< 〃 >(7)
-----火は、ほぼ鎮火していた。
シッカの騎士たちでリーゲル邸の周辺はごった返していたが、
騒ぎを聞きつけた公国の少数ながらの民も応援に駆けつけていた。
しかし、余りにも酷過ぎる光景を目の当たりにすると、
呆然と立ち尽くすか腰抜けになってへたり込む人々が大半だった。
小国とはいえ、一国の大公の邸宅が木っ端微塵に破壊されたのだ。
宣戦布告もなく、それは突如として。
不可解なことであった。
腑に落ちない現状に誰もが皆、屈辱的な思いを隠せずにいた。
「何故こんなむごいことを……」
「我々に何の恨みをもっての襲撃だ!! 夜襲とは卑怯だぞ!!」
「一体何者だ!? 堂々と目の前に出て来い!!」
公国民たちは、その怒りを露にするが、どこにぶつけていいかわからずにいた。
「遅かったか……」
急ぎ馬を走らせてやって来たアンモスは、
いたたまれない気持ちで公然と広がる地獄絵さながらの光景を眺めていた。
「王、こちらです…」
近衛連隊副隊長のイファニールに誘導されて、アンモスは崩れた邸宅の中へと入って行く。
多数の大理石の柱が、見るも無残な折れ方をしてはあちらこちらに飛散していた。
かつては、壁や床の役割を担っていたであろうそれらを踏みしめながら、更に奥の調理場の地下へと入って行く。
そこは、年代物のブドウ酒を保存しておく貯蔵庫のようであった。
しかし今は、どす黒い液体が飛び散っていて、あたかも血のような錯覚を覚えてしまう。
瓶という瓶も割れて散乱していた。
その奥に、大公メレクシールがいた-------
そばには、先程戻ったばかりの公女エーゼットと侍女のガーネマーラが、
気が狂ったようにむせび泣いている。
彼の胸にもブドウ酒がにじんでいたが、よく見ればそれは、自身の血痕だった。
イファニールによれば、発見された当初は、胸に剣が突き刺さっていたらしい。
その剣が、離れた所に投げ捨てられてあるが、イファニールが引き抜いたのであろう。
彼は胸に片手をかざし、追悼の念を送っていた。
メレクシールは、眠るように静かに横たわっていた。
一方、大公夫人は傷一つなかったが、
寝室があったであろう場所付近で元は天井だった下から発見された。
圧死だった。
アンモスは何も言えず、沈黙して自分を呪った。
彼らにもっと早く伝えていれば、こんな惨事に巻き込まれることもなかったかもしれない。
----例え自分の予感が嘲笑されたとしても、警告しておけばよかった……。
今となっては、後悔だけが空しく通り過ぎていくだけだった。
「…どうする? 無理しなくてもいいんだぞ」
「----行くわ…」
そっとキングスは、トゥインガを馬から下ろしてやった。
支えられながら、おぼつかない足取りで少女はゆっくりとリーゲル邸へと進んで行く。
途中、何度も何度もガクンッと、くず折れそうになりながら…。
ザッハンが二人に気づき、夫妻の元へと導いた。
「----お父様…!!」
トゥインガは気が萎え、父の前まで来ると倒れこむようにしてしゃがみこんだ。
エーゼットが泣き叫んで姉に抱きつく。
それをただ眺めるしかない、シッカの騎士たちも意気消沈する。
皮肉なことに、今ここに公国の騎士や衛兵は一人もいなかった。
彼らは既に全滅状態だった。
一人生き残っていた衛兵がいたが、つい先程、息絶えている。
夜の静寂に、一魂の流星が闇を貫いていく。
「よいかキングスよ…、お前の脱走もそろそろ見納めだ。
これでトゥインガ公女は、わずかの身内を残したとは言え、孤独になってしまわれた。
しばらくは我が城で落ち着いてもらうとして、その後は……わかっておろうな?
ビクドーラの服を渡すという振る舞いが、どんな意味を成すのか…」
王妃の衣服を贈り物として差し出すという行為は、
この国の古いしきたりでは親族に迎えるという意味をも示していた。
王と王妃は、前々より隣国のトゥインガ公女を王太子妃にと考えていたのである。
そしてそれは、生前のメレクシールも同様だった。
「----政略結婚でもしろというのか…?」
鼻で笑ったキングスが、やや怒り気味な声で返答する。
アンモスは何も言わず、メビーリスとイファニールを呼び、
屋敷を失ったリーゲル邸の人々を城に連れて行くよう命じると、再びシッカへ戻って行った……。
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