第八話 一回目の入院
一回目の入院の時は元気だ。
まだ抗がん剤のダメージの凄さを知らない私は、
「12月にスタートってことは、2月終わりか3月には社会復帰しますね!」
と力強く先生に約束して、やる気まんまんだった。
木田先生は、「そんなに急がないでゆっくりやりましょう」とやさしく笑った。
この数日後、その先生の言葉の意味を、私は体感することになる。
すぐに点滴が取り付けられ、ガラガラと点滴の器械を
引きずりながら病院内を散策した。
最上階(七階だったかな?)にある「理容室」に行く。
「美容室」じゃなく「理容室」。
髪の毛も切ってくれるけど、主にはカツラの販売やアドバイスをしてくれる。
まだ、私の髪が抜け落ちるところが全く想像できないのだけど、
「カツラはつくっておいたほうがいいよ」と先生にアドバイスを受けたから。
脱毛にそなえて髪を短く切ってもらい、カツラを選んでいるうちに、
「明るく乗り切ろう」という気持ちがドンドンと失われる。
ああ、今日からこの「病人ばっかりのところ」に住んで、みんなと同じように、
点滴を引きずりながら、頭にバンダナを巻いて、日々痩せて行くのか?
っていう現実が、急激にせまってくる。
気を抜くとすぐに涙が出そうになるので、友達を沢山よんだりしてみた。
「私は他の人と違う。」「私は元気で、友達と遊んだりできる」って思っていたい。
入院二日目もまだ元気なので、昼は母や妹と話して、友達がお見舞いにきて、
夜にはケイがきてくれた。
少しだけ良かったことは、ケイが私に心配をかけないように、
きちんとバイトを続けるようになったことだ。
毎日ちゃんとバイトに行って、終わったらお見舞いにきてくれる。
本当の打撃は三日目以降にやってきた。薬の副作用がはじまったのだ。
微熱が続くようになり、寝ても覚めても激しい嘔吐。
何も口にすることができなくなり、「ご飯は食べても食べなくてもいいですよ」と言われた。
完全な点滴だけの生活。
何も食べれなくなると、不思議とひたすら「料理番組」ばかりを見続けた。
そして「食べたい」という気持ちをまだ持ってる私は、「まだ大丈夫!」と自分にいいきかせた。
体が弱ってくると、心も弱ってきて、どんどんと弱気な私が顔を出した。
夜は面会時間を過ぎても、ケイを引きとめ、ケイが帰る時にはいつも泣いた。
がんセンターの先生や看護婦さんはみんなすごくやさしい。
先生も看護婦さんも寝不足でオーバーワークなのが見て取れるけど、
どの患者さんにもとてもやさしく、誠心誠意の治療と看護をしてくれる。
「ほかの病院と違う」
そのことが余計に私に「死」を予感させた。
体も心も弱って、することも無いので、
「死ぬってどうなることかな?」と絶えず考える。
体がきつくなるにつれ、両親と兄妹、ケイ、先生と看護婦さん以外には
誰にも会いたくなくなった。
友人、知人もお見舞いにきていいのか?悪いのか?わかならいから
誰も来なくなった。
私の体は日に日に弱っていき、私の心はこの上なく悲観的になっていった。
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