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非異世界ファンタジア 作者:なんこつ
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第十一話 魔物

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 異世界に転移することなくGWを終えて一週間が過ぎた。当初は夢の未来体験と大きく異なるという事態にひどく混乱したものの、父の一喝と母の大喜びする様子で何とか落ち着きを取り戻した。全く予備知識のない日々と言うのはまだ慣れないが、新鮮で楽しくもある。

「おはよう」
「ああ、おはよう」
「おはよう、夢人」

 階下に降り、いつものように朝の挨拶を交わす。

「そういえば、夢人も今日は休みか」
「うん、創立記念日でね。そういう父さんは休日出勤の振り替えだっけ?」

 父の会社は割と忙しい印象があったのだが。

「そうなのよ。お父さんったら、休日出勤のしすぎで会社から休めって言われたみたい」

 どうやら単に父がワーカホリックだっただけのようだ。

「それにしても、GWを過ぎてもこうして三人で食事をできるとはな」
「こんなに穏やかな気持ちでいられるなんて思わなかったわ」

 一応、まだ異世界に転移しないと完全に安心することはできないことは伝えてある。今まで夢と大きく異なったことがないうえに、転移の原因は分かっていないのだから。だが、それでも異世界転移は起こらない、そんな気がしていることも確かだ。夢で体験した未来とは完全に別の道を行ったような、そんな感覚。

「しかし、あれだな。問題は夢人の今後の進路をどうするかだな」
「考えてなかったものねぇ。でも、基本的には夢人の好きにすればいいと思うわ」

 進路、か。異世界での進路なら考えていたが、地球でのものになるとその辺の高校生と変わりないレベルだ。

「仕事に就く最大の理由のお金は既に解決してるからね。まあ、今は平穏な日常を楽しみつつ、気長に考えるとするよ」

 いざとなったら土地を買って賃貸業でも始めればいい。そんなことを考えていると、朝のニュースが緊急速報に切り替わった。



 ――臨時ニュースをお伝えします。今朝、七時三十分ごろ、全国各地で正体不明の生き物が多数確認されました。怪物のような姿をしているものも多く、これらは人に危害を加えてくる模様です。外出中の方は至急近くの建物に避難し、安全の確認が取れるまでは決して外に出ないでください。繰り返します――



「なにかしら、怖いわね」
「今日はみんな家にいて良かったな」

 そんな両親の言葉をよそに、俺の視線はテレビの現場映像に釘づけだった。

「馬鹿な、なぜここにいる」
「夢人?」
「どうした」

 それは遠くからの撮影でややぼやけたものだったが、俺にははっきりと分かる。

「魔物……!!」

 それは異世界における脅威。俺が今頃相対してるはずだった存在。そして恐らく今後の地球人類の最大の敵となるであろうもの。それがテレビには映されていた。



 ニュースを見てすぐに、俺は行動を開始した。模造紙を取り出し、魔法陣を書く。種類は対物理、対魔法、魔物避け、探知の四つ。書き上げるとすぐに展開し、自宅とその付近の保護をはかる。
 俺の尋常ならざる様子に両親も事態の深刻さを感じたのだろう。作業が終わるのを静かに見守り、終わると疑問を投げかけてきた。

「魔物とは、それほどまでの脅威なのか?」

 俺にとっては大したことはない。だが。

「強さや危険度は様々だけど、普通の人ではまず死は免れないだろうね」

 食われ、焼かれ、犯される。反撃はおろか逃亡もままならないはずだ。

「そうか……。私たちに出来ることはあるか?」
「特に何も。強いて言うなら家から決して出ない事かな。俺が基本的な結界を張ったから、この中にいればとりあえずは安心だよ」

 時間が押していたので最上級の物とはいかなかったが、比較的強めの結界を張ることができた。まず魔物避けで弱い魔物は寄ってこないし、そこそこ強い魔物がやってきた場合も対物理と対魔法で被害が出ることはない。それらすら抜けてくるような強力な魔物は、事前に探知して俺が始末に赴く。ひとまず、この布陣で安全は確保できるはずだ。

「でも、警察や自衛隊がいるし、すぐに解決するわよね?」
「まあ、そうだといいけどね」

 そう言いながらも、俺はそう上手くは行かないことを確信していた。



 魔物の出現から三日が経過した。この期間に同様の現象が世界でも確認されていること、魔物の呼称が正式に魔物/モンスターとなったこと、政府が危機対策本部を設置したことなどがニュースで報じられた。中でも危機対策本部の設置は緊急速報から一時間後には発表され、政府の迅速な対応に称賛の声があがった。
 しかし、その評価も半日後にはひっくり返る事となる。なぜか? それは、何の成果もあげられず、被害を増やすばかりであったからだ。自衛隊の第一陣が派遣された際、ちょうど各テレビ局がヘリからの中継をしていたが、それはもう酷いものだった。弾かれる銃弾、通用しない手榴弾、まったく効かないバズーカ。遅すぎた撤退の決断は足の速い魔物の接敵を許すことに繋がり、死にたくない一心で一か八かの白兵戦を仕掛けた隊員は無残にも食い散らかされることとなった。
 結局、部隊の三割を損失させただけのこの撃退作戦は、政府への失望と共に魔物の恐ろしさを民衆に刻み付けるだけの結果となった。

「まさか、こんなことになるなんて……」

 世界の終末かといった様子を見せられた母は、すっかり意気消沈していた。そんな母を見ていた父が、俺に問うてくる。

「夢人、お前ならどうにかできるのか?」
「魔物を倒すだけなら、ね」

 そう、魔物を倒すだけならば簡単だ。むしろ、今の地球世界において魔物を倒せるのはおそらく俺だけだろう。
 魔物や魔物の武器というのは基本的に世界の魔力で形作られている。そして討伐するとその構成部位の一部を素材として残し、霧散する。この素材の価値が高いがゆえに異世界では冒険者などという職業が成立していたわけだが、まあ、それは置いておこう。
 肝心なのは、魔力で形作られているという点。内部を魔力が循環しているので常に身体強化の魔法がかかっているような状態であり、単純な物理攻撃は通用しないのだ。もちろん保有魔力は有限だが、身体強化はほとんど魔力を消費しないのでエネルギー切れによる消滅狙いは現実的とは言い難いだろう。結局、この物理バリアを抜くためには、魔力を伴った攻撃でバリアを中和するしかない。

「それならば!」

 伝えた事実に意気込む父を手で制す。仮に、俺が前線に出て行って魔物どもを討伐したとしよう。そのあとに俺を待ち受けているのは何か。それは絶え間ない魔物駆除という強制労働と、死後にモルモットとなる栄誉だけである。さらに俺を巡った争奪戦も繰り広げられるだろう。その過程で父と母が人質として巻き込まれることも十分考え得る。

「そんな展開はごめんなんだよ」

 俺の予想に、父は黙り込む。そもそも、平時ですら魔法の存在が露見することは危険だったことを考えれば、その価値が飛躍的に高まっている今出て行くのは自殺行為以外の何物でもない。

「いよいよどうにもならなくなったら考えるけど、今はまだ覚悟ができないかな」
「そうか」

 こうしている間にも被害は増え、状況は悪化し続けている。ゆえに結論を先延ばしにすることがいいとは言えないが、今勢いに任せて行動すれば後悔する可能性が高い。それならばもう少し考える必要がある。
 そうして、動くに動けない現状に気は焦りながらも日は過ぎて行った。



 魔物が現れて六日後。そろそろ限界かもしれない、と感じることが増えた。ニュースを放送するキャスターもやつれた様子を見せ、伝えられる情報も良いものは全くない。我が家は俺が異世界に転移する時に備えた食料が大量に亜空間倉庫に眠っているが、一般家庭はそろそろ備蓄の食糧が無くなっていてもおかしくない。幸い、ライフラインはまだ生きているが、水だけで生き延びるのは厳しいだろう。テレビ局員が外に出る決死の食糧集めの様子も放送されたが、魔物との遭遇率が高すぎて早々に撤退していた。自衛隊も弱めの魔物を誘導して区画封鎖を行うといった戦略で対抗しているようだが、新たに発生する魔物もいるようで、事態の改善には至っていない。……決断すべき時が、来たのかもしれない。

「明日、準備をする。そして明後日、討伐に向かうことにするよ」
「そうか」

 あくまでも、自分の為、両親の為の行動ではあるが。ただ、これ以上の猶予は残されていないと判断した。

「父さんと母さんには迷惑をかけることになると思うけど、なるべく何もないようにするから」
「気にするな」
「頑張って、でも気を付けて、ね?」

 両親の温かい言葉に、本当に他の道はないのかと思索を巡らすが、思いつかない。本音を言えば、地球にも陰陽師だのエクソシストだのシャーマンだのといった土着の魔法使いが居て、対処してくれるのではないかと思っていた。しかし、そんな存在はいないらしい。もしかしたら居るのかもしれないが、事態を解決するほどでないならばいないも同然だ。
 それに、事態はこれからさらに不味い状況に向かう可能性が高い。具体的には、自棄になった者による暴行や略奪、自殺などが考えられる。もちろん気分が良くないということもあるが、動員可能な人間が減ることが一番痛い。復興にも、反攻にも、社会を構成するのにも人間が要る。人と言う生き物の強みである数を封じられると、じり貧なのは明らかだ。
 俺の未来の為、両親の生存のため、世界を救うしかない。

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