。

「じゃあ、そうするか」

 特に断る理由もないので、そのまま壁際の端末に向かう。端末とやらの見た目は完全にATMの流用だ。カードを入れるところだけでなく、通帳や紙幣の場所まで全く同じ。もちろんそこは機能していないので赤くバツ印が描かれている。

「なんでATMなんでしょうか……」
「まあ、『カードを読み込む全国ネットの機械を緊急配備する必要があったから』と考えれば妥当な気もする」

 突然決まったこととはいえ、魔物の脅威を考えれば速やかにギルドを設立する必要があった。ゆえに建物も機材もとりあえず間に合わせのもので凌ごうということなんだろう。事実、ギルドの建物自体も場所によってモノが全然違うらしい。そんなことを述べると璃良も納得した様子だ。

「でも、ダサい」
「まあね」

 澪の身もふたもない言い草に思わず苦笑が漏れる。とはいえ、システムがまともに使えるのならばそのくらいは我慢しよう。

「とりあえずは――っと、出た」

 試しに常時討伐の項目をタップすると、対象やその報酬が一覧となって表示される。

「他も同じ」

 澪が横から手を伸ばし、ホームに戻って別の種類も確認したところいずれも一覧が表示される形式だった。主に内容・期限・報酬の項目に分かれていて、特に内容は【ゴブリン討伐】【山の魔物調査】【講演補助】などのように一目で概要がつかめるように工夫されている。

「依頼ごとに詳細の確認もできるんですね」

 璃良が【講演補助】に触れると、その依頼についてのみ記載された画面が表れる。見れば場所や詳しい依頼内容、依頼主からの一言などが書かれている。
――魔物の討伐経験を十分ほど喋るだけの簡単なお仕事です。魔物討伐をやりたくなるような内容をお願いします――

「……」

 まさかのプロパガンダ(思想誘導・世論誘導のための宣伝)のお手伝いだったことに思わず閉口する。しかも報酬が意外と良いのがまた厭らしい。そもそも、こんなところで露骨に募集していいものなのだろうか。

「一通り見たから満足。早く修行に行こう」
「そうですね。私も実戦が気になります」

 澪と璃良はどうやら見なかったことにするつもりらしい。賢明なその判断に俺も倣うことにする。

「それじゃあ、早速行くとしようか」



 ギルドを後にしてからしばらく、俺たち三人は人気の少ない河川敷を歩いていた。もちろん魔物を捜すためだ。人の多いところでは魔物が出現してもすぐに倒されてしまうため、魔物を討伐しようと思ったら自然と人が少ない場所が主戦場となる。それはつまり予定外の増援はあまり期待できないということであり、それなりのリスクが存在すると言えるだろう。

「だから当分は俺が居る時しか魔物討伐に赴いちゃ駄目だからね」

 そんなことを話し、二人も頷いて見せる。とはいえ、真に身に染みたわけでは無いだろうから、できる事なら今日のうちにちょっと怖い目に合ってもらい所だ。

「っと。見つけた」
「何処ですか?」
「あっちだ」

 そうこうしていると、ゴブリンが数匹たむろしているところが目に入った。他にも別の気配が幾つか。ちょうど良いので、これを彼女たちの初陣にするとしよう。

「いける?」
「はい!」
「大丈夫」

 念のため確認を取るとなかなか頼もしい返事が返ってきた。驕らず、かといって緊張しすぎているわけでもない。理想的な精神状態と言えるだろう。

「よし。じゃあ、どう攻める?」

 質問をすることで思考を促す。今はパーティーを組んでいるので意思の統一と言う側面もある。

「まず、遠距離から攻撃する。あと、複数いるから油断しない」
「敵の速度や飛び道具はなさそうです。あ、でも念のため魔法を使われる可能性は考えておいた方が良いかもしれません」

 今朝の話をよく聞いていてくれたようで何よりである。

「他にはない? なければ好きなタイミングで攻撃を開始して」

 そう告げると二人は少し考えた後、攻撃開始の合図について話し合う。やがて納得がいったのか俺の方を向いて一つ頷き、合図とともに魔法を放った。

「グギャー!!」

 澪は風を、璃良は土を用いた詠唱魔法をぶつける。脆いゴブリンは当然のように二体が倒され、素材を残し消えていく。

「グギャ、グギャ!」

 当然ゴブリンも黙っているはずもなく、こちらに向かって駆けてくる。ただその速度は遅く、二人の次の魔法の方が断然早い。

「えっ!?」

 二発目の攻撃は澪は着弾、璃良が外すと言う結果に終わる。いや、正確には璃良が外したのではなくゴブリンが回避したのだ。横跳びで地面を転がる無様なものだが、それでも戦況に刺激を与える回避には違いない。現に璃良は回避されたことに動揺し、次の魔法の発動が遅れている。

「璃良!!」

 澪の声掛けで我に返った璃良は、澪と共に三度目の魔法を発射する。そして今度こそ着弾し、標的のゴブリンを殲滅することに成功した。

「やりました!!」
「やった!!」

 勝利に喜んでいる二人。初陣で、二人でゴブリン四匹の戦果と考えれば確かに上出来と言えるだろう。“このままで終われば”の話だが。

『っ!!』

 息をのみ、驚愕の表情をしている二人。今、彼女たちの視界には数匹のグレイウルフとその背に乗ったゴブリンがまさに俺を襲わんとしている光景が映っていることだろう。

「いやっ」
「あ、ああ」

そしてそいつらは俺の四肢に噛みつき、こん棒で殴りつけてくる。

「遠距離攻撃の実行。相手を軽く見ない。速度や飛び道具、魔法への警戒。今朝言ったことについては良くできていた」

 ただ。そう呟きながら体にまとわりつく魔物の群れを凍りつかせていく。

「それ以外について考えてなかったのが良くなかった。璃良が攻撃を外したゴブリンのように敵にも知能がある。当然、奇襲だってしてくる可能性があるから事前に周囲の確認をするべきだったし、戦闘が終わった後も暫く警戒すべきだった」

 そして、完全に凍りついた魔物たちは、氷が砕けるとともに素材を置いて消えていった。

「他にも見ての通り身体強化をしていれば多少のダメージは軽減が可能だ。ゆえに戦闘時は身体強化を行っとくべきだし、何かあったら瞬時に臨戦態勢となって身体強化を掛けられるように訓練する必要がある」

 二人は静かに、しかし体を震わせる程度には涙を流している。恐らくどれだけ危険だったのかを今更ながらに実感したのだろう。俺も体を張ったかいがあったというものである。

「ごめ、んなさ、い」
「ごめん」
「これからは気を付けようね」

 十分身に染みたと感じ、もといこれ以上責めるのは酷だと思い話を締める。すると二人は遂に声を上げて泣き出してしまうのだった。



「夢人、大丈夫?」

 あの後、泣き終えた澪が都合三度目となる確認をしてくる。

「大丈夫だって。身体強化の密度を上げる方法もあるし、それを使ったから無傷だよ」

 身体強化はつぎ込む魔力を意図的に上げることで密度を上げることが可能だ。これにより魔物の群れの攻撃でもダメージを受けなかったのである。

「でも、あれだけ激しく攻撃されていたのを見てしまうと……」
「璃良も確認したとおり、傷一つないよ」

 まあ、中々に衝撃的な光景だったのは間違いないだろう。ただ、その分印象に強く残ったはずだ。こと戦闘関連のことは、重要なのでインパクトを与えて叩き込むに限るのである。もっとも、夢の異世界で師匠にやられた手口なのだが。

「でも二人は真似しないようにね」
「無理」
「怖くてできません」

 そんな二人の反応に笑いつつ、家路を行く。夕日で赤く染まる手元には常設処理で一つ千円のゴブリン素材。今日はこれで打ち上げをしても良いかもしれない。それとも記念に加工してあげた方が良いだろうか。二人がどちらを選ぶかと思案しながら二人を見ると、揃って小首をかしげたのがおかしくて再び笑うこととなった。

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