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リーゲル邸が既に見えなくなり、黒い森へキングスらは入っていた。
馬に揺られ更に奥へと進む。
キングスの黄金の髪とトゥインガの栗色の髪が風に揺れる。
だが、一見少年と思しき少女は、自分を胸に抱く金髪の王子を睨みつけていた。
「ちょっと!!」
少女が一喝する。
「一体どういうつもり!? こんな森の中に連れて来て、何が目的!?」
何の前触れもなく自分をさらう、無礼な王子。
「しがみついていないと振り落とされるぜ?」
キングスは、笑みをこぼして答えた。
「ここに乗っているより、振り落とされた方がマシだわ!」
「減らず口の多いお嬢様だ。遠乗りは趣味の一環だって言ってたじゃないか。最高だろう?」
「馬鹿じゃない!?」
「そうか、そんなに嬉しいか。光栄だ」
相変わらず笑って答える。
「ふざけないで!! もう降ろして!! 降ろしなさいよっ!! 皆が心配するでしょう!?」
トゥインガが馬上で暴れ出したので、キングスは仕方なく馬を止めた。
そして、少女をその場に降ろす。
「----な、何よ…?」
「降ろせと言ったじゃないか」
「何も本当に降ろすことないでしょう!? 今来た道を歩いて戻れというの!? 馬鹿言わないで!!
結構な距離じゃない!! 私にこの森を夜中歩けと言うのっ!?」
「そんなことしたら、間違いなく獲物の餌食だろうよ。
…まぁ、お前の場合、向こうが怖がって逃げ出すだろうがな」
トゥインガの拳がグッと握られる。
「一応気を付けな。山賊が出るかもしれないからな」
平然と言ってみせる彼を目の当たりにし、とうとう少女の怒りは頂点に達した。
「それが何よ!! 山賊くらい、一人で倒せるわ!!」
剣を差し向けてくるかと思ったが、意外にもあっさりきびすを返し、元来た道を彼女は戻り始めた。
キングスは微笑んだままガテリスの横腹を蹴る。
後ろから聞こえ出す馬蹄の音を聞きながら、トゥインガは大股に歩く。
----早く通り過ぎてよっ!!
早く行ってくれればいいと思った。
悔しい思いをこらえながら、少女は怒り狂ったようにひたすら歩く。
やけに蹄の音が耳障りで、沸騰した頭が一段と煮えくり返る。
そんな彼女のわきを、一段とおおきくなった蹄の音が過ぎて行こうとしたその時、再びトゥインガの体が宙に浮いた。
「!?」
「送ってやるよ」
さっきと全く同じ情景が、逆戻しされたかのようだった。
キングスは少女を抱えたかと思うと、自分の前に座らせた。
二度にも及ぶ破廉恥な行為に、トゥインガの平手打ちが飛ぶ。
----が、反射神経の良いキングスがその細い手首を片手で掴むと、逆にけん制した。
「痛っ…! 放してよっ! 放してったらっ!!」
片方の手首を後ろできつく掴まれ、涙が出そうになるのをトゥインガは必死にこらえる。
「暴れなきゃ放してやるさ」
そう言ってキングスは静かに手を放す。
「あんたの言うひとときの戯れって、人さらいのこと!? 何て横暴なの!! それでも王王子!?」
「望んで王子に生まれてきたわけではないんだが、どうやらそうらしい」
一応、謙遜してそう答えるが、トゥインガの怒りの虫が治まることはなかった。
*
リーゲル邸が見え始めると、ザッハンや侍女たちが門の側に立っているのが見え、そこからいくらか離れた場所でキングスは馬を止める。
「大公に宜しく」
トゥインガを降ろすため、彼の手が栗毛の少女に差し出される。
少女はそれを無視して、灰色のきつい目をキングスにキッと向けた。
「宜しくされたくないわっ!! あんたなんかに二度と会うもんですかっ!! ふんっ!!」
乱暴に馬を一人で降りると、ズカズカと音を立てて屋敷の方へ向かって行く。
途中、彼女に声をかけたザッハンに、あまりにも憤慨しているせいか気づく様子もなかった。
ザッハンは呆然とトゥインガを目で追っている。
「面白い奴だ」
キングスは馬上で微笑んでいたが、不安と恐怖にザッハンは襲われ始める。
----本当に戯れたのだろうか……?
聞くべきではないとわかっていても、聞き出さずにはいられないザッハンだった。
「王子…まさか、嫌がる彼女を無理矢理……」
「ああ、馬に乗せた。おかげであの通り、とても機嫌がいい。馬より元気だったからな」
「…いえ、そういうことではなくて------」
ザッハンは、それ以上言葉が続かなかった。
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