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非異世界ファンタジア 作者:なんこつ
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第一話 未来記憶

HJ大賞応募のために10万字のストックを用意してありますので、そこまでは連投を行います。
そこから先も……なるべく頑張ります。
良かったなと思えたら評価ポイントをお願いします。
 幼い頃からよく寝る子だった、とは母の談だ。
 食事をとり、排泄をし、寝る。乳児としては至極普通の行いだが、これだけが生活のほぼ全てを占めているとなればそれは異常だ。何かに興味を持つこともなく、夜泣きすらしない。まるで寝ることこそが至上命題であるかのように過ごす日々。
 さすがに母も不安に思い、病院に検査に連れて行ったこともあったという。なんらかの障害を持っているのではないか、と。
 結果は白。幸いなことにというべきか、身体的な異常は特に見受けられなかった。加えて、ハイハイや掴り立ちといった基本的な成長は人並みであり、とりあえずは経過観察ということで落ち着いたらしい。他に特筆すべきは何時の間に学んだのか喋ることができるようになっており、箸やトイレの躾も一発で済んだことくらいだろうか。
 ちょっと不思議な手のかからない子というのが、俺こと春日井夢人(かすがい ゆめひと)の乳児期の評価だった。



 このよく寝るという習性、幼稚園に入る頃にはいくらか改善され、せいぜい昼寝が好きな子程度に収まったという。小学生になるときには他の子と同じように寝るのは夜だけになっていた。この段階になってようやく母も安心したのだとか。中々に長い期間心配をかけたものである。
 ところで、この他人よりたくさん寝ていた時間、結局俺の身に何が起きていたのか。実は未来を先行体験していた、と言って信じてもらえるだろうか?
 胡散臭いと思われるのも仕方がない。だが、正確な仕組みは今でも分かっていないものの、俺は夢の中で自身の人生の未来を体験していたのだ。同じ世界、同じ時代、同じ両親。まさに俺と同一の人生。その先を睡眠時間中に経験していた。
 寝てばかりで碌に学ぶ機会がなかったはずの言葉を話せたのも、箸やトイレが一発で身に付いたのも当然だった。なぜなら、それらは既に知っていることだったからだ。



 この常ならざる現象、実はかなり早い段階で両親には露見してしまっていたりする。小学校一年生の夏休み、一学期の好成績を褒める母に対しうっかり言ってしまったのだ。

「二度目だし、この程度は当然だよ」

と。
 不思議そうな表情をする母に慌てて適当なごまかしを並べるも、しかし何か引っかかることがあったのだろう。その後しつこい追及を受け、根負けした俺はついに夢の存在について話すことと相成った。

「夢で一度自分の人生をやったことがあるんだ」

 最初は何を言っているのか分からない風の母だったが、会話を続けていくうちに事態のおかしさを理解し始め、顔が徐々にこわばっていった。
 それはそうだろう。ようやくまともになったと思っていた息子が完成された異常そのものであったのだから。安心し始めたタイミングだっただけに、心が凍りつくような思いだったであろうことは想像に難くない。
 しかし、我が母は偉大だった。語られる異常を飲み込み、俺という普通ならざる存在を受け入れたのだ。場合によっては拒絶されて暗い展開もやむなしといった状況。虐待、放逐、下手をすれば殺されてもおかしくなかったかもしれない。己の人生で数ある幸運のうち、両親に恵まれたことは間違いなく上位に入る事だろう。
 そしてその後、会社から緊急に呼び戻された父を交えて行われた話し合いは今でも鮮明に思い出すことができる。



「つまり、夢人は今の人生が二周目だと言うのか?」

 低く、怪訝さを感じさせる声で父が問うてくる。

「正確には人生の予習をしたって感じかな。あくまで本番は今この時だけだけど、この先に起こる事や学ぶ事は知ってる」
「予知夢の凄いやつみたいな感じかしら?」
「そうそう、そんな感じ」

 ファーストインパクトから少し時間を空けた母は理解の色を見せつつフォローに回るも、父の様子は未だ半信半疑のままだ。

「……にわかには信じられんな」
「あなた……」
「信じられん。が、七歳の子供が三平方の定理だの三権分立だのを語りだすあたり全面的に否定することもできん」

 それでもとりあえず話を聞く姿勢がみられるのは、開幕から俺が現段階では知り得ないような知識をいくらか披露しておいたのが効いているからだろう。論より証拠、というわけである。

「まあ、その辺は今後起こると言っていることが実際に起きるかどうかで判断するしかないだろうな。単に夢人が天才という可能性もあるわけだから」

 両親的にはそちらの方が良いのかもしれないが、残念ながら俺は秀才型だ。

「それで? 夢人が言っている夢が真実だとして、今後どうするつもりだ?」

 未だ信じ切れていないことを言葉の端に表しつつ、今後の身の振り方について父が問うてくる。道は夢を踏襲するか変革のために行動するかの二択であり、俺は当然後者を選ぶ。

「うん。夢に見たよりも良い人生にするために、色々と対策を練ろうと思ってる」

 少し普通とは違う俺だけど、それでもやっぱり人の子だ。幸せになりたいし、より良い未来をつかめるのならそうしたい。そして人生の流れを知っているというのは、相当なアドバンテージになる。これを生かさない手はない。

「そうか……。分かった。内容次第だが私たちも出来るだけバックアップをするとしよう」
「本当!?」

 黙認ならば御の字だと思っていたところに予想外の好回答が返ってきて、思わず声が大きくなる。

「ただし!! きちんと言うことは聞いてもらうし、信用できないと判断した時点でこの話は無しだからな」
「うん、ありがとう!!」

 条件は付いたが、それでも十分にありがたい。なぜなら両親の協力があればできることの幅が大きく広がるからだ。未来情報と現実の一致具合を見れば信用できないなんて話にはならないだろうし、バックアップも手厚いものが期待できるだろう。なんせ父と母はそういう人だから。

「とりあえず、今後の予定について説明しなさい。夢ではどんな人生を送ったのか、実際はどうしたいのか」
「分かった」

 当然の質問なので素直に答える。とはいえ、中学校までは特に語るほどのことはない。学び、遊び、友と語らい。何の変哲もない学生生活を送り、高校に進学する。しかし、そこが俺の人生にとっての大きなターニングポイント。高校一年のGWを迎える前に異世界に迷い込むのだ。

「異世界っ!?」

 母は驚きの声を上げ、父は再度非常識な話が展開され出したことに眉をひそめている。だが、これは紛れもない真実なのだ。夜寝て朝目が覚めると周囲は森になっている。いわゆる迷い込みとか神隠しという事象だ。
 そこは剣と魔法の世界で、森を彷徨っているところを隠居した大魔法使いに拾われる。数年かけて生きていく力を身に付けたら、師の最期を看取ってから独り街へ。特に目的もなく流されるままに冒険者ギルドで魔物を狩り、魔道具を作り、戦争で武勲を上げる。そしてやがては大魔法使いとして認知されるも宮廷闘争に敗れ、俗世にも嫌気がさし、師匠と同じように僻地で隠居生活を送るのだ。もっとも俺は師匠と違って弟子をとることもなく、最後は当然孤独死で人生の幕を閉じる。

「当面の対策は魔力・体力・武力・知力といったあらゆる力を鍛えること。目標はお嫁さんを貰ってささやかながらも幸せな家庭を築くことかな」
「……」

 二人ともあんまりな内容に絶句である。流石に信用されないだろうかと様子をうかがっていると、頭を抱えた父から一つの疑問が。
「その話が本当だとして、まず異世界に行かないようにするという選択肢はないのか?」
もちろんそれができるに越したことはない。しかし、

「高校一年のGW前に気が付いたら異世界に行ってたんだ。正確な時期も、どうやって移動したのかも分からないから多分防げないと思う」
「……帰還することはできないのか?」
「帰還どころか別の世界の観測すらできなかったよ」
「そんな……」

 無情な回答に母は涙をこぼす。我が子との永遠の離別が十年以内にあるなどと聞かされれば仕方ないだろう。俺のような異常を受け入れてくれるほどの愛情を持つ存在なのだから、むしろ普通以上に堪えているかもしれない。

「親不孝な息子でごめん。なるべく、父さんと母さんには迷惑をかけないようにするから」

 頭を下げる。きっと、俺が異世界に行った後はまた母を泣かせてしまう。父も表に出さないまでも精神的なダメージを負うことは間違いない。この時点で迷惑をかけないようになど土台無理なわけだが、それでもそれ以外の配慮は出来るはずだ。二人にはできるだけ辛い思いをさせたくはない。体感二度目の両親との生活にて、そう強く思う。

「馬鹿者」

 下げていた頭に衝撃が走る。叩かれた。

「子供のことを迷惑などと思うものか」
「親にとって子供は宝物なの。変に遠慮されたりしたら悲しいわ?」
「は、い」

 思わず涙が出る。鼻もつまり呼吸が安定せず、声はつっかえているが気にはならない。大切に思われているのだというその実感が未来体験で疲弊していた俺の心の内を満たしていく。

「あらあら、夢人は泣き虫ね」
「本当に異世界に行って大丈夫なのか?」

 からかい口調の両親に泣きながらも大丈夫と笑って見せる。これから俺は強くなる。でも、愛情に弱いのだけはなかなか克服できる気がしなかった。



 その後しばらく、母に抱きしめられたり父に頭を撫でられながら益体のない話が続いた。そんな何気ない時間に幸福を感じていると、ふと、母が思い出したようにとある疑問を投げかけてきた。

「そういえば」
「?」
「さっき魔法って言っていたけど、夢人はもう使えるの?」

 魔法だの異世界だのとくれば至極当然の質問だろう。しかし、それは高揚していた俺の気分をやや暗くする。別に使えないわけではない、むしろ逆なのだ。

「……うん、使えるよ。ほら」

 指先に火をともし、先ほど床に落ちた涙を凍らせる。念動力で引き寄せたティッシュで鼻をかみ、そのゴミを空中に展開したゲート越しにゴミ箱の上に転移させる。

「わあ!」

 突然始まったあまりにもファンタジーすぎる光景に父は呆然としているが、母は目を輝かせて感嘆の息を吐く。実は我が母上はファンタジー、それも魔法が大好きで仕方がないのだ。映画を見に行き、小説を読み、アニメを見る。マンガも読めばゲームもするという強者。それもこれも偏に魔法が好きであるがゆえに。そしてそうなると当然、

「私も使えるようになるかしら!?」

 こうなる。異世界でなくとも魔法は使えて、自分の息子は魔法を使える。となると当然遺伝元である自分も魔法を使えるのを期待するだろう。基本的にその考えは間違っていない。魔法の素養は遺伝するし、今のように地球でも魔法を行使することは可能だ。しかし、
「残念だけど、父さんと母さんには魔力が少なすぎるから無理かな」
非情な現実というのは存在する。突然変異か隔世遺伝かは知らないが、俺の場合はかなり大きな魔力と伸び代を持っている。しかし両親には一般人程度の魔力しかなく、大人であるがゆえに成長も期待できない。

「そう……」

 説明を受けた母はひどく落胆した声を出す。分かっていた展開ではあるが、申し訳なさが募る。未来体験では異世界に行ったとき、母からおすすめされて見ていた名作たちに随分とアイディア面で助けられたものだ。可能ならばどうにかしてあげたいが、こればっかりはどうしようもない。

「まあまあ、母さん。使えないのは残念だが、本物を間近で見る機会が得られたと思えば儲けものじゃないか?」
「……そうね。本当なら一生見られないのよね」

 父のナイスフォローに母も気を取り直す。

「とりあえず」
「?」
「他にもいろいろ言いたいこと聞きたいことがあるが、まず夢の事は決して他言してはならない。いいな?」

 現実に魔法を見せたことで話の信憑性が俄然高まったのだろう。父が極めて真剣な目つきで注意をしてくる。

「うん」

 否やもない。俺だけの特殊性であり、円滑かつ安全に生きていくうえで最も重要な事項なのは間違いないのだから。

「あとは、まあ。飯の後にでもまた話そうか」

 見ると時計は昼時を示していた。随分と長い事話し込んでいたようだ。そういえば腹が減っているような気もする。

「あら。それじゃあ、お昼ご飯の支度をするわね」

 そう言って母は台所へ向かった。
 これが始まりの記憶。俺が紡ぐ最初の物語。



「しかし、夢人は結婚できなかったのか」
「ぐぬぬ……」
 現実では嫁さんを捕まえてみせるさ!!
+注意+
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