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非異世界ファンタジア 作者:なんこつ
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第九話 金策2

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「そういえば、今年の扶養控除からは除外してほしいんだけど」

 中学生活も終わりに差し掛かり、本格的な冬の到来を感じ始める頃、俺は父と母にそう切り出した。

「どういうことだ?」

 怪訝な表情を浮かべる父。まあ当然の反応だろう。ただ、こちらも理由が無いわけではない。

「昨日、会社から年末調整の書類を貰ったって言ってたからね。今年は株取引をして利益が出たから、早めに言っておこうと思って」

 こういうわけである。普通、子供を始めとした親族を養っている場合に税金が安くなる扶養控除だが、これは対象者の収入が一定以下である場合に限られる。そして俺は今年その対象額以上の収入を得たため、父は控除を受けないように申請し直さないといけないというわけだ。

「ああ、なるほど。しかしあの口座、まだ使えたのか」

 株取引という事情の割に無関心な気もするが、実は父のこの反応も仕方のないところがある。なにせ証券会社に口座を開設したのはロト8を当選させた小学二年の時であり、その年以降一度も使っていないからだ。約六年もの間話題に出て来なければ、存在を忘れるのも致し方なしというわけである。

「あの時は吃驚したわね~。まさか株をやりたいって言い出すなんて」

 父と母からロト8の当選金の分配を拒否されてから少し。自分のために使うと考えた結果、異世界では不可能なオンライントレードをやってみることにしたのだ。軍資金として使用する分は別途保管しておけばトレードで損失を出したとしても良い経験で済むし、もし利益が出たならそれはそれで問題ない。実際、あの大金を動かしている緊張感は、夢の未来体験でも経験したことのないものだった。損失を出したこともあるが、最終的には利益を出すことも出来たことからも有意義な使い方であったと言えよう。ちなみに未成年が口座開設すること自体は両親の同意書があれば問題なかった。

「分かった、手続きをしておこう。ちなみに、どのくらい儲かったんだ?」
「38億くらいかな」

 瞬間、空気が凍り付いた。



 話の流れでなんとなくそれを尋ねたであろう父は固まり、手に持っていたジャムトーストを取り落した。母も立ってコーヒーを継ぐ直前の姿勢で制止し、こちらを凝視している。

「……聞き間違えか? 今、38億とか聞こえたんだが」
「……私もそう聞こえたわ」

 確かにそう言った。別に両親の耳が壊れているわけでも、処理する頭がおかしくなったわけでもない。

「あ、でも20%の税金を払う必要があるから最終利益は30億くらいかも?」

 38億はあくまで総売却高であり、実際に手元に残るのはやや目減りする。

「……」

 しかし新たに告げた数字は母のキャパシティを相当に圧迫したようで、母はその場に倒れてしまった。

「お、おい。母さん!」
「ちょ、母さん!?」

 コーヒーがこぼれなかったのは不幸中の幸いと言えるだろう。



「大丈夫?」
「ええ、もう大丈夫よ」

 30分が経過し、母が目を覚ます。しかし、言葉とは裏腹に母はソファーに横になったままだ。

「それで、夢人。詳しい説明はできるんだろうな?」

 父は普段通りの、いやそれより少し険しい表情で問うてくる。

「もちろん」

 別にやましいことなどしていないし、ある程度説明を要求されるであろうことは予想できていたので問題ない。ところで父は落ちたジャムを拭かないのだろうか。イチゴジャムを無理やり食わされているスラックスが哀れでならない。

「そんなことはどうでもいい」

 どうでもよくはないと思うが。まあ、答えを一言で述べるなら、ロト8の時の使い回しである。

「使い、回し?」

 そう。つまり夢の未来体験の中で知っていた確実に儲かる株を購入したというだけの話なのだ。

「だけど、そんなに大きく増やすことができるものなの?」

 ようやく体を起こせるくらいに回復した母が訪ねてくる。無論、例年ならそんなに簡単なことではない。ただ、今年はニュースでも取り上げられるくらいの株価激動の年であり、その中で勝つ銘柄を知っていたからこその結果なのだ。

「ああ、確かにそんなことテレビで言ってたかも」

 母も聞いた覚えがあるらしい。それなら話は早い。

「まず、資本金2億1千万を1億・1億・1千万の三つに分けたんだ。ちなみに軍資金プラス予備費として6千万は別途銀行口座に保管してある」 

 なお、ロト8の当選金額よりも多いのは小学二年生の時に純金を中心とした取引で稼いだからだ。当時約15%の利益で2千万ほどの手取りになった時も相当驚かれた記憶がある。

「そしてその資本金をそれぞれカンホーに1億、マクシィに1億、ビッグコインに1千万で投資したんだ。これが今年の一月頃のことだね」

 ちなみにこの三つを選んだ理由は、確実に上がる銘柄がこれしか分からなかったからである。なにせ今回はロト8の時と異なり、詳しく調査した記憶があるわけではない。爆上げ金融商品としてこの三つが世間であまりにも有名だったという記憶があるだけだ。

「そんなあやふやな知識でよく勝負しようと思ったな」

 あきれ顔の父だが、俺の未来体験の記憶は今のところ絶対だ。それならノーリスクなのは間違いないし、仮に外れたならそれはそれで俺が関与しない箇所での大きな変化として収穫になる。加えて、損をしても0になることはないし、経験という重要なものは必ず得られる。早い話が超ローリスクでハイリターンなのだ。これに乗らない手はない。

「結局、売却する十一月の中ごろにはカンホー株が30倍、マクシィ株が4倍、ビッグコインが40倍に膨れ上がったんだ。計算すればわかるけど、その結果があの金額だよ」

 チャートまで知っていればビッグコインに一点張りすることでもっと儲けられたんだろうが、まあ言っても仕方のないことだ。

「なるほど、な。しかし30倍とか40倍とかとんでもない倍率だな」
「カンホーとマクシィはゲームアプリで一山当てたんだよ。パズル&モンスターズとドラゴンストライクって言えばわかるかな?」

 カラクリは理解はしたが納得具合はイマイチといった風の父に説明を続ける。

「聞いたことがあるな。パズモンとかドラストだったか」
「そう、それそれ。未だにガラケーの父さんでも聞いたことのあるようなものをリリースする前に株を買ったってこと」

 そこまで言ってようやく合点がいったのか、深く頷いている父。アプリバブルとも呼ばれるゲームアプリ会社の株の高騰は、今年が株価激動の年といわれる要因の一つでもある。年初めには無名だった企業が夏にはCMをたくさん展開できるほどに株価のストップ高が続き、多くのトレーダーを潤した。

「じゃあ、ビッグコインはどうなの?」

 今まで黙っていた母も気になっていたのか質問を投げかけてくる。

「ビッグコインは仮想通貨なんだ」
「仮想通貨?」

 聞きなれない単語に母は首をかしげている。

「そう。ドルやユーロみたいな世界標準になるようなオンライン通貨を作ろうって試みで、一国の情勢のみに依存しないことが特徴とされてるんだ」
「でも、その割には聞いたことないわ?」

 それはそうだろう。日本ではビッグコインの普及以前に認知度が低い。だが、ヨーロッパ圏ではピザ屋を始めとした普通の店舗でも使えるくらいに普及しているのだ。

「へえ」

 だがこれも今年の初めごろまではヨーロッパでもあまり普及していなかった。

「え、そうなの?」
「そうなの」

 キーとなったのはギリシャの経済破綻。あれで国に依存した貨幣に信頼を置けなくなった欧州地域の人たちがこぞってビッグコインを買い求めたのだ。ビッグコインは仮想通貨というだけあって、購入後は所有者間でかんたんに譲渡ができるようになっている。これに目を付けた民衆と個人商店に爆発的に広がり、その価値は非常識なまでに増加することとなった。ちなみにこの経済破綻の余波を受けて、多くの金融商品が暴落したのも株価激動の年といわれる所以の一つである。



「しかし、夢人はそんなに稼いで何に使うんだ?」

 両親も納得の表情になったあと、ふと思いついたように父が訪ねてきた。もちろん、それに対する俺の答えは決まっている。

「特に何も」
「は?」

 父は呆然とするが、この稼ぎはあくまでスコアでしかない。大金を動かす経験こそが目的だし、異世界に持っていく予定の物資も大して増えていない。であるからして、使う予定など何もないのだ。

「ロト8の時も言ったけど、必要なら使っていいよ」

 特に今回は多少の無駄遣い程度ではびくともしない額であるからして。

「いらん」
「遠慮するわ」

 二人そろって即答である。まあ、予想通りだが。ときに、

「父さん、仕事は?」

 時計の針は既に八時半を示している。いくら休日出勤とはいえ、そろそろ不味い時間なのではなかろうか。

「か、母さん! カバンかばん」
「その前にズボン着替えないと!!」

 大慌てで動き始める両親。これは話を切り出すタイミングを間違ったのかもしれない。ネクタイも結ばずに手に持って家を出る父を見ながらそんなことを思った。



「ところで。夢人がしたのってインサイダーなんじゃないの?」
「それは言わないお約束」

 父が出勤した後にそんなことを尋ねてきた母へ、口の前で人差し指を立てることで返す。実際問題、俺の夢の記憶のようなものは法的に立証されていない。立証されないことは違法ではないのだ。
 苦笑いの母には笑顔を返しておいた。


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