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非異世界ファンタジア 作者:なんこつ
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第十九話 一罰百戒

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 それは思っていたよりもずっと早くにやってきた。

「春日井夢人だな。警察だ、同行してもらおうか」

 渡辺記者との話を終えて家に帰る途中、黒の乗用車から降りてきた背広の男二人に行く手を阻まれる。そしてそのうちの片方がさも当然かのように高圧的な要求をしてきた。

「お断りします」
「なに?」

 もちろん、素直についていくはずもない。だが、それが彼らには不服だったようで、眉間にしわを寄せてこちらを睨んできている。

「身分証明はなく、行先も理由も言わない。今時小学生でもついていかないと思いますが?」

 むしろすぐに警報器を鳴らされるであろうことは間違いない。そんな当たり前のことを返すと、舌打ちが一つ。

「警察だ、と言ったはずだが」
「では手帳をお願いします。併せて同行する場所と理由も。その後で最寄りの警察署に確認を行いますのでしばらくお待ちください」

 もっとも、こちらも実際に提示してくれるとは思っていない。騙りか疾しさから明かせないのかは分からないが、提示できるのなら初めからしているだろう。

「……手帳は、今は持っていない。同行してもらうのはある人と君に会ってもらうためだ。場所はいけばわかる」
「話になりませんね。確認するまでもなく不審者のようなので通報させていただきます」

 あまりにもひどいその説明は、本人も理解しているのだろう。苦虫を噛み潰したような表情の不審者Aに呆れつつ、通話の用意をする。するともう片方の不審者Bが先にしびれを切らしたようで、

「ごちゃごちゃ言わずについてこい!」

 俺の腕をつかみ、強引に車に乗せようとしてきた。それを捌きつつどこまで反撃したものかを思案していると、Aから慌てたような制止の声がかかった。

「止めろ! ! ……帰るぞ」

 想定外だったのだろう。やや年若いBは当惑しているが、それを無視して助手席に乗り込むA。Bはどうするか迷ったようだが、

「覚えてろよ」

 と捨て台詞を吐いて車に乗り込んだ。

「いつの時代の三下だよ」

 思わず出た呟きはエンジン音にかき消され、誰の鼓膜も震わすことはなかった。



 そんなことがあった次の日。

「こんにちは。今、少し時間よろしいですか?」

 インターホンが鳴ったので玄関ドアを開けてみると、そこには事件の日に俺の聴取をした刑事が立っていた。

「駄目です」
「おっと」

 反射的に拒絶の言葉を口にしてドアを閉めようとするも、靴を差し込むことで阻まれる。その展開に舌打ちをすると、さも心外だと言わんばかりの表情をする刑事。

「ごあいさつですね」
「仲良くする理由が無いので」

 むしろ、俺の魔法が目を付けられるようになった原因と思えば嫌いなほどだ。

「まあ、いいでしょう。本題ですが、今日は先日の事件の捜査の一環としてきました。捜査対象:春日井夢人の部屋の捜索、及び聴取のため警察署までご同行願います」
「拒否します」

 そして何の用かと思えば、ふざけたことをぬかしてきた。当然のように拒否すると、例の張り付けたような笑みをやめた真顔になる。

「事件の捜査の一環だ、と言ったはずですが」
「任意ですよね? どうしてもというなら逮捕状と家宅捜索令状を持ってきてください」

 いかに警察とはいえ、緊急性の認められる現場以外では裁判所の許可が必要だ。そのことを述べると、非常に苦々しい顔をする刑事。昨日も似たような表情を見たな、などと思わず考える。

「……何か、疾しいことでもあるのですか?」

 理で説き伏せられないから、感情を揺さぶる方向性にシフトしたらしい。もっとも、それが理解できる相手には効果が無いわけだが。

「仲が良くない人間にプライベートな空間に入られるのが嫌いなだけです。聴取の方もお話することはもうありません」

 それに、むしろ疾しいところが無いからこそ悪人のように警察署まで連れていかれたり、家探しをされることを認められないのではないかと思わないでもない。

「これ以上ねばるようなら、同職の方にきていただくのも吝かではありませんが?」
「……分かりました。日を改めてまた来ます」

 二度と来るな、と言いたいところだがそこは堪えて笑顔で見送る。しかし、

「急いで対策を考える必要がありそうだな」

 扉の施錠を確認した後そんなことを考える。昨日に引き続き今日も接触があったことから、近々強硬な手段に出られてもおかしくない。あの刑事の反応から警察全てが敵というわけではなさそうだが、抑止力として使えるかは微妙なところだ。かといって、単身乗り込んで大立ち回りをするわけにもいかないだろう。

「それにここをしのいでも、他の議員に目を付けられたら同じことの繰り返しなんだよなあ」

 厄介な案件に、頭痛がする思いだった。



「春日井夢人、我々とともに来てもらおうか」

 今週、フルネームを呼ばれたのはこれで三度目だ。予想はしていたとはいえ、流石にうんざりしてくる。ちなみに今回は黒服+サングラスが四人で囲んでいる。

「なお拒否した場合はお前の両親の命は無いものと思え」
「ほう……?」

 なかなか面白い冗談だ。思わず殺気が漏れ出してしまう程度には笑える。

「いいだろう。案内しろ」

 だが、あえてこの話に乗ることにした。もちろん、今この場でわずかな殺気に震えている彼らを処理するのは、難しいことではない。しかし、せっかくまとめて始末できるようにしてくれると言うのだから、それを利用する方が賢いだろう。

「こ、こっちだ」

 もっとも、それも既に両親の安全が確保できているからの話だ。異世界に行くと思っていたころに渡した魔法の指輪もあるし、家の中なら魔物出現時に展開した結界も作用する。最悪は俺が転移することも可能だ。現在世の中で最も安全なのは間違いない。ゆえに敵を排除することに集中できるわけだ。
 そんなことを考えていると、車が走り出す。この厄介事もあと少しだ。



 後部座席で揺られること一時間半。県の中心部からは大分離れた山奥で車は停止した。

「降りろ」

 目的地と思われる目の前の館は、森の中に隠すようにして建っている。外壁には蔦が這い、庭の雑草は伸び放題。とても人が住んでいるとは思えない。
 だが、全く使ってないわけでもないこともうかがえる。館の中は掃除が行き届いているとは言えないものの、埃まみれでもない。廊下にもきちんとすべての照明が灯っている。恐らく、いくつもある密会場所の一つとして、定期的に利用しているのだろう。そして、そんな場所を利用できる、利用しなければならない人物と言えば。

「遅い!!」

 ビンゴ! やはり黒幕と思われる警察系議員、権田平蔵が案内された室内でふんぞり返っていた。他には例の刑事と自称警察の二人組もいる。実に都合がいい。

「聞いているのかっ!? 私を誰だと思っている!」
「さあ? どちら様で」

 うるさく喚く豚に適当に返すと、さらに大きな声でわめき始めた。

「こ、この日本に住んでいながら、次期総理確実の権田平蔵を知らんだと! 一体どういう教育を受けてきたんだ、ええ!?」

 むしろお前こそどんな教育を受けてきたんだと思うが、もはや指摘してやるのも面倒くさい。こんな人間が力を付けられるあたり、政財界は碌なもんじゃないなとも思う。

「ふぅー、ふぅー。まあ、いい。さっさとお前の魔法の秘密とやらを説明しろ。その後はこいつらの指示に従って動け」

 そう言って、黒服や刑事、刑事もどきを指さす。

「妙なことは考えないことです。ここにいるのは全員魔法使いですし、法的にも公務執行妨害で逮捕できます」

 得意げにそう語る刑事は、前回の訪問時の反省を生かしたつもりなんだろう。だが、テロリストを多数無力化したから俺に注目しだしたのを忘れているのだろうか。それとも七人で制圧にかかれば対応できるとでも思っているのか。いずれにせよ、どいつもこいつも馬鹿ばかりなのは間違いない。

「何をしている。さっさと話さないか! 私はお前のような奴と違って暇じゃ――」
「もういい。黙れ」

 これ以上ここにいても得る物はない。本当なら構成員や横のつながりなども聞く予定だったが、無駄なようだ。であれば、彼らの望み通りテロ事件の時に使った技を見せてあげるとしよう。ただし、今回は『少し色を付けて』。



 それから数日後、ニュースではある政治家の病気療養が報じられていた。なんでも、地方の視察に赴いた際、警護の者たちと倒れているところを発見されたらしい。その後意識が回復するも、政務に支障が出る精神失調がみられるため療養扱いだとか。

「まあ、当然の結果だな」

 人の両親を人質に取り、自分の利益のために秘密を奪おうとし、あまつさえ駒に貶めようとした。それに反撃されたのに命があったのだから儲けものだろう。個人間戦争であったことを考えれば殺されても文句は言えなかったのだから、実に優しい決着と言える。

「それに、これは他の議員にとっても戒めとして作用してくれる」

 春日井夢人に目を付けた戦力持ちの議員が壊された。この事実は、俺に首輪をつけるどころか、飼いならすことさえ躊躇させるに違いない。リターンの程度も分からずに、超ハイリスクを犯せるものなどそう居ないのだから。事実、魔法で探査しても監視や盗聴の気配はない。
 昔、やり過ぎてはいけない旨を指摘されてから注意してきたが、今回はむしろやり過ぎが必要だった。俺と言う存在を、敵予備軍にとってアンタッチャブルな存在にするために。

「力を隠すこと。力を見せつけること。どっちも簡単じゃないな」

 無関係の第三者に恐れられないように力を隠さないといけない。だがそれで無視できない被害を出すようでは本末転倒だ。バランス取りの難しさ。それが今回の騒動の一番の教訓だった。そんなことを思いながら俺は床に就いた。

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