兎ぐるむ熊ぐるむ(2/13)PDFで表示縦書き表示RDF


兎ぐるむ熊ぐるむ
作:トカゲ



2・ふうせん


 ジェットコースター前。瑠香と日々輔は待った。何を? 当然、子供達だ。
「やっぱいねぇ」
「いないですね」
「風船って腐るのか?」
「腐らないと思います」
 じゃあ大丈夫か。と、日々輔が妙な所で安心する。
「そもそも、ジェットコースター前ってのが間違ってるんだよな」
 日々輔の饒舌さ、口の悪さは園内でも有名だが、それのお陰で退屈せずに済んでいるのも事実だ。
「何がですか?」
 食いついてみる。
「だってさ、これからジェットコースターに乗る客が、風船を受け取るか?俺なら要らないね。飛んでくか、さもなきゃ割れるだろ」
「そんな事言ってたら、殆どのアトラクションがアウトじゃないですか」
「それもそうだな」
 日々輔はあっさりと認める。それからすぐに、「じゃあ」と前置きをして更に続ける。
「風船って、どうなんだ?」
「またやぶから棒に」
 やぶから棒に、の意味も良く知らないが、とにかく瑠香は兎の中で眉間にシワを寄せる。やぶから棒に、何を言っているのだこの男は、と。
「どうなんだよ。おかしいだろ。風船を持ったままアトラクションには乗れないじゃないか。俺達はどうして風船を配ってるんだ? 俺達が配ってるのはなんなんだ? おかしいよな。おかしいだろ」
「別におかしくないですよ」
 瑠香は、半ば面倒になりながら、それでも「おかしくない」理由を探した。遂いつもの癖で、日々輔の言葉を否定してみたが、そこから先が思い浮かばない。ややあって間をおいてから、やけくそ気味に、
「待っていてくれる人が居るんですよ」
 と、答えた。答えてから、これは案外、的を射ているかもしれない、とさえ思った。
「待つ?」
「風船をもって、待っていてくれる人が居るんです。子供がアトラクションを楽しんでいる間、パパやママは、風船を持って子供を待つんです。つまり」
「つまり」
「風船は、目印です。『ここで待ってるよ』という決意表明になります」
 言い終わった後、これは中々馬鹿らしいかもしれない、と気づいた。ただ、所詮馬鹿話なので、馬鹿らしいくらいでちょうどいいかもしれない、とも思った。
 日々輔が熊の中でどの様な表情をしているかは判らないが、「パパやママねぇ」と鼻で笑ったので、馬鹿にしているのだな、とは判った。よく見ると、常にニヤニヤと笑っている熊の気ぐるみも、人を小馬鹿にした様な顔だ。実際には、兎の着ぐるみも常にニヤニヤと、人を小馬鹿にした様な表情なのでお互い様なのだが、瑠香はム、と声を上げ、誰にも見えない様に日々輔の足を蹴った。
「つあ」
 日々輔が情けない悲鳴を上げた後で睨んでくる。が、熊の着ぐるみがニヤニヤ笑っているので、余り迫力が無い。
「あにすんだよてめぇ」
 周囲の眼が無い事を確認した後、小突いてくる。
 瑠香も黙っていない。周囲の視線を確認して、反撃する。
 日々輔も決して黙らない。周囲の視線を……
 水面下。二人の、兎と熊の戦いは続いた。


 前作に比べて、かなりのんびりとした話になりそうです。反動でしょうか。











ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう