挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
非異世界ファンタジア 作者:なんこつ
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

23/50

第二十二話 魔法学入門

良かったなと思えたら評価ポイントをお願いします。
 楽しいもの、興味のあるもの、目新しいもの。そう言ったものには人間の目は優先的にいくもので、それに触れられるとなれば抗うのはなかなか難しい。弟子になれた二人もその例に漏れず、早速講義を受けたいと希望してきた。特に教材の用意が必要なわけでは無いから俺の方は構わないのだが、勉強会はいいのだろうか。

「実学の勉強会」

 物は言いようである。だが折角やる気になっていることだし、それを削ぐ意味もないので講義を始めることにしよう。

「じゃあ、そうだな。立花さんは――」
「澪。名前で呼ぶって言った」

 冒頭から壁にぶち当たった。あの前座のような名前呼び云々の要求は、俺の名前を呼ぶだけではなく、“俺に名前を呼ばせる”ことも含まれていたらしい。確かに言われてみれば『名前で呼び合うようになった』→『春日井くんも』という流れだから、俺も“呼び合う”必要があるわけだ。
……難題である。異世界の夢を含めて女性を親しい間柄用の名前で呼んだ経験などほとんど無い。その数少ない事例もせいぜい『仲間はそう呼んでるから』『幼稚園のルールだから』といった周囲に埋没した場合のみであり、間違っても気のある男女としてではないのだ。

「……」

 かといって避けて通れそうな感じでもない。前を見れば立花さんと一ノ宮さんが期待と不安と緊張を混ぜたような雰囲気でこちらを見つめている。やるしか、ないだろう。

「み、澪は――」

 瞬間、花咲くような笑顔を見せてくれる。これだけで頑張った買いがあったというものだが、内心緊張と恥ずかしさでいかんともしがたい気分だ。とりあえず、気を紛らわす意味も込めて講義を続ける。

「――魔法とはどんなものだと思う?」
「どんな?」
「そう、定義と言ってもいい」

 とりあえず最初は魔法についてのお話だ。彼女たちの実力を上げるにはまず座学で正しい知識を得てもらう必要がある。

「……魔物を倒す力?」

 自信なさそうにそう口にする立花さん。否、澪。

「なるほど。一ノ宮さ――璃良はどうおもう?」
「物理干渉能力、でしょうか」

 危うく呼び方を間違えそうになると露骨にがっかりして見せられたので、慌てて言い直す。ついでに今更ながら敬称を省いていることに気が付くが、特に何も言われないのでそのままの方が良いのだろう。

「なるほどなるほど。二人の回答は確かに魔法の特性に間違いはない。でもそれはあくまで特性であって定義とは少し違うかな」
「なら、正解は?」

 新しいルーズリーフを出してメモを取る用意をした立花、じゃない澪が訪ねてくるので答えを提示する。

「魔法とは“魔力というエネルギーを用いて”“想像を具現化する”能力である」

 何とも当たり前のようなことを言っているように感じられたのか、二人は微妙そうな顔をしている。だがまあ、数学などと同じでこの定義には魔法の基本が詰まっているのだ。

「とりあえず、解説ね。まず『魔力というエネルギーを用いて』とあるとおり、魔法使いは量の多少はあれど魔力を持っていて、魔法の行使にはそれを使う。当然なくなったらそれ以上は魔法を使えないし、不足していても魔法は発動しない」

 この辺は分かりやすい話ではなかろうか。電池が無くなれば時計もリモコンも動かないし、時計を動かすことができる電池でリモコンが機能するとは限らない。至極当然の理屈である。

「で、次。『想像を具現化する』というのはつまり、原則として魔力が必要量を満たせば“想像しうることは実現できる”ということだ」

 この表現に最初はピンとこなかったようだが、少し経つと二人とも答えに思い至ったようだ。

「まさか、属性の縛りが無い……?」
「無詠唱も、可能なんでしょうか」

 どちらも正解である。本来使えない属性など存在しないし、詠唱も必要ない。ただ魔力をもって想いを形にする、それこそが魔法なのだから。

「でも、現実問題として適性以外の魔法は使えない」

 どういうこと? そんな声が聞こえてきそうな表情の澪に思わず笑いがこぼれる。

「その適性、伸ばすことができないなんて誰が決めた?」

 絶句する澪。だがまあ、『適性』なんて単語を使われたら固定で伸ばしようがないと思っても仕方がないかもしれない。どちらかというと『熟練度』のほうが適切な表現なのだが。

「柔軟が得意な人が居る。筋力がある人が居る。スタミナに長けた人が居る。個性はあるのは当たり前だ。でも各自がトレーニングをすれば互いの領域までたどり着くことは不可能じゃない。そしてそれは使える魔法にも同じことが言える」

 水や氷の魔法を使う人が火の魔法を習得することも可能だし、全く使えない雷の魔法が使えるようにもなる。

「すごい……!!」

 そんなことを説明すると澪は目を輝かしている。ちなみに『適正』あるいは『熟練度』の正体を考察すると、“魔力の変換効率”という結論に達する。気取った表現をしたが、要は『熟練度が高いと省エネ』『熟練度が低いとロスが超大きい』ということだ。

 「では、無詠唱が上手くいかないのはどうしてなんでしょう」

今度は一ノ宮さん、もとい璃良が尋ねてくる。

「魔法に必要なのは二つ。必要に足りる魔力と想像だ。魔力が足りていると仮定すれば問題となるのは――」
「想像力、ですか?」

 こちらも先の澪と同様に、いまひとつ理解が届かないといった感じだ。

「そう。きちんとした想像が出来てないといくら魔力が必要量に足りてたところで魔法は発動しない。言葉ってのは意外と強力で、簡単に自分の中にある関連イメージを呼びだすことが可能だ。だからこそそれを省いた無詠唱は難しいものになる」

 例えば『攻撃に使う火を思い浮かべてください』と言われたところで、すぐに明確なイメージをするのは難しいだろう。だが『ファイアボールを思い浮かべてください』と言われれば簡単に連想が可能だ。ちなみに頭の中でファイアボールと念じても無詠唱が出来ないのは、ファイアボールという“単語”が連想されて“結果”がきちんと連想されてないからだ。繰り返すようだが魔法の発現に必要なのは魔力と結果の想像であって、単語ではないのである。

「なるほど。確かに無詠唱というと頭の中で詠唱すればいいという印象がありました」
「そこまでお手軽じゃないから、実戦ではなかなか使いにくいけどね」

 そういうと璃良は難しい顔をして考え込んでしまった。ところで、この『魔法はイメージ』に関連してわかることが一つ。それは、

「詠唱はどの言語でも構わない」

 ということ。

『え!?』

 二人が驚くのも仕方がない。なにせ今の世の中の魔法詠唱は皆英語なのだから。だが、極端な話、水という単語で火をイメージできるのならば火が発現するのである。それに比べれば言語が違うくらい何の問題でもない。

「確かに……」
「言語じゃなくてイメージが大切なんでしたね」

 理解が早くて何よりだ。もっとも、この先の魔法詠唱は英語が主流となるのもほぼ確定している。というのも、ゲームや映画により英単語とイメージがリンクしやすく、今現在使っている魔法を見てさらにそれが強まるからだ。

「まあ、英語以外にも選択肢があるという豆知識だね」

 これを応用すると漫画や映画の技の再現が出来たりするわけだが、それは割愛。



 新しいおもちゃを手に入れたら試してみたくなるのが人情というものだ。というわけで早速庭に出て先ほど得た知識を実践しようとしている。

「無理……」
「できません」

 とはいえ聞いただけですぐにできれば苦労しないのも確か。現に二人は三十分ほどで音を上げ、俺の下にやってきた。

「じゃあ、まずは無詠唱の方からやってみようか」

 そう言って指導を始める。二人の表情は真剣そのものだ。ところで、なぜ無詠唱からなのか。実は、無詠唱魔法は実戦レベルで身に付けるのは難しいが、試しにやってみるだけなら意外と簡単な方法があるからだ。

「まず、普通に水を出して。そしたらそれをスケッチできるくらいよく見てー……はい、止め。今度はさっきの光景を思い出しながら無詠唱を試してみて」

 すると、二人は先ほどと同様に水を出すことができた。もちろん、詠唱無しで、だ。

「え……」
「こんな簡単でいいの?」

 いいのです。もっとも、種明かしをすれば簡単なことで、直前に見た光景が鮮明に残っているうちに投影しているのだから出来て当たり前なのだ。実際の戦闘では何もないところから瞬時にイメージを引き出さなくてはいけないので、難易度が跳ね上がる。しかし、このようにイメージを焼き付けるような訓練をしておくとやがては定着し、前準備なしの無詠唱での行使も可能となっていくのだ。二人が先ほど上手くいかなかったのはゼロからイメージを構築しようとしたからである。

「もしかして、複数属性にもちゃんとした練習方法がある?」
「ご明察」

 複数属性、というか適性の拡張または熟練度上げには上昇幅のようなものが決まっている。つまり、魔力消費の大きい成功・魔力消費の小さい成功・失敗全般の順だ。ゆえに全く使えない場合は魔力消費の極力少ないものの量をこなすことが重要であり、少しでも使える場合は成功する最大級のもので訓練をするという質を重視した行動が是とされる。

「だから攻撃魔法で練習をするよりも、もっと簡単な魔法で練習をした方が良いかな」
「そっか」

 求めていた回答と違ったのか、少しテンションが下がる澪。まあ、やり方は違えど地道にコツコツやるという方針に変化はなかったのだから当然だろう。もっとも、

「裏ワザが無いわけでも――」
「教えて!」

 最後まで言い終わる前に食いついてきた。そんなに使いたい魔法があるのだろうか?

「んー……」

 だが、これは本当に裏ワザなのだ。特別に悪影響があるわけでは無いが、簡単すぎるがゆえに修行とか訓練という側面からやっていいのか迷うところである。

「お願い、夢人」
「任せろ」

 ……。ま、まあ、手札が早く揃えばその活用の方に時間を避けるし、安心のために弟子になったのだから早く手札を揃えるのは別におかしな話ではないだろう。そう、つまり、仕方がないのだ。決して手を握られて上目使いでお願いされたから陥落したのではない。

「それじゃ、手を出して」
「ん」

 気を取り直して作業を開始する。澪の手を取り、魔力の波長を合わせて準備完了だ。

「属性は何がいい?」
「光」
「分かった。始めるよ」

 手をつないだところを経由して、俺と澪の魔力を循環させる。

「あっ……ふぁ……んんっ……」

 澪が出しているどこか艶めかしさを感じさせる声にやや気を取られつつも、光の魔法を発動。せっかくなので目視できるような光の塊で蝶や動物などを量産していく。

「うぁ……んぅ……ひぅ……」

 ……そろそろ、いいだろう。魔法の使用をやめ、魔力の循環と同調を解除する。すると気が抜けたのか澪が寄りかかってきた。

「だ、大丈夫か?」
「うん……」

 見ると目の焦点が合っておらず、とても大丈夫とは思えない。そんな光景に璃良は不安そうな、でも羨ましそうな表情を見せている。しかし本当に大丈夫だろうか。こんなになるような技術ではなかったはずなのだが。



「凄かった」

 それから五分ほど経ってようやく復帰した澪の第一声はこれであった。

「ど、どんな感じだったんですか?」
「例えるなら、海に放り出されて荒波にもまれてるような感じ」

 おかしい。俺が夢の異世界において師匠にやってもらったときはせいぜい川をたゆたうくらいの感じだったのだが。もしかしたら保有魔力量の差が影響しているのかもしれない。まあ、それはさておき。

「澪、光の魔法使ってみて」

 そう俺に促されるまま澪がライトを詠唱すると、確かに空中に光源が現れた。どうやら成功のようだ。

「できた!!」
「これは一体どんなカラクリなんですか?」

 澪は素直に喜び、璃良は驚きの後に裏ワザへの興味を向けてくる。

「これは魔力同調っていう技術。個人によって異なる魔力を同調させて流し込むことで魔力を譲渡・共有したり、相手により大きな影響を与えるんだ。今回は魔力共有を使って俺が魔法行使を代行することで、澪の体に直接光魔法を使う感覚を叩きこんだ感じだね」

 澪に魔力を同調させたことにより、澪の体は魔力を通して光魔法を使う感覚というものを学んだ。つまり、魔力の変換の仕方を覚えたのだ。失敗で蓄積すべき経験値を成功で貯めて行ったのだから、修得があっという間なのも当然である。

「デメリットとかはないんですか?」
「特には。強いて言うなら保有魔力量が非常に大きくないと流し込むことができないのが欠点かな」

 水が低いところから高いところに行かないように、魔力も流すためには高圧がじゃないといけない。圧力が足りないと交換部分でダマになったり、逆に押し流されるからだ。ちなみに流した後に戻すのは単に流れを操作するだけなので非常に簡単だったりする。

「ああ、あと同調した相手の魔力を受け入れやすくなるプラスの副作用があるかな」

 基本的に魔力があると良くも悪くもレジストする。これが攻撃魔法の類ならいいが、回復やエンチャントも減衰するのだ。ゆえに魔力を受け入れやすくなると、相対的に見て効果が上昇することになる。あとはその魔力を受け入れるときにいくらかの多幸感と快楽があるらしいが、それはまあ些細なことだろう。

「えっと、それなら私もお願いしたいんですが……」
「私も他の属性の分もお願い」

 二人からのお願いにあらがう必要もないので、素直に了承の意を示す。ちなみにこの後幾度となく気が抜けた二人から抱きつかれ、興奮のやりどころに困ったのはまた別のお話。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ