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非異世界ファンタジア 作者:なんこつ
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第十三話 魔法使い管理条約

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 世界から魔物が大きく減り、人間が勢力と生活に回復の兆しを見せた矢先、その議題は持ち上がった。

「魔法使い管理条約?」

 日課の散歩、もとい見回りから帰ってきた俺に知らされたのは、実に奇妙な単語だった。

「そうなの。なんだか、国連で議題に上がってるみたい」

 詳しく聞いてみると、魔法使いという存在はすべからく国連所属にしたうえで行動を厳密に管理し、核武装や戦艦などと同様に保有比率を決めて貸し出すべきだということらしい。

「馬鹿な、ありえない!」

 確かに魔法使いはマイノリティーではあるが、弾圧的に管理できるほどの少数でもない。とてもではないが、正気とは思えなかった。

「でも、羽部さんも会見で前向きに検討するって……」
「まじか……」

 不安そうにする母をよそに考える。どうやら俺は、魔法という要素が与える影響を甘く見ていたらしい。てっきり、世界を魔物という脅威から退けた魔法使いは英雄視されるものだと思っていた。魔物が発生し続ける以上、討伐ノルマや職業的な制限が加えられることはあっても、その存在は大切に扱われるのだと。
 だが、現実は真逆だった。その身分を奴隷に貶め、魔物を排除するためのロボットにしようとしている。魔法使いと一般人の立場の違いからくる確執くらいは予想していたが、こんな事態になるなど想定外もいいところだ。

「あまり大事にならないといいのだけれど」
「まあ、無理だろうね」

 こんな事案が騒動にならないはずがない。



 案の定、このニュースは瞬く間に世界を駆け巡り、大問題に発展した。命を懸け、人類を救った報酬がこの仕打ちかと。当の魔法使いだけでなく、条約締結の暁には引き離されてしまう家族や、魔法使いに対して感謝している一般人も多くが怒りに燃えた。

「当り前よ。それだけ親にとって子供は大切なんだから!」

 我が母上もお冠である。異世界転移での別れを回避したと思ったら、今度は国によって世界に売り渡されそうになっているわけだから、それも仕方のない事なのだが。

「同僚も十二歳の子供が魔法使いだから絶対に反対だと言っていたな。社長もこの間危ないところを魔法使いに助けられたらしくて、朝礼で激怒していたぞ」

 父も職場で身近に感じたことを話す。どうやら今回の件、怒りや不満という名の火種を非常に多く生み出しているらしい。そして小さな火種は集まり、やがて大火事へと発展する。
 最初に起きたのは世界各地でのデモだった。街頭で演説をし、プラカードを持って行進する。条約反対の署名活動も盛り上がり、時には議会会場の前で座り込みが行われたりもした。しかし、政府には全く響かない。政治は全く反応しない。
 業を煮やしたデモ隊は、やがて暴徒へとその姿を変える。だが、それに対して世界の政治家たちがやったことはさらに燃料をくべることだけだった。曰く、

「彼らはテロリストと変わらない」
「魔法を使う者は異教徒である」
「我々政治家こそが正義だ」
「魔法使いは野蛮なことが証明された。やはり我々が彼らを管理しなければならない」

 などなど。極めつけが、

「魔法使いなどという化け物などは魔物と同じだ。我々と同じ人権を有することはない」

 と来た。
 そして次の日、この発言をした東南アジアの次期大統領候補が死体で発見された。



「ついに死人が出たか」
「発言した内容が酷過ぎたから同情する気にはなれないけれど、なんだかやりきれないわね」

 両親の言葉には、どうしてこうなってしまったのか、どこまで発展するのかという思いが込められているように感じる。

「もともと過激な発言が多い人で、敵をたくさん作っていたみたいだし、なるべくしてなった感じはするけどね。ただ、これを契機に紛争に突入したりすると、その流れが世界的に広がりそうで怖いかな」

 なにせ、魔法使いという武力が既に民衆側に存在するのである。それに加えて諸外国では銃が出回っているところも少なくない。紛争などに発展したら多くの死傷者が出るのは間違いなく、また収拾を付けるのが大変になるのは明白だ。

「そろそろ政治家が現状を正しく認識してくれればいいんだけど」



 残念ながら、これでも各国の基本姿勢は変わらなかった。相も変わらずテロには屈しないだの、正義は悪に負けてはならないだのと口にしている。

「一体何がここまで頑なにさせているのかが分からんな」

 恐怖か、欲望か、あるいは責任感かもしれない。だが、いずれにせよもう手遅れだろう。最近はそんな空気を感じる。



 やはりというべきか、騒動は激化し、多くの国で紛争に発展した。激突する国軍と魔法迎合群。多くの人が傷つき、死んでいった。中には武力革命が起きた国すらあり、そこは史上初の魔法使いが治める国となった。日本でも紛争こそ起こらなかったが、国会や総理官邸に火炎瓶が投げつけられたり公用車が破壊されるなどの事件が多数発生する。

「世も末だな」
「終末世界再びって感じだね」
「せっかく魔物を減らせて平和になって来ていたのに……」

 幸い我が家は騒動が起きるような場所に建っていないが、毎日放送される何件もの事件や紛争の進捗状況に、飽きを通り越して疲弊してくるほどだった。
 事ここに至って、ようやく世界の政治家たちは事態の深刻さを認識したようだ。問題発言をした者たちは発言撤回と謝罪。しかし事態は改善されず、責任を問われ辞任。各国でトップが件の条約を批准する意思がないことを明言し、魔法使いを含めた国民に理性的な対応を望んだことで、ようやく事態は終息に向かい始めた。ちなみに提案された条約はというと、当然ながら即時否決されて終了となった。



「何見てるの?」

 風呂から上がると、父も母もリビングでテレビを見ていた。それも、母の方にいたっては洗い物を途中で放り出している。

「夢人か。あの特集がそろそろ始まるらしい」
「ああ、あれ」

 二日くらい前から頻繁に宣伝をしていたニュース番組の特集。なんでも、今回の魔法使い管理条約をめぐる騒動について、詳しく解説してくれるらしい。キャッチコピーは『もっとも早く、もっとも詳しく』だったか。

「どの程度の物なんだろうね」

 まだ終わってから日にちが経っていないどころか、むしろ終息していないところの方が多い状況でどれほどの情報が集まったのだろうか。

「専門家以外にも与党の政治家も出演するらしい」
「へえ」

 それは意外と期待が出来そうだ。

「あ、始まったわ」

 今日のトップニュースが終わり、特集の時間がやってきた。



 特集は思っていたよりもずっといい出来だった。三十分ほどだったが、各国政府の思惑に焦点を当てた非常に分かりやすいものだったのだ。

「これは、製作者に臨時ボーナスが出してやってほしいな」
「感心しちゃったわ」

 まず、今回の条約を提唱したのは中国だった。ではなぜ中国はこんな提案をしたのか? 答えは、中国の魔法使いの人数にあった。日本は当初、会見で魔法使いの割合は五十人に一人と発表したがそれは半分間違いで、世界の平均は二百人に一人ほどの割合だったのだ。五十人に一人というのはあくまで日本の話。当の中国に至っては千人に一人程度だったという。経済がようやく世界に追い付いてきたところに、この魔法使いという新たな格差の登場。これを認めることができなかったことこそが、中国が議題を挙げた理由である。

「でも、中国はあんなに国土が広いのに魔法使いが少なくて大変ね」
「面積は二十五倍以上なのに、魔法使いの人数は日本の六割程度だもんね」

面積に対する魔法使いの人数の差は治安維持力、ひいては国力に直結する。中国的には死活問題だったのだろう。
 一方で、多くの国が同調する姿勢を見せたのは、シビリアンコントロール、つまり内容通りの魔法使い管理が目的だったようだ。この結論に至らせたのは日本の発表したレポートに一つの事実があったからだという。すなわち、魔法使いが身体強化を行うと、魔物同様に銃などが効かなくなるという事実である。

「でも、弾圧を選ばなくても他にやりようはあった気がするけど。身体強化の対物理バリアだって効果時間は魔力量依存なわけだし」
「人は理解できないものや対抗できないものに恐怖を感じて排斥しようとするものだからな。仕方がなかったのかもしれん」
「でも、ちょっと考えれば可能な数じゃないって分かりそうなものなのにね」

 現行兵器で対抗できない戦力、これはそのまま今後の国家間のパワーバランスとなり、現在の国家間の安定を崩すことに繋がる。これを嫌った各国は、いっそ魔法使いを誰の物でもない国連所属にし、現状に沿って再分配しようとしたようだ。

「平和を守る、というよりは平和ボケしてたって印象よね」
「たぶん、いつものように不平不満が出つつも結局は思い通りになるって思ってたんだろうね」
「そうね……。さて、洗い物しなくっちゃ」

 台所に向かう母をよそに、父に問う。

「これから、どうなるかね?」
「順当にいけば飴を与えてくるだろうな」
「飴?」
「ああ」

 魔法使いの優遇政策でもくるのだろうか? だが、するにしても優遇の仕方が思いつかない。疑問を胸に、その日は床に就いた。



 父の予想していた飴の正体は、次の日には判明した。各国政府は方針を真逆、弾圧策から懐柔策に転換し、免税・魔物からの獲得品の所有権認可・ギルドの設立などの過度ともいえる魔法使い優位の政策を打ち出したのだ。

「免税とか露骨すぎるもんな……」

 免税は、魔物素材の取引で得た利益に関して無税化するものだ。魔物討伐時に得られる素材は基本的に新素材であり、国や企業がこぞって求めている。今は研究用だろうが、そのうち商品の原材料としても価値が出てくるだろう。その取引が無税。実力さえあれば、莫大な富を築くのも不可能ではない。政府としては経済刺激と魔物討伐の促進も狙っているのは間違いないが、それがわかっていても一般人は不満に思いそうだ。

「魔物からの獲得品の所有権認可、は、まあいいか。当然のことだし」

 免税を機能させるためにもこれは必要だ。これまでは国が所有権を主張し提出を求めていたが、あの大騒動時に民衆から反感を持たれた原因の一つだったので改善は当然ともいえる。

「で、これが一番問題なんだよな。ギルド設立」

 設立の真意としてはハコ物を作ったり、天下り先のポストを用意することなのつもりは明らかだ。ただ、表向きは仕事の斡旋と情報面での手厚いサポートとなっており、おそらく実行もされるだろう。しかし、これは魔法使い専用のハローワークができるようなものなので、ずるいと思われても仕方がない。
 他にもギルド員の公共施設の割引や公務員への優先就職権など、国によって違いはあるが様々な優遇策がこれでもかとある。

「それでいて、討伐や従軍の義務はないと来た」

 一応、国としては適切な質と量を必要時にギルドの募集で賄える予定だから必要ないとのことだが、責務が無いのに利権だけという状況は不満の温床だ。
余りの贔屓具合に一般人から逆に苦情が出そうなものだが、そこは先の件の謝罪と人類救済の報酬だと説明していた。しかし、魔法使い側がどう受け取るかはわからない。これで魔法使いが偉いとか、優秀な生き物だなどと勘違いするものが出ないとも限らないのだ。
 魔法の登場による混乱の改善の道のりは、まだまだ不透明なものに感じられた。

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