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非異世界ファンタジア 作者:なんこつ
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第十七話 脱出

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 突如響く爆発音。それも一つではなく複数だ。さらに散発的にではあるが、銃声も聞こえてくる。窓の外に視線を走らせると、向かいの三年棟の方で火の手が上がっているのが見える。

「一体何が……」

 何とも言えない。MATが突入したのか、それとも魔物でも現れたか。あるいは生徒が反乱を起こしたか。

「詳しいことは分からない。でも、チャンスだ」

 そう、これは好機である。三年棟の方を再度見てみれば、一年棟から多数のテロリストが応援に駆け付けている様子がうかがえる。つまりこの場は限りなく手薄な状態だ。すなわち、

「今なら、逃げられる」

 後を引き継いだ立花さんの言葉に、教室の空気が緊張する。帰れるという希望を危険なのではないかという不安が押しとどめて形成されるこの雰囲気。なかなかに悪くはないが、無駄に引き延ばすこともないかと口を開く。

「ああ。リスクは零じゃないけど、先に検討してた三案よりも今は現実的だ」

 というのも、最も危険だった隊列の中腹および後方への追撃の可能性が激減しているからだ。

「前方に敵が現れた場合は俺が処理をする。攻撃に専念するために、一ノ宮さんと立花さんは俺の後ろで流れ弾への対処を頼む」

 その言葉に二人は頷く。

「全員、貴重品だけもって廊下へ。迅速に、静かに、慌てずに」

 そう言って教室を出ると、クラスメイトも急いで廊下に並ぶ。一ノ宮さんと立花さんも“最も守りやすい”俺のすぐ後ろにいることを確認したのち、出発の合図を出して早歩きで歩き始める。



 出口である正門まではさほど遠い距離ではない。ただし、注意すべきポイントが二つ存在する。
まずは、階段までの各教室。ここに敵が残っていた場合、放置すると当然気づかれて追撃を受ける羽目になる。故に。

「気づかれる前に、仕留める」

 扉ののぞき窓から室内を確認し、テロリストが残っていた場合は扉をわずかに開けて魔法で気絶させる。これで後方の安全を確保できる。その後は、他クラスの生徒から何かを問われる前に先に進む。余計な負担を背負う気は無いのだ。もっとも、勝手に列の後方に加わっている連中も多く存在するが、それは万が一後ろから襲撃された際のいい盾になると割り切る。ちなみに階段までに四つの教室を通過し、うち二つでテロリストを倒した。
 二つ目は一階まで降りた後、正門正面までに存在する職員室・事務室・校舎出入口の存在。ここの連中は何かあっても移動しないように厳命されているのか、数が多い。探知魔法を使うと、全部で十二人の魔法使いがいることが判る。

「ここでも奇襲を?」
「いや、流石に広範囲に多数点在しているのを気づかれずに始末するのは難しい」

 声を潜めて訪ねてくる一ノ宮さんにそう返す。これが異世界の夜の森などだったら限りなく無味無臭に近い毒を用いるなどの方法もあるのだが、流石に現代日本の学生の身分では無理がある。

「では、どうすれば……?」

 不安そうに瞳を揺らす彼女を一瞬確認した後、明確に答える。

「俺が急襲する」
「なっ、きけn――」

 大声を出しそうになった一ノ宮さんの口をとっさに塞ぐ。立花さんがその様子をジト目で見ているのが気にかかるが、それはとりあえず置いておこう。

「静かに。これしか方策は無く、議論をしている暇もない。終わったら合図をするから、それまで流れ弾に警戒してほしい」

 今は敵の隙をついての脱出中であり、説得に割く時間も惜しい。

「けどっ」
「本当に大丈夫だから。俺の戦闘力は、おそらく常人の想像の上をいく」

 それでもなお食い下がろうとする彼女の言葉にかぶせて、絶対的な自信を示す。これで駄目なら一時的な拘束も辞さないつもりだ。

「……わかりました。くれぐれも気を付けて」
「ああ」

 そんな思いが伝わったのか、一ノ宮さんは続く言葉を飲み込み、俺を送り出す言葉を口にした。それに短く、だがしっかりと返事を返す。そして俺は各部屋に面する廊下に躍り出た。



 身体強化を展開し、廊下を駆ける。全速には程遠く、しかし隠密性に優れた歩法で滑るように職員室の扉の前へたどり着く。当然、テロリスト連中が気付いた様子はない。

「さて、行くか」

 僅かに空気を震わせる程度の呟きの後、当たり前のように扉を開け室内へ。そのまま適当な教員の机の前に行き、引出しを漁る。

「?」

 違和感が限りなく小さい場合、人はその事象に対しすぐに否定的な反応をできない場合がある。その場合、自身を納得させる合理的な理由を探そうと暫し思考することで、状況に対する反応が遅れるのだ。例えば、浮浪者じみた男が女子トイレの前を往復していれば不審に思い通報するが、身綺麗なスーツの男が教室の前を堂々と歩いていても学校関係者なのかもしれないと考えるように。今回は、それを利用した。テロリストは、余りにも当然のように入室したあげく彼らに一瞥もよこさず作業をする俺に対し、困惑しているようだ。なお、この策は俺たちの教室に来たような短気で思慮の欠片も無いような人間には通用しにくいので、今回は相手が良かったともいえる。

「おまえは、――」

 少し机を漁ったあと、顔を上げてテロリストの方を向いてからようやく彼らの一人が俺に何かを尋ねようと口を開く。もっとも、それにつきあう理由もない。身体強化を再度展開した身で先より強めに床を蹴り、テロリストの一人に接近。そのまま勢いを拳に乗せて腹部を強打することで戦闘不能にする。唖然とする俺以外の大人六人。ちなみにいずれも魔法使いではあるが、二人は教員であり、装いからもテロリストの残りは四人だと判断できる。

「次」

 わざわざ一言入れてから別のテロリストに接近し、今度は顎に強烈な蹴りを入れる。

「な、なんなんd――」

 その次は口を開いたやつの首を絞めながら片手で持ち上げ、気絶確認後に床へ。残った二人はようやく事態の不味さを認識したのだろう。わずかに悲鳴を上げながら事務室方面に逃げて行った。
 それから特に急ぐこともなく歩いて廊下に出ると、そこには七人の魔法使いが。魔法で調べた分にはこの辺の魔法使いの数は十二人だったので、テロリストはここにいるので全てだろう。全員釣りあげられたあたり、あえて二人を見逃した甲斐があったというものである。とはいえ、その反面彼らにこちらを侮る雰囲気はみられない。既に腕を前にだし、魔法を行使する戦闘態勢だ。

「ふう」

 だがその行為に意味はない。にらみ合いもなく、開戦の合図もなく、声を交わすことすらなく。しかし次の瞬間に彼らは倒れ伏す。もちろん全員が突然持病の発作を起こしたわけでは無い。俺が制圧したのだ。

「大丈夫ですか!?」

 俺の安全確保の合図を受けて駆け寄ってきた一ノ宮さんが、やや大きな声で尋ねてくる。

「ああ、大丈夫だよ」

 思わず苦笑を漏らしながら、そう返す。状況を見れば問題ないのも分かりそうなものだが、それだけ心配してくれていたということだろう。

「さっきの、なにをしたの?」

 一方、立花さんは先ほどの制圧の様子を見ていたのか、疑問の表情を浮かべている。

「んー。秘密、かな」

 別に教えてもいいのだが、多数が聞くことのできるこの状況でというのは好ましくない。それに、外に出る方が先決だ。というわけで、頬をふくらましてる彼女には悪いが今は秘匿ということにさせてもらう。

「とりあえず、外へ出よう」

 俺のそんな言葉と共に、一年生徒の一部はテロ現場からの脱出を再開した。



 その後、正門では大騒動になった。爆発があったかと思えば、多数の生徒が校舎から出てきたのだから当然だろう。だが、そういうものだとは理解していても大砲のようなカメラを向けられたり大量のフラッシュをたかれるのは気分のいいものではなかった。幸い、警察がガードを行ってくれたので煩わしいインタビューを受けずに済んだが、代わりに警察の聴取が待っていた。特に脱出の先導をし、テロリストを多数倒している俺はパトカーの中での特別待遇だ。こんな特別は嬉しくないと声を大にして言いたい。

「さて。詳しい話を聞きたいのですが、大丈夫ですか?」
「嫌だと言ったら開放して頂けますか?」

 身を乗り出してきそうな様子で確認をしてくる刑事に、軽いジョークで返してみる。

「――もちろん、これは任意ですので。ただ、その場合はこのマスコミの嵐を自力で抜けてもらうことになりますね」

 一瞬呆気にとられた風の刑事はすぐに笑顔を浮かべて、しかし目は決して笑っておらず、そんな脅しを仕掛けてきた。いい根性である。

「なるほど、任意という名の強制ですか」
「理解が早くて助かります。こちらも詳しい状況を知る必要がありましてね。もちろん、聞き取りを終えた後はこのまま自宅まで送ることを約束しましょう」

 笑顔での応酬に運転席の若い制服警官は頬をひきつらせていたが、そんな様子ではこれから苦労しそうだ。

「では気を取り直して。まずは事件の起こりから――」

 そうして俺の聴取は幕を開けた。



「なるほどなるほど。大体の事は分かりました」

 冒頭から不穏な応酬をした聴き取りは、思いのほか順調に進んでいった。

「ところで、使用した魔法についてですが――」
「先ほど述べたように、詳しい説明をするつもりはありません」

 そう、一部を除いて。

「ん~、困りましたね。こちらとしても書類作成の都合上、『はいそうですか』と引き下がるわけにはいかないのですが」
「それは俺の知ったことではありませんね。こちらとしても記録されるようなところに手の内を晒すつもりはありませんから」

 少なくとも、俺が現在どの魔法使いよりも優れていることは明らかだ。故に、その情報を
求めて騒動が起きる可能性がある以上、警察・軍・企業・国家といった一定以上の組織に対しては警戒する必要がある。

「それは、秘匿せねばならない情報があると?」
「あなたがあると思えばあるし、無いと思えばないのでしょう。その判断は俺がすることではありません」

 俺の発言に対して目を光らせた刑事を、煙に巻く。

「調べれば、分かることですよ?」
「ご自由にどうぞ。ああ、これで書類の作成も問題なくできますね」

 笑ったまま、しかし確実に威圧をかけてくる刑事。それは一般人なら恐れをなして口を割ってしまうのかもしれない。現に運転席の警官は顔を青くしてる。だが、今回は相手が悪い。こちとら殺しの記憶もあれば実戦経験もある身だ。魔力も伴わないただの威圧など、そよ風にも満たない。

「……」
「……」

 無言の応酬。どちらが先に諦めるかの我慢比べ。もっとも、こちらは絶対に負けないのだが。

「話せ」
「断る」

 ついに痺れを切らした刑事が笑みを消し、低く唸るような声で命じてくる。それに対しこちらも軽く威圧を含めて即答することで返す。ついでに敬語も抜いておいた。

「こちらにはいくらでも手段があるんだぞ?」
「ならば精々俺の不興を買わない程度に行うことだ。くれぐれも後悔しないように、な」

 意味深な言葉を放ってくる刑事に対し、こちらも含む物言いで返事をする。大方、多数のテロリストを制圧できる手段の確保と、それを持つ俺自身の危険度の調査をと考えたのだろう。だが、脱出してから聴取に入るまでの時間の短さから、それはこの刑事の独断であることは間違いない。ゆえに、彼らの上位の意思決定次第ではあるが、これ以上の追及は無いと考えられる。なにしろ、本来の捜査でそれどころではないはずだから。仮にこちらに害をなそうとしてきたら文字通り排除すればいいだけの話だ。

「……今日はここまでにしておきましょう。ご協力、ありがとうございました」

 こちらが折れることのないことを理解したのか、元の笑みを浮かべ直し、聴取を締める言葉を口にする。

「いえいえ、ご苦労様です。あ、送迎は結構ですので失礼します」

 こちらもそれに合せて口調を敬語に戻し、そのままパトカーから退出する。そしてフラッシュとマイクの濁流を泳ぎ切り、家路に就いた。
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