<第六章>うなされる夢(1)
セッツェンの北方、サテュ・シス河下流部一帯を警備に当たっていた北炎傭兵団が、
不穏な動きを見せているという通達を聞きつけ、皇帝の座に即いてから初めて、
ロイゼンと近衛親衛隊と共にガインダークは遠征に出かけていた。
帝都セッツェンから強行軍で馬を走らせれば、そこには二日後に着く。
皇帝自らが行幸したとあり、駐屯していた帝国騎士団と北炎傭兵団の間にも緊張が走っていた。
新皇帝を初めて見る者もいたため、噂でしかなかった鉄仮面が真実であることにも驚愕し、
皇帝から発される威厳に満ちた雰囲気に、皆、言いようのない戦慄がつま先から全身を駆け巡っていた。
ガインダークは馬に乗ったまま、ぐるりと集団の周囲を旋回している。
馬上から無言で俯瞰され、一同の不安は増すばかり……。
「北炎傭兵団団長は前へ!」
同行したロイゼンが馬上から叫ぶ。
すると、一人の男が涼しげな顔で前に出た。彼の名は、デャンと言った。
「不穏な動きを見せているという通達があったのだが、相違ないか?」
今一度ロイゼンが確認をする。
暗雲な空気が、辺り一帯に立ち込めざわついた。
デャンは薄ら笑いを浮かべていたが、周囲の動揺に臆することなく冷静を保って答える。
「閣下、そのような事実はめっそうもございません。
何を根拠にそのような由々しきことをおっしゃられるのでしょう?」
すると、傭兵団と共にいて、監視を続けていた帝国騎士団の騎士たちはたちまち立腹し、
中には剣を引き抜く者もいた。
「皆の者、静粛に! 北炎傭兵団団長、嘘偽りない真実のみを述べられよ!
これ以上の誣告を並べ立てれば、直ちに極刑に処されるぞ!」
「……幾ら報酬を受け取っての雇われ兵の我々といえど、命に背くはずがございません」
「己! ぬけぬけと! お前たちが夜毎、食料庫から食料を運び出しているのを我々が目撃しているのだ!
この期に及んでまだ白を切る気か!」
騎士団の団長が叫んだ。
「ふっ…、そういうお前らも、民から誅求した金をこっそり懐に隠し収めているのではないかね?
それを見た傭兵もいるんだぜ?」
「き、きさまっ…!」
「双方黙られよ! 罪のなすり合いは兎角、反逆と隠蔽は大罪である。
いかなる場合に於いても、裏切りは断じて許しがたい不当な行為……殊に、ガインダーク皇帝陛下の
最も嫌う行為でもある。よって、北炎傭兵団団長、並びにそれに関わった全ての者は極刑に値す!」
「全てだと!? やったのは俺を含め一部の傭兵のみだ! 他は何も知らない!」
デャンは焦り、無関係な者をかばおうと必死になる。
「連帯責任だ。速やかに傭兵団全員、皇帝の御前にひざまずかれよ。
皇帝直々に処罰をお与えになられる。----貴様らには身に余る光栄なる最期だな」
「ほざけっ!! 皇帝の傀儡の犬がっ!! ああそうさ、俺たちは夜な夜な、農民たちに食料を返していた。
元々は彼らの物なんだから返すのが当然の義務と言うものだ。理にも敵っている!
民の中でも、とりわけ農民たちが貧困に喘いでいるにも拘らず、
どうして貴重な食料を彼らから奪うことができようか!? そんな馬鹿な話ってあるか!!
俺はそんな政治のやり方には同意できないね」
「……とうとう馬脚を露わしたか、裏切り者めが…」
「でかい面してんのも今の内だぜロイゼンさんよ。あんたもいつかは罰せられるのが目に見えてんぜ?
その素性の知れない仮面の皇帝と共にな! ----あんたは、そこで見下すばかりなナニ様と、
怪しの恋仲だそうじゃないか。……皆、知ってんぜ?」
そこまで言うと、彼は大声で笑う。辺りがざわめいた。
そのことを知っていた者たちも、デャンにつられて笑い出すが、初めて耳にする者もいるのである。
ザシュッ!!
いきり立ったロイゼンが、ためらいもなくデャンの首をはねた。
大きく目の開かれた頭部がいきなり飛んできて、驚いた騎士が悲鳴を上げて逃げ出す。
「----申し訳ございません。余計なことをしてしまいました」
ガインダークがするはずであった斬首刑だったが、反射的に自分がしてしまったことを戒める。
「よい…。お前がしなかったら、私がしていたまでのこと…」
いつの間にか引き抜いていた剣を、元の鞘に収めて皇帝は言った。
……数刻後、百人以上に束ねられる北炎傭兵団は、一人も残らず斬首された---------
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