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非異世界ファンタジア 作者:なんこつ
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第十二話 急転

良かったなと思えたら評価ポイントをお願いします。
 魔物が現れてから一週間が過ぎ、いよいよ明日は打って出ようというその時になって、事態は急変した。一週間ぶりの緊急速報が流れ、自衛隊による魔物討伐成功の報が入ったのだ。



 ――臨時ニュースをお伝えします。今日未明、複数の自衛隊員が魔物を討伐することに成功しました。彼らは手から火球のようなものを飛ばし、それが当たった誘導中の魔物を討伐したとのことです。なお、討伐された魔物はその一部を残し、死体は消え去った模様です。政府はこのことに対して速やかに原因究明を行うことを宣言しており、――



「これは……」
「間違いなく、魔法だろうね」

 一部を残し死体が消えるのは、魔物を討伐した時の特徴だ。そして、単純な物理攻撃では魔物を倒すことはできない。手から火球を出したということからも、魔法と判断していいだろう。泊まり込みでやつれ、くたびれていたキャスターも久しぶりの朗報に今日は生き生きしている。

「もしかして、私たちも使えたりするのかしら!?」

 目を輝かせている母には申し訳ないが、両親から感じる魔力が増えたようには感じられない以上、使えるとは思えない。しかし、庭先に向かって唸りながらファイアとかウォーターとか口にしている母は大真面目で、この事実をいつ伝えるべきか悩むところだ。

「だが、なぜ今になってなのだろうな」

 魔法の練習をしている母をよそに、父がそんな疑問を口にする。

「さあ、ね」

 もしかすると、一週間前のあの日から既に使えたものに今回たまたま気が付いただけかもしれない。あるいは魔物と言う脅威に対抗すべく与えられた恩恵の可能性もある。ただ一つ確かなのは、魔物が出現した理由も解らないのに魔法が使えるようになった理由など解るはずもないということだけだ。



 半日が過ぎ、日本での魔物討伐成功の報が世界を駆け巡った頃、政府は緊急の会見を開いた。

「羽部さん、何を話すのかしらね」

 さんざん試行を重ねた挙句、とりあえず休憩をとると宣言した母が言う。

「順当にいけば討伐報告と今後の展望だろう」

 あり得そうな話だ。既にインターネットでも魔物討伐について情報が出回っている。大半の反応が本当かどうかを疑っているものであり、一部には嘘をついている暇があるなら対策を考えろとまで言われている。これらに対して政府として情報の確度を保証するとともに、今後について発表することで国民が理性的に耐えうる時間を延ばす効果が狙えそうだ。
 そんなことを考えていると、羽部総理大臣が会場に入場してきて会見が始まった。



 ――という現状に対して、政府としましても誠に心苦しく感じております。ですが! 今日は、良いご報告もございます。既に国民の皆さんの多くがご存知かとは思いますが、本日未明に数名の自衛隊員が不可思議な力を使い魔物を討伐することに成功いたしました――



 会場がどよめく。記者たちも知ってはいただろうが、半信半疑だったのだろう。しかし、政府の公式見解としてこれを示した。インターネットでもライブ配信されているこの会見は、日本だけでなく世界各国が注目している。そこで話すということはすなわち、国民だけでなく外国に対しても確かな情報として示す意味合いがある。魔物が日本だけでなく世界中に溢れている以上、これは事態好転の福音となるであろうことは間違いない。

「まずは順当な滑り出しだな」
「そうだね」
「しっ。続くわよ」



 ――この不可思議な力、危機対策本部では魔法と呼んでいますが、これは検証の結果魔物の討伐に必須なものである可能性が高いという結論に至りました。これを受けて、自衛隊の部隊の再編成と各地への派遣を順次行っていくことを決定いたしました。国民の皆さんには、いましばらくの辛抱をお願いしたく思う所存です――



「再編成と派遣か」
「それまで国民が耐えられるかがポイントだね」

 これまでと違い反攻作戦に出るということだが、既に国民は限界に近い。はたして間に合うかどうか……。

「あら? まだ続きがあるみたいよ」
「え?」
「ん?」



 ――最後に、政府からお願いがあります。この魔法と言われる力は、五十人に一人ほどの割合で発現することが判明しております。これは魔物に対して非常に効果的です。ですが、仮に自身が使えることが判明したとしても、決して魔物討伐に赴かないようにお願い致します。軽挙妄動は慎み、安全を第一に考えて行動してください――



 これは……。

「煽っている、な」

 そう、煽っている。今の国民は飢えと恐怖、それに先行きの見えない不安と苛立ちで冷静な判断が出来なくなっている。そんなところに魔物に対して効果的なんて情報を与えたら、いくら制止しようが暴走するのは目に見えている。

「魔法に関する検証レポート、他国でも魔物に対応できるようにってホームページで公開するみたい」

 やはり、政府は国民を傭兵化するつもりらしい。本当に国民を危機から遠ざけたいのなら、魔法に関する情報そのものをシャットアウトすべきなのだから。
 五十人に一人という比較的高い確率と、魔法の修得法や使い方まで記載されているであろうレポートの公開。そして、明確な脅威。地球において魔法使いが量産される環境が整った。整ってしまった。今後、科学のみで成り立っていた地球社会には魔法という要素が混ざる事となる。その時に発生する混乱や犠牲者の数は想像を超えるものとなるに違いない。

「おそらく、自衛隊や軍だけでは間に合わないと判断したのだろう。人間が滅びるか、危険な新兵器を民間に持たせるかで迷った挙句、後者を選んだ」

 父の言う通りなのだろう。最大の問題点は近代兵器が役に立たないということにある。魔力というのは魔法金属以外は持続的に纏わせることが難しい。つまり現在の地球においては全員素人の純粋な魔法で対処するしかないのだ。
 だが、諸外国の拳銃を例にとっても解るとおり、一度民間に流布されたものは問題の元となり回収も規制も困難だ。仕方がなかったとはいえ、他に方法がなかったのかとも思わないでもない。

「まあ、俺が言えたことでもないか」

 少なくとも、俺が魔物狩りを強制させられる未来は回避できた。それに感じる安堵が今後の社会に対する不安よりも大きい以上、俺はこの展開に感謝すべきなのかもしれない。



「それじゃあ、行ってくる」
「気を付けてな」
「気を付けてね」

 両親の声を受けながら、家を出る。向かうは自身が張った結界の外側。気取った言い方をすれば偵察、実際はちょっとした散歩といったところだ。
 あの政府の会見の後、世界は大きく揺れた。魔法の存在が公認され、明確な資料が政府ホームページで配布されたのだから当然ではあるのだが。英語表記で配布されたそれはしかし、すぐに有志の手によって各言語に翻訳されたものが出回った。そうなるとあとは確率の問題なので、修得するものが続出し、すぐに世界は魔法一色となった。有名動画投稿サイトでは魔法を使って見せたり、魔物を倒して見せたりする動画が相次いでアップロードされ、人気を博している。インターネット掲示板では選ばれし者たちを妬む書き込みに溢れ、民放のテレビ局では分かりやすい魔法講座なるものまでやっている始末だ。そして現在。

「むむむ、ファイア!」
「ウィンドォォォ!!」
「サン、ダー!!!」

 そこかしこで魔法を使う光景が見られた。ゴブリンやコボルトが屠られ、素材に変わる。そんな光景が加虐性を増幅させるのか、あるいはゲーム感覚なのか、声をあげて笑っている者が多い。時には獲物の取り合いまでしている始末だ。まれにオークのような少し大きい敵と遭遇して逃走している連中が居たりもするが。

「あまり、よろしくない展開だよな」

 追跡を諦めたオークを始末しながら、独り呟く。
 命が懸かっていることを理解していない、魔物の脅威というものを忘れている新人魔法使い達。このままだと遠からず犠牲者が出ることになるだろう。それは何もオークのような少し強い魔物に限った話ではなく、ゴブリンやコボルトのような雑魚を相手にしていても同様だ。腕が未熟なくせに連携もしない以上、集団戦になった時に彼らに勝ち目はない。
 その後に予想されるのは、飢えや閉塞感への苛立ちで一時的にブーストされている戦意の喪失と戦線参加者の減少だ。そうなれば魔物はなかなか減らず、現在の人類が追い詰められた状況からは脱却できない。政府が魔法を民衆に公開した目論見も、水泡に帰すだろう。

「どうしたものか……」

 付近の魔物を根こそぎ始末しながら、俺は頭を悩ませていた。



 ところが、政府発表から一週間。事態は俺が予想したようにはならなかった。犠牲者の報道もなされたが、討伐に赴く人はほとんど減ることがなく、魔物はいい感じのペースで減り続けたのだ。もちろん、魔物はまだ残っているし、特に強力な魔物など手つかずだ。加えて、日々新たに発生する魔物もいる。しかし、ほとんどの地区で非魔法使いが普通に出歩ける程度には、魔物を間引くことに成功していた。
そして今日、政府から民間協力者への感謝と共に、生活回復宣言がなされた。

「人間も、中々しぶといね」
「夢人が果たした役割も大きいだろう?」

 テレビから聞こえてくる音声に感心していると、後ろから父に声をかけられた。

「攻略サイト、だったか? これのお蔭で助かった人は多いだろう」

 そう言ってタブレットをこちらに向けてくる。そこに映されているのは、俺の作った『新人魔法使いのための魔物攻略』と銘打たれたウェブページだ。
 あの見回りをした日、家に帰った俺はパソコンに向かった。要は、魔物にやられることが問題なのだから、やられないようにすればいい。そんな安直な考えのもとに、攻略サイトを立ち上げた。そしてそこに魔物が危険であり討伐には命が懸かっているといった注意勧告と、現段階で知り得てもおかしくない魔物の詳細と脅威度の分類を記載したのだ。
 また、その内容を知ってもらわなければ意味がないため、掲示板への書き込みやSNSでの宣伝、果ては広告業者への依頼も駆使してサイトの告知を行った。模倣する個人サイトや集団で作成するwikiなども多数つくられたが、それは俺の目的からすればむしろ歓迎するところである。
 果たしてどの程度役に立ったかははっきりしないが、自サイトおよび類似サイトの訪問カウンターの回転具合を見るに、多少以上の貢献ができたのではないかと思う。

「よくやった」
「まあ、夢の中じゃこのての専門家だったし、ね」

 本来なら一人で魔物討伐をしないといけなかったことを考えれば、このくらいはどうということはない。それに、現在地球に出現している魔物の種類は限られているので大した作業量でもなかった。

「でも、これで一段落だね」
「そうだな」

 しかし、すぐにこの判断は間違いだと思い知ることになった。


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