売っていいのは、射(う)たれる覚悟がある奴だけだ
タピオカほど大きくなく、それでいて存在感のある大きさに硬さ……。
コレって確か、ドネルケバブを売っていた店員さんがくれた、アイスチャイに入っていた黒いブツブツ……!!
飲むと、腹の中で、にゅるんにゅるん、びちびちっっとした、黒い寄生虫になる奴じゃん!
「これあかんやつや」
上ずった声が上がる。
ヴラドと初デートの日に戦ったドネルケバブ屋台のアラブ系外国人。
あれのくれたアイスチャイの中に、ちょっと大き目の香辛料が入っていた。
それがコレ。
あれを飲んだ所為で、色々と散々な目にあった。
せっかく買った服、破けちゃうし。
皇國代理天と変な取引しないといけなったし。
嫌な思い出しかない。
「コーデックワーム……」
蒼い顔をして雲雀が呟く。
どうやら雲雀は、僕以上に何か知っているみたいだ。
「……」
新田が、ハッとした顔で僕と雲雀を見る。
僕達の呟きを聞いたらしい。
「キチクn」
「コレを飲んだ人、もしくは使った事ある人、居る?」
新田が何か言おうとするが、機先を制して僕が先に話す事にする。
どちらにしろ全員に知っておいてもらった方が良い話だ。
僕は皆を見回す。
「真面目な話なんだけど、命に関る……かもしれないから、飲んだ事があるとか、使った事のある人は……」
場合によっては虫下しが必要だ。
腹の中で、にゅるんにゅるん、びちびちっっ、なんて元気が良すぎる。
とてもじゃないけど、ダイエットに使える寄生虫とは思えない。
アンテルミンチョコって、今でも売ってるのかしらん?
「キチクンは、コレが何か知ってるのかい?」
新田が聞いている意味は、コレが「ブラックペッパーって、知ってるのか?」ではなく、どの様な性質の物体かと言う事だろう。
先程、コレをデザイナーズドラッグと聞いた時に、1人いぶかしんでいたのだから。
確かに、コレはデザイナーズドラッグじゃないだろう。
どう考えても生薬だ、文字通り。
「詳しくは知らないけど、飲んだら、どの様な効果を表すかは知っているよ。
だから、コレは絶対に使っちゃ駄目だ」
「何か色々と問題があるんだな?キチーフ」
真剣な表情で武居が聞いてくる。
「うん。
そもそもコレを知った事件が……」
武居の言葉に答えて、僕はゴールデンウィーク前にした、無断欠席の日の事を話し出す。
ヴラドとの初デートの日だ。
ドネルケバブ屋台の人からもらったアイスチャイにコレが入っていた事。
少し大きめのストローで、一緒に飲み込んだ結果……。
「にゅるんにゅるん、びちびちっっ」
「「……」」
「寄生虫っ!?」
「ふぇぇぇ……」
「浩一……」
姐御と偽・委員長は回虫とかサナダムシを想像したんだろう、「うへぇ」とか「きもい」と苦虫を噛み潰した顔になっている。
清水先輩は声をなくしている。
「あの、ドネルケバブかよ……。
なぁコゴロー。
俺らも、前日に同じ物、食っちまったけどよ……」
「あははは、大丈夫だよイッサ。
中にブラックペッパーは入って無かったから。
確認済みだよ」
「うん?
なんだよぉ、さては最初っから判っていたのかよ」
「あはははは、あの後にアイスチャイを持って、師匠の所に行ったからね。
ついでに、調べてもらってたんだ」
「お、そーいえば……
確か、あの後は、そんな事言っていたような……
でもよ、これ、どーみてもオカルトだろ?
モンゴリアンデスワームかモスマンか、エイドリアンって感じじゃねぇか。
オカルトを否定するお前が、ナンでまた……」
「あははは、いや、僕もまさかブラックペッパーが、こんなモノだなんて知らなかったよ。
アラブ人関係の情報収集していた時に、危険だから見かけたら通報って、師匠に言われていたんだ」
「うへぇ……あの人もホントに色々と知ってるんだな」
さて、次は女性陣に聞くか。
少しばかり話し辛い事かもしれないけど……。
「じゃあ、姐御も偽・委員長、清水先輩も使った事は無いんですね?
心当たりがあるだけでも構いませんよ」
「んー……多分なぁ。
何かに混入して無い限りは、大丈夫やで」
「ふぇぇぇ……
そんな気持ち悪いのは嫌ですよぅ……」
「なんや、スミ。しーやへんのか」
「何がですか?」
「アタイのツレでなぁ、寄生虫ダイエットやっとった奴がおるん。
コレが、見る見る痩せてなぁ」
「えっ!?
……痩せ、た?」
「せや。
どんどん、どんどん痩せてなぁ」
「う、うらやまs」
「最後には、お腹を破って寄生虫がコンニチワーって……」
「ひぃぃぃぃっ!」
「なんやスミ、急に驚いて……
まさか、寄生虫ダイエットでもしてるん?」
「ふぇっ!?
違いますよっ!」
「じゃあ、どんなダイエットしてるんや?」
「えーっと、ウエストとお尻のシェイプアップ……
それにオヤツの禁止ぐらいd……」
「ほぉー、聞きよったかぁ。イケメンども」
「バッチリだぜ、姐御」
「あははは」
「ギャ―――ッ!
ひ、広瀬ぇぇぇッ!」
「あははは、ダイエットかぁ。
でも委員長は、今でも充分綺麗だよ。
無理はしない様にね」
「あ、うん……。
大丈夫、食べ過ぎないように心がけているから……」
「そっかぁ」
「コゴローくん、やさしい……」
「でも、今日の帰りは、委員長とケーキバイキングに行こうかと思っていたけど……
これじゃあ、無理だよねー?」
「ふぇっ!?」
「残念だなぁ……
委員長と一緒にケーキバイキング。
バイキングだから、せめて3つぐらいは食べないとね。
だけど、ダイエットじゃあ無理だよねぇ……残念だぁ」
「そ、そんな事ないです!
ケーキッ、コゴロー君とケーキバイキングに行きますっ!!」
「さっき、無理はしない様にねって言ったのになぁ~~♪
委員長は、何て答えたんだっけかなぁ~」
「ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇん」
皆が一気に微妙な表情になる。
まぁ、寄生虫ダイエットで、お腹が破れてコンニチワーなんて事は起こらない……はず。
どっちにしろ、危険な方法なのでやらない方が良いだろうと思うけどね。
……人狼ダイエットよりかは、マシだろうけど。
さて、姐御と偽・委員長は大丈夫そうだ。
問題は、清水先輩だけど……
「私は大丈夫だけど、浩一が……」
「んー、まぁ、後で色々と調べますんで、ご心配なさらず」
3人はオーケーだ。
さて、次は先程、気になる事を新田が言っていたので、声を掛ける事にする。
“ドネルケバブのアイスティーを五十鈴さんに調査してもらった”とか“アラブ人関係の情報収集していた時”って言っていた。
「さっき新田は、五十鈴さんに調査してもらったって言っていたけど、このブラックペッパーの事って、いつ頃から知っていたの?」
「……2年前ぐらいからだね」
武居と新田には、五十鈴さんの正体の事は話してある。
それよりも、今の話が本当なら2~3年前には、既にテクノネレイスの斥候と思われるのが、日本に上陸していたって事になる。
時期的は、お姉さんの翠恋さんが居なくなって、1年後ぐらいか。
偽・委員長には知られたくないのか、新田は偽・委員長の方をちょっと見て言葉を濁した。
「あはは………
地元にも、少数ながらアラブ系や東南アジア系の外人さんが居るでしょ?」
「地元?」
「おお。ラーメン屋とか、カレー屋の職人さんな」
思わず、ハテナマークが浮かぶが、そりゃそうだ。
僕が住むのは閉鎖的な村で、新田と武居は3駅向こうの町だ。
皇國代理天が企業を誘致しているので、昔に比べて外人さんが住む様になった。
「それに加えて中古自動車、だね」
「他にも、外人さんを派遣社員する会社の社宅とかあるだろ?
中国人かブラジル人だったか知らんけどよ」
「ああ、それもあるけど、中東系の人じゃないから今回はパスね」
「中東系の人か……
僕は帰りに見かけるぐらいかな……
反対側の電車待ちの列に数人で。
それ以外だと、ドネルケバブ屋台の人だけだなぁ……」
日本で日系人以外の外国人が働くのは難しい。
配偶者が日本人とか、何らかの高度な知識や専門技術を習得している、企業での転勤で日本に来た、等々の特定条件を満たさないと、就労ビザがでない。
「それで、あの事件があってから、しばらくの間は、地元のアラブ系や東南アジア系の人を、色々と調査したんだ」
「そんな事やってたのかよ……。
あぁ、それで、日曜になる度に出かけて……」
「あははは。
半年ぐらいは、ね。
それで結局、全員シロで終了」
「骨折り損だな」
「そーでもない。
この話は、ちょっとキチクンに相談したい事もあるので、また後でね」
「僕に相談事?」
新田が、僕に相談事なんて珍しいというか、初めてじゃないのかな?
これは、ちょっと気合を入れよう。
人に頼られるなんて事は、滅多に無いんだから。
「あはははは。
話がそれて申し訳ない。
その後も、中東とかアラブ系、東南アジア系の人に関しては色々と情報集めをしていてね。
その伝手でブラックペッパーってのを、知ったんだ」
「ほー」
「それを師匠に話したら、かなり危険なドラッグだから、使うのは控える様にってのと、ブラックペッパーに関する情報収集を、常にしておくようにって言われたんだ」
「なんだよぉ。
今度は、それで日曜日を潰すようになったのかよ」
「あははは」
新田の言う師匠とは、皇國代理天の五十鈴さんの事だ。
新田は彼女の探偵事務所でアルバイトモドキ(僕達の学校はアルバイト不可だ)をしているらしい。
「ただ、警戒しているのか、売人には、全然会う事ができなくてね」
新田は僕と武居を見る。
「「??」」
「そんな時に、あのケバブ屋を見つけたんだ」
「……」
「……で、たまたま僕の知らないアラブ系の人だったから、後で調査しようと思ったんだ。
色々と怪しい感じだったしね」
「いや、ソレぜってぇ嘘だろ、コゴロー。
俺もお前も、キチーフだって、食欲だけで動いていたはずだぜ?」
「あははは。ご名答、イッサ。
途中まではそうだったよ。
でも、店主を見たら、気が変わるでしょ。
どうみても中近東の人だったんだから。
で、調査しようって気になったら、次の日の大火災なわけで……」
「「「あーーー」」」
長かった新田の話も落ちがついた。
……あ、そうか。
ひとつ肝心な事を忘れていた。
雲雀や翠恋さんの存在だ。
雲雀の記憶や、新田や武居からの話を総合すると、テクノネレイスは雲雀が生まれた頃には、地球侵略を開始して居る……。
侵略開始から15年ってのも、気の長い事だな。
いや、そもそも雲雀や翠恋さんみたいな存在……女王候補体と呼んでいた存在を、何で10年近く放ったらかしにしていた……?
そして何故、わざわざ翠恋さんを拉致したんだ?
今は、考えても答が出ることじゃない……か。
深く考え込みそうになるのを止めて、最初の話に戻す事にする。
ブラックペッパーの事だ。
どうやら全員ブラックペッパーには手を出していない模様だ。
……1人を除いて。
「ふひゃはははははっ!!
何らよ、誰も使っら事ないのかよ、らめらめらなぁ」
皆に見つめられて、いきなり笑い出す浩一さん。
「使っら事ある俺が、お前らに御教授しれやるよ。
滅茶苦茶、気持ちいーんらぜぇ。
効き始めまれ、5分ぐらい時間が掛かるのがネックらな」
自白剤の効果が切れてない浩一さんは、ペラペラと自慢している。
ブラックペッパーの効果を確かめる為に、すでに何回も試しているらしく、事細かに調べているらしい。
持続時間とか、体感時間とか、感覚とか……
1つ調べて完成 → ひゃっほう → 打ち上げにもう1回。
……アレだ、アル中理論。
二日酔いを覚ます為に酒を飲むって奴。
廃人コース一直線。
「いいかぁ。
欲しけりゃ俺が売っれやるよ。
まずは試してみろよ、病み付きらじぇ。
飲んでよし、吸ってよし、打ってよしぃぃっ!」
そんな浩一さんを清水先輩はじっと見ていたが、新田の方に向き直り質問する。
「ねぇ、中の蟲を出す事ってできないの?」
「あははは、どうなんだろうねぇ……キチクン」
新田は僕に話を振る。
だけど、そんな事を言われても僕だって判らない。
ヴラドの魔法なら何とかできるかのしれないけど……。
ココは専門家の意見を聞いておこう。
「多分、虫下し用の薬でいけると思うけど……雲雀、どう思う?」
雲雀が「うーん……」と腕組みして言う。
「完全に寄生されない限りは、大丈夫だと思うけどね……」
「完全に……?」
「うーんとね、コレってコーデックワームって言うらしいんだけどね。
テクノネレイス達と、共生関係にある蟲なんだって」
「そーなんだ……。
テクノネレイスの身体の一部分だと思ってたよ……」
「うんにゃ、似てるけど違うよ」
「へぇ……」
感心した様に、新田が雲雀を見る。
「なんかイケメンに見つめられると、ドキドキするね」
「あははは、ヤンデレは勘弁さ。
全然、毛頭、皆目、更々、どんな事が当てっても、これっぽっちも、そんな気なんて無いから、大丈夫だよ」
「うん、こっちも、まったくもって。
出会いからして、アンタ黒かったし……。
なにより、ロリショタ好きは人として間違ってるっしょ」
あ。
実は、この2人って仲悪かった?
そういえば最初の出会いは、ヴラドに出会う前の、仏間ボロボロ事件だったっけ。
「あはははは、違うよ、キチクン」
「え?」
「そーね、私とイケメン1号の立ち居地は、ココぐらいが落ち着く感じね」
「???」
「まぁ、一番最初にあった時から見れば、ワリとマトモに戻っている感じだからね」
「う……」
ちょっと赤面する雲雀。
嗚呼、確かに、あの頃の雲雀は痛かったなぁ……。
次の日、エルサレム教団を訪ねた時には、もう元に戻り始めていたけど。
「コゴローくぅん……」
何やら、2人だけの判りあう何かを作り出していた雲雀と新田の間に、偽・委員長が割り込む。
言外には「この泥棒猫っ!」とか「返して、私のコゴロー君を返してっ!」「ヤツとの戯言は止めろ!!」という台詞が聞こえてくる。
心配そうに、こっちを見ている偽・委員長を見た雲雀が、にんまりと笑う。
「ごめんね、スミさん……。
実は、1ヶ月前から、私とイケメン1号はドツキアイを始めていたの」
「ふぇぇぇえっ!
おつきあいっ!?」
ガ―――ンという擬音が、こっちまで聞こえてきそうな程、驚愕の顔をした偽・委員長。
それが、見る見るうちに、絶望に染まっていく。
「そんな……」とか「でもっ」と小声で言っているが、丸聞こえだ。
いやいや、良く聞いて?
“お”じゃなくて“ド”って言っていたから。
「じゃ、話をコーデックワームに戻すね」
「いやいや、投げっ放しはやめようよ!」
思わず突っ込む。
このままだと、偽・委員長、絶対に信じ込むぞ。
くそう。
仕方ない、一芝居うつか。
そんな暇あるなら、御飯を食べに行きたい所だけど……。
「うわぁぁん。
偽・委員長っっ、雲雀が浮気したから、僕とお付き合いをs」
「「何でそうなるっ!?」」
新田と武居のツッコミが入る。
同時に、僕の全身を“波”が駆け抜ける。
ボグゥッ!!
体内より音が聞こえた。
全身が衝撃を受け、僕の腹に雲雀の拳が、めり込む。
拳法家殺しとまで言われている、この身体に……!
僕を倒せるのはKINGの剣、南都聖剣だけなのにっ!!
「げはぁっ!!」
後ろに飛ぶ事も出来ず、雲雀の拳の威力は僕の体内を駆け巡った。
ごすっ、どごっ!
マウントポジについた雲雀が殴ってくる。
「ハーレムメンバーは3人って約束したよね!?
その私達の前で、メンバー増強って良い度胸よね!御主人様っ!」
「……ん!」
「いや、待って、待てっt」
「シグレのハーレムメンバー以外への告白行為、これは浮気と見なす……お覚悟っ!」
マウントポジの雲雀に“ステイ”させていた伊織が“ゴー!”と命令する。
「ムキ――――――ッ!!」
「ひでぶっ!!」
ボクッ!
グシャッ!
ひぎぃっ!
「どうどう、雲雀」
しばらく雲雀のラッシュを受けていた僕だが、5秒後、伊織が“ウェイト!”と雲雀を止めてくれる。
「酷いよ……」
「酷いのは御主人様っ!」
「……ん」
「え~……」
「だいたいねー、他にもっと良い方法があったでしょうーが!」
「えー……」
「はい、イケメン1号さん、実演っ!」
「あはははは、なんだろうね、この茶番……」
新田は、偽・委員長の前まで移動して、肩にそっと手を置く。
「委員長、僕がロリータ以外に真剣になるワケ無いだろう?
最初から遊びだよ。
だから委員長は、本気にしないで良いんだよ?」
「ふわぁ……うん、コゴローくんっ♪」
「いやコゴロー……その台詞は違うだろ」
「せやで。
そこは“俺が好きなのは、お前だけ、きらーん”やで?」
「えーっと……」
周りがドン引きしているが、目的である偽・委員長の誤解は解けたみたいだ。
ちなみに雲雀にボッコボコにされた僕だけど、外見上のダメージは無い。
将来の爆弾3勇士ならぬ、爆弾3隷属吸血鬼[ストリゴイ]に全て流した。
超便利アイテムだ。
さてと……。
「話をコーデックワームに戻そうか……」
「うーわ、全ての悪、常世の悪、諸悪の根源が、話を有耶無耶にして、元に戻そうとしているっ!!」
「……そこまで酷い事した?」
「キチーフ……流石にあれは無いぞ」
「あははは、キチクンはもう少し男女の心の機微とやらを学ぶべきだよ」
「むぅ……」
正直判らない……が、多分、僕がかなり不味い事をしたらしい。
新田と雲雀が恋人関係だと、偽・委員長が勘違いするのが、嫌なだけなんだけど……。
「ワーターシ、嘘つかないアルよ!
……でも御主人様、嘘ついているじゃん!
それも、絶ぇぇぇぇっ対しちゃ駄目な!」
「……ん、本来なら無念腹」
「そこまでか……」
ちなみに無念腹とは、切腹の作法(?)の1つで、異議申し立てのある場合や、無念で無念で仕方ない場合の切腹方法なんだとか。
内臓をぶんぶん振り回したり、見ている人に投げつけたりといった、かなりパフォーマンス性の高い高難度な切腹だったとか。
……どこの内臓レディだ。
しかし、伊織にそこまで言わせる程、酷い嘘を吐いたということなのだろう。
逆の状況、僕の立場に伊織と雲雀を当てはめてみる。
…………。
……。
「むぅ、確かに……コレは酷い」
「土下座っ!
謝罪と賠償を要求するっ!」
「……ん」
「御免なさい」
「むむむ、御主人様ってば、無駄に土下座スキルが高いわね……。
ならば次回から、エクストリーム土下座でっ!」
いや、それ絶対、方向性が違うよね。
「あはははは、幾らなんでも、キチクンが可哀相だよ。
発端は、月見里さんの悪ふざけなんだから……。
キチクンは、ただ単に委員長が勘違いしたままでいるのを、止めようとしただけなんだからさ」
「あれ、そだっけ……?
御主人様が、イジリガイのある女を、ハーレムメンバーに加えようとしたんじゃ無かったっけ?」
「え、……いや、その前だよ」
「うーん……
取り合えず、他の女に色目使ったから、ぶちのめそうとして……
ああ、そっか!!
そーだね。うん」
「思い出した?」
「……」
「……」
「一件落着ぅっ!」
ありがとう。
雲雀の御蔭で、皆の僕を見る目が少しだけ優しくなったよ、うん。
「ハーレムメンバーの掟を破る者には、血の粛清とは……さすがだな、キチーフ……」
「ふぇぇぇぇ、やっぱりヤクザさん……」
「我が身すでに不退転とは……漢だね、キチクン」
「さっきの男の性的嗜好、SとMの話、よー判ったわ、若頭」
「よよよ……」
「さぁさぁ、話をコーデックワームに戻すねっ!
実は詳しい事は、私も使った事が無いから、イマイチ判らないんだけどねっ!」
「そりゃこんなモノ、普通にしてたら、そうそう使う事なんてねーだろ?
キチーフみたいに騙されたとか、麻薬常習してるんじゃねーんならよ」
「今度、使ってみるよ!」
「いや、だから危険だから使うなって、キチーフが言ってただろ」
「それはそれ、これはこれ!!」
武居が突っ込みを入れてるけど、武居の“使う” と雲雀の“使う”の意味合いは違う。
向精神薬ブラックペッパーとしての認識と、寄生虫コーデックワームの共生主としての認識の違いだ。
「この寄生虫なんだけどね。
ほら、テクノネレイス達が、お尻から出すガス、アレを作成するのが、こいつらなんだって」
「お尻から出すガスって、屁じゃねーのかよ?」
「あははは、イッサ、下品だよ」
もう少し判りやすくする為に、皆には補足説明をする。
「あー、ほら、僕の家がドラゴンに襲撃された時に、裏口から入ったじゃん?」
「おー」
「そないな事もあったねぇ」
聞きに徹していた偽・委員長と姐御が、話に加わってきた。
清水先輩と浩一さんは、オリ合宿の話を知らないので、蚊帳の外だ。
今は、それどころじゃないんだろう。
ドラッグだと思っていたものが、実は寄生虫の擬態だなんて、誰も思わないだろうから。
「モスマンにドラゴン、自衛隊……。
あの夜は最高だったぜぇ」
「バカスエ、なんかエロい」
「何でだよ?」
「いや、あれはモスマンじゃなくって天使……」
「せや、あの時の天使さんも、若頭の仲間なんやろ?」
「そーいや、そうだな。
今度、紹介してくれ」
「あー……うん」
「ドラゴンか……
何もかも、みな懐かしい」
「イケメン1号、それ、死亡フラグになってるかもしれないよ?」
「あははは、誤診だよ」
「もしかして、キチーフが言いたいのは、あの時に見た土柱になったSITの人達の事か?」
「そうそう」
あの時、僕の家に裏口から入ろうとして、SITの人達がヴラドの魔法で土柱になっていたのを、僕を含めて新田や武居、偽・委員長に姐御も見ている。
ところが、その前の段階で、テクノネレイスに寄生された警察官2人にSITの人達は、ガス攻撃を受けていた。
それによってSITの人達は、意識がボーっとしていたんだろう。
「……これ」
伊織が、スマホモドキで動画を見せる。
無人偵察機ムシノシラセで見た、寄生された警察官2人の行動だ。
警察官の1人が、SITの人の前までくると、お尻を向け、屁をこいてる。
なかなかに強烈で、下品だ。
でも、こんなシーンを伊織と感覚共有している時に、見た記憶が無い。
僕が記憶を漁っていると、御丁寧に“再現映像です”とテロップが入っている。
どうやら、皇國代理天の映像技術で作成されたモノらしい。
本物そっくりに見える。
「あはははは、凄いオナラだねぇ」
「……これ、ホントに再現映像かよ?」
「ほんまや、凄いわぁ」
「へー」
「ん、評価する、スミ」
「へ?」
「―――ッ!!
2段ッ!?」
「ふへ?」
「……素晴らしい。
スミには、今のギャグについて説明責任が……」
「ふぇぇぇ、な、何の事か、さっぱりなんです……」
「いや、戸隠、今のはギャグじゃねーと思うぜ?」
「なん、だ、と……っ!」
「あれやね。
戸隠と若頭って、実はお似合いなんやないかな」
「あははは、ワリと壊れている所があるよね、彼女も」
「新田はんに言われるっちゅうんも、凄いもんやで」
「あははは」
ひとしきり伊織作成の動画を見た後に、僕は話を戻す。
「要するに寄生されると、人の運動神経を麻痺させるガスを作り出すらしい、って事」
「他にも、お役立ちの能力があってね、御主人様」
「メガスマッシャーを受けると、電気信号に変えるとか?」
「おおーっ!さっすがご主人様、詳しいね!
でも……それ以外に、マーカーとして機能するんだってさ」
「マーカー?」
「うーんとね、ほら、ナビみたく……」
雲雀の話だと、コレに寄生された人間と言うのは、テクノネレイス達にとって、地図上のマーカーとしての機能を持つようになるらしい。
現地協力者として、コーデックワームの寄生主から、共生主であるテクノネレイスへの簡単な感覚同調ができるみたいだ。
昔の僕とヴラドの感覚共有みたいな双方向のモノではなく、共生主から寄生主への一方的なモノらしい。
電気信号だろうか?
それとも呪術的な繋がりだろうか?
場合によっては、感覚共有できない状態ってのは、あるんだろうか。
「犬が柱にマーキングする様なモノね!」
「ホントに詳しいなぁ。
なんだよ、専門家か?」
「あははは、目黒の博物館関係者かい?」
「あにそれ?」
武居と新田が、雲雀を褒める。
笑っているけど、新田と武居の目付きが鋭い。
取り合えず、新田の質問に“?”マークを浮かべた雲雀をフォローする。
「寄生虫の博物館だよ」
「あー、そういえば、そんなのもあるって話だねぇ」
新田と武居は、雲雀を観察しているんだろう。
何しろ、3年間追い続けた敵の情報を、ペラペラ話してくれるんだから。
多分、今の雲雀は、僕にフェアリィの事がバレたから、心理的な負担が軽くなっているんだろう。
ちょっと気分が良いかも。
それだけ思われ(依存され)ている、ということは。
いくら雲雀でも、仲の良い人物以外には、話そうとしない内容だと思うから。
「ちょい質問なんだけどよ。
命令する事は出来るのか?
ほら、ゾンビモノによくある様な……」
「あははは、イッサ、良くあるってバイオハザードみたいな……
あー、デッドラの蜂の事?」
「どっちも10年以上も前のゲームやん。
よお、内容知ってるなぁ」
「知ってるよ~。
モールを占拠する第一弾ね!
アレ大好き!
さっすがカプコン!」
「なんだよ、気が合うじゃねーか」
「最近のとか、ソシャゲは詳しくないんだけどね」
「あははは、イッサ、好きだもんね、あの手のやり込みゲー」
「お前がドライすぎんだぜ、コゴロー。
今のゲームに必要なのは、クリアーしても何度も楽しめるスルメゲー要素なんだぜ?」
新田の突っ込みに、雲雀が答え、武居と意気投合する。
スルメゲー要素はあった方が良いけど、そこまでのめり込めるかどうかは難しい。
どっちかっていうと、僕はMODの方が好きだ。
MOD開発がさかんなゲームってのは、クリアした後も何度も楽しめる。
28daysなんてMODは、ワールド中にゾンビを溢れさせr……
「……非効率。
ストーリーだけ教えてくれれば良い」
「いや、それはどーよ……」
「あははは、戸隠さんらしいね」
「うう……私、ゾンビモノとか怖いのって駄目なんです」
「でもな、スミ、ゾンビとホモって相性良いで?」
「そうなの!?」
「ゾンビになりますか、それとも、ホモになりますか?……究極の2択や」
「どっちにしろ、人類絶滅じゃねーか」
なにその野獣オブザデッド
いや、話を戻そう。
「テクノネレイスのコーデックワームへの命令権みたいなモノってのはあるの?」
僕は雲雀に質問する。
「うーんと、ね。
共生主と寄生主の関係は、特定のテクノネレイスが御主人様って感じみたいだよ。
命令みたいな事は出来るみたいだけど、テレパシーみたいなモノは無いみたい」
「要は……コーデックワームで組織されたグループの中には、必ず共生主のテクノネレイスが紛れ込んでいるという事だな?」
「おお、話早いね、イケメン2号っ!」
「ふふん、蜂を瓶に詰め込んで、割るだけで敵は全滅だぜ」
「あははは、イッサ、それ、何処のボムだい?」
「……っと話がそれたな。
ってぇ事は、命令権は、元の共生主だけなんだな?」
「うん、特定のテクノネレイスが御主人様!
ちなみに、私も御主人様をボムられると死ぬよ?」
「あははは……愛されてるね、キチクン」
「あー、うん……まぁ」
これが、事実だったりするから怖い。
世界樹[ユグドラシル]の祝福であり呪縛だ。
「じゃ、じゃあ妹さん、複数に寄生されていたら……?」
やっと話がまとまってきたのを感じたのか、顔を青ざめさせて、清水先輩が聞いてくる。
浩一さんは、色々な方法を試しただろうから、何匹ものコーデックワームに寄生されてそうだ。
「ちょっと待ってね……」
「……」
「んー、そんなビッチな寄生主は……
中でワームの熾烈な競争が起こって、その内に寄生主が死んじゃうのと、強いワームによるピラミッド型か、1匹の強力なワームが他を排除する、3通りのパターンがあるみたい」
「じゃあ、浩一は……」
「兄様は、どんなパターンだろうね。わくわく」
「浩一ぃぃっ!」
何でもこのワーム、最終的には、背骨に寄生するんだとか。
神経を乗っ取るのか、おっそろしいなぁ。
胃からどうやって移動するんだろう?
確か、豚肉の寄生虫……
サナダムシの一種で有鉤嚢虫とかいうのが、血管を使って、筋肉や脳に移動する事があったっけ。
そういった形態に変わるというんだろうか?
「まぁ、半年ぐらいは、大丈夫なんじゃないの?
最終形態になるのに、それなりに時間掛かるみたいだしね」
「それでも、半年しかないんでしょ?」
「んー、まぁね。
兄様は、おとなしく虫下しでも飲んでおけば、いーんじゃない?」
フェアリィとの脳内会話が終わったのか、浩一さんの事なんて、どーでもいーとばかりに手をヒラヒラと振る雲雀。
そんな雲雀に、新田と武居が熱い眼差しを向けている。
とはいっても、恋とか愛みたいなものではなく、情報に飢えた者の目、なに1つ見逃すまいとする観察者の目だ。
新田が何か話しかけようとして、口を開きかける。
だが、武居の方が先に動いていた。
「マジで詳しいな。
どっかで、誰かに教えてもらったのか?
もし構わないんなら、紹介してくれ」
「お褒めの言葉、どーも、イケメン2号さん。
それで期待させておいて悪いけど、ちょっと難しいのよ、ゴメン」
「そーか、じゃあ、しゃーねぇな……」
「確かに教えてくれる人は居るんだけど、ね……。
紹介できないんだよね。
その代わりに、今回みたいに私が知っている事なら答えるってのじゃ、駄目?」
「いや、どこぞのロリコンと違って、情報料よこせとか言わないんなら、此方こそ在り難いぜ」
「あははは、その代わりに情報を貰ったら、それなりの奢りをしてるはずだけどな、イッサ」
「その奢りが、情報料に見合うんなら、俺も嬉しいんだけどな、コゴロー」
「あはははは」
「ふっふっふっふっ」
「ホントに、このイケメン達って、息のあったコンビね~」
「せやろ?」
「ふわぁ……」こくこくっ
偽・委員長と姐御、浩一さんを心配しているはずの清水先輩、オマケに雲雀までもが、2人のイケメンが睨みあい、笑っている姿を見て、頬を染めている。
むぅ。
これだからイケメンは……。
う、うらやましくなんか、ないんだからねっ!?
「お、そうだ。
月見里さんよ。
続いて、質問なんだけどよ」
「なぁに?」
「この寄生虫な、犬のマーキングみたいなモンって話だけどよ。
って事はだ。
青い血のヤローどもが、巡回しているんじゃねーのか?
縄張りの中を散歩でもいーけどよ」
「???」
「要は、ここにテクノネレイスが来るんじゃねーのか?」
「……んー、それは判らない。
っていうか、蟲の生態とか性格までは、流石に知らないしね」
「そうか。じゃあ、今の浩一さんの状況って、共生主であるテクノネレイスは知っているのか?」
「人間にも色々居るように、テクノネレイスも様々だからねぇー。
ノゾキが好きなのも居るだろうし、釣った魚に餌をやらない人だって居るだろうし、ね」
「何で僕見るの、雲雀!?」
「それも、そーだな……」
「そこで納得しないでよ、武居!」
「いーよー、気にしないで。
兄様に聞けばいーんだしねー。
そのための自白剤だし」
「おー、それもそーか」
くっ、帰りは、本格的に皆にプレゼントを買わねば……!!
「イケメン1号さん、兄様に聞いてもらえる?
アラブ人とかが、毎日ココに来るのー?って」
「あははは、判った」
さて、更に昼御飯が遠くなった。
先程までの話を聞くと、浩一さん家の冷蔵庫の中は、期待できそうに無い。
食材が無ければ、食事を作る事なんてできないのだから。
それに、もしもテクノネレイスが此処に来たとしたら、浩一さんを拉致るか、殺害するかもしれない。
これでは、全員(浩一さんを除く)で食事に出かけるというのも却下だ。
戦闘能力のある、雲雀か伊織には此処に残ってもらわないといけない。
これはあれか。
コンビニ飯を適当に買ってきて、食べるしかなさそうだ。
「んー。
じゃあ僕は、コンビニで弁当とか買ってくるよ。
こっちで食べた方が早いでしょ?」
「おー、そうだな……
姐御と委員長、清水先輩も、それでいーっすかね?」
武居が3人に問いかける。
偽・委員長は、新田が居る所なら、どこでもパラダイスなので、最初から意見を聞いてない。
姐御は最初から気にしていないのか「それでえーで」と答える。
清水先輩も同じ感じだ。
……満場一致で、コンビニ飯を買ってくるという事で決定した。
しかも、言いだしっぺの法則が働いて、僕が片道15分歩いて買ってくる事に……。
「さすがに1人は辛いので、誰か手伝ってくれない?」
「じゃあ、私もついでに行くね」
「いや、雲雀は説明しておいてもらえる?」
「えーっ!?」
僕の救援願いに雲雀が挙手する。
だけど、ココでは新田と武居に色々と話しておいて欲しい。
僕は感覚共有で、何を話したのか判るから、問題ない。
どちらかというと、雲雀が僕以外に秘密にしたい事の見極めにもなる。
今の段階では、新田や武居に、雲雀がテクノネレイスだと言う訳にはいかないだろう。
「御主人様、オーボーっ!!
私の楽しみを、奪うつもりっ!?」
「え?」
「私にもシャバの空気……
じゃなくって、ドリンク飲ませろ!!」
「いや、激マズドリンクあったら、買って来るから」
「むむむ……仕方ないわね。
特にパックものは、しっかりと見といてよね!
最低2軒はコンビニまわって調べて。絶対よ!?」
「ええっ?」
ノルマが増えた。
まぁ雲雀の言う、激マズドリンクとは、今期発売されたジュースで、変わった味や、珍妙な風体のジュースという意味だ。
最低限度、季節限定モノは買わねばならない。
誰だって不味いドリンクを飲みたい訳じゃない。
要は、これは出会いなのだ。
一期一会の、季節限定ドリンク。
流行の話題性、売れる為の季節感、旨いのは当然。
だが、そんな中に時折、混じる爆弾。
何か1つボタンを掛け間違った、悪意がそこに沈んでいた、無難な企画に一石を投じる……
そんな、様々な理由で生まれる鬼子達。
おいしい、後味さっぱり、すっきり爽やか、フレッシュな香り、ほんのり甘い、心身ともにエネルギーチャージ、etc。
珍妙奇天烈な味を与えられて、生れ落ちた鬼子には、そんな普通のドリンクの様な賞賛は与えられない。
リピーターは要らない。
全てをかなぐり捨てて、唯一言の賞賛の言葉「うわ、これまっずぅ」と共に、人の記憶に残り続ける。
それこそが、激マズドリンクの宿命だ。
なんて健気で儚いっ!!
と、まぁ語った所で、要するに珍しいジュースを飲みたい、っていう話なだけなんだけどね。
ちなみにソレが出来なかった場合、消化不良の治療薬を起源とする、消化酵素ペプシンの入っていたコーラのシリーズを買わないといけない。
本来なら、お茶が健康に良いんだけど、僧院で健康的過ぎる生活を送っている雲雀は、それを好まないだろう。
ちなみに、ココで間違っても、コカインが入っていたコーラシリーズを買うと、僕はサンドバックになる。
「ええっと、ノルマが増えたので……誰か助けてくれると……」ちらっ
…………。
……。
誰からも、返事が返ってこない。
ぐっすし。
「あははは、ごめんねキチクン、こっちの方が優先度高いからね」
「あー、自販機のジュースだけでも良いんじゃね?
なんなら、昼飯抜いても大丈夫だしよ。
ダイエットになるだろ?」
「う……じ、人狼ダイエットは心臓に過負荷が掛かる事が懸念されており、無理の無い適度な運動と、継続的な栄養摂取のバランスが重要との御言葉を、主治医であr」
「ダイエットと言われたらなぁ……ゴメンなぁ、若頭……」
「ダイエット……昼御飯を抜くのに賛成です」
「さいで……」
偽・委員長と姐御もダイエットに大変だ。
でも歩いた方が、食事を抜くよりも良いダイエット効果があると思うよ?
まぁ、仕方ない。
「向こうの商品見て連絡するから、その時に欲しい物を言って?」
僕は立ち上がると、玄関に向かって歩き出す。
何しろ、お腹が減った。
只でさえ燃費の悪い身体だけど、腕が人狼のままで、体力の消耗が激しい。
地球じゃ魔力素で補うなんて事はできないから、毎回エネルギーになるものは摂取しておかないといけない。
「んっじゃ、行って来まーす」
「あー、すまねぇな。
じゃあ、キチーフの分は、コゴローが奢るぜ?」
「あははは、まぁ、仕方ないね。
キチクン1人を歩かせるんだ、イッサがキチクンの食費もみるってさ」
どこまで本気か判りづらい2人の漫才を聞きながら、外に出た。
僕の後ろ、少し離れた所を伊織が、ストーキングして来る。
伊織曰く、僕を1人にすると、敵に襲撃されるらしい。
コレもフラグという奴だろうか。
ジンクスでも良いような気がするけどね。
実際は、そんな事は無いはずだ。
1人になったのは、魔狼と戦かった悪魔城での時だけだ。
心配してくれるのは嬉しいけどね。
スマホモドキでコンビニを検索して、雲雀の希望に沿うルートで回る事にする。
行きと帰りを別ルートにして、コンビニ3件を回る。
トータルで約40分ぐらいか。
僕は、伊織の両脚を感覚共有・入力で動きを止める。
そのままストーキングしている伊織の所まで戻ると、手を握って歩き出す。
ストーカーしたいと言う伊織の希望を叶えるのは止める。
「シ、シグレ?」
「はいはーい、コンビニまでデートしましょう」
先ほどの、偽・委員長への嘘の件もある。
ここはキチンとした態度で、3人が好きです、というアピールをしておかないと……。
「わ、私は護衛なのだが……?
これでは、隠密ではなくなってしまう」
「影から守るより、傍で守って下さい」
「……むぅ」
言っていて情けないが仕方ない。
僕が弱いのは事実だ。
浩一さんの家で、感覚共有していた雲雀が
「ムキ――――――ッ!!
やられたっ、ド畜生ッ!!」
と、行き成り叫んで周囲を退かせている。
いや、そんな事より、武居と新田の2人に、何処までテクノネレイスの情報を話すのかをだね……。
浩一さんは、先ほどの新田の質問「この家にアラブ系の人は訪ねてくるのか?」に「訊ねてこない」と返していた。
自白剤が効いているだろうから嘘ではない。
だけどなぁ……。
別にテクノネレイスって、アラブ人だけに寄生しているわけじゃないからなぁ……。
警察官やドラゴンに寄生していたんだ、安心するわけには行かない。
新田と武居の質問は、ブラックペッパーに関する事から、テクノネレイス関連に移っている。
当然、その事を詳しく知っているであろう雲雀に、質問が集中する事になる。
「こいつら、テクノネレイスが異世界からの侵略者と言うのは判っているんだが、いったい何の為に侵略してくるんだ?」
「あー、目的?」
「そう」
「子孫繁栄よ?フツーに」
「あははは、究極的には、そうだろうけどね」
「まー確かに、生物としての本能だけどよぉ……。
もうちっと他にも……
こう、旨いモン食いたいとか、寄生虫王国万歳とかねーのかよ」
「いや、それ以外は無いみたいよ、マジで」
「あははは、詳しいね、月見里さん」
「キチーフの婚約者だけはあるって、感じだけどよ……」
「「何でそこまで知っているんだ」い?」
新田と武居、息ぴったりに2人は雲雀に問う。
「だって私、テクノネレイスに寄生されてるもん」
…………。
……言っちゃった。
「えっと……」
「あー……」
新田と武居が、再稼働する。
だけど、ショックを受けている2人と違い、偽・委員長と姐御は、自分達も話に参加しようと、雲雀に話しかける。
わき合い合いと。
「え?え?
あの、寄生されてる、ん、です……か?」
「うん、寄生とゆーか、融合って感じだけどね」
「雲雀は、さっすが若頭の女やねぇ。
一筋どころか二筋、三筋縄でもいかないやね」
「いやいや普通ですよ。
縦一筋、女です。
でも、昨日は三筋縄で逝かされまくりました」
「うっっわ、雲雀さんや。
それ、オヤジギャクやで!
みんなドン引きや」
「うわぁうわぁ、な、生々しいです……」
「ほらみぃ、ムッツリなスミさんが、濡らしてもうたやろ!」
「え?」
急に姐御が、偽・委員長へと話を振る。
さすがに、意表をつかれた偽・委員長は固まるが、雲雀はソレを偽・委員長を弄るチャンスと見たらしい。
「あら?
それは……
ごめんなさいね」
「え?え?」
にんまりと笑った雲雀は、すすっと動くと偽・委員長の側に近づく。
女の子座りしている偽・委員長の頬を、触れるか触れないかという、繊細な距離で撫でる。
「ひゃぅっ」
「フフ……可愛い人。
イケナイ事に興味津々なのね?」
「あああぅ……」
「フフ……捕まぁえた」
少し後ろに引き気味になった偽・委員長の股の間に、雲雀は強引に自分の左膝を割り込ませる。
そのまま、ぐいぐいと偽・委員長の身体に自分の肢体を重ねていき、口づけする様に、顔が近づいていく。
「スミは、どんな事を想像したのかなぁ~」
「えぅえぅ……」
近づいてくる雲雀の顔から、目を逸らし気味に彼方を見る偽・委員長。
耳にフーーッと息を吹くと、見る見る偽・委員長の顔が上気し始める。
「ね、答えて……」
「あ……」
「誰の事を考えてたのかしらね?
どんな事をしたの?されたの?
答えて……?」
「あぅ……コ、コゴr」
パンッ!
雲雀が拍手を打つ。
ピンク色に成り掛けていた雰囲気が霧散する。
「と、まぁこんな感じに、テクノネレイスは人間を捕食して、寄生するわけです」
「「「は?」」」
「今やったのは、汗の香り、体臭を少し変化させて、デリシャスメルにしたのよ」
「ゆりくまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
僕は、思わず道端で叫んでいた。
「シグレ?」
驚いた顔で、僕を見る伊織。
今の今まで、雲雀と感覚同調していたのだが、今の雲雀の言葉で、1つ判った事があった。
うん、昨日は無茶苦茶ハッスルしたけど!
どうやら、それは雲雀の体臭をコントロールする力の為に、僕の意識とは別に行われた事だったのだっ!!
そう、香りにあてられて、お縄プレイになったんだ!
いわば、雲雀の望みの具現化であって、やはり僕は、純愛物が大好きなのだ!!
アブノーマルなのは、きっと僕の趣味じゃないはずだ、間違いないっ!
「シグレ……」
「?」
「間違いなく、あれはシグレの趣味」
「……へ?」
「他人と肌を合わせている時のシグレは、攻撃性が増す」
「え~~」
「私の時と類似する」
「あーえぇっと、伊織の時は、そのぉ」
「現実は、いつも厳しい」
「さいで……」
「判らないのだが……」
「??」
「元々、性交というのは、汚い部分同士を擦り合わせる不潔な行為で、病気感染をおこし易い。
地球の技術力なら、既に体外受精による安全、且つ、健康的な性交の結果を得る事が出来る」
「いや、まって。
確かに体外受精は可能だけど、その後の育成が無理だからだよ……」
「……皇國代理天の調査では、技術的には可能なレベルとなっている。
それなのに、地球人は野蛮で不潔な体内受精を好んで行っている」
「あー……
それは、なんというか、そのぉ、ごにょごにょ」
「それどころか、避妊具などという非効率的な道具まで使用している……
着生率を低下させてまで、野蛮で不潔で危険な行為を、何故行うのか、理解できない」
「むむむ……
ソレは気持ちいーからとしか、言えないなぁ」
「気持ちが良い……感情の問題?」
「うん」
「ふむ……
類似的な状況に、河豚を食べる時をあげる事が出来るが、それも気持ちが良いから?」
「いやいや、何でセックスと河豚を食べるのが一緒なのか、僕が理解できない」
「……危険、毒の可能性、あたる可能性、せいしをかける」
「えーっと……」
最後の所はギャグなのだろうか?
オヤジギャグ……
駄洒落という文化の1つなんだけども、ソレを多用する伊織だから、真面目な話をしている時にもやりそうな気がする。
というか、エアリーディング能力が高いはずなんだけど、真面目な話をしている時に言ってくる事が多い。
今みたいな場合は“謎掛け問答”でやった方が面白いだろう。
2人いるとやりやすいネタだけど、定型分がある。
「●●と掛けまして■■と解きます」
「ほう、●●と掛けまして■■と解く、その心は?」
「××」
と言った、今でも良く使われる昔からの言葉遊びだ。
前提条件で、ある程度の日本語の会話能力が必要となるんだけどね。
今回の場合は伊織が、ネタを知らないだろうから、1人でやる事になる。
「性交と掛けまして河豚毒と解きます」
「……シグレ?」
「その心は……」
「???」
「せいしをかけるっ!」
「……」
そっと伊織が、僕の額に手を置く。
「……シグレ、あなた疲れて居るのよ」
「いや、伊織、それはココで使うべきでなく、自分の知らないところで起こった、信じがたい事を否定したい時に使う台詞だよ」
「むむ……シグレ、いけない、すぐに精密検査を受けよう」
「精密検査って、また、なんで……」
「体の内部を徹底的に調べてみる必要がある」
「あ……その台詞は……」
どうやら、雲雀のオタク洗脳が着々と進行している。
しかもレトロウィルス……!
Xファイルのスカリーの台詞に始まり、ウルトラセブンの最終回前、主人公が怪我をして正体を明かす直前の名シーンだ。
「シグレは“昨日はお楽しみでしたね”だから、疲れているのだ。
激しい運動に加えて、一睡もしていない」
「いやいや気分爽快、晴れ晴れですよ」
「ふむ、相手を嗜虐する事で気分爽快……
判らない事ではない」
「いや、ちょっと微妙に、なんとなく、どことなく違います」
「難しい……」
なんで路上で猥談しながら歩いているんだろう……。
ふと我に返って、行く手のコンビニを見る。
まずは一軒目だ。
ココでは、あまり荷物になる物を買うつもりは無い。
店内のジュースを見るだけだ。
おや?
コンビニの駐車場に、パトカーが止まっている。
駐車場全体に、現場保存用の黄色い規制テープが張られていて、その中心であるコンビニの状況は、見るも無残な有様だった。
壁面ガラス全てが割れて、辺りに散乱しており、店内の惨状は足の踏み場の無いほど、商品が散らばっている。
一言で言えば、車が突っ込んだみたいな状況だ。
だけど、それらしい車は見当たらない。
中では現場検証が行われているみたいで、青い服の警察官が地面を丹念に捜査している。
これでは、コンビニに入る事は出来ない。
「買い物は無理っぽいね……」
「……ん」
「次の所に行こうか」
「……」
野次馬の後ろから、ちょっと覗いて状況確認を終えた僕と伊織は、次の目的地に向かう事にする。
その僕達を追い抜いて、パトカーと救急車が、走り去って行った。