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泡沫の大地の詩 [バージョン1]
作:スピリットQ



<  〃  >(2)


 水の憩い場ルルス・レイスンには、水のカラクリが至る所に点在している。
シッカ城の中庭に、その名の通り一風変わったカラクリ仕掛けが施されている場所があった。
 人が近づくと、石像の手に持つ壷の中から水が突然噴出したり、水力を利用して音が鳴る置物などなど、
遊び心が詰まったちょっとした水の野外展示場で、貴族の間でも評判になっていた。
 それらは全て、アンモス国王夫妻が専門のカラクリ技師に造らせた物だったが、
ここに来る度キングスはおこがましく思うのだった。

「我が父と母は、実にお茶目な風流人だと思わないか、ザッハン?」

 あざけり笑いながら、横にいる従者に同意を促す。

「そうですね…、王の意外な一面が伺え、私は嬉しいですが。是非ともカラクリを造ろうとした所以ゆえんをお聞きしたいですね。王子、知っていたら教えて下さいよ」

 途端に息をキングスは止めると同時に、口を一文字に固く閉ざした。

 ----約二十年前、とある諸侯が主催する舞踏会に招かれた若きシッカ国王アンモスは、
そこで出逢ったマーリーダッツワン地方領主の娘・ビクドーラに、一目で恋に落ちる。
 自分が一国の王に見められたことに畏れ戦いたおそ おのの彼女は、その場を逃げ出してしまう。
後を追うアンモスは、宮殿の庭で彼女を掴まえたがビクドーラは泣いていた。実は彼女も恋に落ちていたのである。
 二人は愛し合っていることを互いに打ち明けると、抱き合って接吻を交わす。
その瞬間、噴水が止まり、深夜を告げる鐘の代わりの人形たちが愉快な音楽と共に動き始めたのだった。
 それが何故か滑稽こっけいに感じられ、思わず二人は吹き出し笑い合った。
…その半年後、ビクドーラは正式に求婚を受け、シッカ国の王妃となる。
 二人はその時の思い出を形に残しておきたいがために、水の憩い場ルルス・レイスンを造らせた。
カラクリを仕掛け、皆にも一時の面白みと幸せを味わってもらいたかったのだ……と言う。

 ----誰が言えるか、そんな親のお惚気のろけ話…。

キングスはその場に立ち上がった。

「ザッハン、久しぶりに剣を交えないか? 最近、お前も体が鈍っているだろう?」

 話題をすり替える。

「王子、じらさないで教えて下さいよ。知っているんでしょう?」
「さぁてね」
「気になるじゃないですか----っ!」
「知るか」

 そうやって王子と従者がたわいもない話をしている内に、向こうから侍女らしき女が急いで走って来るのが見えた。

「キングス様っ! お探ししましたよ! いい加減お戻り下さいませ! パロウ老師が待ちくたびれておいでです!」

 侍女のスーヤだった。
彼女はパロウに頼まれ、雲隠れの王子を探し回っていたようだ。

「しまった見つかった!」

 颯爽さっそうと逃げ出す。
ザッハンは呆れて開いた口がふさがらなかった。

「王子!! また授業をさぼっていたのですか!? 私はてっきり休憩時間だとばかり思っていましたよ…。 
だからここに座っていたあなたと悠長にお話していたんですよ。 騙しましたね?」
「別に騙したつもりはないぜ? 気づかなかったお前が悪い。
パロウ老には、『王子は野鳥観察に行きました』とでも言っておけ!」
「そんな趣味をお持ちでないでしょう!? 絶対通用しません!! …って、どこ行くんですか!?」

 キングスの姿はもう見えなかった。相変わらず逃げ足の速い王子だなと、釈然としないながらも感心する。
その様子を見ていたスーヤが、呆れて怒鳴りだす。

「何やってんだい! 従者ともあろうお前が、そのざまでどうすんだい!?」
「は、はぁ…、すみません母上。しかし私の足ではあまりうまく走れないので……」
 
 ザッハンの右足は幼い頃に負った致命傷で、全速疾走するとよく肉離れを引き起こしていた。
そのため突然走り出すことは極力避けたいところであったが、従者である以上、そんなことは言っていられない。
 従者である自分が、いつも逃げ出すキングスの後を追いかけようとしないのにはそういう理由があった。

「どうもキングス様にはお手上げだね。躍起になるだけ無駄と言うものかね。なんたって城の者も今じゃほっといているくらいだからね。お前も苦労するよ本当に」

 肩にポンッとスーヤの手が置かれた。働いている者の荒れた手だった。
ザッハンは苦笑いを浮かべている。

「それじゃ私は、パロウさんに言い訳して来るよ。わかり切っているとは思うけどねぇ…」

 そう言うとスーヤは水の憩い場ルルス・レイスンを後にした。
母に同情の言葉をかけられ、複雑に心が揺れ動くザッハンは、ふぅー…っと深いため息をつく。
 そこへ、キングスが現れた。

「お、王子!? ずっとそこにいたのですか!?」

 そばにあるカラクリ人形が、そういえば先程からずっと水しぶきを上げていたことにザッハンは気が付く。

「ま、まさか…、今の話を聞いていたのでは……?」

 恐る恐る訊ねてみるが、

「俺はたった今ここに来たんだ。聞けるわけがなかろう」

 ホッと胸をなでおろす。王子に足のことは言っていないのだ。

「そうですか。では、とりあえず今すぐお戻り下さい! まだ勉強の時間ですよ」

 一転して、今からでもまだ間に合うだろうと、今すぐパロウ老師の元へ行くようザッハンはまくし立てた。

「勉強たって、どうせまたくだらないシッカの昔話さ。パロウ老の話は眠たくなって仕方がない。
かえって頭が鈍るってもんだ」

 言いながら、両手を開いて肩をすくめる。

「そんな言い訳は耳にタコです。まかり通りません。さ、早く戻って下さい」
「わかった」
「----ええっ!?」

 心外なキングスの返答に、ザッハンは不意打ちを食らって目を見開いた。
信じられない物でも目にしたかのように、目の前に立つ金髪碧眼の王子を凝視する。

 だがしかし------

「……なーんて、このまま俺が大人しく引き下がると思うか? 戻りたければお前が代わりに行け。
俺は束縛されるのが嫌いだから自由に生きてやる」
「王子はいつだって自由に生きてますよっ!!」

 いきどおるザッハンの足に、キングスがふと視線を落とす。

「お前の足が悪いってことくらい、俺が気づいていなかったとでも思うのか?」

 途端にザッハンの血の気がサー…っと、引いた。

「や、やっぱり聞いていたんじゃないですか!!」














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