第十一話 生きる方向で!
え?治療もう終わり? って、思うかもしれないけど、
私の抗がん治療は終わった。
合計三回の入退院をくりかえして
私の抗がん治療は終わった。
約二ヶ月半。予定どおりだ。
もちろん、二回目、三回目と治療はもっと苦しくなった。
体は弱り、体重は減り、高熱が何日も続き、嘔吐は更に激しく、寝返りをうつだけでも吐いたし
私はひたすら吐きながら、時が過ぎるのを待った。
だんだんと、私の細い血管には、右の腕にも、左の腕にも、点滴が入らなくなってきた。
点滴の針の場所を差し替え、差し替え、血管をたたいては、差し替え
ついには、胸に穴をあけて、管を通しての点滴になった。
そんな、つらい病床だけど、私は「死ぬこと」を考えるのをやめて
「生きること」を考えることにした。
なぜなら、私には、わかってしまったからだ。
頭を丸刈りにして「お父さん、つきあうぞ!」っていう父の顔を見て、
私よりもつらい胸の痛みを、知ってしまった。
毎日、毎日、病院に通って来る、母の心の痛み。
真冬に坊主頭にした、父の心の痛み。
夜、アパートに帰り、「二人で暮らした部屋にひとりぼっちになった時
無償に涙が溢れる。」と告白したケイの心の痛み。
みんなが心を痛めている。
私は今、体がきついけど、そのぶん、体のつらさに気をとられて
心は、あまり考えている余裕が無い。
そのぶん、みんなの心が痛んでいる。
父の、母の、妹の、そしてケイの。
私は、とにかく元気に、この治療を乗りきろう!と決意した。
しかも、私の場合、この治療を乗り切れば99パーセント生き延びる。
ということは、ほとんど、生きる確立99パーセント。
ほかの健康な人とたいしてかわらない確率だと思った。
乗り切れば、生き延びる。
乗り切れば、生き延びる。
乗り切れば、生き延びる。
って、三回繰り返したら、治療は終わるのだ。
あれだけつらかった治療も、数年が経過して、今になって振り返ったら
「一瞬のできごと」のように見える。
現に、私が社会復帰したとき、私にとっては、ものすごく長く感じられた治療期間だったけど
世の中のほとんどの人が
「え?もう終わったの?」とか
「え?早いね、そんな早いんだ。」
みたいな台詞で私を迎えた。
普通に生きていたら、あっという間の3ヶ月。
外側から見てみれば「え?もう?」とかいう時間の長さだ。
早く、外に出ないと!
早く、社会復帰しないと!
忘れられちゃう。
世の中から置いていかれちゃう。
私だけ、おいていかれちゃう。
おいていかないで。
おいていかないで。
おいていかないで。
私だけ、病床で時間が止まってる、感じがするけど、
みんなはどんどん動いてる。
だから、早く元気にならないと、おいていかれちゃう。
おいていかないで。
こうして、私は「がん」という病気を乗り越えたので
次に「生きる」ことがまっていた。
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