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le freak 作者:やましたよしのぶ
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第二部 001−

第二部 

001

明美先生はたくさんの園児に囲まれ、みんなにその小さな胸をペタンペタンと
触られていた。いつもの事だ。みんなで明美先生の所に来てべたべた触りに来る。
園児はただ楽しんでいるだけなのだが、、、しつけが悪い、、ミコが言った。

「うちのままよりちいさーーい!」確かにうちの奥さんも小さい、、

「だからあけみせんせいはまだどくしんなんだーー!」ゆうたくんが笑いながら言った。

しつけが悪い、、うちのむすめも、、

「やまがたせんせいはおおきいほうがいいらしいよーー!」マコがからかう。嘘だ。
そんなデーターがそろってる6歳児なんていない。

明美先生が泣きまねをする。いつものことなのだ。でもぐさっとくる。しつけが悪い。
バスで送り迎えをする時に園児達が親達の前で言うと、親達が固まる。一瞬、親達が
明美先生のその小さな胸を見る。表情がなにか物語っている。恥ずかしい、、

「もうせんせい、みんなにいじめられてないちゃうーー!
 えーーーーーーーーんんん!!」 と明美先生が半分シリアスに泣きまねをする。
明美先生はあんまり叱ったり出来ない。というか大勢過ぎて手に負えない。

そうするといつも、園児達はその手を止めて先生を慰める。いつものパターンが始まる。

「せんせいなかないでーー!まったくいじめるやつはどこのどいつだ!」とミコが言う。

それはあなただ。

「せんせいかわいそーーほら、あたまなでなでするからなかないでねー」とマコが言う。

子供扱いされてる、、、、明美先生が頭の中でつぶやく。

「うちのままよりおおきいからせんせいだいじょうぶだよー!」よしくんが良くわからない
理屈で慰める。さすがジャイアンツファンだ。よしくんのママはたしかに、、、だ。


しかし、誰も謝らない、、、しつけが悪い。


明美先生は26歳で幼稚園の先生をしている。背は150センチをちょっと越えるくらいで
ショートヘアーで、美人というよりはどうしても背が小さいので可愛いとった感じの
女性だ。先ほど申し上げた通り、胸が小さい。本人も散々園児にからかわれているせいか
気にしていたりする。これも明美先生がある日、自傷的に、先生は胸が小さい、と言って
しまったのが発端だった。それがなぜか園児に大うけして、その日以来それが続くこととなった。
実のところ、みんなは先生にただ甘えたいだけだと思う。だが日々エスカレートしていった。

結婚願望がある。同僚の山形先生のことを気に入っている。山形先生はハンサムで優しい人だ。
子供が大好きだし、園児にも人気がある。仕事熱心なので明美先生はなかなか近づけなかった。

そうして、夏休みの前の最後の日が終わった。明美先生がバスに園児を乗せていろいろな
親が引き取りに待つところに廻る。

「せんせいさよーぉなら! やまがたせんせいとなかよくね!」とミコがからかった。

明美先生がいつものごとく笑ってごまかしていた。私も笑ってごまかした。話はすべて知っている。
世界中の誰もが知っている事実でも、それを口に出せないということは大人の間ではよくあることだ。
でも、子供はそんなこと気にしない。教育は難しい。

よしくんとさゆりちゃんとゆうたくんとマコもバスから降りた。みんな口々にしばらく
言えないそのセリフを言った。大人たちの間で無言のテレパシーが飛び交う。
もちろんみんな知ってるけど、みんななんにも言わない。いつものことだ。

私はみんなにさよならをして、ミコとマコを連れて家に帰った。夏だ。暑い。
帰り道、ミコとマコは今度のキャンプの話をした。今度、私の家族とゆうたくんの家族とよしくんの
家族とさゆりちゃんの家族でキャンプにいくこととなったのだ。ミコとマコは非常に楽しみに
していた。マコとしてはさゆりちゃんがいるのでよしくんの奪い合いとなるのが嫌なのだが
しょうがない。さゆりちゃんは美人だ。さゆりちゃんのママも美人なのだ。しかたがない。

よしくんパパがこの計画をたてた。よしくんママはずっと前の誘拐事件以来、うちの奥さんと
交流を計るべく、いろいろなイベントを用意してきた。うちはイベント作成能力にかなり
欠ける一家だったので、ありがたい。うちの奥さんもなかなかよしくんママと仲良くなっていた。
うちの奥さんが魔女であることをちゃんと理解している。口には出さないけど、わかっている。
多少はその秘密に近づきたいという想いがあるようだ。よしくんママはいろいろと影響されやすい
タイプだ。

よしくんパパは現実的にきちんと計画を立てられる人だ。
会社でも評判が良いらしい。割りに細かいことをきちんと考えることが好きなようだ。
きちんと予算を出したり、場所に関するいろいろな資料をインターネットやらで調べまくり、
我々が持っていくべき必要なもの、その他いろいろなデーターを元に企画書を作成し
みんなにわかりやすいレイアウトで説明文や画像なんかを添えて、それをプリントアウトして
みんなに配った。素晴らしい。うちのようなずぼらな夫婦にもわかりやすい様になっていた。
誰もが一目できっと会社では有能な社員なんだろうなー、という感想を持てる様な
素晴らしい計画書だった。彼は有楽町の会社で働いている。私と同じ年だ。

場所は伊豆のキャンプ地だった。なかなか良さそうなところだ。そこの4人用ログキャビンを3棟
借りて、うちの夫婦とよしくん夫婦でひとつ、さゆりちゃん夫婦とゆうたくん夫婦でひとつ、
子供たちだけでひとつに割り振った。よしくんママは料理の達人なので美味しい料理も食べれる。
素晴らしい。子供たちももちろん喜ぶだろう。というかもうすでに喜んでいる。ねこも連れて行ける。

「ぱぱはやくきゃんぷいこうよー!」マコが言う。それはあと10日後の話だ。

「あともうちょっとよいこでまっててね、」と私は言った。

ふたりが足をバタバタさせる。無言のアピールだ。

「ねえ きゃんぷにぱんださんはいるの?」とミコが聞いた。なにか勘違いしている。

「キャンプ場にパンダさんはいないよ、うさぎさんならいるかもしれない」と私は言った。

「きりんさんもいないの?」ミコが言った。まだ勘違いしている。

「キャンプ場は動物園じゃないんだよ、あひるさんならいるかもしれないけど」と私は言った。

まだ理解できないようだ、、キャンプは初めてだからうまくイメージ出来ないのかもしれない。

「みこはこどもだなー!きゃんぷじょうはよこはますたじあむとちがうんだよー!」とマコが
ミコをからかった。だが全然違う。動物園にホッシー君がいたらわけがわからなくなる。

「とにかく、みんなで好きなだけ遊んで、よしくんたちとみんなで一緒におやすみするんだ。
 楽しくないかな? 楽しいこといっぱいあるよ! あひるさんもくるかもしれない」と私は言った。

うん、とミコはうなずいた。多少は納得したようだ。

しかし、まあ楽しそうだ。よしくんパパがちゃんと何もかも取り仕切ってくれるだろうし、
よしくんママが美味しい料理を作ってくれる。私はぼけっとしてればよいみたいだ。
ビールでものんびり飲みながら野球でも見てればいい。しかしそれじゃ家とかわらないな、、

まあ、いいや、楽しれば。

家に戻って、私はミコとマコの脱ぎ捨てられた幼稚園の制服を洗濯機に放り込んだ。
洗剤を入れてスイッチを入れる。これでしばらくの間、制服洗濯地獄から開放される。
うちの奥さんはそんなこと何も知らない。私は我が家の洗濯係なのだ。うちの子は本当に汚す。
しかし、そんな愚痴をこぼしてもうちの奥さんはただ笑うだけだ。園児の送り迎えのバスを
待つ間、そんな家事話で盛り上がってしまうこともある。しっかり話題についていける私がいる。
しっかりそこでストレス解消している自分がいる。なんだか悲しい、、


うちによしくんとゆうたくんとさゆりちゃんが来た。キャンプの計画を立てるのだ。
リビングがカオスになる。私はウエイター役だ。みなさまお飲み物はなんになさいますか?
、もちろんそんなこと聞かないでみんなにオレンジジュースとお菓子を出す。

うちの奥さんはぼけっとそれを楽しそうに眺めている。のんびりとお茶を飲みながら。
私はグラスに氷を入れて、オレンジジュースを注ぐ、お菓子の袋を開けてお皿に出す。
キャンプにいったらこういうことから開放されるだろうな、と思った。楽しみだ。
家事から解放される。早くしないとなんだか私は小姑みたいになりそうだ。

リビングでは子供キャンプ会議が行われていた。みんな楽しみなのだ。まあ良い事だ。
よしくんは親から借りてきた計画書をみんなに広げて見せた。さすがジャイアンツファンだ。
しかしまだ誰も大人用に書かれた文字を読み取ることは出来ない。当たり前だ。6歳児だ。
ひたすら写真だけを見ていろいろな意見をみんなが述べていた。

よしくんはみんなで冒険をしよう!と叫んだ。どういう冒険をするのかよくわからないけど
とにかく冒険がしたいらしい。子供らしい発想だ。まさか十五少年漂流紀みたいなのを想像しているの
だろうか?インディージョーンズみたいなのを想像してるのだろうか?せいぜいその辺を探索する
くらいだろう。

キャンプ場にはあひるさんがいるんだよ、とミコが言う。教育の賜物だ。
ゆうたくんがそれを笑って、キャンプ場にはお化けがいるんだぞーとポーズを取って
脅かした。さゆりちゃんが怖い、と言った。ゆうたくんは僕がやっつけるから大丈夫だ、と言った。
ゆうたくんはなかなか勝気な子供だ。だが、本当に幽霊が出たらまっさきに逃げるだろう。
マコがお化けなんかいないよーーと怒る。さゆりちゃんに嫉妬している。さゆりちゃんは美人なのだ。
うちのこはあんまり女の子みたいな振る舞いが出来ない。きっとベイスターズのせいだ。
それをうちの奥さんとテーブル越しに眺めていた。ぼけっと。天気の良い初夏の午後だ。

そうしてあることないことでワイルドに盛り上がった後、結論が出た。

「きゃんぷじょうにはあけみせんせいがいて、おっぱいがちいさい」

みんながワイルドにげらげらと笑い始めた。いまだに園児のツボをつくホットなアイテムらしい。
無茶苦茶な結論だ。教育上よろしくない。

私は洗濯を終えた制服らを外に干した。子供たちがそれを見てひそひそと笑っていた。
園児って残酷だ。ミコとマコまで一緒に笑っている。おじさんままだー。ははは。
そんなのは男女差別だ。しかしもちろん、そんなことを6歳児が理解したりしない。
説明しようとすると小難しい言葉がどんどん出てくる。しまいには自分の頭が混乱する。

「ほら、またそうやって明美先生のこと言ったら、先生悲しんじゃうよ」
と私は泣きまねをして言った。

はーーい! とみんながいって、またげらげら笑い始めた。全然効果がない。情けないパパだ。


みんなが帰った後も、キャンプの無茶苦茶な想像話でミコとマコは盛り上がっていた。
みんなと話したことによって一応、イメージが固まったらしい。なにはともあれ。

なかなかその日は寝ないでリビングのソファーでミコとマコが夢中で話していた。

「早く寝ないとキャンプの日がこないよ」と私は言った。正論だ。

ふたりがそんなことはないと言った。正論だ。時間は常に一定に流れる。宇宙の法則だ。

「早く寝ないとあひるさんとうさぎさんに早寝競争で負けちゃうよ」と私は言った。

ふたりはきょとんとした。新しいパターンだ。ふたりは私を見つめる。

「ぼくはあひるさんだー がー 早くミコちゃんとマコちゃんと競争したいなー
 え?競争してくれないの?さびしいなー、僕はいつもひとりぽっちだ。
 せっかくミコちゃんとマコちゃんと楽しく早寝競争出来ると思ったのに、、、」

と私はあひるの物真似で迫ってみた。あひるさんはどういう風にしゃべるのだろう?

「なかないで、あひるさん、、きょうそうする、、」マコが悲しそうに言った。
マコはそういう人情話に弱い。ミコはそうでもない。はいはいといった感じでこっちを見てる。

「そうとわかったら競争だ! いちについて!」と私は間髪入れずに言った。

ミコとマコがかけっこのポーズを取る。私の勝ちだ。

「よーい!どん!」と私は言った。ふたりは必死の形相で2階の自分たちの部屋に行った。

「おやすみ」とミコとマコが言った。おやすみ 夢であひるさんが楽しそうにしていますように

うちの奥さんがそれを楽しそうに見ていた。まるで他人事だ。のん気にお茶を飲んでる。

「明日、ふたりを連れていつもの家具屋さんに行って来るね。」とうちの奥さんが言った。
またワイルドでどっかセンスがずれてるインテリア用品を買ってくるのか、と思ったけど言わない。
まあ、一緒に行くよりかはましだ。あれは地獄だ。

わかった、と私は言った。


002

10日たった。 キャンプに行く日だ。

よしくんの家の前に10時集合だ。我々はしっかり軽装で、計画書に書かれてある荷物を抱えて
よしくんのところに行った。隣だ。ミコとマコとよしくんがはしゃぎ始めた。うちのねこも参加する。
私はよしくんパパに挨拶をした。片手にしっかり本人用の計画書が握られていた。気合が入ってる。
よしくんママもにこにこだった。そしてさゆりちゃん一家とゆうたくん一家が車でやってきた。
2台の車で行く事となっていた。ゆうたくんのパパは車マニアでなかなかかっこいいキャンピング
カーを所有していた。さゆりちゃんのママが窓越しににっこりとエレガントに微笑んだ。
相変わらず美人だ。うちの奥さんが私の頭をこずいた。テレパシーだ。
我々はよしくんパパの車に乗った。立派な車だ。よしくんパパとゆうたくんパパが
今一度ルートを確認した。よしくんパパはもちろん、しっかり交通情報を頭に叩き込んでいた。
良い天気だ。出発した。よしくんは相変わらず我が娘達に挟まれ、冒険計画を話し合っていた。
そして、最後にまた明美先生のオチで破壊的な爆笑をした。懲りない人達だ。
大人は笑ってごまかすしかない。よしくんパパは運転が好きみたいだ。ハンドルを持つと
表情が微妙に変化する。うちの奥さんとよしくんママがしきりに話しこんでいた。
ふたりともあんまりキャンプにふさわしいタイプの人たちではない。普段の会話が弾む。

3時間後、無事にキャンプ場についた。近くに川が流れていて、小さな池があって、
静かな良い所だった。木陰が素敵だ。

着くなり、あひるさんを発見した。ミコがそれをみて喜んだ。

「こないだはきょうそうにまけたけど、こんどはかつよ!」とミコが言った。負けたのか、、
さすがはベイスターズファンだ。

よしくんパパの案内で、我々の泊まるログキャビンにたどり着いた。そしてよしくんパパは
最初に子供たちを今日から一週間寝泊りする部屋へと誘導した。子供たちが飛び跳ねながら
そこに吸い込まれていく。そして、うぎゃーーとかいろいろな歓声が外にも聞こえてくる。
まあ楽しいだろう、これからみんなで一緒に夜も過ごすのだ。しかし、幼稚園の先生って
大変だろうな。毎日カオスだ。

そして我々も部屋に入る。荷物を置いて背伸びをする。なんにもなくってすっきりとした
部屋だ。へんてこなインテリアもない。なんだか落ち着く。よしくんパパが私にビールを
進めてきた。よしくんパパが持ってきたクーラーボックスにたくさんビールが詰まっている。
さすがだ。ありがたく頂く。うまい。うちの奥さんが呆れた顔でこっちを見る。
キャンプ場まできてその表情はやめて欲しい。ねこも一緒だ。ねこはあたりを見回していた。
とくになんてことないけど、まあいいやといった表情だ。贅沢なねこだ。私はねこに食事を与えた。

荷物を置いてきたさゆりちゃん夫婦とゆうたくん夫婦がこっちに来た。我々は
バルコニーに集まり、ベンチに腰掛けてビールを飲んだりした。子供たちがさっそく
近くにある池に遊びに行った。私は遠くにいっちゃだめだよーと言った。
はーい!と返事をした。まあいいだろう。我々から丸見えなところにいる。

さゆりちゃんのパパはハンサムで地元ではかなり評判のよい歯科医だ。甘いマスクのおかげで
地元の奥様方のアイドルになっている。しかも腕前も素晴らしい。仕事熱心である。
本人はあんまりそういうアイドルみたいな扱いにはちょっとうんざりしているようだった。
彼は心理学にも興味があって、”子供と歯医者”というシンプルなタイトルの本を出版している。
子供が嫌がる歯医者という現場を見てきた彼の経験を元にして、幼児の恐怖心だとか
そういう場合にどう大人が接すればいいのかがいろいろ詳しく書かれている。彼はもう、その幼児の
虫歯をみるだけでその子の家庭環境がわかるくらいになっているらしい。すごい。洞察力がある。
興味があったので私もその本を読んでみたが、なかなかユニークにわかりやすく現場の状況が
描かれていて、そこに彼独特の児童心理学論がわかりやすい言葉が書かれていた。面白い本だった。
本は結構売れていた。たまに講演会も開いている。しかし、本人は結構のん気で気さくな人柄で
良い感じの人だ。さゆりちゃんのママもおっとりした人で、美人だけど本人にその自覚がなく
優しい人だ。二人は品の良いキャンプにふさわしい格好をしていた。思わず我々は見とれて
しまうが、本人たちがそういうのを嫌がるので言わない。そういうわけで娘のさゆりちゃんも
美人だ。だれもがさゆりちゃんに夢中になる。これが松下一家である。松下歯科医を経営している。

ゆうたくんのパパは高校生の時に甲子園に出場した経験を持っている。ジャイアンツファンだ。
ピッチャーをやっていてなかなか注目されていたが、けがをしてしまいプロ野球の選手は
諦めたようだ。地元の父親が経営する小さな建築関係の会社に勤めている。
陽気な性格でもちろん運動能力に優れている。ちょっと走っただけではあはあ言ってしまう
私とは大違いだ。子供に野球選手になって欲しいらしく、暇を見つけては子供と野球で遊ぶ
よいパパさんだ。おかげでゆうたくんはなかなか野球がうまい。いつもよしくんがボールを
投げてゆうたくんが打つのだが、パパの球に慣れているのでよしくんはずっとストライクを
取れなくって悔しがっている。ママさんは結構ワイルドにのん気な人で、あんまり細かい事を
気に出来ないみたいだ。いつもけんか口調で旦那と会話している。でも仲は良い。
おしゃべりだ。だいたい話の中心的存在となる。冗談が面白い人たちだ。これが高井一家である。

我々はぼけっと子供たちを眺めながらビールを飲んだりしていた。気持ちのよい午後だ。
よしくんパパは相変わらず計画書をそばにおいている。なんだかそのうちにフルーツバスケットを
はじめそうな雰囲気だ。ゆうたくんパパと車の話をしている。私はさゆりちゃんパパと子供の
話をしていた。さゆりちゃんパパの心理学的な冗談はなかなか面白かった。
奥様方は4人でまとまってなにやら話し込んでいた。きっと非キャンプ的な話題だろう。
遠くでミコが叫んだ。

「あひるさんもあけみせんせいみたいに おっぱいがないーーー!」

遠くの子供達がまたバカ笑いを始めた。懲りない人達だ。周りでかすかな笑い声が聞こえる

我々は一瞬、固まった。笑ってごまかすしかない。


夕方になるとよしくんママの気合が入る。食事の支度だ。

よしくんママは包丁を持つと微妙に表情が変化する。すごい包丁セットを一式持ってきた。
奥様方から歓声が沸き起こる。よしくんママは包丁を睨み付ける。状態の確認だ。気合が入ってる。
本日は奥様方に調理を任せる。楽だ! 私はこういうのを求めていたのだ。しかしそんなこと
さゆりちゃんのパパに言えないので黙ってる。子供たちが調理風景を見ている。さゆりちゃんの
ママがみんなを引き連れてどこかにお米を洗いに行った。よしくんママが華麗なさばきで
じゃがいもの皮を剥く。にんじんの皮を剥く。たまねぎを見事なさばきでスライスする。
奥様方から拍手が巻き起こる。よしくんママは一瞬、謙遜するが、またさばき始めると表情が変わる。
なんだか包丁の実演販売みたいだ。よしくんパパは苦笑いでこっちを見ている。男のテレパシーだ。


そして、今日はカレーライスだ。


みんなで大きなテーブルを囲み、散々飲んだがビールで乾杯した。食べる。
カレーライスなんてそんな誰が作っても変わんないだろうと思っていたけど大間違いだった。

「うまい!」ゆうたくんパパが言った。

我々は驚きと賞賛を繰り返しながらそれを食べた。子供もなんか夢中になって食べてる。
めいいっぱい遊んだせいもあると思うけど、たしかにこれはうまい!
よしくんママは楽しそうだった。奥様方はそばで見ていてもどうしてこんなにいつも自分が
作るカレーライスと全然味が違うのか理解出来なかったみたいだ。才能だ。

ゆうたくんパパが賞賛のまとめ役を請け負っていた。ゆうたくんママが微妙にパパを睨んでる。
さゆりちゃんのママがしきりに作り方のコツをよしくんママに聞きまくっていた。
私もそれに耳をかたむけた。興味がある。うちの奥さんは黙ってカレーを食べてた。
作り方には興味がないようだ。食べる方に興味がある。うちの奥さんらしい。

「ぱぱ」とミコが私に言った。

「なに?」と私は言った。

「こんどからぱぱもこういうかれーつくってね」とミコが言った。みんなが笑った。あのねー


そして、みんなで片づけをして(そこは私が仕切る、、、)夜の中、ぼけっとした。
子供軍団はみんなパジャマに着替えて部屋の中でワイルドに盛り上がっていた。
どうせまた明美先生のことだろう。というわれわれも、ゆうたくんパパがなんと
麻雀卓と牌を持ってきていた。奥さんが文句を言っている。しかしわれわれは
部屋を男性、女性で分けることにして、男軍団は麻雀をすることとなった。
今頃、女性軍団はしばらく渋い顔で楽しそうにわれわれの愚痴をこぼすだろう。まあいい。
ゆうたくんパパはなかなか気が利く。車にあらゆるものを積んできている。

というわけで我々はそれぞれの世界でワイルドに盛り上がった。たまにはよい。


朝もよしくんママが包丁を振るった。料理屋さんレベルのおいしい朝食が出てきた。
昨晩はなかなかワイルドな麻雀ナイトだったので、頭がぼけていたが、なんだか
目の覚めるようなおいしい食事だった。才能だ。

「お店でも開けばいいのに」と私はよしくんママに言った。

やってみたいけど、今はまだ無理だな、と言った。まあそうだろう。まだ子供の手がかかる。

子供たちは朝からワイルドだった。冒険計画があるらしい。よしくんがそれを仕切る。
冒険の内容は秘密らしい。大人には内緒だ。まあ子供らしい。

「危ない所に行っちゃだめよ」とよしくんママが言った。

「なんかあったらでんわする」とよしくんが言った。よしくんは携帯電話を持っている。さすがだ。
まあ、近くにあんまり危険な所がない。大丈夫だろう。ミコとマコもいる。

「マミも連れて行ってね」とうちの奥さんが言った。マミはねこのことだ。
うちの奥さんがにやりとしている。なんかたくらんでいる。

わかったとミコが言った。 そうして子供軍団の冒険が始まる。


003

最近アメリカで子供の誘拐が多発していた。それに最近、UFOの目撃者が多発している。
インターネットやテレビのニュースが騒ぎ立てた。ミステリアスだ。まだ誰一人、
家に戻ってきた子供はいない。大統領はこれは緊急事態だ、軍隊を動員し、あらゆる
手段を講じてなんとしても無事に解決する、とテレビで演説した。あるものは拍手を送り
あるものは国家はなにか隠していると騒いだ。テレビのニュースはしばらくこのニュースを
トップに持ってきた。様々な噂や仮説がネット上を駆け巡る。誘拐された子供たちの多くは
国家の重要な鍵を握る人物だ、という情報も流れた。そしてそれは公表はされていないが
事実だった。科学者、政治家、大手の会社社長、国家の最重要機密を握っている人達だ。
もちろん大統領並びにごく一部のトップクラスは事件の全貌を知っている。しかし、
そんなことを世間に公表したら世の中が混乱する。まだまだ公表するには準備が必要な情報なのだ。

アメリカ国家重要機密機構に属する人達は連日タフな会議を開いた。
タカチャン星人が攻めてきた。タカチャン星雲は地球から1光年離れた所にある。
地球に似ている星だが、地球より約40年分くらい文明が進んでいる星だった。
アメリカ宇宙局が最近接触に成功していた。まったく新しいテクノロジーをたくさん持っていた。
アメリカはいくつかのテクノロジーをタカチャン大王から好意で教えてもらった。
タカチャン星人は基本的にみんな温和な人たちだった。でもそのテクノロジーを公表するには
まだここ地球では難しい。世界の経済システムを一気に混乱させるくらい新しいテクノロジー
なのだ。しかし、タカチャン星人に地球の理屈は通用しなかった。なぜやらないんだ?と
連日タカチャン星人はアメリカのトップクラスに詰め寄った。そしていつしかアメリカは
強引にこの交流を遮断した。タカチャン星人は怒った。普段は温和だが理不尽だと感じると
一転して怒る。怒るとちょっとみさかいがつかなくなる。ちょっと変わった人たちだった。
タカチャン星人は何人かのアメリカ人と手を組みアンダーグラウンドにアメリカを攻めた。
シアトルにあるセーフコ球場の地下に秘密の司令塔を作った。そんなのはタカチャン星人にとっては
簡単なことだ。彼らは有能な弁護士を雇い、執拗に法律で国家を攻めた。インターネットで
執拗に国家の隠匿を遠まわしに示唆し、世論を盛り上げた。機密を握る男の
息子や娘をうまく誘き出し、UFOでシアトルまで運んだ。子供を殺すつもりはまったくない。
子供は縛らず、全球団のマスコットや、その他の子供に人気のキャラクターなどになって
一緒に楽しく遊んだ。腕の良い調理人においしい料理を作らせた。子供たちは事を忘れて
喜んでいた。パパが忙しくって遊んでくれない。みんな小さい子供だった。みんなで歌を
歌ったり、踊ったりして遊んだ。国家はまだ子供がおかれている状況を把握できずにいた。
まさかシアトルの野球場の地下に子供が集められているなんて想像も出来なかった。
アメリカ軍は普段の軍隊姿をやめ、小型の銃を隠して様々な都市に派遣された。これ以上
誘拐される子供を増やすと収拾がつかない。アンダーグラウンドな戦闘状態に突入した。
なにしろタカチャン星人も一見普通の人と変わらない格好で行動していた。何人かの
あわれな一般庶民が軍に激しく問い詰められたりもした。連日上空を戦闘機が飛び交っていた。
無言のアピールだ。庶民にはわけがわからなかったが、異常事態であることは良くわかった。

アメリカは一人の有能な男に重大な任務を託すことになる。ベッケンガー大佐だ。
ベッケンガーは身長は190くらいでボディービルダーのようなたくましい体の男だ。
頭脳も優れている。様々な特殊軍事訓練をパスし、あらゆる戦術論を理解している
エリートだ。ともかくまずは子供を探さなくてはいけない。大統領は彼にあらゆる
国家機関の指導権を許可した。彼と大統領が握手した。

「それでは」 と彼は敬礼をした。


004

「みなのもの!いくぞ!」とよしくんは高らかに宣言した。小さな旗を右手に持ち高く揚げた。
片方にはジャイアンツのチームロゴがよしくんとゆうたくんの手書きで描かれていた。
説明してくれないとわからんレベルだった。ミコとマコの執拗な文句により片方には
ホッシー君の似顔絵が描かれていた。さゆりちゃんとその仲間、野球戦隊ハマレンジャーの誕生だ。

昨晩の冒険会議でゆうたくんとよしくんはジャイレンジャーにすると主張した。
しかしミコとマコがそれを許さない。ハマレンジャーを主張する。そしてまたいつもの
お互いのチームいびりがはじまった。さゆりちゃんがぼけっとクールにそれを見つめていた。
さゆりちゃんは野球にまったく興味がない。さゆりちゃんはブラット・ピットのファンだった。
さゆりちゃんのママがファンなのだ。しかし、いつまでたっても結論がでないので
さゆりちゃんは女の子の味方についた。これで3対2だ。その後に簡単にゆうたくんが
裏切りを表明する。よしくんは自身が勝手に隊長であるとしていたのでしばらく渋ったが
しかたがない。そういうわけで妥協案として旗のロゴはそれぞれのロゴを作ることになった。
その後に、さゆりちゃんがぐずった。自分の存在が反映されていない。そういうわけでゆうたくんが
チーム名にさゆりちゃんを加えた。なんだかコミカルに長い名前となったが仕方がない。

さゆりちゃんとその仲間、野球戦隊ハマレンジャーの誕生だ。

よしくんが先頭に立った。よしくんは携帯電話を一度確認し、それをポケットにしまった。
ミコとマコがそれに続く、その後にさゆりちゃんとゆうたくんが続く、その後にねこがとぼとぼと
着いてきた。なんだか面倒くさそうだった。相変わらずだ。
よしくんママが遠くに行かない様に、お昼過ぎには帰ってくるようにと注意した。
よしくんは今一度ママに携帯電話を見せ付けた。大丈夫だ、なんかあったらちゃんと連絡する。
無言のアピールだ。この辺りには別に危険な動物はいない、まあ大丈夫だろう。

子供軍団はまずは池の反対側にある林へと向かった。特に理由はない。これは直感だ。
池ではあひるさんたちがのん気に浮かんでいた。平和な光景だ。今日も良い天気だ。
よしくんはなんだか良くわからないけれど、わくわくしていた。さゆりちゃんはちょっと
この冒険に対してあんまり乗り気ではなかったが、着いてきた。仲間はずれにされたくない。
さゆりちゃんはちょっと妙に大人っぽいところがある。教育の賜物だ。
ゆうたくんはさゆりちゃんのことをちょっと気に入っている。なんといってもさゆりちゃんは美人だ。
ゆうたくんパパも家族でどこかに出かけている時でも、綺麗な女性を見るたびに
正直に表情に表し、ピーピー言ったりもする。いつもそれで奥さんとけんかになる。
結婚前は相当なナンパ男だったらしい、実は奥さんも鎌倉の海岸でナンパされたのだ。
でもそれ以来、なぜかナンパは止まった。なぜかはわからないけどまあ、いいことだ。
もちろん結婚してからは浮気は一切していない。でもそういうくせはまだ抜けないらしい。
そんなわけでゆうたくんもそういう影響を受けている。でもいつもパパに男の子は
女の子を守らなくてはいけない、とゆうたくんはいつも言われている。教育の賜物だ。

我々、親軍団はそんな子供軍団のコミカルな背中を見ていた。その後によしくんママは
なんだか見たこともないような美味しそうなおつまみを作った。子供が冒険に夢中になる間、
大人は美味しい料理に夢中になる。その時にさゆりちゃんパパがクーラーボックスを持ってきた。
中にはちょっとそこら辺のスーパーではお目にかけない類の白ワインがたくさん収められていた。
いろいろ講演会に出たり、近所のお金持ちな奥様から頂いたりしてたくさんの良いワインが
家にストックされているらしい。グラスも人数分用意されて、さゆりちゃんパパは手際よく
ワインのコルクを抜いた。私とゆうたくんパパが歓声を上げる。冒険の話から触発されて
我々は美味しいおつまみを食べ、美味しいワインを飲みながら、小さい頃の思い出話で
ワイルドに盛り上がった。よしくんのパパとママとさゆりちゃんパパとゆうたくんパパは
年は違うけど、われわれが住んでいる土地で生まれ育った人たちだ。小学校も同じらしい。
ワインはたくさんあった。そうして我々は大いに盛り上がった。ゆうたくんパパたちが
小学校の校歌を披露したりした。私は街を転々としてきた人間なのでなんだかうらやましかった。


そうしてわれわれはワイルドに盛り上がり、良い日差しの中でみんな寝てしまった。

子供軍団は池の反対側まで来ていた。あたりはしんとしていた。キャンプ場が反対側に見える。
こっちはなにもかも手付かずになっている。蝉の音が鳴り響く、鳥の鳴き声もそれに応戦する。
その時にミコがうさぎさんたちを発見した。

「うさぎさんだーーー!」ミコが叫んだ。

うさぎさんはミコの声に反応した。そして林の奥に逃げた。よしくんがうさぎを追いかけよう、
と提案した。みんながそれに賛同した。まてーー

うさぎは少し傾斜になっている林の中を走った。うちのねこがなにか珍しいことに興奮して
うさぎを追いかけた。マコがマミまって!と言ったがねこは思いっきり無視した。
そうしてみんなが夢中になってうさぎとねこの後を追いかけた。まてーー!

しばらく進むと、ちょっと広い所にでて、そこに大きな穴があった。
うらぶれた防空壕みたいな穴だ。うさぎさんたちはその中に入っていった。
ねこはその穴の前でぴたっと止まった。子供軍団がしばらくその穴の前で呆然としていた。
大人でも十分入っていけるような大きな穴だった。中は真っ暗だった。
ミコは念の為にペンライトを持ってきていた。
それで穴の中に光を当ててみたがなにも見えなかった。

「ちょっとはいってみようか」とよしくんは言った。

さゆりちゃんが怖がった。ゆうたくんが大丈夫だよと言った。でもゆうたくんもちょっと
怖がっている。しかしちょっと中にいってみたいという気持ちもある。好奇心が強い。
うちの娘達は案外こういうのは怖がらない。さあ、いってみよう。とよしくんが言った。

さゆりちゃんの手をゆうたくんが握り締め引っ張った。ミコが先頭に立ってペンライトを
前方を照らした。その後をよしくんとマコとねこ、うしろにさゆりちゃんとゆうたくんが続いた。
水がしたたり落ちる音が綺麗にあたりに響いた。さゆりちゃんが怖がる。ゆうたくんが
なんとか慰める。30メートルくらい進んだところで前方に小さな灯りを発見した。
さゆりちゃんが完全に固まった。しょうがないから先にミコとマコとよしくんとねこが
様子を見に行くことになった。よしくんがいつものごとくうちの娘達に挟まれた。
腕を掴まれた。よしくんも結構怖がっている。それでも強引にうちの娘達に誘導された。

そこにはひとりの変なコスチュームを着た男がにこにこと立っていた。
目には仮面舞踏会に付けていくようなものが付けられていた。変なマントを付けている。
白いブーツに黒いタイツ、変な半ズボンをはいていて、頭に変な漫画に出てくるような鎧を
かぶり、ひらがなで”あんないかかり”とプリントされた白いTシャツを着ていた。

「あんただれ?」とマコがポカンとした表情で言った。

「私はこの遊園地の案内係で御座います。お客様は何名でございますか?」と男はにこにこと言った。
意味がわからないけどなんだかとても良い人そうだった。

「ちょっとまってて」とミコが言った。そしてよしくんにさゆりちゃん達を連れてくるように
頼んだ。ペンライトをよしくんに預ける。よしくんもポカンとしていたけど、まあそうすることに
した。自分が描いていた冒険の内容とかなり食い違う。ではどういう冒険をイメージしていたかと
いうとちょっと答えられない。

よしくんがゆうたくんとさゆりちゃんを連れてきた。もちろんポカンとした。
あんまりにもばかげた光景をみたせいかさゆりちゃんの恐怖心もどっかに飛んでいってしまった。

「ゆうえんちってどこ?」とマコが言った。案内係はにやっと笑った。

そして案内係は目の前にあるでっかい紫色のカーテンを盛大に開けた。目の前にちょっと大き目の
サイズの砂場があった。みんなはそれをポカンと見ていた。

「ゆうえんちってすなばのこと?」よしくんが聞く。

「はい!そうで御座います。いかがでしょうか?素晴らしいで御座いましょう!」と案内係は
自信を持って言った。

「じぇっとこーすたーはないの?」とゆうたくんが聞いた。

「みっきーまうすはいないの?」さゆりちゃんが聞いた。

「きりんさんはいないの?」とミコが聞いた。まだ勘違いしている。

「めりーごーらんどもないの?」よしくんが聞いた。

ない、と案内係はなんだか申し訳なさそうに答えると、子供たちから残酷なブーイングが
飛び交った。今時の子供をなめておるのか? 案内係は突然泣き出した。

「ごめんなさい、、今の子供は砂場なんかで遊ばないのね、、、僕が悪かった、、
 悲しいけど、、、僕が悪いんだ! 僕が悪いんだ! みんなを喜ばせたかった、、」

と案内係は本気でとても悲しそうに泣きながら言った。感情表現が妙に豊かな大人だ。

「ごめんなさい! すなばたのしいよ! だからなかないで、、」とマコは言った。
そういうのに弱い。いつもうちの奥さんと人情ものの時代劇を見ているせいだ。教育の賜物だ。

「本当ですかーーー! うれしいうれしい!!!」と案内係は簡単に泣きやみ、踊りながら叫んだ。

、まあ、しょうがない、といった感じでみんなは目を合わせた。わかったとミコが言った。

「それではお一人様50円頂きます。」と案内係は落ち着きを取り戻してきっぱりといった。

おかねとるのか?とミコが言ったが、また泣きそうな顔を始めたのでそれ以上文句を言うのを
諦めた。よしくんがお金を少し持っていたので全員分をまとめて払った。ねこもいれて
全部で300円だ。案内係はありがとう御座います。と丁寧にお礼を述べて、砂場にみんなを
案内した。そして紫色の幕が閉じられた。子供軍団は良くわからないといった表情で
しばらくその砂場を眺めていたが、ゆうたくんが砂場に入っていった。ねこが続いた。
そしてみんなも砂場に入った。最初はぶつくさ言いながら適当に山を作って遊んでいた。
ゆうたくんがふざけて、小さなふたつの山を作り、あけみせんせいだよ!と言った瞬間に
みんなのインスピレーションが爆発し、みんなそれぞれ自分のママの胸の形を作ったりして
見せ合い、大笑いした。懲りない人達だ。そうしているうちになぜか砂場遊びに大いに
盛り上がり、大きな山を作ったり、家を作ったり、水を流して川を作ったりした。

そして、砂場が突然がたがたとゆれ始めた。みんながパニック状態になった。
さゆりちゃんが泣き出す。ゆうたくんがさゆりちゃんにしがみついて必死に怖さを
こらえていたが、泣き出した。よしくんも泣き出す。そして砂場はだんだんと沈んでいった。
そして砂場は外枠を残し、すべて沈んだ。ぼっかりと暗い穴が開いている。
案内係はそれを一度眺めてにこにこと笑った。成功だ。なにも問題はない。

うわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!

と子供たちは叫んだ。そして気づくと大きなトランポリンの中で何回か跳ねていた。そして、動きが
止まった。砂はどっかにいった。みんなけがはない、痛くもなかった。ゆうたくんが
面白がって大きなトランポリンで跳ねた。しばらくみんなトランポリンで遊んだ。
なかなか面白い、でもそんなことしている場合でもない。光はあの砂場からさしていた。
あたりは真っ暗だ。みんなはトランポリンの真ん中に集合して会議を始める。

「どうすればいいの?」よしくんは不安そうに言った。

マコはちょっと立ち上がってペンライトであたりを見回した。トランポリンの周りを
跳ねながらぐるぐると周った。みんなが座りながら跳ねている。そしてひとつの穴を
発見した。ちょっと暗くてどういう風になっているのかわからないけど、とにかく
なにか道がある。下をみるとその方向に階段があった。間違いない、われわれが進む道は
こっちだ。するとねこが突然その階段を降り始めた。マコがこっち!とみんなに言った。
みんながちょっと飛び跳ねながらマコの方に向かった。なんだか名残惜しい、こんなに
面白いでっかいトランポリンもない、また暗いところを歩くなんて嫌だ。しかし行かないと
どうしょうもない。お昼過ぎには帰らないとママに怒られる。

ねこはその入り口のところで面倒くさそうに待っていた。本当に人間って奴は面倒な生き物だ。
そうつぶやいた。マコが先に降りて、階段をペンライトで照らした。みんながおそるおそる
降りてきた。みんなが階段を降りたところでその入り口を照らした。丸い穴だ。

「またあなだ、、」さゆりちゃんがぼやいた。

ねこが先に入った。しょうがないのでみんな着いて行った。いまのところ役に立つのは
ねこしかいない。みんなが続く、穴は前面ガラス張りになっていた。大人も十分に
立てるくらいの大きな穴が続いていた。ガラスの向こうには星がいっぱい輝いていた。

「きれい!」さゆりちゃんが感動して言った。さゆりちゃんは綺麗なものには目がない。

ガラスは一点の曇りもなく透明でなんだか宙を浮いて歩いているような感覚になった。
今まで見たこともない美しい星空が360度に見えていた。足元にも星が輝いている。
子供達はゆっくりとそのガラスチューブの宇宙を歩いた。なんだかこの遊園地は
驚かしたり、楽しませたり、がっかりさせたりとわけがわからないけど、これだったら
50円の価値はあるとだれもが思った。憎い演出だ。でも感心している場合でもない。

さゆりちゃんがうっとりしている。みんなもうっとりしている。その時にゆうたくんが
ふざけて、おばけがでるぞーー!と言った瞬間、辺りは急に真っ暗になり、怖い顔の人達が
あたりを取り囲み、こわい、こわい、くらい、こわい、という声がいろいろな方向から聞こえてきた。
さゆりちゃんがまた泣き出す、足が止まった。ゆうたくんも半泣きだ。

「もーーーゆうたがよけいなこというからこうなる!」とミコが怒った。

「ど、どうすればいいの?みこちゃん、、」とゆうたくんは泣き顔で言った。反省もしている。

「こわがっちゃだめ!こういうのはきいちゃいけないの!」とミコが言った。
私が以前話したうそつき森の教訓だ。うそつき森で絶対耳を傾けてはならない。

「みんなでうたをうたおう!」マコが提案した。みんながわけがわからないがここは
マコの言うことを聞いた方がいいと賛成した。他になにも良い案が浮かばない。

「わたし、ぷりんすのれっつげっとくれいじーがいい!!」とミコが提案した、が
そんな曲知っている6歳児はいない。却下。

「まこはやっぱですてぃにーちゃいるどのさばいばーがいい!!」それも却下。難しすぎる。
私の教育の賜物だが、いまいち世間とかみ合ってない。うちの家族の弱点だ。

しょうがないのでみんなで話し合った結果、歌を作る事にした。みんなで作詞をして
マコが適当にメロディーをつけた。こういう歌だ。

♪ おっぱいちいさい あけみせんせー! (あけみせんせー あけみせんせー!!)
  やまがたせんせと けっこんしたい! (けっこんしたい! けっこんしたい!)

  みんなだいすき あけみせんせー やさしいやさしい あけみせんせー♪
  だけとおっぱいちいさいちいさい♪  (だけどおっぱいちいさいちいさい!)

みんなが爆笑した。どこまでも懲りない人達だ。だかそれは役に立った。

みんなでその怖い声を聞かないように耳をふさいで、歌を無限ループした。
みんなで歩き出す。ねこは歌を歌わない。本当に面倒な人たちだ。先が思いやられる。
とぼやいた。歌声が鳴り響く。するとまたさっきの星空に戻ってきた。歌うのをやめる。

「もうこんどはへんなこといわないでね」さゆりちゃんはゆうたくんを注意した。
ゆうたくんがしょげる。もう言わないと約束した。そしてまたその星空の中を進んだ。

すると先のほうになにかの明かりが見えてきた。もうすぐだ。しかしさゆりちゃんは見事に
この光景に見とれていた。なんだかこれが終わってしまうのが名残惜しい、しかしそんなこと
いってもいられない。先を急ぐ。なんだか変な冒険だ。でも面白い。

もうすぐで光の所まで来るとねこが急にまた走り出した。マコがそれにつられて走り出す。
みんなも走り出す。 


005

明美先生は夏休みに入り、ちょっと今まで取らなかった有給休暇をまとめてとった。
夏休みにももちろん仕事はあるのだが、ちょっと無理を言ってとった。
園長さんも普段は真面目に働いてくれているし、なんだか元気がないようなので
なにも言わずにその許可をした。

「どこか具合でも悪いの?」と園長先生は心配そうに聞いた。

明美先生は体は大丈夫です。ただちょっと疲れただけです。と答えた。でも元気がなさそうだ。

明美先生は両親の家で生活をしていたが、家にいると両親が遠まわしに結婚の話をしてくるので
落ち着けない。親は早く孫が見たいだけだ。明美先生はちょっとどこかに旅行しに行こうと
考えた。別にどこかの温泉にいって体を癒すとか、素敵な海岸で日焼けしたりとかは求めていない。
ただ、静かなところでぼけっと考え事をしたいだけだった。友達にそれとなく聞いたら
長野にいい所がある、といったのでその場所を聞いて、ネットで調べて、そこに10日間ほど
の宿泊を電話で申し込んだ。空きはある。当方はあんまり若い人が好むようなところではないが
よろしいでしょうか?と丁寧にフロント係は答えたが、かまわない、静かにしたいだけです。
と明美先生は答えた。それではご予約承ります、ご来店お待ち申し上げます。とフロント係が
答えた。ありがとう、といって、電話を切り、適当に着る物だけをバックに詰めた。
両親に旅行に行って来る、と告げた。彼氏?と両親はにやにやひやかした。そういうことじゃない。

部屋に戻りベットに転がった。私は山形先生が好きなのだと思う。だけどどうも私は押しが弱い。
なにごとにも遠慮しがちになる。同僚の水野さんにいつもそう言われるし、自分でも良くわかってる。
だから子供たちにもからかわれる。悪意はないのはわかるけどぐさっとくる。なんか欝だ。

山形先生は本当に子供好きで仕事も熱心だ。夏休みも出て仕事をしている。年齢は30歳だ。
特にお付き合いしている女性もいないみたいだ。一人暮らしをしている。北海道出身の人だ。
背は180以上くらいあるし、体もがっちりしている。高校生の時はバスケットボール部にいた。
山登りが好きでお休みの日はよく行くらしい。私は背は150ちょっとしかないし、胸は
この通りだし、高校生の時は活け花部なんてわけのわからないところにいたし、山登りは苦手だ。
どうころがっても不釣合いなカップルだ。しかし、好きだ。あんなに良い人はそうはいない。
しかし、不釣合いだ、でも好きだ。どこにもいけない。無限ループだ。子供たちみたいに
あっさりと正直に言えたら楽だろうな、と思った。ともかく一回この辺から脱出しないと
駄目だ。まともに考えられそうもない。今は考えるのをよそう、と思った。

そして、次の朝早く、明美先生は長野へと向かった。

彼女はその小さな駅を降りた。周りにはあんまりお店がなく、遠くにその旅館らしき建物が見えた。
辺り一面畑やら草むらやらに囲まれ、車も少なくしんとしていた。風がさらさらと吹くと
草が揺れ心地よい良い音をたてた。彼女はなんだかとても寂しい気持ちになったが、まあ良いとこだ。
背伸びをした。気持ちが良い。私は一人になりに来たのだ。ベストじゃないか、と思った。

旅館に入り、フロント係が丁寧に挨拶をした。館内はすこし古ぼけていたが、なんにも余計なものが
なくってなんだか落ち着く。フロント係に荷物を預けて部屋に案内された。部屋で館内の利用方法を
フロント係が説明した。そして部屋をでていった。一人だ。窓の外も一面畑だけが広がっていた。
温泉もある。余計な物はなにもない。素晴らしい。うちの両親にがたがた言われながら
ご飯を食べたりすることもない。さて、と彼女はとりあえず温泉にでもつかりにいくことにした。
タオルを持って部屋を出た。今まで真面目に働き過ぎたな、と彼女は思った。でも子供は大好きだ。
ミコちゃんとマコちゃんはちょっと大変だけど、元気な良い女の子だ。私も見習わなくてはいけない。
お風呂の入り口を開けた。なかなか良い温泉らしい。少し元気が出てきたのかもしれない。
しばらくは頭を空にしよう。彼女はそうつぶやいた。


006

「うさぎさんだーーー!!」とマコが言った。

光の向こうにはちょっと広い部屋があった。下には干草がまんべんなく敷き詰められていた。
そこにうさぎさんが2人、あひるさんが2人いた。

「よお!」とひとりのうさぎさんが言った。右手を上げた。

「うさぎさんがしゃべった!!!」とさゆりちゃんがびっくりしていった。

「うさぎがしゃべっちゃいけねぇってのかい?」ともうひとりのうさぎさんが言った。
態度が悪い、しつけがなってない あひるさんがぴーぴーはやしたてた。

「いや、、べつにいいんだけど、、」とさゆりちゃんはおどおどといった。

「おいらたちはうさぎさんシスターズだ! こっちはあひるさんブラザーズだ!よろしく!」
と良くわからない自己紹介をした。間抜けなネーミングだ。

「こんにちは、うさぎさんしすたーずさん」よしくんが言った。礼儀正しい。うちのねこが
冷淡な目でうさぎさんを見ていた。うさぎさんがねこを睨んだ。

「お! なんかそこにへんてこりんなくろねこがいるなーー!
にんげんなんかといっしょにいるからあたまおかしくなったんじゃないかー?」とうさぎさんは
ねこをからかった。あひるさん達もあとに続いてピーピーガーガーはやしたてた。

その時、ねこの頭の中でパチンとなにかが言った。ねこはプライドが高かった。
なんかうさぎさんごときにバカにされるのはねことしては許せない。怒りが爆発する。
ねこはすたすたとうさぎさんに歩み寄った。そして言った。

「あんたらみたいな態度のわるいうさぎなんかこうしてやる!」とねこは言った。
子供たちがびっくりする。ねこがしゃべるのも初めてだった。ミコとマコも初めてだ。

そしてねこは右手を上にあげた。するとうさぎさんが宙に浮いた。うさぎさんはびっくりして
なんにも言えなくなった。あひるさんたちがポカンとそれを見ていた。子供たちもポカンと
それを見ていた。洞窟にはいったら変な男がいて、砂場で明美先生のおっぱい作ったら
砂場が沈んで、トランポリンで遊んで、宇宙の中を歩いたら、お化けが出てみんなで歌を
歌ったら、今度はうさぎさんが宙に浮いてる。そんなの誰にも言えない。わけがわからない。

「ごめんなさい、ねこさん、ごめんなさい、ねこさん、ゆるしてーー!」とうさぎさんが
泣きながら言った。するとねこは右手を下げた。うさぎさんがゆっくりと地面に落ちた。

「ありがとう!ねこさん!ありがとう!ねこさん」とうさぎさんは言った。

「おれたちについてこい! いいな!」とねこは言った。うさぎさん達とあひるさん達が
何度もうなずいた。そしてねこに新しい部下が出来た。

「ほら!いくぞ! 道を案内しろ!」とねこはうさぎさんに命令をした。

うさぎさんはしかたがない、道を案内することとなった。ねこがミコにいくぞ!と言った。
頼もしいねこだ。だが態度が悪い。だがついていくしかない。子供たちはうさぎさんの後を
ついていくことにした。うさぎさんは部屋の奥にある隠しドアを開いた。中には暗い穴があった。

「またあなだ、、、」さゆりちゃんがぼやいた。そしてゆうたくんを睨んだ。

「こんどはいわないよー さゆりちゃん、、」とゆうたくんは言った。自分だってもうあんな目に
会いたくない。

うさぎさんが先頭に立ってその暗い穴を進んだ。少し小さな穴だった。並んで歩けない。
子供たちはミコがペンライトを持って先を照らし、みんなで手を繋いで歩いた。
一番うしろにマコがいた。でないとまたおかしなことになりそうだ。
だんだんと道が広くなっていた。結構長い間歩いたような気がする。ねこは時折、子供たちに
遅い!と文句を言った。ミコは言い返したいけど、今は黙ってついていくしかない。
なんてこった。うちのねこだって魔女だから別に不思議じゃないけど、しゃべったのは
初めてだったからうまく飲み込めない。しかもなかなか頭が良い。なんてこった。

そして、穴はもう並んで歩けるくらい広い所になっていた。すると道の横になんだか
わからないけど、大きな宝物の箱があった。よしくんが叫んだ。

「たからものだーーーー!」 よしくんはなんだかやっと冒険らしいアイテムが出てきたことに
喜んだ。そしてみんなで近づいてそれを開けた。なかにはみんなの衣装が詰め込まれていた。

「なにこれ、、、」ミコがつぶやいた。なんだかがっくりだ。

宝の箱には女の子用の衣装が3式、男の子の衣装が2式あった。一番上にひらがなで
”きがえろ”と書いてあった。さゆりちゃんがそれを読み上げた。

「とにかくきがえたほうがいいみたい、、」さゆりちゃんがつぶやいた。

ゆうたくんとよしくんはさっそく着替えてみた。さっきの案内係みたいな変な格好だった。
女の子たちがそれを見て爆笑した。よしくんがはやくミコちゃんたちも着替えろと言った。
女の子用は3式あったが、一式はなんだかお姫様みたいに素敵な衣装だった。
マコとさゆりちゃんがそれを奪い合った。さゆりちゃんはこういう素敵なものには目がない。
しかし、マコもさゆりちゃんに対する対抗心からかなかなか譲らなかった。
ゆうたくんがさゆりちゃんにゆずろーと言ったがマコが睨み返した。ゆうたくんが黙る。
その衣装には素敵な透明の靴があった。ミコがその靴にぴったりあうひとがそれを選べばいい
と提案した。そうしてシンデレラコンテストがはじまった。が、マコの足にはぴったりではなく
さゆりちゃんの足にはぴったりと収まった。さゆりちゃんの勝ちだ。さゆりちゃんが喜んだ。

そのとたん、マコが座り込んで大声で泣き出した。なんだか急に自分がみずぼらしい、惨めな
女の子になった気がした。悲しくなった。普段ならこんなことで泣かないけど、泣くしかなかった。
悔しいけど認めた。ミコが慰めた。さゆりちゃんもごめんなさいと謝り、泣き出した。
よしくんとゆうたくんもマコのそばに来て謝ったり、慰めたりした。しばらくマコは泣いていたが、
泣き止んだ。さゆりちゃんにごめんなさい、と謝った。さゆりちゃんも謝った。ふたりで
抱き合った。これで仲直りだ。ねこはそれを冷淡な目で見つめていた。本当に人間は
面倒くさい生き物だ。ぶつくさとねこは言い始めた。そして、女の子たちも着替えた。
ミコとマコの衣装も別に悪くない。かわいい衣装だった。たださゆりちゃんの衣装は特別だったし、
それは見事に似合っていた。さすがだ。なぜかジャイアンツのメガホンがふたつ、ベイスターズの
メガホンもふたつ、ボールがたくさん、それとホッシー君の頭の部分があった。
ねこが冷静に見つめる中、子供たちがあたふたと盛り上がっていた。その時に地面がぐらぐらと
ゆれ始めた。子供たちがまたパニック状態になった。

「またおちるの?」さゆりちゃんがまたぼやいた。

地面ごと子供たちが落ちていった。ねこはやれやれといった感じでそれを見ていた。
うさぎさんシスターズもあひるさんブラザーズもポカンとそれをみていた。

「やろうどもー いくぞ!」とねこは言った。

そうして、ねこ軍団と子供軍団は別々の道を行くこととなった。


007

「たたたたたたた、たいへん!!!」とよしくんママはぐるぐると回っていた。

我々はすっかり心地よい午後の中で寝ていた。その大声でみんなが起きた。
起きたら、よしくんママが携帯電話を片手に持ち、見つめながらぐるぐる回っていた。
感情表現が豊かな人だ、と思ったがそんな場合ではない。わけを尋ねた。

「つつつつつつつながらない!!!」とよしくんママはまたぐるぐるまわり続けた。

とりあえずさゆりちゃんママがそのぐるぐるを止めて、座らせて落ち着かせた。
よしくんがなんだか電波の届かない所にいるらしい。はーはー言いながら
よしくんママが説明した。みんながどうしたものか考え始めた。とにかく一回
手分けして探すしかない、と結論が出た所で、うちの奥さんの頭の中で
パチンと何かが言った。始まった。私はまたか、と心の中でぼやいた。
よしくんママが即座に反応した。すでに以前の誘拐事件でこの事は心得ている。

「ききききききたーーーーーー!!!」とよしくんママがうちの奥さんを指差した。
頼むからもうちょっと落ち着いて欲しい。それじゃ、まるでエイリアン扱いだ。

みんながうちの奥さんを見た。なんだかとても背筋が伸びていてきりっとしている。
みんなもつられてぴりっと背筋が伸びた。なんだか良くわからないけれどなにも言えない。
奇妙な緊張感が走る。そして、うちの奥さんは目を閉じ、両方の手のひらを上に広げ
しばしの間、空白が流れた。われわれはポカンと無言でそれを見ていた。そして目を開けた。

「さあ、冒険がはじまります」とうちの奥さんは言った。みんながポカンとしていた。

するとうちの奥さんは立ち上がり、無言ですたすたと池のほうに向かった。冒険?
私もやれやれと心の中でぼやきながら立った。よしくんママはみんなにあの人に
着いていけば問題ない。うまくいえないけど、そういう人なんです、と余計に
わけがわからない説明をして、みんなを誘導した。ともかく探すしかない、行こう
とゆうたくんパパが言って立ち上がった。そうしてうちの奥さんのあとを大人軍団が
ついていくこととなった。なんだか大名行列みたいだった。近くのお客がこっちを
不思議そうに見ていた。恥ずかしい。みんなもそう思っているみたいだけどなにも言わない。

そうして、我々は池の向こうの林に着いた。うちの奥さんがまだその足を止めない。
少し傾斜のある林の中をざくざくと一行は歩いた。そうして我々は防空壕みたいな
大きな穴を発見した。

「旗がある!」さゆりちゃんのママがよしくんが持っていた旗を見つけた。

「この中にいるのか?」ゆうたくんパパが言った。うちの奥さんがにこりと笑った。

そして、うちの奥さんがすたすたとその穴の中に入っていった。我々も続いた。
暗かったので、我々はライトを持ってなかったが、ゆうたくんパパがオイルライターを
持っていたので、それで辺りを照らした。我々もそれぞれの携帯電話をライト代わりに
して辺りを照らした。なんだかゆうたくんパパはこういうのは好きらしい。わくわくしている。
さゆりちゃんのママはびくびくしていたが、しっかり旦那が肩を抱いて歩いた。素敵な夫婦だ。
よしくんパパも結構こういうのは好きらしい、よしくんママはうちの奥さんのことは認めているが
感受性が強いのか、ただ単に感情表現が豊かなのかはわからないが、相変わらずぐるぐる回っていた。
旦那はそれを見て苦笑いをこっちにアピールする。面白い夫婦だ。ゆうたくんママは結構強い。
旦那にちゃんと着いて行った。彼女はプロレスファンでもある。度胸がある。頼りがいのある夫婦だ。

そして、小さな灯りが見えてきた。奇妙な案内係がいるところだ。もちろんみんなでポカンと
していた。うちの奥さんのところに案内係がうやうやと寄ってきたとたん、うちの奥さんは
思いっきり膝蹴りをかまし、ヘッドロックし、バックドロップを素早くきめた。男はなんだか良く
わからないうちに倒され、動けなくなっていた。うまくしゃべれなかった。そしてあの紫の幕を
レバーを引いて開けた。みんながポカンとしている。私もうちの奥さんのプロレス技を見たのは
初めてだったので、ポカンとしていた。ずっと一緒に暮らしていても知らないことはたくさん
あるもんだ。夫婦とは実に奇妙だ。しかしそういう風に感心している場合でもない。

そこには四角い穴が開いていた。中は真っ暗だった。うちの奥さんはそこを指さして言った。

「ここに飛び込んでください」 

我々はしばらくその暗い穴を見ていた。怖い。大丈夫なのか?これ? さゆりちゃんのママが
怯えている。よしくんママが相変わらずぐるぐる回りながらもうちの奥さんを肯定していた。
懲りない人だ。ゆうたくんパパが先に動いた。

「おれ、こういうの大好きだ!」と威勢良く飛び込んだ。さすがだ。男らしい。

すぐになにか地面につく音がして、しばらくするとゆうたくんパパが大丈夫だ!ひとりずつ
飛び込め!と怒鳴った。ゆうたくんママが絶叫しながら楽しそうに飛び込んだ。
次によしくんパパが飛び込んだ。よしくんパパもなんだか楽しそうだ。楽しいことは良い事だ。
よしくんママが旦那の勇気をぐるぐる回りながら賞賛した。さゆりちゃんのパパがさゆりちゃんの
ママの手をとって言った。大丈夫だよ、ととてもエレガントに優しく奥さんに言った。
素敵な夫婦だ。美しい。ふたりはせーので同時に飛び込んだ。さすがにさゆりちゃんママは
ぎゃーーーと叫んだが、なんとか無事に下に降りたみたいだ。よしくんママがぐるぐるまわりながら
なんだか興奮している。私とうちの奥さんがそれを冷静に見つめる。よしくんママがそれに
気づいて固まる。やっぱり怖いらしい、そっと下を覗くよしくんママ、なかなか飛び降りない。
しょうがないのでうちの奥さんが後ろから突き飛ばした。あああああーーーーーーーーーー!!!
と叫び声が響いた。しかたがないが、うちの奥さんがなにかパワーアップしている。

なんとか無事に降りたようだ。

「私はちょっと援軍を呼んでくるから、先に行ってて」とうちの奥さんが言った。援軍?

そして私にマイクがついているヘッドフォンをつけた。なんだかテレビの実況さんみたいだ。

「指示はそこから送るから」とうちの奥さんが言った。そしてにこっと笑った。

「まあ、わかったよ、」と私は言って飛び込む準備をしている時にうちの奥さんが私を
突き飛ばした。私も絶叫した。そんなのってない。別に怖くない。だが、準備ぐらいさせて欲しい。
ちょっとは怖い、当たり前だ。誰だって怖い、私は高所恐怖症だ。でも飛び込むつもりだった。
そんなのってない。

そうして、私はトランポリンの上に落ちて、何度か跳ねた後、そこに座った。

うちの奥さんは上でにやりとした後、テレポーテーションで我が家に帰った。



トランポリンの上で、しばらくゆうたくんパパが華麗なジャンプを披露していた。
空中で回転したりして遊んでいた。なかなか優雅な演技だ。我々は拍手した。しかし、そういう
場合でもない。ゆうたくんパパもそれに気づいて座り込む。

「どこに行けばいいんだ?」と私はマイクに向かって言った。

”右!”とうちの奥さんが言った。

「右ってどっちだよ?」と私は聞き返した。ここじゃ右も左もない

”さゆりちゃんのママが向いているほう”とうちの奥さんが言った。

私はさゆりちゃんのママの方を見た。さゆりちゃんのママは私と真向かいにいた。
私の背中の方にいけばいいんだ。しかしさゆりちゃんのママは美人だ。ついつい見とれてしまう。

”あほか!”とうちの奥さんがぼやいた。そういう場合ではない。

私はみんなを誘導した。行く先のトランポリンの果てに階段があった。心細い携帯電話ライトで
それを照らしながらゆっくりと降りた。みんなもそうした。行く先に穴があった。

”そこを通り抜けて”とうちの奥さんが言った。わかった、そうする

「また穴だ、、」とさゆりちゃんのママが言った。遺伝だ。

私たちは一面ガラス張りの大きなチューブの中を歩いた。あちこちで、怖い顔たちが
動いていて、こわい、くらい、こわい、くらい、とぼそぼそと悲しそうにつぶやいていた。
なんだか気味が悪い。さゆりちゃんのママが可憐に怖がる。よしくんママがまたぐるぐる回り
始めた。なんだか洗脳されそうだ。その時、さゆりちゃんパパが言った。

「みんなで歌を歌いましょう、この声に耳を傾け続けるのは良くない」

さすがはさゆりちゃんパパだ。非常に冷静だ。だてに心理学を研究していない。

しかし、なにを歌っていいのかわからないけど、突然ゆうたくんパパが歌い始めた。

♪ おーまきばーーはーみーどーりーーーー♪ 

我々も続いた。なんだか恥ずかしさはあるがそうもいってられない。なんだかなつかしい。
ゆうたくんパパが先頭に立って楽しそうにみんなを引っ張った。リーダーだ。

♪くさーーのうーみーーかぜーーーがふうく♪

よしくんパパとゆうたくんパパが肩を組んで楽しそうに歌の主導権を握った。
その後をだらだらとゆうたくんママがついて行く。真ん中でよしくんママがくるくる
回りながらついていく、それを眺めながらさゆりちゃん夫婦と私が着いていった。
さゆりちゃん夫婦は手をつないで楽しそうに歩いていた。するといつの間にかそこには
綺麗な星空が浮かんでいた。

「きれい、、、」とさゆりちゃんママがつぶやいた。しばらく立ち止まってそれを眺めた。
さゆりちゃんパパはひと時、ママの肩を抱きしめ、星空をロマンティックに眺めた。様になっている。
よしくん夫婦もそれに習った。ゆうたくん夫婦は半分冗談を言い合いながらも楽しそうに
手をつないでそれを眺めていた。今度は私がぐるぐる回る番だ。うちの奥さんはなにをしているのだ?
なんだか仲間はずれだ。どうも私は損な役回りが多い。まあでも、みんな喜んでるからいいか。
ゆうたくんパパはみんなを引っ張るし、さゆりちゃんパパは知的に冷静に対処するし、
なんとかよしくんママを引っ張っていけそうだ。

しかし、先に行かなくては、、非常になんだか言いにくいのだが、、私はみんなにそろそろ
先に進みましょう、と言った。みんながはっと我に帰った。そうだ、先に行かなくっては。

またゆうたくんパパがみんなを引っ張った。それでよい。みんなが着いていった。
頼もしい、みんなもそれに賛成しているみたいだ。それは良いことだ。
先の方に光が見えてきた。さゆりちゃんママはなんだか名残惜しそうだった。遺伝だ。
でも確かに星空は綺麗だった。足元にも星が見える。時々流れ星も見えたりする。
まるで本物みたいだった。いったいこれには何の意味が込められているのだろう?

我々はそうして草が敷き詰められている部屋に入った。


008

子供軍団は着替えた衣装のまま落ちた。

今度もトランポリンがあった。痛くはなかった。そこは広い部屋だった。なんだか
幼稚園の教室と似ている。いろんな遊び道具がある。テレビもある、ゲームもある。
なんだかよくわからない、みんなポカンとしていたけど、まあ怖くはない。

一人のまた変な格好をした男が現れた。タカチャン大王だ。みんなが一瞬ぎくっとした。

「いらっしゃいいい!」大王は明るく言った。

「おじさんだれ?」ミコが言った。大王はきりっと背筋を正して言った。

「私はタカチャン星雲の大王だ!」ときっぱり言った。みんなポカンとした。タカチャンせいうん?

「たかちゃんせいうんってどこにあるのですか?」よしくんが礼儀正しく聞いた。

「タカチャン星雲はここから一万光年離れたところにある星だ。ちょっと地球に用事があって来た。」
と大王は言った。いちまんこうねん?

「いちまんこうねんってなんですか?」ゆうたくんが聞いた。わからない

「一万光年は光の速度で1万年かかる距離だ。一光年は9兆4670億キロメートルだ。」大王は言った。

「さっぱりわかんないや、、」マコが言った。当たり前だ。

「つまりはすごおおおおおーーーーーーーーーーーーく遠い」と大王は言った。両手をめいいっぱい
広げてその遠さを表現した。みんなが納得した。初めからそう言って欲しい。

「ちきゅうになにしにきたんですか?」さゆりちゃんが聞いた。当然の質問だ。

「それは秘密だ。子供には関係ないことだ」と大王はきっぱりと言った。みんながポカンとした。
結局だれもこのおじさんが何者なのかがつかめない。ただ悪い人でもなさそうだ。

「みんな、ここで自由に遊んでいていいよ! なんでもある、みんなお腹はすいたかな?」
と大王はにこにこと言った。感情表現のゆたかな人だ。みんなはお腹がすいていることに気づいた。

「すいたーー!」ゆうたくんが言った。

「今すぐご飯の用意するから待っててね! では!」と言って大王がさっき来たドアから消えた。


「どうすればいいの?」よしくんはミコに聞いた。相変わらず頼りがない。

「ん、、、、しばらくようすをみるしかないね、」とミコは考えながら答えた。
しかし、まあ、大丈夫だろう、と漠然とミコはそう思った。

そして、ドアが開いた。すると野球のマスコットたちがみんなの食事を持って現れた。

「ほっしーくんだ!」ミコが叫んだ。

「じゃびっともいるーーどあらもいる!!」ゆうたくんも手を叩いて喜んだ。

広い部屋の真ん中にあるテーブルに料理が並べられた。フルーツと野菜炒めだった。
料理を並べたらすぐにマスコットたちはばいばいと手を振ってドアの向こうに消えた。
みんなでばいばいと手を振った。で、なんでマスコットがここにいるのだ?まあいいや、お腹がすいた
しかし、見たこともないフルーツだった。さゆりちゃんが勇気を出して一口食べてみた。

「おいしいいいい!!」とさゆりちゃんがさけんだ。

みんながその見たこともない黄色い色をしたフルーツに手を伸ばした。パイナップルでもない、
見たことないけどおいしい。タカチャン星雲のフルーツなのかもしれない。
メロンのようなバナナのようなみかんのような不思議な味がする。これはおいしい。

問題は野菜炒めだった。

さゆりちゃんとミコとマコはおいしそうに野菜炒めを食べた。しかし、野菜炒めには
にんじんやピーマンがたくさん入っていた。ゆうたくんとよしくんはピーマンが嫌いだった。

「おとこのこのくせにだらしがない!!」ミコが言った。

「そうだ!おとこのこだったらさっさとたべるんだ!」マコが言った。容赦ない。

「おとこのこなのにかっこわるいいい!」さゆりちゃんもそれにのった。

だって、、、とよしくんとゆうたくんが見詰め合う。しかし、ゆうたくんは散々かっこわるい
ところばかしさゆりちゃんに見せてきたからどうにかしたかった。汚名挽回だ。

「たべる!」とふたりは3人にすごまれた。まるで母親みたいだ。

渋々ゆうたくんとよしくんは我慢して食べた。口の中に苦さが広がったが、我慢した。
ミコとマコとさゆりちゃんがまだこっちを睨んでる。まるでママだ。ママよりちょっと怖い。
渋い顔でおいしそうになんとか食べる努力をした。でもなんだか食べれそうな気がしてきた。
もう少しだ!とマコは思った。まだ睨んでいよう。こんな男の子じゃこの先思いやられる。

「たべれた!もうだいじょうぶだ!」よしくんは言った。すっかり笑顔になった。
ゆうたくんも続いた。もう苦さがきにならないみたいだ。

「おーーーーーー!!!!」おんなのこたちから拍手が沸き起こった。えらいえらい。
ゆうたくんとよしくんはふたりでハイタッチをして喜んだ。さゆりちゃんたちがそれを
母親のようなまなざしで見つめる。子供扱いだ。でもよしくんたちはそれに全然気づいてない。

そうして、みんなお腹いっぱい食べた後に、またマスコット達がお皿を片付けに来た。
そしてまたやってきて、みんなで遊んだ。楽しかった。よしくんたちは柔らかいボールで
野球を始める。プラスティックのバットがあった。ホッシー君がボールを投げて
ゆうたくんが打ったりした。ミコとマコとさゆりちゃんはジャビット君たちと遊んだ。
なんだか良くわからないけど楽しい! めいいっぱい遊んだし、今日はいろいろなことがあった。
わけがわからないけど、みんなはだんだん眠くなっていた。みんなのベットが用意されていた。
ふかふかの心地よいベットだった。そうしてみんなはすぐに寝てしまった。照明が落とされた。

おやすみ しかし今夜のみんなの夢はどういう風なのだろう? 検討もつかない。


009

「よし、あの書類を奪うんだ!」とねこはあひるさんに命令した。

子供たちと別れた後、ねこ軍団は洞窟の先へと急いだ。人間がいるとなかなか面倒だ。
急に気軽になってねこは気分が良かった。いなくてせいせいだ。まあ、子供達は
ミコがいるから大丈夫だろう。ねこはうちの奥さんからしっかり指令を受けていた。
洞窟の途中である部屋の天井に出れる通気溝を見つけた。人間にはここは入れないだろうな、
そう思った。きっとあそこでわれわれは別れる台本になっていたのだろう。ねこはそう分析した。

ねこのあとをうさぎさん達とあひるさん達が追いかける。ねこが振り向いて静かにするようにと
ポーズを取る。細い通気溝をどんどん進んでいく。そしてついにその目的の部屋へとたどり着いた。

ねこはうさぎさん達にこの枠を外すよう指示した。うさぎさん達がそれをふたりがかりで
せーのといって外した。そしてあひるさんに一度、部屋の机にある書類の位置を確認させた。
そしてねこはあひるさんを宙に浮かせた。あひるさんがびっくりしたが、黙れ!とねこは
あひるさんに言った。冷静になる。あひるさんは全てをねこに託し、じっと動かないように
意識した。もうすぐ机までたどり着く。あひるさんはその書類をくちばしではさんだ。

「もう少しだ! じっとしてろ!」ねこが言った。

そのままゆっくりあひるさんを上に上げていった。うさぎさんも固唾を飲んで見守った。
ようやくあひるさんは天井の上までたどり着いた。ねこが書類を奪う。

「おい!早くそれをふさげ!」とうさぎさんたちに指示をした。

うさぎさん達はまたその枠をふたりで持ち上げて、それを元の位置に収めた。
その瞬間、タカチャン大王と女王がドアを開けて入ってきた。ねこがみんなに黙るように
右手で口を押えてアピールする。みんなが黙った。大王と女王はなにやら話し込んでいた。
どうやら書類の事には気づいてなさそうだ。しばらくねこはその会話に耳を傾けていた。
話は自分達の子供のことだった。なんのことだかよくわからないが、子供の名前は
エリカ姫という名前らしい。その時、ねこの頭の中でなにかがパチンと言った。
やれやれ、また仕事が増えた。ねこはそうぼやいた。もうここにはもう用事はない。
ねこは書類をめくった。そして最後のページにこの館の見取り図を発見した。
ねこはエリカ姫の部屋の位置を確認した。そして方向を確認して、書類を閉じ、それを
口にくわえて出発した。ねこ軍団はまた通気溝を歩いた。そしてエリカ姫の部屋の天井まで
たどり着いた。エリカ姫は照明を落とし、窓辺でなんだか寂しそうにしていた。
部屋の時計は午後9時となっていた。ねこはしばらく様子を伺っていた。エリカ姫も
まだ小さい子供だった。ミコとたいしてかわらんだろう。なかなかかわいい娘だった。
ねこは決心した。どうやらいけそうな予感がした。うさぎさんたちにそっと静かに
枠を外すよう、指示した。うさぎさん達が静かにそれを開けた。そしてあひるさんに
書類を預けて、今度は自らねこが下へと降りていった。エリカ姫は相変わらず窓の外を
ぼけっと見つめていた。ねこに気づかない。

「エリカ姫!」とねこは姫に向かっていった。エリカ姫はびっくりしてこっちを見た。

「しーーー!」ねこは静かにするよう口に右手を当てた。

「あなたはだれ?」と静かに姫が聞いた。ものわかりはよさそうだ。

「ぼくはあなたを助けに来た」とどうしてだかわからんけど、ねこはそう言った。

「たすける?」姫は聞いた。なんのことだかよくわからない。ねこもちょっと困ってる。

「なんだかさびしそうだけど、どうしたの?」とねこは質問した。

「パパとママがいそがしくってあそんでくれないの」と姫は正直に答えた。

「パパとママは悪い奴なのか?」とねこは聞いた。姫は首を横に振った。

「ううん、ここにくるまえはいつもあそんでくれてた。わるいひとじゃない
でもここにきてからそっちがいそがしいみたい、はやくいえにかえりたい
ちきゅうなんていやだ!」 と姫は答えた。

ねこは一旦考えてから書類を持っているあひるさんを部屋に降ろした。そして書類をひったくった。
エリカ姫がそれを不思議そうに見つめていた。なんだかよくわからない。
ねこは一番最後の書類のページを開き、ミコたちがいる部屋を右手で指した。

「ここにわたしの知り合いがいる。今日の夜中の3時にそこにいってくれ」とねこが言った。

姫は見取り図を見た。この館のことはよく知っているからわかる、あの部屋だ。

「ここにいけばいいの?」と姫は言った。

「そう、そこにミコという名前の姫と同じ年くらいの女の子がいる。そいつに
すべて話すんだ。そうすればきっと事は動くはずだ。」とねこは説明した。

「わかった、きょうのよなかの3じね、ねこさん、なんだかわからないけどありがとう」
と姫は丁寧に言った。ねこはちょっと照れた。うちのミコに見習って欲しい態度だ。

そうしてねこはまたあひるさんと宙に浮かび、もとの場所に戻った。姫が手を振った。
ねこも手を振った。うさぎさんたちがまた枠を閉じた。そしてもと来た道をたどり、
通気溝から出た。また洞窟に戻り、ミコたちが落ちた穴までたどり着いた。穴を覗いてから
ねこ軍団はそこに降りた。みんなはぴーすかと音をたてて寝ていた。のん気なもんだ。
しかし、さすがのねこも疲れていた。うさぎさんたちもあひるさんたちも散々こき使われて
疲れていた。ねこがみんなにお礼を述べた。うさぎさんたちは大変恐縮してそれに答えた。

そしてねこたちも寝ることとなった。午後10時を回っていた。

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