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おもちゃの指輪

作者:貫雪(つらゆき)

 私は指輪です。金色のリングに可愛らしいピンクの花が乗っています。 
 そうです。私は本物の指輪ではありません。おもちゃの指輪なんです。

 私は秋祭りの夜店の一角で、他の指輪たちと共に並んでいました。
 沢山の可愛らしいお客さんがお父さんやお母さんと一緒に私達を覗いていました。
 私はおかっぱ頭の前髪を、可愛い色のピンでとめた女の子に買い求められました。
 女の子は私をすぐに指にはめてくれました。
「かわいい、かわいい」と、とても褒めてくれました。

「ようちえんにつけていく」と言って、お母さんに叱られました。
「おふろにつけてはいる」と言って、お父さんにも怒られました。

 仕方が無いので女の子は私を外して、可愛らしい小さな引出しにしまってくれました。
 でも、女の子は私の事を忘れたりはしませんでした。
 幼稚園から帰ると真っ先に私を指にはめ、泥遊びや、鉄棒だってしました。
 私は傷だらけになりましたが、苦にはなりませんでした。
 私も女の子が大好きでしたし、女の子と一緒にいられるのが楽しかったからです。

 季節が変わって冬になっても、わたしは女の子の指にはめられていました。
 私は女の子のお気に入りでいる事が、とてもうれしく思っていました。

 ところがある日。

 女の子が手袋をするために私を外ではずした時、私を落としてしまいました。
 私はころころと転がってしまい、暗い自動販売機の下に入って行ってしまいました。
 女の子は泣きじゃくり、私を拾うようにお母さんに言いました。
 お母さんは一生懸命に私を拾おうとしましたが手が届きません。
 お母さんは泣きじゃくる女の子に言いました。

「もうすぐクリスマスだから、欲しがっていたネックレスを買ってあげるわ」と言いました。
「約束のぬいぐるみももちろん買ってあげる。だから泣かないで」とも言いました。
 女の子は名残惜しそうに私が潜り込んでいる辺りを見つめていましたが、
「うん。分かった」と言いました。

 女の子はもう、お母さんを困らせたくは無かったのでしょう。
 女の子がとても優しかったことは、私もよく知っていました。
 泣かないで。今度は新しいネックレスを大切にしてあげてね。
 私はそう思いながら悲しそうな女の子を見送りました。

 私はおもちゃの指輪としての命を、終えるものだと思っていました。
 もう、誰にも気づかれることなく、壊れてしまうと思っていたのです。


 けれどもその数日後に、突然私に光がさしてきました。
 自動販売機が、男の人たちに運ばれて行きます。
 そして誰かがほうきで私の上を掃きはじめました。
 私はころりと転がって、埃の中から出てきました。

 ほうきで掃いていた男の人が、私に気がつきました。
 男の人はそっと私の埃を払い、ポケットに入れました。
 私は男の人の部屋に持ち帰られ、ポケットから出されました。
 男の人は私を洗面所に持って行くと、丁寧に私を洗ってくれました。

 一瞬、私は期待を持ちましたが、自分が傷だらけなのを思い出しました。
 私にとっては女の子との大事な思い出、名誉の負傷ですが、男の人にはただの傷です。
 私はゴミ箱行きを覚悟しました。

 でも、男の人は私を丁寧に磨いてくれました。すると私は結構綺麗になりました。
 男の人は満足そうな顔をしてくれました。
 だけど、花弁の一番目立つところの色が、一か所剥げてしまっています。
 男の人はそこにピンクの蛍光ペンで色を添えてくれました。
 ちょっと色が違うけど、私はそれなりに美しさを取り戻しました。

 しかも私は小さな小箱に入れられ、綺麗な紙で包装され、リボンまでかけられました。
 私の様な指輪が、誰かへのプレゼントになるなんて、夢のようです。
 私はしばらく、男の人のたんすの引き出しにしまわれました。


 男の人は女の人と暮らしていました。でも、結婚はまだしていないようです。
 男の人は夢を持っていて、そのために少し貧しい暮らしをしているようです。
 女の人もその夢を応援していて、いつも男の人を励ましているようでした。
 クリスマスがやってきました。男の人は部屋を片付けて、キャンドルを灯しました。
 女の人は小さなケーキを買ってきて、ささやかな料理を作りました。

「特別だから」と言ってワインを開け、二人で乾杯しました。
 男の人は私をテーブルの上に置いて、「クリスマスプレゼントだよ」と言いました。
 女の人は嬉しそうに包みを開けました。中から現れた私を、
「可愛いわ。とっても」と、言ってくれました。
「拾ったおもちゃで悪いんだけど、来年は必ず本物の指輪を渡すから」
 そう言って男の人は照れていました。

「無理な約束はいいわよ」と女の人は言いましたが、
「そうじゃないんだ。来年、本物の指輪を買ったら、その時は籍を入れてほしいんだ」
 男の人がそう言うと、女の人はとてもうれしそうに
「ありがとう。来年が楽しみだわ」と言いました。
「じゃあこれが、婚約指輪ね」女の人はそういいながら私を指にはめました。
「この指輪を拾った時、プロポーズだけでもしておきたくなったんだ」
 男の人はそう言いました。

「ちょっと色が剥げてたからペンで塗ったんで、すぐ色が取れるかもしれないけど」
 男の人の言葉を聞いて、女の人が席を立って何かを持ってきました。
 その手の中にはキラキラ光るラメの入った、淡いピンク色のマニキュアがありました。
 女の人はそのマニキュアを私に塗ってくれました。私がキラキラと光ります。
「ときどきこうしておけば、いつもはめていても大丈夫でしょう」
 そう言いながらキャンドルの光にかざして私を乾かしてくれました。
「この指輪のおかげで私、プロポーズしてもらえたのね。指輪に感謝しなきゃ」


 感謝しているのは私の方でした。
 本物を買うまでの期限付きとはいえ、おもちゃの私が婚約指輪になれたなんて!
 嬉しくて、誇らしくて、仕方がありません。

 二人はいつも忙しそうにしていましたが、とても仲良くしていました。
 私はあの女の子といつも一緒だったように、女の人といつも一緒になりました。
 女の人は私を本物の指輪以上に大切に扱ってくれました。

 私をいつも身につけ、指をどこかにぶつけないように気を使ってくれました。
 そして時々、私が壊れたり、花弁が取れたりしていないか確認してくれました。
 指が濡れたり、何かにぶつけてしまいそうな時は、そして彼女が眠りに着く時は、
 私はあの小箱の中に大切にしまわれました。

 私が本物の宝石とかだったら、そんな心配はかけずに済んだのに。
 私は彼女に申し訳ないくらいでした。
 でも、それは彼女が男の人をとても愛している証拠でした。
 私を大切に扱う彼女を見て、男の人もとても嬉しそうでした。


 そんなに仲の良かった二人なのに、ある日二人は大喧嘩をしました。
 男の人が「誤解なんだ」といくら言っても、女の人は怒ったままでした。
 ついには男の人まで「信用できないなら、勝手にしろ!」と怒鳴りました。
 すると女の人は私を指から外すと、部屋を出て行ってしまいました。

 男の人はしばらく怒っていましたが、心配になったらしく女の人を探しに出かけました。
 何時間も、何時間も探していたようで、外は真っ暗になってしまいました。
 結局男の人は一人で部屋に帰ってきました。女の人は帰って来ません。
 男の人は私を手にすると、
「やっぱりニセモノじゃ、ダメなんだな」
 と、悲しそうに言いました。

 そんなことはありません。彼女は私を本当に大切にしてくれていました。
 私を彼女に贈った男の人の気持ちも、心からのものでした。
 私はニセモノの指輪だけど、二人の愛は確かに本物でした。
 だけどおもちゃの私には、それを伝える事が出来ないのです。

 私が本物の宝石の指輪だったら……。

 私は初めて自分がおもちゃの指輪であることを心から悔みました。
 そして、身に余る晴れがましい役目を喜んでしまった事を恥ました。
 私に婚約指輪の役目は、背負いきれるものではなかったようです。

 目の前で男の人もとても悲しんでいますが、私には慰める事も出来ません。
 男の人を本当に慰める事が出来るのは、あの女の人しかいないのです。 
 こんなことならあの時、自動販売機の下で壊れてしまえばよかった。
 私はそう思って、とても悲しくなりました。


 けれどその日の真夜中になって、やっと女の人が部屋に帰ってきました。
「大切なものをここに忘れてしまったから、取りに戻ったの」
 女の人はそう言いました。
 男の人は黙って女の人を中に通しました。

 女の人は私を手に取ると、
「これはもう、手放す事が出来ないわ」と言いました。
 そして男の人に向かって、
「この指輪にはあなたへの想いがすべて詰まってしまっているの」
 と言いました。
「でも、この指輪の思い出を持っている以上、私はどこにも行くことが出来ないわ」

 すると男の人は、
「俺は勝手にしろと言っただけで、出て行けなんて言ってない」
 と、言いました。
「なら、私は出て行かないわ。ずっと、ここにいる」
 女の人がそう言うと、男の人は嬉しそうに笑いました。
 女の人も嬉しそうに微笑みました。
 私も二人が仲直りしてくれてホッとしました。
 これなら私の役目は無事に果たす事が出来そうです。

 そして再びクリスマスを迎えました。これで私の役目は終わってしまいます。

 この二人とのお別れは悲しいけれど、私は充実感もいっぱいに味わっていました。
 男の人は約束通り、女の人に指輪を買ってあげました。
 そして二人は籍を入れたので、指輪には記念に今年のクリスマスの日付が刻まれました。
 女の人はシンプルなプレートのペンダントを買っていました。 
 そして去年のクリスマスの日付を刻んでいました。

「去年はあなたにプロポーズしてもらった日だから、記念に残したいの」
 そう言って彼女は私を指から外し、
 綺麗なダイヤの指輪を男の人からはめてもらいました。

 その指輪、本当によくお似合いですよ。おめでとう。
 私は心からそう思いました。

 その時、彼女は私をペンダントの鎖に、するりと通してしまいました。
 そしてそれを男の人から首にかけてもらいました。
「私、この日付を忘れたくないの。あなたに大切な指輪をもらった日だから」
 そう言って女の人は優しく微笑みました。

「良く似合うよ。ダイヤの指輪に負けないくらいだ」
 男の人もそう言って笑いかけました。
 世界一幸せな二人は、クリスマスの街を仲良く歩いています。

 そして、私は。

 世界一幸せなおもちゃの指輪になったのでした。


                        おわり


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