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  がんとNY  作者:りずむK
エピソード10 1996年 運命の年「セント・ピーターズ」
ミュージカル「ノイズ・ファンク」と出会い、そしてサムと出会った私の前に
広がったのは、「リズムタップ」の世界。

以前に私がオーディションを受けた、ブロードウェイのタップダンスは、
「タップ」よりもほかの「ダンス」の要素が強い。興業を目的として、白人が作ったスタイルだ。

しかし、この、「リズムタップ」は、もともと、黒人が、自身の表現のために
全身を使って、リズムを生み出す。音楽や、楽器としてのタップダンスだ。

1996年、「ノイズ・ファンク」がブロードウェイで始まったこともあり、
ニューヨークでのリズムタップシーンは盛り上がりつつあった。

この年に、始まったものがもう一つ。
「SWING46」のジャムセッションだ。
バスター・ブラウンがホストをつとめ、毎週日曜に行なわれていた。

ジャムセッションとは何か?
レストランやバーで、普通にお客さんがご飯を食べたり、飲んだりしている。
そこで、ホスト(司会者)とバンドがいて、音楽の演奏をしている。
そして、楽器を持ったミュージシャンや、タップシューズを持ったダンサーが
次々にやってきて、ホストの司会で、次々に演奏したり、踊ったりするのだ。

いわば、即興ライブ。
こんなのは、はじめてだ。
すごく緊張するけど、すごく楽しくて、わくわくする。
そして、タップダンサーが山ほどいる。
アメリカ人、日本人、フランス人、ドイツ人、ポルトガル人、オーストリア人、、、。
 
そして、夜の8時を過ぎるころ、日曜の「ノイズ・ファンク」の公演を終えた、
セビアンをはじめ、出演者たちがどかどかと押し寄せる。

ほんとに「どかどか」と押し寄せて、散々舞台で踊ってきただろうに、また、めちゃめちゃに暴れる。
暴れん坊の彼らだが、バスター・ブラウンへの「敬意」を払いに、ジャムセッションやってくるのだ。

彼らもまた、ジャムセッションで育ってきたダンサーだから。 
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ジャムセッションに通いはじめ、リズムタップに夢中になりはじめたある日、
サムが言った。
「今日、教会で、亡くなったマスターを追悼するメモリアルがあるけど行く?」

まず、「メモリアル」ってなに?
思い出?←それは「メモリー」 ←英語力ゼロ 笑。
マスターって誰? 

と、何もわからない私だったが、ついていくことにした。 

教会は有名な「セント・ピーターズ」。
大きな趣のある教会で、入り口には、沢山の人の列ができていた。
並んでいる間に、サムが、その日の趣旨を教えてくれた。

●近年、連続して3人のマスター(歴史的なタップダンサー)が亡くなった。
●その追悼をこめて、アメリカ、世界中から、タップダンサーや、縁のあるミュージシャンが集まっている。
●今日は、入り口でサインして入場して、踊りたかったら、「踊りたい人」のところに名前を書く。

とのこと。

え?「踊りたい人は名前を書く」の意味がわからない。
じゃあ、書かないでいいや。 
サムは、「踊りたい人」のところに名前を書いている。

知人、友人が多いサムのおかげで、私とサムは、教会の前から2列目のど真ん中に
すわらせてもらった。

私の前には、松葉杖で、1本足の老人が座っている。
祭壇の横には ずらっとノイズ・ファンクの出演者が並ぶ。
サムの隣には90歳くらいのおばあさんが座った。

司会のジミー・スライドが、1列目に座っていた人たちを次々に紹介していく。
昨日今日、リズムタップに出会った私が知っているのは、バスター・ブラウンだけだ。
だけど、司会のジミーも、バスターも、その次の人も、その次の人も、そのまた次の人も、
みんな、「ものすごい」。

「ものすごい」って、何?って、思うけど、
「ものすごいオーラ」かな?
一人、一人が個性的で、チャーミングで、オシャレで、とにかく素敵!

そして、私の前に座っていた、1本足の老人の番がきた。
司会者が「ペグ・レッグ・ベイツ」と紹介した。
サムが、べグ・レッグ(Peg leg)は「義足」のことだよ、と教えてくれる。

確かに、その老人は、片足のひざから下が義足であった。
80代後半か、90歳と思われる。
義足の足では、支えきれずに、手には杖を持っている。

司会者によばれた、ペグ・レッグ・ベイツ。
私は、まさか?って、思ったけど、もちろん踊る。
ゆっくりと立ち上がり、ステージに歩いていった。

義足の足と、杖と、そして、自分の足との3本の足。
その3本の足で、リズムを奏ではじめた。
会場のもの、すべてが、ため息と共にその姿を見つめた。

「美しいモノ」を見るときのため息だ。
ああ。
なんて、きれいなんだろう。
なんて、素敵なんだろう。
ああ。

ペグが踊り終えたとき、会場は割れるような拍手と歓声につつまれた。
私の目にも感動があふれ出てきた。

私は、そのとき、本当の手ごたえを感じていた。
「私、絶対、このファミリーの中にいれてもらう!」って、思った。
リズムタップの世界。
リズムタップのファミリー。
絶対にこのファミリーの一員になりたいと、強く思った。

その後、しばらくして、マスターたちがすべて踊り終えて、
他の参列者を紹介する番になった。 

司会者がサムの名前を呼ぶ。
サムがステージに上がって行こうとする。
私は、あわてて、ちょっと待って!ちょっと待って!ちょっと待って!
私も、私も踊りたい。
私も連れてって。お願い。

私は必死だった。
今、私が受けた感動を抑えきれなかった。
ここにきて、はじめて、「踊りたい人は記帳する」の意味がわかった。
お願い、私も躍らせて!

後ろの方の席から、もう一人夢中で走ってくる少年。
KAZU。
「俺も、一緒に躍らせてくれ!!!」

サムは、私とKAZUの勢いに圧されて、3人で踊ることになった。

その後は、無我夢中で踊って、あまり覚えていない。
覚えているのは、三人で踊り終わったときの大歓声と拍手。


あの教会で、マスターたちと出会った、あの瞬間と、
靴をつかんで、夢中でサムの後を追ってステージにあがったことと、
そして、三人で踊ったあとの大歓声。

これだけは、覚えている。
いつまでも、覚えている。
 
追悼の会が終わると、サムの隣に座っていた、老女が声をかけてきた。
「あなたたちは、素晴らしかったわ。これからも活躍を見ていますよ。世界中のタップダンサーはみんな私の子供なのよ。
それに、あなたは、私の息子と同じ名前ね。私の息子も、サミーなの。
サミー・デーヴィス・ジュニア。」

おおおおおおおおおおおおおおおおおおう。
なんてことだろう。
サミー・デーヴィス・ジュニアのお母さんだった。

びっくりと感動の連続がやっとはじまったのだった。
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追記 セント・ピーターズ・チャーチ (54ST&LEX) 
   多くの、ジャズミュージシャンや、タップダンサー縁の教会。↓

   http://www.saintpeters.org/

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