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非異世界ファンタジア 作者:なんこつ
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第十八話 記者

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 あの事件から数日経過したが、学校は臨時休校とされていた。相当な大事件であり、詳しい捜査や生徒の状態確認、保護者への説明などで授業どころではなかったのだろう。テレビでも連日テロリストの件について放送している。

「まあ、無理もないか」

 どうやらあのテロリスト集団――確か世界魔法連盟といったか――は、想像以上に大きな組織だったらしい。というのも、あの日占拠されたのはうちの高校だけではなかったのだ。全国六カ所の中学校と高校で同様の事件が発生し、実に三百名以上もの実行犯が逮捕された。幸いにも死者は出なかったが、怪我人はそれなりに発生してしまったようだ。これにより、世論は大きく揺れた。つまり、魔法使い管理論の再燃である。
 これは、単に大きな力を持つ魔法使いを危険視したというだけではない。魔法使い優遇政策への嫉妬や、一部の魔法使いの優位思想に染まった横柄な態度への不満というものが根底にあり、それが今回の事件によって噴出した形なのだ。ゆえにこの管理論に同調している人々は、魔法使いの就業先を冒険者や軍などの危険な仕事に限定しようという意見を展開している。

「まったく、迷惑なことだ」

 だが一方で、魔法使いの人数や戦力を考慮すると管理は現実的ではないと考えている人たちも未だ多く存在している。この意見は魔物討伐ボイコットによる被害の増加や、魔法使いによる反乱のリスクを嫌った結果だ。治安維持のための魔法使いを増やすにしても、進んでその道を選択するようにしなければならないという理屈らしい。
 当然両者の意見は対立し、今でもネットやテレビで激論が交わされている。

「で、それに対する政府の反応はこれか」

 手元のタブレットには『魔法使い登録法を制定!』の文字が。一見すると魔法使い管理派に寄っているように見えるこの法律。実は魔法使いであることを届け出る義務が出来るだけで、特別な制限が加えられるものではない。一応、魔法使いか否かの判別や人数の把握ができるようになるので全くの無駄ではないだろうが、現在騒動になっている魔法使いの扱いには何の影響もないのだ。巷では『管理の始まり』とかそれとは真逆の『無制限の意思表明』とか様々な憶測を呼んでいるが、冷静に見れば我関せずの単なる法整備。それが政府の結論だった。

「多分、どうしようもないんだろうな」

 ソファーに寝転がりながら、そんなことを呟く。
実際、ある法学者曰く、今のところほとんど法律をいじる余地が無いらしい。まず、現代で起こりうる犯罪に対しての刑罰は既に決まっており、魔法を使った犯罪が起きようとも法的な対処は可能だということ。仮に飛行魔法で空を勝手に飛んだ場合ですら、航空法で対処できるというから驚きである。
 また、無理をして魔法使いを制限する法律も作りようがないらしい。例えば、場所を選ばず突然魔物が出現する現状、銃刀法のように魔法に使用制限を掛ければ被害が無駄に大きくなるのは間違いないだろう。生まれ持った才能だけで就業制限など掛けようものなら人権侵害で騒動になるのも証明済みだ。

「結局、待つしかないってことか」

 性質の悪い連中を取り締まるのも、そのための人員を増やすのも時間がかかる。ゆえに国民は政府のテコ入れを期待しているわけだが、肝心の政府が保留を決め込んだ以上、大人しく混乱の波が過ぎ去るのを待つしかないのかもしれない。



 そんな考察をしながら午後の余暇を過ごしていると、母からの呼び出しがあった。

「夢人~。お客さんよー」

 俺に客? そんな疑問に首をかしげつつ、玄関へ急ぐ。

「やあやあ、久しぶり」
「……どちら様でしょうか」

 そこにいたのは見知らぬ男だった。

「あー、うん。あれから一年以上たってるもんねえ。覚えてないか」

 思わず失礼な反応を返した俺に対し、仕方ないとひとり納得している風の男。しかし一年以上前、となると。

「もしかして山小屋の時の記者の方、ですか?」
「そう、その通り! 今日は君にちょっと聞きたいことがあってきたんだ」

 やや自信のない推測に、妙にテンションの高い返事を返してくる男あらため山小屋の時の記者。しかし、記者、ね。今来るということは、先のテロ事件に関しての取材なのは間違いないだろう。問題は俺がその当事者であることと家の住所を一体どこで嗅ぎつけてきたのか、ということだ。聞いても素直に答えるとは思えないが、このまま捨て置いてもいいものか……。そんなことを考えていると、記者は少し顔を近づけてきて、囁く。

「君、変わった魔法を使うんだってね?」

 こいつ、何を知っている?



 あの後、場所を喫茶店に変えた俺と記者は向かい合って座っていた。

「それで、何をお聞きになりたいので?」

 目の前の人物を警戒対象に設定した俺の声はずいぶんと冷めているが、彼の表情は依然笑顔のままだ。余程握っている情報に自信があるのだろうか。

「まあまあ。まずは自己紹介といこうじゃないか。これから、長い付き合いになるだろうし、ね」

 実に不穏当な発言である。今のところこちらにメリットが見えないので、ご遠慮願いたいわけだが。だが話が進まないので、自己紹介くらいはすることにする。

「星海学園高等部一年、春日井夢人です」
「先読新聞社会部の渡辺友一(わたなべゆういち)です。どうぞよろしく」

 先読新聞と聞いて少し驚く。新聞業界最大手で、サッカークラブも所持している大御所だからだ。つまり、嘘をついていないとすれば、相当のエリートである。

「さて。早速だけど、事件の日の出来事について詳しく教えてくれないかな? 断片的な情報はあれども、全体像がつかめるような話はなかなか出て来なくてね」

 その程度ならば問題ない。警察や学校から口止めの話も来てないし、少々手間なだけだ。俺も自分が体験したことしか話せないことを前置きして、警察にしたのと同じ説明を行う。途中、質問もいくつか入ったが、まあ些細なことだ。

「――なるほどね。大体わかったよ、ありがとう」

 それよりも、渡辺記者は情報を聞けて満足そうだが、こちらにとってはここからが本題だ。

「ところで、俺の魔法についてですが」

 一体、何をどこまでつかんでいるのか。それ次第で、こちらも対応を考えなくてはならない。

「ああ、それか。実は、僕も別に何かを知っているわけじゃない。ただ、君の魔法に一部で注目が集まっているからカマをかけてみただけさ」

 ……。つまり、あたかも何かを知っている風だったのは、取材の場に引きずり出すためのブラフだったということか。暫しの思考の後、その結論に至り安堵する。冷静になった今考えればあり得ないことだが、あの瞬間、魔法陣か何かを知られたのかと思ったのだ。その場合、周囲も危険に巻き込むレベルの騒動になる可能性が高かった。ゆえに緊張も警戒も仕方がないことではあるのだが、いささか間抜けな気がしないでもない。
 ……いや、待て。

「では、その注目の対象が俺だという情報は一体どこで?」

 俺の魔法については何も知らなかった、それはいい。だが、『俺』が魔法を秘匿していること自体を知っているのもまたおかしいのだ。
 テロリストを倒した魔法を秘匿している学生がいるらしい、くらいならつかめるだろう。逆に事件関係者の一人として俺の名前や住所を調べることも不可能ではないかもしれない。だが、その二つを結び付けることはできないはずなのだ。唯一あり得るのは、俺の魔法に注目しているという一部の連中の一味であり、事件について詳細な情報を手に入れられる立場。つまり、渡辺記者の目的は取材ではない。それどころか記者ですらない可能性がある。

「やはり、君は優秀だな」

 一瞬気を緩めた俺が、再度警戒態勢に入ったのが分かったのだろう。彼は苦笑しながらそんなことを口にする。

「質問に答えよう。その情報は元同僚の官僚に聞いたんだ」

 そしてどこか面倒な気配のする回答が返ってきたのだ。



「つまり、注目している一部というのは政府ですか……」

 頭の痛くなるような情報に思わず頬が引きつる。出てきても精々警察くらいだと思っていたが、あの刑事とのやり取りは随分上の方まで上がっているらしい。

「そうだね。そして天下り組の僕にコネで情報が回ってきたってわけ」

 ああ。政府なら個人情報くらい調べるのは分けないだろう。もっとも、コネで情報漏洩というのは大問題だと思うが。

「……君は、天下りと聞いても何とも思わないんだね」

 どこか驚いた風の渡辺記者がそういう。

「普通、君くらいの年頃ならそういうのを毛嫌いしそうなもんだけど」
「そうですかね?」

 高校生にもなれば、過度ではない必要悪くらいは容認できるようになる物ではないのだろうか。もっとも、俺の場合は未来体験の記憶があるので参考にはならないが。

「そもそも、天下り自体は優秀な人員の再配置と考えれば悪くないように思えますが」

 そう口にすると、今度こそ渡辺記者は驚きで目を丸くした。だが、利点のみに目を向ければそこまでおかしな考えでもないだろう。
 まず、官僚機構がピラミッド構造である以上、あぶれるものは必ず出てくる。その時の受け皿が無ければ賄賂を誘発し、組織腐敗の一因となることは間違いない。つまり、逆説的に組織運営の一助になっていると言える。
 また、基本的に官僚を目指すような人間というのは優秀だ。そんな人材を獲得できるというのは企業にとってもメリットではないだろうか。加えて、政府と企業のパイプが出来るのも情報統制や現場の情報の獲得に使えるはずだ。天下りを悪用する馬鹿のせいで印象が悪くなっているが、仕組み自体は合理的なのだ。
 そんなことを喋ると、軽く手を叩きながら何度も頷くのが目に入った。

「理解度が高くて助かるよ。国民全員がそうだったらいいんだけどね」
「これも、一つの見方に過ぎませんからね」

 天下りの多用やパイプを利用した癒着などの不正に対する監視制裁機構が無かったり、異動後の本人のやる気だったりと問題もたくさんある。先ほどの意見はあくまで『利点にのみ』目を向けたものに過ぎず、実際に運用するには未発展の欠陥システムであることは間違いない。もっとも、こちらは思うだけで口にはしない。せっかくリップサービスでいい気分にさせたのに、わざわざ水を差す趣味はないのだ。

「それでも、冷静に物事を分析する姿勢があるだけ相当のものだよ」
「どうも」

 そろそろ本題に戻ってくれないだろうかと思いながら、コーヒーの入ったカップに口を付ける。取材が目的でなかった以上、彼には何か別の目的があるのだから。

「そんな君に警告だ」

 来た。

「君の秘密を探るのに人一倍熱心な奴がいる」

 そう言って一枚の写真を懐から出す。

「彼の名前は権田平蔵。警察出身の議員で、コネを使った強引な手法で政財界における発言力を強めてきた危険な男だ。君も顔くらいは見たこともあるんじゃないかな?」

 残念ながら記憶にないが、写真に写った強烈な悪人面はしばらく忘れられそうにない。

「おそらく、近々君に接触してくるだろう。奴は総理大臣に駆け上がるために手札を欲しがっているからね」

 今ホットな魔法関連でアドバンテージを取れれば確かに強力なカードになるだろう。目を付けられた方としては面倒なことこの上ないが。

「ちなみに、他の政治家はどんな感じです?」

 仲間内で足の引っ張り合い、もとい牽制してくれるなら対処が楽に出来そうなのだが。

「残念だが、様子見を決め込むようだ。君が奴に下れば間接的に自分の利益になる可能性がある。万に一つも君が勝てれば邪魔者を消せて、消耗したところに自分が攻め込むという腹みたいだ」

 残念ながらそうは問屋が卸さないらしい。記者も何が面白くないのか、顔を顰めている。

「どうする。俺から知り合いの議員に掛け合ってみようか? もちろんタダとはいかないだろうが、大分マシな結果に落ち着くと思うが」

 ……なるほど、これが目的か。

「いえ、大丈夫です」
「大丈夫って……」

 俺の答えに驚く記者。だが、事実だ。この程度ならまだ余裕を持って対処が可能だ。

「奴には私的に警察を動かしたり、脅迫行為を行うという噂も――」
「大丈夫です」

 引き続き俺に危険性を解いてくる渡辺記者は、しかし俺の再度の拒否に途中で言葉を止める。

「そうか……。だが、気が変わったらここに連絡をしてくれ」

 そう言って名刺と金を置いて渡辺記者は席を立つ。

「ええ、ありがとうございます」

 これは、情報をくれたことも含めてのお礼だ。

「くれぐれも」

 歩を進めていた渡辺記者は店を出る足を途中で止め、振り返り口を開く。

「くれぐれも無茶はしないようにな」
「ちょっと何の話か分かりかねます」

 そう俺が笑顔で返すと、彼は苦笑して今度こそ店を後にした。



 おそらく、渡辺記者の今回の目的は俺を助けることだったのだろう。ただし、善意のそれではなく、自派閥の議員が俺への貸しというカードを手に入れるため。要はメッセンジャーだ。ついでに自分の評価も上げられるという思惑や、成功報酬もあったのかもしれない。ただ、少なくとも議員や情報提供をした官僚とグルなのは間違いないだろう。そうでないと情報の入手理由の説明が付かない。
 あるいは情報を得たのは偶然で、覚えていた俺に善意で手助けを申し出てくれた可能性もあるが、流石にそれに期待するのは楽観的すぎるだろう。それに、仮にそうだとしても情報提供側の官僚は間違いなく俺を利用する腹のはずだ。

「少なくとも、頭から信用して頼るのは危険だな」

 そう結論付けた俺は冷めたコーヒーを飲み干し、伝票を片手に会計に向かった。

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