奇跡
なんじゃこりゃぁ!!
「ただいま! 母さん、見てくれよ! 凄いだろ! 奇跡じゃねぇかって自分でも思うんだ!」
学校から帰って、一目散に母親の所に行くと、一枚の答案用紙を差し出した。
「何これ! 本当に!?」
母親も驚きを隠せないようだ。
「凄いだろ! 奇跡的だろ!」
「本当ね……。奇跡ね……」
弾ける俺とは裏腹に母の表情が曇っていく。
「俺が……悪いんじゃねぇよ……」
「本当に、そう思ってる!?」
曇りきった母の顔が恐い。
「じゃ! 俺部屋に戻るわ!」
答案用紙をふんだくり、部屋へ行こうとした俺の腕を母が掴んだ。
「な、何だよ」
「あんた、数学得意じゃなかったの!?」
「得意も得意。大得意教科だよ!」
「じゃあ、何なのよこの点数! 0点って何なのよ!」
「名前……書き忘れ……。でも! 名前書いてたら100点だったんだぜ! 奇跡的だろ!」
開き直って、踏ん反り返った俺から答案用紙をもぎ取ると、
「今日、父さんが帰ってきたらわかってるわよね!」
母が《鬼》に変貌していた。
『しくじった。奇跡的な出来事に浮かれ過ぎていたよ。……ハァ、説教か……』
その夜、俺は父と母に呼ばれた。
「お前! 名前忘れで0点だったんだってな! しかも、名前をきちんと書いてたら、100点だったっていうじゃないか! 凄いな! 俺なんて、名前書いたのに0点取った事あるぞ!」
「へ?」
父の顔を見る事も出来ず、俯いていたが、思わず父の顔を見た。
すかさず母が、父の頭をペットボトルで殴った。
「あなた馬鹿!? 怒らなくちゃいけないでしょ!」
「そんな事言ったって100点だぞ100点。凄いじゃないか!」
「問題はそこじゃないでしょ!」
目の前の夫婦は、もう俺の事も忘れたかのように喧嘩している。
『【夫婦喧嘩は犬も食わない】って言うしな、退散……しよーと……』
俺のせいか?