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泡沫の大地の詩 [バージョン1]
作:スピリットQ



<  〃  >(4)


「キングス様、先程から気になっていたのですが、もしやそちらのお二方は……」
「そうだ、魔法師だ。この二人がいれば、敵の魔法師などひとひねりだそうだ」
「では、我々にも運が向いてきたということですね」
「そうだ。師が崇めるジブエ神は、まだ俺たちを見捨ててはいないぞ」

 キングスとレッグドは手を取り合った。

「ジブエ神……? 今、そうおっしゃいましたか?」

 セシリーとルフィネが怪訝な顔で訊いてきたので、キングスは黙ってうなずいた。
セシリーが継いで言う。

「ジブエ神は、我らが崇拝するバノア神が守護する一神です。
 この辺りでは、闇の女神ジブエを崇拝していたのですね」
「このへブル島やその周辺の国々は大抵そうだ」
「----眠りや安らぎを司ると同時に皆無の神……。これは何か関係がありそうですね」
「皆無----全くないこと……? どういう意味だ?」
「姿がないという意味です。本来、女神ジブエは姿を持たない神なのです。
 善と悪の二つの心を兼ねそろえた特定の姿のない----皆無神」

 キングスやザッハン、そしてレッグドも不可解な表情になる。

「何を言いたいのかよくわからないが、今はそんな神の話を聞いている暇はない! 急ごう!」

 キングスが叫ぶと、

「私も同行いたします!」

 突如、人の声がして一同は振り返る。

「あ、あなたは……!」
 
 レッグドが目を見開いた。
そこに現れたのは、同盟国ムイ・ファータ国のレオハルト卿だった。
 彼らの国は、シャスデル海峡を挟んでシッカ国と向き合うアウバン大陸の海沿いにある。
イマ島国、ダーツ島国、リーゲル公国に次いで『雄鹿アグナヒ同盟』に進んで調印した友好的な国でもあった。
 キングスとザッハンは、政務に関わっていない為、彼の顔すら知らなかったが、
大尉であるレッグドは無論知っていた。

「私たちも敵を討ちとうございます! 死んで行った者たちの為にも、そしてわが主君の為にも!」

 レオハルト卿の後に続いて、数人の護衛兵たちも姿を現して言ったが、キングスたちが、
他にも破壊された国があったことは知る由もなかったのだ。

「我ら一行は、シッカに向かって一路、シャスデル海峡を船で渡っている途中でした。
 それゆえ、命が助かったも同然なのですが…、わが国やその他諸々の国々、
 同盟国もほぼ大惨事に見舞われてしまいました。
 私は、同盟国会議の折、セッツェンを放っておくべきだと意見してしまいました。
 それがこんな結果を招いてしまったかと思うと、皆に面目が立たないのですっ……!!」

 レオハルトが悔しげに歯を食いしばり、目に涙を浮かべている。
護衛兵も下を向き、申し訳なさそうに身体を震わせていた。

「卿、あなたのせいではありませんよ」

 レッグドが軽く微笑んだ。
険しい表情を浮かべるセシリーは、ルフィネと同時にうなずき、そして言い出した。

「……もう許せませんね。キングス王子、私たちは必ず、愚弄者ぐろうものシグネシェンを叩き潰します!
 神聖な魔法をこのような悪事に濫用するとは、
 我らがバノア神の神力によって地獄に叩き落とされてもいいようなもの! 
 私たちがバノア神の御名の下、制裁を下しましょう。
 その為にこうして駆り出されて来たのですから」

 彼らは戦いの準備を始めた。
足に習慣性の癖があるザッハンは、シッカに残ることとなった。
 ザッハンの隣りでしばらく気を失っていたトゥインガも、ようやく意識を取り戻すが、
初めて顔を合わせるレッグドやレオハルトが彼女に自己紹介をする。
 トゥインガは、レッグドが小さい頃からキングスの剣の指導もした師匠であることを知ると、
突然起き上がって懇願し始めた。

「お願いがあります! 私に本格的に剣術を教えて下さい! 王子にも言われたのですが…、
 私の剣の腕が些細なものであったことを、ある一件で思い知らされました! 
 セッツェンに向かうまでの間、どうかこの私を鍛えてやって下さい!!」

 大きな灰色の目を更に見開き、トゥインガは必死に頼み込む。
 だがレッグドは、困惑した顔で王子に目配せした。

「トゥインガ! お前は足手まといになるだけだ。ザッハンと一緒にここに残ってろ!」

 キングスの青い双眸が、少女の灰色の目を捉える。

「嫌よ! 私も敵を討ちに行くわ! 今までだって同行して来たじゃない! そりゃ、何もできなかったけど、
 何故今頃になって、これからって時になって、ここに残れって言うのよ! 馬鹿にしてるわ!」
「ああ、馬鹿にもするさ! お前には無理だってことが、まだわかってないみたいだからな!」
「今のままでは無理だと思うから、こうして剣の指導を頼んでるんじゃない! 
 あんたが何と言おうと、私は行くわよ!」

 こうなると、トゥインガの融通が利かなくなることをキングスは知っていたので、
彼は魔法師の二人に目で合図を送った。
その意味を汲み取り、了解したセシリーは、彼女に気づかれないように呪文をそっと唱え出す。

「行くったら行くの! こてんぱんに敵をやっつけて、皆を助け出して…、それから…それから……あ、あれ……?」

 魔法の効き目は即効だった。
起き上がったばかりだというのに、再びトゥインガの意識は薄れ、気を失ってしまった。
 そして、無気力の無抵抗になったよろめく少女を、キングスがサッと受け止めると、彼はザッハンに言った。

「ザッハン、頼みがある…。ここから北のデリー地方に、ラディー二の山村があるが、
 目立たない小さな村ゆえ、きっと無事だろう。
 その村には唯一の酒場兼宿屋の『隠れが亭』があるから、そこの女将に言ってこいつを閉じ込めておけ。
 勿論、鍵はかけるんだぞ。こいつのことだ、脱走しないように見張ってろ」

 ザッハンはうなずくが、脱走癖のあるキングスにそう言われるのは、何か変な気がしないでもなかった。
ただ、キングスが抱えていた少女を、今度は自分が代わりに抱き抱えるが、少女が意外に軽くてザッハンは驚く。
 そしてキングスは、セシリーに空間移動を使って二人をラディーニへ送り込むよう頼んだ。
セシリーはすぐに呪文を唱え出し、空間のひずみに見えた山村の無事を確認する。

「キングス王子、あなたのおっしゃる通り、ラディーニはどうやら無事なようです。
 これから私はお二方を送り届けて参ります」

 そう言うと、三人は消えて行った。

「おお……!!」

 初めて魔法を目にした一行が、目を丸くし感嘆している。



----その後、一人で陥落した廃墟の城と、城から僅かに離れた焼け野原の城下町を見下ろしては、
深い悲しげなため息を何度も漏らす王子を、一同が遠くから見守っていた……。

 












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